38 / 46
半龍人シャロン
箱入り娘
しおりを挟む
『乙女と槍隊』として活動することになったリサたちに、さっそく指名依頼が舞い込んだ。
「家出したお嬢様を連れ戻せ、だってさ。どうする?」
「ココン? パーティーはなんでも屋じゃない」
「天使としては、困った人が居るなら助けたいが。リサに任せるよ」
「んー、コンちゃんの言い分はごもっとも♡ でも、報酬が破格なんだよね」
「ココン? 時は金なり……5000万!? 5000万!?」
「成功報酬だけどね。捜索範囲は王都トカイのみ。かなり美味しいと思うんだ」
「受ける。人探しはコンの得意分野」
「決まりだな。では、行くとしよう」
先立つものがなければ旅は続けられない。
美味しい報酬につられて目的地にのこのこやってきたリサたちは、ご立派な建物を見上げていた……。
「わーお。さすが家出娘に5000万出すだけあるね」
「門が大きい。たぶん、商人の家? 店?」
「入れば分かるさ……すまない、依頼を受けた『乙女と槍隊』だ。通してくれ」
「お待ちしておりました。案内させていただきます」
礼儀正しい小綺麗な青年に案内されて、依頼主とご対面。
見たところ、冴えないおじさんのようだが……。
「よく来てくれた。依頼の通り、家出した娘を連れ戻して欲しいのだが……」
「なぁに? 歯切れが悪いけど。やっぱなしとか?」
「いや、俺は娘の父なのだが、依頼主に紹介するには身なりがちょっと……」
「??? 父親なのに依頼主は別なの?」
「うむ、複雑な事情がある。実は――」
この冴えないおっさんは今でこそ富豪だが、昔は破産寸前だった。
資金繰りに困ったおっさんは、娘を嫁に出すことを条件に、資金提供を受けた。
そして、娘が適齢期になったので出資者に引き渡すつもりが……。
「娘のシャロンが嫌がってな。逃げられてしまった。このままでは一家が路頭に迷う」
「迷えば良くない?」
「そう言わないでくれ。他に方法がなかったんだ」
「俺は女の子の味方だからなぁ。いくら報酬がよくても、限度があるよ」
「俺もシャロンの父だ。何かと考えた。それでもだ、伯爵様の嫁になるほうが幸せになる」
「ふーん? 帰っていい?」
「せめてシャロンの説得だけでもして欲しい。破談になるにせよ、伯爵様に直接お会いして謝罪するのが筋だろう!?」
「分かったよ。説得できなかったら降りるね」
「助かる。少し活発なところがあるが、大事な箱入り娘なんだ。家出した娘が王都から出ないのも、恩義を感じて迷っているからだろう。君たちは女の子だし、警戒されにくいと思うんだ」
娘の特徴を渡されたリサたちは、屋敷を出て捜索を始めたが……。
「赤髪のお嬢様のシャロンねぇ。きっと背が低くて、守ってあげたくなるようなお嬢様だと思うんだけど……どうやって探せばいいやら」
「コンに任せて。くんくん……こっち」
「さすがコンちゃん♡ 頼りになる♡」
「コンは頼りになる」
コンが匂いをたどり、リサがコンのしっぽを追いかけ、レアが周囲を見渡す。
そうしてやってきたのは、いかにもヤバそうな裏路地への入り口だった。
「ココン。この奥に匂いが続いてる」
「コン殿を疑うわけではないが、もしそうなら時間がない」
「コンちゃんの鼻を信じなさい♡」
「いや、犯罪に巻き込まれているかもしれない。箱入り娘が、こんな犯罪者の巣窟のような場所に自ら入るとは思えない。私たちも危険だが、早く保護しなければ」
「やだぁ、コンちゃん怖い♡」
「怖くない。コンがついてる」
わざとらしくコンに抱きつくリサを、コンがなだめる。
百合百合な空気が流れ始めたとき、いきなり男が飛び出してきて、コンはぶっ飛ばされた。
「ココーン!?」
「コンちゃぁぁぁん!?」
「コン殿ぉぉぉ!? おい、貴様!! どこを見て歩いて……この男、気絶してないか?」
コンをぶっ飛ばした男は、逃げるでもなく、その場で気絶していた。
「ココン? コンが強すぎた……?」
「うんうん、そうだね♡ あの鎧、エグい凹みかたしてるなぁ」
「鈍器のようなもので殴り飛ばされたか。かなりの強者だが――」
「おーっほっほっほ!! わたくしを口説くなんて、100年早いですわっ」
高笑いとともに路地裏から現れた女は、リサたちが探していた家出娘だった。
ワインレッドの長髪に、緩やかなウェーブがかかっている。
仕立てのいい赤と黒のドレスには、急所を守る鎧が付いていた。
「あら? あなた達、こんな吹き溜まりに居ては危ないですわよ? 送って差し上げましょうか?」
「地獄に……?」
「心外ですわねぇ。そこの男は暴漢野郎なのですから、ぶっ殺して差し上げただけですわ」
このお嬢様は、血の気が多すぎる。
出会う前のイメージが音を立てて崩れたリサは頭を抱えた。
「おかしいなぁ。箱入り娘って言ってなかったっけ? 思いっきり武闘派じゃん」
「ココン……強い」
「あれはバトルドレスか。また珍しいものを。探していたお嬢様で間違いないだろう」
バトルドレスは、おしゃれと性能を両立させた、オーダーメイドの防具だ。
貴族令嬢が式典など堅苦しい場で身につけることが多いが、実用性はある。
ぶっちゃけレアより高い最高級品だ。
「あなた達、お父様の依頼で来たのね? わたくしは家に帰るつもりも、あのブタ野郎と結婚するつもりもなくってよ」
「そんなこと言わずに、話くらい聞いてよー」
「もしどうしても連れ戻したいなら、力を見せることですわね!!」
拳に付けたガントレットを打ち鳴らし、構えを取るお嬢様。
見た目からは高貴さが漂うのに、性格がヤンキーすぎる……。
「レア、いける? あのレディースを生け捕りにしたいんだけど?」
「武闘家《モンク》に素手で勝つのは難しい。討伐なら別だが……」
「そこのあなた……威勢がいいですわね。わたくしと戦ってみない?」
「それを決めるのは、私じゃない」
「つれないですわねぇ。楽しみま……しょう!!」
「くっ……斬らねば分からんか?」
人がせっかく穏やかに接していたのに、お嬢様はレアに殴りかかった。
盾で受け止めたレアだったが、騎士道精神に反する不意打ちに苛立つ。
「あー、もう!! お話しよっか♡」
リサは空気を読まず、お嬢様に抱きつきながら、そう言った。
「家出したお嬢様を連れ戻せ、だってさ。どうする?」
「ココン? パーティーはなんでも屋じゃない」
「天使としては、困った人が居るなら助けたいが。リサに任せるよ」
「んー、コンちゃんの言い分はごもっとも♡ でも、報酬が破格なんだよね」
「ココン? 時は金なり……5000万!? 5000万!?」
「成功報酬だけどね。捜索範囲は王都トカイのみ。かなり美味しいと思うんだ」
「受ける。人探しはコンの得意分野」
「決まりだな。では、行くとしよう」
先立つものがなければ旅は続けられない。
美味しい報酬につられて目的地にのこのこやってきたリサたちは、ご立派な建物を見上げていた……。
「わーお。さすが家出娘に5000万出すだけあるね」
「門が大きい。たぶん、商人の家? 店?」
「入れば分かるさ……すまない、依頼を受けた『乙女と槍隊』だ。通してくれ」
「お待ちしておりました。案内させていただきます」
礼儀正しい小綺麗な青年に案内されて、依頼主とご対面。
見たところ、冴えないおじさんのようだが……。
「よく来てくれた。依頼の通り、家出した娘を連れ戻して欲しいのだが……」
「なぁに? 歯切れが悪いけど。やっぱなしとか?」
「いや、俺は娘の父なのだが、依頼主に紹介するには身なりがちょっと……」
「??? 父親なのに依頼主は別なの?」
「うむ、複雑な事情がある。実は――」
この冴えないおっさんは今でこそ富豪だが、昔は破産寸前だった。
資金繰りに困ったおっさんは、娘を嫁に出すことを条件に、資金提供を受けた。
そして、娘が適齢期になったので出資者に引き渡すつもりが……。
「娘のシャロンが嫌がってな。逃げられてしまった。このままでは一家が路頭に迷う」
「迷えば良くない?」
「そう言わないでくれ。他に方法がなかったんだ」
「俺は女の子の味方だからなぁ。いくら報酬がよくても、限度があるよ」
「俺もシャロンの父だ。何かと考えた。それでもだ、伯爵様の嫁になるほうが幸せになる」
「ふーん? 帰っていい?」
「せめてシャロンの説得だけでもして欲しい。破談になるにせよ、伯爵様に直接お会いして謝罪するのが筋だろう!?」
「分かったよ。説得できなかったら降りるね」
「助かる。少し活発なところがあるが、大事な箱入り娘なんだ。家出した娘が王都から出ないのも、恩義を感じて迷っているからだろう。君たちは女の子だし、警戒されにくいと思うんだ」
娘の特徴を渡されたリサたちは、屋敷を出て捜索を始めたが……。
「赤髪のお嬢様のシャロンねぇ。きっと背が低くて、守ってあげたくなるようなお嬢様だと思うんだけど……どうやって探せばいいやら」
「コンに任せて。くんくん……こっち」
「さすがコンちゃん♡ 頼りになる♡」
「コンは頼りになる」
コンが匂いをたどり、リサがコンのしっぽを追いかけ、レアが周囲を見渡す。
そうしてやってきたのは、いかにもヤバそうな裏路地への入り口だった。
「ココン。この奥に匂いが続いてる」
「コン殿を疑うわけではないが、もしそうなら時間がない」
「コンちゃんの鼻を信じなさい♡」
「いや、犯罪に巻き込まれているかもしれない。箱入り娘が、こんな犯罪者の巣窟のような場所に自ら入るとは思えない。私たちも危険だが、早く保護しなければ」
「やだぁ、コンちゃん怖い♡」
「怖くない。コンがついてる」
わざとらしくコンに抱きつくリサを、コンがなだめる。
百合百合な空気が流れ始めたとき、いきなり男が飛び出してきて、コンはぶっ飛ばされた。
「ココーン!?」
「コンちゃぁぁぁん!?」
「コン殿ぉぉぉ!? おい、貴様!! どこを見て歩いて……この男、気絶してないか?」
コンをぶっ飛ばした男は、逃げるでもなく、その場で気絶していた。
「ココン? コンが強すぎた……?」
「うんうん、そうだね♡ あの鎧、エグい凹みかたしてるなぁ」
「鈍器のようなもので殴り飛ばされたか。かなりの強者だが――」
「おーっほっほっほ!! わたくしを口説くなんて、100年早いですわっ」
高笑いとともに路地裏から現れた女は、リサたちが探していた家出娘だった。
ワインレッドの長髪に、緩やかなウェーブがかかっている。
仕立てのいい赤と黒のドレスには、急所を守る鎧が付いていた。
「あら? あなた達、こんな吹き溜まりに居ては危ないですわよ? 送って差し上げましょうか?」
「地獄に……?」
「心外ですわねぇ。そこの男は暴漢野郎なのですから、ぶっ殺して差し上げただけですわ」
このお嬢様は、血の気が多すぎる。
出会う前のイメージが音を立てて崩れたリサは頭を抱えた。
「おかしいなぁ。箱入り娘って言ってなかったっけ? 思いっきり武闘派じゃん」
「ココン……強い」
「あれはバトルドレスか。また珍しいものを。探していたお嬢様で間違いないだろう」
バトルドレスは、おしゃれと性能を両立させた、オーダーメイドの防具だ。
貴族令嬢が式典など堅苦しい場で身につけることが多いが、実用性はある。
ぶっちゃけレアより高い最高級品だ。
「あなた達、お父様の依頼で来たのね? わたくしは家に帰るつもりも、あのブタ野郎と結婚するつもりもなくってよ」
「そんなこと言わずに、話くらい聞いてよー」
「もしどうしても連れ戻したいなら、力を見せることですわね!!」
拳に付けたガントレットを打ち鳴らし、構えを取るお嬢様。
見た目からは高貴さが漂うのに、性格がヤンキーすぎる……。
「レア、いける? あのレディースを生け捕りにしたいんだけど?」
「武闘家《モンク》に素手で勝つのは難しい。討伐なら別だが……」
「そこのあなた……威勢がいいですわね。わたくしと戦ってみない?」
「それを決めるのは、私じゃない」
「つれないですわねぇ。楽しみま……しょう!!」
「くっ……斬らねば分からんか?」
人がせっかく穏やかに接していたのに、お嬢様はレアに殴りかかった。
盾で受け止めたレアだったが、騎士道精神に反する不意打ちに苛立つ。
「あー、もう!! お話しよっか♡」
リサは空気を読まず、お嬢様に抱きつきながら、そう言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる