俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第121話 もう、やるしかない

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 1発、2発、3発と、ディックは拳銃のトリガーを何度も引く。

 もう隠すのは無理だ。
 いや、そもそもコイツはもう気づいてる。
 靴の中身を見せるも何も『透視エックス レイ』で勝手に見ればいい。
 なのに、敢えて自分で見せろっていうのは、最早確信してやがるんだ。

 すまねーな、渡辺。
 明日が作戦会議って話だったけどよ。
 もう引き返せない。
 やるしかない。

 「俺は、今ここで! 革命の狼煙を上げるぜ!」

 ディックの銃口が火を吹き、エメラダは至近距離から銃弾をその身に浴びて――否。
 エメラダはディックの攻撃を受けてなどいなかった。

 いつの間にか手に握られていた拳銃で、ディックが発砲した弾丸を全て迎撃し、弾道の向きを変えていたのだ。
 薬莢の落下音が鳴る。

 「ぐっ!」

 至近距離で、しかも異なる箇所を狙って撃ったにも関わらず、それらすべてを撃ち落とす正確さとスピード。
 ディックの中で、過去に刻まれたエメラダへの恐怖が蘇り始める。

 「革命だと……一応、理由を聞いておこう。何故、国を裏切ろうと思った? これでも私は、お前の義勇奉公には一定の評価をしていたのだがな」

 「聞いたところで、アンタにはわからねーよ!」

 ディックは大きく後退しつつ、自身のベルトに取り付けていた『精神感応』と『道具収納』の魔法石に弾丸を撃ち込み破壊した。
 壊れた魔法石からそれぞれの魔力が溢れ、能力が発動する。

 『エマ! 地下牢に行って囚人たちを脱獄させろ! あと、渡辺をここに連れてこい! アイリスは『精神感応』で周りの騎士たちの動きを可能な限り俺に報告しながらエマをサポートしろ!』

 『アイアイサー!』
 『え、ちょ!』

 ディックの注文をアイリスは承諾するが、エマは戸惑う。

 『渡辺って、アイツをここに連れてきてどうにかなるわけ?!』

 『いいから連れてこい!』

 『ああもう! わかったよ!』

 エマとアイリスが、先程登ってきた螺旋階段へと駆けて行った。

 ディックは二人に命令を下した後、『道具収納アイテムボックス』でスナイパーライフルを取り出し、エメラダへ発砲した。

 「やれやれ、この18年間、大事に育ててきたのだがな」

 これを、エメラダは首を横に傾けてかわすと、手に持っていた煙草を口に咥えた。

 「育てる? 違うね、アンタは作ってただけだ。魔人用の武器をな」

 「……酷い言われようだな……全く酷過ぎる……母さんは悲しい……これが親離れというものか」

 「……なら、何で笑ってやがんだ」

 ディックの言うとおり、エメラダの唇は弧を描いていた。

 「丹精込めて育ててきた息子の予想外な反逆。それはそれで、煙草の良い味付けになる」

 「ああ、知ってたぜ。オメェは結局、人生に刺激さえあればいいのさ」

 「私はそれこそ人の本質だと考えているが。まぁいい。筆頭となってからのお前と闘うのは初めてだったな。どれ、どの程度の実力を付けたか見てやろう」

 「いつまでも上から目線でいられると思うなよ!」

 ディックから再び発砲されるが、エメラダは座った姿勢からバック宙をして飛び上がり、かわす。
 そのまま座っていた長椅子の後ろに回り込むと、ディックに向かって長椅子を蹴り飛ばした。

 グルグルと回転して飛んでくる長椅子の死角に入って見えなくなったエメラダを捉えるため、ディックは『透視』で長椅子の先を視る。
 エメラダがライフルを片手で構えディックを狙っていた。それも、ただのライフルではない。対物ライフルだ。

 「やべっ!」

 ディックが屈む。
 直後、轟音と衝撃波が屋内に充満した。
 長椅子とその奥の壁に拳大の穴が空く。

 自分の頭上を長椅子が通過する中、ディックは片膝を着いた状態で撃つが、エメラダは上体を横に反らして、それを容易く避けてしまう。
 その流れた弾が、そばで事態を傍観していた一人の職員の頬をかすめた。
 一連のやり取りを見ていた職員たちが、ようやく自分たちの身も危ないという考えに至り、騒ぎ始める。

 「に、逃げろお!」「誰か警備の者を! ああいや、外の騎士も呼べ!」「キャアァ!」「あの筆頭勇者が何でこんな真似を?!」

 そんな味方の狼狽を他所に、エメラダは焦る様子もなく、ディックに向かって対物ライフルの引き金を連続で引く。
 それをディックは体を上下左右に振って紙一重で避ける。
 エメラダが引き金を引く度、衝撃波によって地面と周囲にいる人間の内蔵が振動する。

 「クッソ! アンチマテリアルライフルなんて反動のデカイものを、当たり前のように片手で連射してんじゃねぇよ!」

 「よく避ける。速さのステータスが一段と伸びたじゃないか」

 「うっせぇ!」

 ディックはスナイパーライフルを片手撃ちしつつ、もう片方の手で『道具収納』の穴からフルオートマシンガンを取り出して、エメラダへ放つ。
 だが、これも命中しない。
 降り注ぐ弾丸の雨をエメラダは苦も無くかわしていく。その動きはあまりにも速く、一般人の目からは残像効果により複数に分身しているかのように映った。

 「銃の腕は変わらんな。私が教えた頃と同じであれば、当たる道理は無い」

 「クッ!」

 苦虫を潰したような顔をしているディックに『精神感応テレパシー』で一報が入る。

 『ディック! 7時の方向! 121メートル! 弓兵デース!』

 アイリスからの知らせを受けて、ディックは片足を思い切り踏み込んだ。その足から地中へディックの魔力が送り込まれ『土魔法アース マジック』が発動する。

 「っ! ぐわああぁ!」

 アイリスが指示した場所から叫び声があがる。そこには、窓越しに矢でディックを射抜こうとしていた騎士がいて、ディックの『土魔法』によって鋭いトゲに変形した地面に串刺しにされたのだ。

 「ほう。私にだけ意識を集中しているように見えて、キチンと全体を見てるじゃないか」

 「へっ、多対一の戦い方は、つい最近バミューダでファッキン野郎から学んだばかりでな!」


 *


 一方、ディックに『精神感応』を送ったアイリスも、エマと共に危機に直面していた。

 「ああもう! あと少しで『魔法反射マジック リフレクション』を超えて『瞬間移動テレポート』で渡辺の所までひとっ飛びだったてのに!」

 エマが愚痴を溢す。
 螺旋階段を降りる途中で、下から上がってきた騎士たちに行く手を阻まれてしまったのだ。加えて、上からも増援が来ており、完全に挟み撃ちにされていた。

 「緑髪であの背は、ディックのパートナー、エマか!」

 「あ?」

 下側の騎士たちの一人が発した単語で、エマの額に怒りマークが浮かぶ。

 「今人を見かけで判断した野郎はどいつだ!」

 「クッ! 抵抗する気か! 怯むな!」

 男が声を張り上げながら、エマを箱型の『魔法反射』の中に囲んだ。

 「こうしてしまえばお得意の『瞬間移動』も使えまい! 取り押さえろ!」

 鎧を着た騎士が3人がかりでエマを組み敷こうと襲いかかる。

 「ふん!」

 それに対して、エマは素手で迎え撃った。

 「おごぉ?!」
 「ゲフッ!」
 「へがっ!」

 エマのパンチとキックが炸裂し、男たちはもんどり打って階段を転がっていった。

 「アンタら程度、能力無しで倒せなくて筆頭勇者の補佐が務まるかってんだ! アイリス、そっちは?!」

 エマがアイリスの無事を気にかける。

 「制圧完了デース!」

 Vサインを送るアイリスの足元にも騎士たちが転がっていた。アイリスがショートソードの柄頭を巧みに頭部に当てて気絶させたのだ。

 「流石、頼りになる妹だ」

 ぱんっとエマとアイリスがハイタッチを交わす。

 「よし、行くよ!」
 「はいデース!」

 『魔法反射』の内側まで侵入したエマは、アイリスと共に『瞬間移動』で渡辺の元まで移動した。
 渡辺がいる牢屋内にエマたちが現れる。

 「は? お前ら、帰ったんじゃ」

 突然の事態に目を丸くする渡辺。

 「帰りたかったんだけどね、急遽、反乱を起こすことになった」

 「お、おいおい! まさかと思ったが、さっきから鳴ってる警報はお前らの仕業かよ!」

 渡辺がいる牢屋近くでは、警報器がけたたましく鳴り響き、囚人たちのざわめきも聞こえる。

 「しくじって、ディックの母親であるエメラダに裏切りがバレたからな」

 「え!」

 「驚いてる暇はないよ! 手を出しな!」

 言われるがまま、渡辺は手錠に繋がれた両手を前に伸ばす。

 「アイリス!」
 「任せてクダサーイ!」

 アイリスが渡辺の手錠の鎖をショートソードで切断した。

 「危なっ!」

 断りもなく目の前で剣を振り抜かれ、渡辺は顔を青くする。

 「ったく、こんなことでビビるヤツが本当に戦力になるのかよ……」

 エマは呆れつつも、アイリスと渡辺の肩に手を置くと『瞬間移動』で牢屋を出て、先程エマたちが戦っていた場所の近くまで移動した。

 「ディックがアンタを呼んでる。この先の階段を登れば、会える。もっとも、その場所は今アルカトラズで一番危険な場所になってるだろうけどね」

 「ディックが……俺を? どうしてだ?」

 「そんなの私の方が聴きたいってーの。とにかく、アイリスが近くまでアンタを守って送る。アンタもいい、アイリス?」

 「ハイハーイ! 短い間ですが渡辺さんとランデブー、デースネ!」

 「アンタねー。少しは緊張感持ちなよ」

 和気あいあいに話を進めるエマたちだったが、次に渡辺はこれを断る。

 「……せっかく親切にしてもらってわりぃが、俺を守る必要はない。自分の身くらい自分で守れる」

 「ちょっと何言ってんの、アンタはスライムにだって負け……」

 エマはエメラダが話していた内容を思い出す。8日前に渡辺が起こした騒動。あれが本当ならば、確かにその辺の雑兵に遅れを取ることはない。
 まだその強さを実際に目の当たりにしていないエマからしてみれば信じ難い話ではあったが、言い争う時間が惜しい今、論議を交わす余裕はなかった。

 「わかった。一人でディックのところまで行きな。私たちは囚人を脱獄させて場を混乱させる」

 「待ってくれ」

 エマたちが再び牢獄エリアに移動する前に、渡辺が言う。

 「脱獄させるなら一番にフィオレンツァってヤツを出してくれ」

 「なっ、フィオレンツァって! アンタその人が誰かわかって言ってんの?!」

 「ディックには既に『精神感応』で話してあるが、そいつも脱獄計画を企ててる。この状況、きっと助けになってくれるはずだ」

 「え、えぇ! 先代女王が脱獄計画?!」

 全く予想してなかった事実にエマは当惑するが、今は事態を咀嚼している場合ではない。一刻も早くアルカトラズ内の統制を乱し、少しでも多くの騎士たちの目をディックから背けさせなくてはならない。

 「何がどうしてそうなったかはわからないけど、わかった! 行くよ、アイリス!」

 渡辺の前からエマたちが消えた。

 渡辺は奥に続く階段の方を見やる。
 すると、軽く両肩を回すのとジャンプを行い、最後には深呼吸をした。

 「……右腕がまだ少しばかし痛むな……立ち回りには気をつけるか……待ってろよ、みんな。絶対にここから抜け出して、王国から助け出すからな!」

 決意を新たに、渡辺は戦場へ踏み出した。
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