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第1章 俺もチートキャラになりたいんですけど…
32話 ストーカー
しおりを挟む「さて、どうしたもんかね。」
俺はアンさんが入って行った転移魔法陣を眺めながらそう言った。
普通ならここで引き返すところだろうが、彼女をこれ以降見かけなくなったら俺の心にしこりが残る。
あのフラフラと歩いていた姿からすると、彼女がダンジョンの中で力尽きる確率はそれなりにあるだろう。
「舞達に力を貸してもらえたら助かるんだけど、流石に俺の我儘に付き合わせられないしなぁ。」
今回俺がやろうとしている事は完全にエゴに基づいた行動だ。
まだ数回しか話したことがない人が心配だからといって、危険なダンジョンに行くのは間違っている。
それにその相手が麻薬の常習犯であるときた。
俺の頼みなら聞いてくれそうな舞達には絶対に頼むわけにはいかない。
「よし、昼飯の時間までだ。それまでに見つけられなかったら帰ろう。」
そう決めた俺は直ぐに人気のないところに移動してから冒険者ギルドの近くの路地まで転移してダンジョンの入場証を購入し、アイテムボックスに入れていた片手剣と黒い皮鎧を装備してダンジョンに戻ってきた。
_______________________________________________
「お、ここは一回来た事がある場所だな。」
一人で受付を済ませた俺がダンジョンに入るとそこは初めてダンジョンに入った時と同じ場所だった。
「まあ、今回はカンニングするからどうでも良いんだけどな。」
俺のアイテムボックスには商人ギルドで用意してもらった探索に必要なものに加えて、ローズから預かっていた冒険者ギルド製の20階層までの地図も入っている。
今回はいちいちマッピングをしていられないのでこれを使う予定だ。
「ここまで来るのにアンさんがダンジョンに入ってから10分くらいか。流石にまだ第2階層には行ってはないだろうし、同じルートかもしれない事に賭けて階段まで転移せずに探索するか。」
俺は一人で少し不安な気持ちを隠すように、いつもより多めに独り言を言いながら探索を始めた。
人間は静かだと不安になりやすいと聞いたので、俺は出来るだけベラベラ喋りながら探索をする事にしたのである。
他の人から見たら不審者に見えるだろうが、生憎と周りに人はいないし問題ないだろう。
「ほう。今の俺の魔力は上限が1367で現在値が1325か。やっぱり消費魔力は距離が長くなれば多くなるけど、比例関係にあるって訳ではないんだな。」
俺がランバルディア王国から魔の樹海まで転移した時は1300ちょいの魔力を全て消費したが、ダンジョンから冒険者ギルドまでの徒歩10分もかからない距離で魔力を20も使っている。
流石にここからランバルディア王国まで徒歩11時間ぐらいで着く事はないだろうしな。
「魔力の回復速度を考慮すると昼までに使える魔力は視界内の転移魔法200回分くらいか。結構な回数使えるけど、魔力切れになりそうになると頭痛もするし出来るだけ節約していった方がいいな。」
そんな感じでブツブツ言いながらホーンラビットを倒しつつ進む事30分と少し。
俺は結局アンさんを見つけられないまま第2階層への階段に到達してしまった。
「んー、先に進むか他のルートを調べるか悩むな。」
第1階層は地図を確認してみた感じ6つのルートがあるので、ここまでアンさんには会えなかったが、もしかするとまだ第1階層にいる可能性もある。
しかし、彼女はおよそ45分ほど前に悪魔の祝福を飲んでいた。
流石にまだその効果が切れてるとは考えにくいし、仮に切れていたとしてもホーンラビット相手ならもう一度飲む時間も十分にあるはずだ。
「よし。先に進むか。」
俺は続く2階層を進む事にした。
第1階層と同様に、アンさんが途中で倒れているかもしれないと考えた俺は転移魔法で階段まで転移するつもりはない。
_______________________________________________
「ふう。これで丁度10回目の戦闘か。残り魔力は1253。少し使いすぎな気もするな。」
第2階層に入ってから4匹目のタスクボアを倒した俺はステータスカードを確認しつつ、アイテムボックスに入れてあった水筒の水を飲みながら少し休憩した。
俺の視界内の地点への転移は一回あたり魔力を7消費する。
どこまで潜るのかわからない事を考えると少し魔力の消費が多いかもしれない。
「隠密系のスキルが取れれば戦闘回数も減って魔力消費も少なくなるんだが。そうだ、レベルが上がってきてステータスポイントも30ポイント以上あるし覚えられるんじゃねえか?」
俺が隠密系のスキルで何か良いものはないかとステータスカードを持って念じてみると気配遮断がステータスポイント3で習得出来る事が分かった。
「お、かなり少ないポイントでスキルが習得出来るな。もしかして気配を消す練習をし続けていたのが良かったのか?今は少しでも戦闘を避けたいしとってみるか。」
俺は歩きながらステータスポイントを消費して気配遮断LV1を習得した。
気配遮断LV1 自分の気配を薄くして少し気づかれにくくなる。
「いまいちこれじゃあ効果が分かんねえな。」
ステータスカードのスキルの説明は毎度の如く不親切だった。
今回は頭の中に技名や詠唱も浮かばないので、そういうのがトリガーになるスキルではないようだし色々試してみるしかない。
「うーん。気配を薄くしようとすればいいのか?」
そう考えた俺が自分の気配を薄くしようとしてみると、自分の存在が希薄になっていくのを感じた。
「お、これで発動したみたいだな。けれどこれ結構集中力使うな。頑張って10秒ってところか。」
気配遮断のスキルを使っている間はものすごく集中力が削られる。
これでは体を動かす事は出来ても魔法や他のスキルを使う事は出来なさそうだ。
使ってみた感じ、相手が自分に気づいていない時にしか使えなさそうなスキルだが、戦闘回数はぐっと減らせるだろうし習得して結構良かったかもしれない。
「よし、後は実地調査をしてみてって感じだな。」
その後、こちらに気づいていないタスクボアの横を気配遮断を使って出来るだけ足音を立てないように走ってみたが、気付かれずに横を通れたので結構な当たりスキルかもしれない。
説明には『少し』気づかれにくくすると書いてあったから油断はできないのだが。
そんな感じで新しく覚えた気配遮断と転移魔法を駆使しながら進むこと十数分。
俺は第2階層も攻略し終わってしまった。
途中で一つの冒険者のパーティーに遭遇したが、未だにアンさんは発見できてない。
出会った冒険者達もローブ姿の冒険者は見ていないそうだ。
「ふう。まだ見つからないか。」
そう言って俺が階段に腰掛けて少し休憩していると側に茶色い布の切れ端が落ちているのを偶々見つけた。
ダンジョンは時間が経つと落ちている物が吸収される為、この布は割と最近落とされたものだと思う。
「こんなよくある布じゃあなんとも言えないが、アンさんのローブこんな色だった気がすんだよなぁ。」
少しアンさんの様子が不安になってきた俺は水を一口飲んでから休憩を終わりにして第3階層に進む事にした。
第3階層は途中までしか行った事がないので次の階段まで転移したくても転移は出来ない。
「休憩しながら進んでる俺じゃあ大分距離も話されてるだろうし、転移魔法で前回行ったところまで転移してみるか。」
思ってたよりアンさんが見つからなくて焦った俺は転移先に冒険者がいませんようにと願いながら、記憶にある位置まで転移する事にした。
俺が行った事のある範囲は階段から寄り道せずに行けば15分ほどだ。
多分アンさんが今いる位置と重なると思う。
「ふう。なんとか誰もいないところに転移できたな。消費魔力は…マジかよ。一回で400近く消費してるな。ダンジョンの中だと見えない位置に転移するのは消費魔力が増えんのか?」
考えてみればダンジョンは割と様々なルールに縛られている気がする。
一足飛びに進めてしまう転移魔法はズルとでも見なされて負荷が大きくされているのかもしれない。
「参ったな。一気に残り魔力が827になっちまった。早くアンさんを見つけねえとマズイな。」
俺がステータスカードを夢中になって確認していたその時、俺耳に聞き覚えのある不機嫌そうな声が届いた。
「何故貴方がここにいるのですか?」
その声に顔を上げてみると、犬耳のある茶髪のショートカットで顔色が凄く悪くて、破れたローブを着ている俺が探していた冒険者アンがそこに立っていた。
「見つけた。」
良かった。
アンさんは生きていたみたいだ。
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