6 / 7
第六話 竜胆
しおりを挟む『きっと、戻る・・・。月が照らす夜に・・・また君に逢いに来るよ』
ーー 一夜の戯れだと分かっていた・・・はずなのに。
『キミの名は、鈴蘭だ。俺の一番好きな花だよ』
ーー 貴方様のその笑顔が・・・。
『愛しているよ・・・心から』
ーー 声が・・・。
『鈴蘭・・・』
ーー 忘れられないのです。
妖町遊郭『華梅(かばい)』には、怪しげな光が灯り始める。
「金魚、指名されてるよ」
暗い暗い部屋の中の隅で、一人マフラーを撒いて蹲る金魚と呼ばれたその女性は、すっ・・と立ち上がりなにも言わずに先輩の遊女たちの横を通り過ぎる。
「本当に薄気味悪い子だよ。」
「ん?誰のことだい?」
「金魚さ」
「ああ、自分のことを『鈴蘭』だって言ってる子だろ?」
「必ず、月が綺麗な日は華梅を飛び出すのさ。それで、朝になったら帰ってくる・・・意味がわからない・・・気味の悪い子だ」
『金魚』は、マフラーを外して大切そうに抱きしめてから部屋に案内してきた妖に渡した。
「良いかい。そのマフラー落としでもしたら許さないからね」
「お、おう・・・」
彼女は、いつも赤いマフラーを持っていた。それは、ボロボロでところどころ切れていたり解れたりしている年季の入ったマフラー。
襖の前に、正座をして頭を下げる。
「鈴蘭でございます」
部屋に入って彼女は、驚きを隠せない。そこにたのは、紅葉だったからだ。
「やぁ。こんばんわ」
「え?!なんで、アンタ・・・こんなところにいるのさ!?」
「アンタとは、酷いですね」
「アンタは嫌いだよ」
「なぜ?」
「・・・その声、顔気に入らない」
「それはそれは」
「昨日の子たちは、どうしたんだい?」
「葉月ちゃんたちに頼まれたんですよ。鈴蘭さんを救ってくれって」
「やめておくれっ」
彼女は、立ち上がり紅葉の布団の上で座っていた紅葉を突き飛ばした。紅葉は、そのままコロンッと勢い良く後ろの布団に転がる。
「私は、ここにいないといけないの。竜胆様が・・・あの方がまた来るからっ!!」
『竜胆(りんどう)』その言葉に、紅葉はあることを察した。
「アンタは、あの方に顔も声も似ている・・・だから、嫌いだよ」
「やっぱりそうでしたか・・・」
「え?」
「あなたの待っているその人は、僕の兄です」
まさかの紅葉の言葉に、目を見開く。
「バカにするのも大概にしなっ!!証拠は?!証拠はあるのかい!?」
紅葉は、おもむろにズボンのポケットから古い手紙の様なモノを彼女に渡した。
「昔、兄からあなたのことをよく聞きました。意地っ張りで、本音を決して言わない。辛い時に辛いと言えないそんな女性がいると。あなたは・・・人間と妖のハーフですね。その真紅の瞳が意味するものそれは、血液。人間の血を濃く受け継ぐ妖が稀にいると言われています。兄は、その人のことをこう呼んでいたようですね」
手紙を読みながら、彼女はぼそっと呟く。
「真愛者(しんあいしゃ)・・・。竜胆様は!?竜胆様は、一体・・・今どこへ?」
「兄は・・・僕がまだ幼い頃に病気で亡くなりました」
「え・・・?」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる