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第三章 ― 筆頭勇者と無法者 ―
第73話 渡辺 勝麻とオルガ、月と闇
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…………ん……しまった、寝落ちしちまったか。
目が覚めると家の中は、月明かりのみによって照らされていた。初めこそ寝ぼけていたものの、腕にマリンがくっついていることに気がつき一気に目が覚める。
マリンてば、すぐくっついてくるんだもんなー。それで朝になったら元の位置に戻って何事もなかったように起きるんだから、恐ろしい。
「……オルガとレイヤはいないな」
マリンの他に、ミカ、ジェニー、メシュが寝ているのが確認できたが、二人の姿は見当たらなかった。
先に帰ったかな。
……催してきた。手洗いに行くか……その前に。
俺はそーっとマリンから腕を抜き取ると、押入れから三人分の布団を取り出して、マリンたちに布団をかけてやる。
それから、手洗いへ向かうべく家の戸を開けたのだが、ガラガラという音がいつもより大きく聞こえた。多分、フィラディルフィア全体が夜の静寂に包まれているせいだ。
思えば、室内で徹夜した経験はあっても、夜中に出歩くなんてことはしたことなかったな。
ん? あれ、オルガじゃないか。
手洗いまでの道すがら、脇にある縁台に腰かけているオルガがいた。
「夜風にでも当たってるのか?」
「なんだ、ナベウマ起きたのか」
喧騒が全く無いため、オルガの声が淀みなく耳に入る。
「まーな、つか、オルガはこんな夜遅くまで起きてていいのかよ。仕事は? 新しい転生者とか来てないのかよ」
「それがここ最近、転生者の現れる数が激減していてな……ちょうどお前さんが現れた後ぐらいからだ」
「ふーん、転生者がねぇ」
オルガの隣に腰を下ろす。
「もしかしたら神ジジイが仕事サボってるのかもしれねぇな」
俺の軽いジョークに、フッと鼻で笑うオルガの視線を追った先には、夜空で太陽に負けじと輝く月があった。その月は前の世界の月と比べて二回りくらい大きく、存在感を放っている。
ここだけ切り取れば、ファンタジーのよう。
けど、全体に視野を広げると寂しくなる。
月の周りには星が無い。天の川どころか、かつて俺が地球の夜空の中に見た瞬きは、ここには一切無い。あの大きな月が、たった一人で夜の世界に光をもたらし続けている。
その月の後ろ側に存在する無限の広がりをもった闇を見ていると、不安の中に吸い込まれそうになってしまう。
「……時々思うんだ。神様はどうして俺たちにこんなワケのわからない能力を与えて、異世界に招いたんだろうって」
その不安が――異世界に来てからずっと考えていたことが思わず口から零れた。マリンの影響だろうか、昔の俺なら不安を口にするなんてことなかったのに。しかも、オルガ相手に。
「……チャンスを与えている」
「え?」
「俺の予想だ。生前遂げられなかった願いや想いを、改めて果たせる場を与えているのかもしれない」
「何だよ、ただの予想かよ。根拠でもあるのか?」
「根拠としては弱いがな。俺たち転生者は二度目の人生を授かったわけだが、一般的に人生の再スタートといえば、身も心も完全にリセットされた状態を意味するはずだ。なのに俺たちは地球の人間社会で培ってきた記憶と肉体を保持している。だから、ひょっとしたら神様は前の経験を生かして何かを成してこいと、そう言っているのかもしれないと考えたのさ」
言われてみると確かにそうだ。俺たちは死んだはずなのに、前の世界の思い出を残したまま、失ったはずの人生の続きをしている。
「神ジジイのクソッタレ」
俺はぼやく。
「転生させるなら前の世界の記憶なんて消して欲しかった」
「……嫌な思い出でもあるのか?」
「嫌な記憶もある。でも、楽しい記憶もあるんだ。辛いこと乗り越えて、やっと未来に希望がみえて、これからってときに……」
頭の中でトラックの記憶が蘇る。
俺の両手が力強く握られるのを見てか、ぽんっと、オルガは自らの大きな手のひらを俺の肩の上に乗せた。
「……なぁ、オルガも事故で転生してきたんだろ? あんたは前の世界に未練はないのか?」
「もう26年経つからな。今更未練はない。それに、俺は事故で死んだんじゃなく、自分で自分の命を奪ったのさ」
え……自殺? あのオルガが? 自殺なんて言い出したら逆に口うるさく説教しそうなのに……そのオルガが自殺……一体何があったっていうんだ。
「……わりぃ。せっかくの祝いの後だっていうのに。暗い気分にさせちまって」
辛い頃の記憶を掘り起こされるのはイイ気分じゃないていうのは、俺が一番よく知ってるってのに。安易に転生理由を聞いちまうなんてバカだ。
「フッ、気にするな。過去のことで一喜一憂する歳でもない。……ふむ、ナベウマ、酒が残ってるが飲んでみるか? 頭ん中がゴチャゴチャしてるときはコイツを飲み干して寝るのが一番だぞ」
「いや、俺、未成年なんだってば。飲ませたきゃ、あと二年待ってくれ」
「フハハハ、堅いヤツだな。けど、そうだな。二年なんてすぐだ。そのときにまた、こうして月でも眺めながら飲み交わそうじゃないか」
「……ああ!」
オルガと酒か……まぁ悪くねぇかな。
俺にとってはまだまだ遠くに感じられる光景を想像して、ついニヤつきそうになってしまうが、その顔をオルガに見られるのが照れくさくて、頑張って表情を崩さないようにした。
目が覚めると家の中は、月明かりのみによって照らされていた。初めこそ寝ぼけていたものの、腕にマリンがくっついていることに気がつき一気に目が覚める。
マリンてば、すぐくっついてくるんだもんなー。それで朝になったら元の位置に戻って何事もなかったように起きるんだから、恐ろしい。
「……オルガとレイヤはいないな」
マリンの他に、ミカ、ジェニー、メシュが寝ているのが確認できたが、二人の姿は見当たらなかった。
先に帰ったかな。
……催してきた。手洗いに行くか……その前に。
俺はそーっとマリンから腕を抜き取ると、押入れから三人分の布団を取り出して、マリンたちに布団をかけてやる。
それから、手洗いへ向かうべく家の戸を開けたのだが、ガラガラという音がいつもより大きく聞こえた。多分、フィラディルフィア全体が夜の静寂に包まれているせいだ。
思えば、室内で徹夜した経験はあっても、夜中に出歩くなんてことはしたことなかったな。
ん? あれ、オルガじゃないか。
手洗いまでの道すがら、脇にある縁台に腰かけているオルガがいた。
「夜風にでも当たってるのか?」
「なんだ、ナベウマ起きたのか」
喧騒が全く無いため、オルガの声が淀みなく耳に入る。
「まーな、つか、オルガはこんな夜遅くまで起きてていいのかよ。仕事は? 新しい転生者とか来てないのかよ」
「それがここ最近、転生者の現れる数が激減していてな……ちょうどお前さんが現れた後ぐらいからだ」
「ふーん、転生者がねぇ」
オルガの隣に腰を下ろす。
「もしかしたら神ジジイが仕事サボってるのかもしれねぇな」
俺の軽いジョークに、フッと鼻で笑うオルガの視線を追った先には、夜空で太陽に負けじと輝く月があった。その月は前の世界の月と比べて二回りくらい大きく、存在感を放っている。
ここだけ切り取れば、ファンタジーのよう。
けど、全体に視野を広げると寂しくなる。
月の周りには星が無い。天の川どころか、かつて俺が地球の夜空の中に見た瞬きは、ここには一切無い。あの大きな月が、たった一人で夜の世界に光をもたらし続けている。
その月の後ろ側に存在する無限の広がりをもった闇を見ていると、不安の中に吸い込まれそうになってしまう。
「……時々思うんだ。神様はどうして俺たちにこんなワケのわからない能力を与えて、異世界に招いたんだろうって」
その不安が――異世界に来てからずっと考えていたことが思わず口から零れた。マリンの影響だろうか、昔の俺なら不安を口にするなんてことなかったのに。しかも、オルガ相手に。
「……チャンスを与えている」
「え?」
「俺の予想だ。生前遂げられなかった願いや想いを、改めて果たせる場を与えているのかもしれない」
「何だよ、ただの予想かよ。根拠でもあるのか?」
「根拠としては弱いがな。俺たち転生者は二度目の人生を授かったわけだが、一般的に人生の再スタートといえば、身も心も完全にリセットされた状態を意味するはずだ。なのに俺たちは地球の人間社会で培ってきた記憶と肉体を保持している。だから、ひょっとしたら神様は前の経験を生かして何かを成してこいと、そう言っているのかもしれないと考えたのさ」
言われてみると確かにそうだ。俺たちは死んだはずなのに、前の世界の思い出を残したまま、失ったはずの人生の続きをしている。
「神ジジイのクソッタレ」
俺はぼやく。
「転生させるなら前の世界の記憶なんて消して欲しかった」
「……嫌な思い出でもあるのか?」
「嫌な記憶もある。でも、楽しい記憶もあるんだ。辛いこと乗り越えて、やっと未来に希望がみえて、これからってときに……」
頭の中でトラックの記憶が蘇る。
俺の両手が力強く握られるのを見てか、ぽんっと、オルガは自らの大きな手のひらを俺の肩の上に乗せた。
「……なぁ、オルガも事故で転生してきたんだろ? あんたは前の世界に未練はないのか?」
「もう26年経つからな。今更未練はない。それに、俺は事故で死んだんじゃなく、自分で自分の命を奪ったのさ」
え……自殺? あのオルガが? 自殺なんて言い出したら逆に口うるさく説教しそうなのに……そのオルガが自殺……一体何があったっていうんだ。
「……わりぃ。せっかくの祝いの後だっていうのに。暗い気分にさせちまって」
辛い頃の記憶を掘り起こされるのはイイ気分じゃないていうのは、俺が一番よく知ってるってのに。安易に転生理由を聞いちまうなんてバカだ。
「フッ、気にするな。過去のことで一喜一憂する歳でもない。……ふむ、ナベウマ、酒が残ってるが飲んでみるか? 頭ん中がゴチャゴチャしてるときはコイツを飲み干して寝るのが一番だぞ」
「いや、俺、未成年なんだってば。飲ませたきゃ、あと二年待ってくれ」
「フハハハ、堅いヤツだな。けど、そうだな。二年なんてすぐだ。そのときにまた、こうして月でも眺めながら飲み交わそうじゃないか」
「……ああ!」
オルガと酒か……まぁ悪くねぇかな。
俺にとってはまだまだ遠くに感じられる光景を想像して、ついニヤつきそうになってしまうが、その顔をオルガに見られるのが照れくさくて、頑張って表情を崩さないようにした。
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