俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第122話 ショウマ & ディック

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 「ハァ……ハァ……」

 ディックが息を切らす。
 エマたちが地下で囚人たちを脱獄させている間に、ディックはエメラダに少しずつ追い詰められていた。

 手足、胴、顔など、アチコチにナイフで切られたかのような裂傷があり、それらは全てエメラダが撃った弾丸によってできたものだ。

 辺りに散乱した壁や天井、ガラスなどの破片が二人の闘いの激しさをありありと示していた。

 「……ふー」

 無傷のエメラダは退屈な表情で、口から煙を吹かす。

 「、と豪語するからには見合った実力でも身につけたのかと思えば、昔とほとんど変わりないじゃないか。男子三日会わざれば刮目して見よ、などという東区の言葉があるが、当てにならんな」

 この強さでは、国に挑むにはあまりにも無謀としか言えない。だからこそ、エメラダは余計にわからなかった。
 ディックの内に王国への不満が燻っていたこと事態には気づいてはいた。しかし、その火種が大きく燃え上がったキッカケが全くもって不明だった。

 「……わからんな。お前の中に、禁じられた能力者たちの扱いに疑問があったのは知っている。故に、私はお前が国に反旗を翻そうとは思わぬよう……いや、思っていても実行には移さぬように育ててきた。長い時間をかけて、お前には"大きな力には黙って従うしかない"という常識を身に付けさせた。……それにも関わらず、お前は今こうして私の前に立っている。何故だ? 一体何がお前に掛けた枷を壊した?」

 「は……ハハハ!」

 エメラダの問いかけを受けて、ディックが笑い出した。

 「何故笑う?」

 「ハハハ……いやね、アンタが俺をよく見ていたのが意外でよ。久々に俺の母親だってこと思い出したぜ」

 「…………」

 「ああそう、理由が知りたいんだったな。正直な話、俺自身、自分の身に起こったことを上手く説明できねー。けど、一つ言えることがとすりゃあ、常識っていう川に、流されない泳ぎ方を学んだってところだな」

 「……なるほど、口答えの仕方を覚えた、と」

 「そういうこった」

 ディックはそう言うと、腰にある『精神感応』の魔法石を銃で撃ち抜いた。
 その様子を見たエメラダが、ヤレヤレと首を横に振りながら口を開く。

 「またコソコソと仲間とおしゃべりか? 死闘中の通話はマナー違反だ。牢獄にぶち込まれる前に覚えておくんだな」

 「禁煙の場でも煙草吹かしてるアンタがマナーを語るなよ!」

 ディックが一目散に建物の奥へと駆け出した。
 すかさず逃がすまいと、エメラダの攻撃がディックに降りかかる。
 ディックはこれを何とか避け切って廊下の角を曲がり、エメラダの死角へ逃げ込んだ。
 だが、実際には逃げ込んだことにはならない。何故ならエメラダには『透視エックス レイ』がある。どこに隠れようが、物を透かしてみれば相手の位置は一目瞭然。そこに壁を容易く貫通する対物ライフルが加われば、最早遮蔽物など無いに等しい。

 そんなことはディックもわかっている。なので、当然取るべき行動を取った。

 「……『魔法反射マジックリフレクション』か」

 エメラダは呟いた。
 どうやら、ディックが廊下の壁を軸に『魔法反射』を展開したらしく、そこから先を『透視』することができなくなっていた。


 「ふぅ……一息つけるか?」

 回復できる時間があれば回復したいが、このまま指を咥えて黙っている相手ではないことをディック自身が一番よく知っていた。

 「これはあくまで、ほんの少しの時間稼ぎだ。アイツと合流する……ん?」

 キュルルル……。

 機械的な何がゆっくりと動き出すような音がディックの耳に入った。
 聞き覚えのある音。
 どこで聞いたか。確かあれは、まだ幼い時分にエメラダに自慢されて。
 そこまで記憶を掘り起こすと、ディックはハッとなって、頭を床に伏せた。

 直後、鼓膜をガタガタと揺さぶる銃声が連続で鳴り響き、壁に無数のトンネルが開通した。

 「み、ミニガンかよ!」

 ディックの言うとおり、その攻撃の正体はミニガン。エメラダが対物ライフルを持つ手とは逆の手で持ち、その引き金を引いたのだ。

 ミニガンとは、1秒間に最大100発の弾丸を発射できる6本の銃身がある機関銃のことを指し、渡辺がいた地球でも実際に存在する武器である。もっとも地面やヘリコプターの銃架などに固定して使用するのが当たり前であり、本来、人が直立して片手で撃てるような代物ではない。
 だが、エメラダにそんな常識は通じなかった。

 「どうだディック。良いだろう? 私のお気に入りの楽器の旋律は」

 「せ、戦慄した……」

 ディックは焦る。
 これでは『魔法反射』の裏に隠れても意味がない。このまま数を撃ち込まれてしまえば、いつか被弾して終わる。
 かといって、一か八か反撃に出たところで、エメラダはディックの戦い方を完全に読み切っている。返り討ちにされるだけだ。
 今まさにディックは、詰みの状態に陥っていた。

 ……さっきの『精神感応テレパシー』からして、もうすぐアイツが来るはずだ……アイツさえ来てくれれば……

 待ち人が来るのを切に願うディック。

 「おい、そこら中の壁に穴が空いてるけど、戦争でも起こってんのか」

 その祈りがどこぞの神に通じたのか。その人物はついにディックの前に現れた。

 「……へっ、おせーんだよ。そんなんじゃ女にモテねーぞ、渡辺」


 エメラダは、ディックが渡辺と合流したことなど露程も知らないまま、ディックの出方を窺っていた。

 「隠れて逃げるだけかディック? 大見栄を切っておきながらこの程度とは、それでよく筆頭勇者の称号を受け継げたものだ。前任者が今の姿を見たら嘆くぞ」

 エメラダが、再び銃弾のあらしを起こそうと
引き金を引いて6本の銃身を回転させ始めた。そのときだった。

 廊下の角からディックが飛び出し、スナイパーライフルの銃口から弾をいくつも射出した。

 「ふん」

 やはり、これまでと同じで、どの弾もエメラダには掠りもしない。
 だが、ディックの狙いは弾を当てることではなかった。
 エメラダの横を通り過ぎていく複数の弾丸の内の一つに、ディックは『位置交換スワップ ポジション』の魔法を使った。ディックと弾丸の位置が入れ替わり、エメラダの背後にディックが瞬時に移動する。

 「無駄だ。お前の動きは手に取るようにわかる」

 この展開を予測していたエメラダは、後ろを振り返りながらミニガンで殴りかかった。

 「じゃあ、俺の動きはどうだよ」

 「――ッ!!」

 エメラダは目を見開いた。
 そこにディックはいなかった。
 代わりにいたのは、左腕に嵐を纏った渡辺だった。

 ディックは『位置交換』で入れ替わってすぐ、『二重行動ダブルアーツ』でもう一度『位置交換』を発動し渡辺と位置を入れ替えていたのだ。

 「ウッ!」

 その一撃は渡辺の能力100%の威力。
 虚を衝かれたエメラダはその拳をまともに腹部に受け、奥の壁まで飛ばされて叩きつけられた。
 衝撃で胃の内容物が飛び出そうになるのを、喉の筋力で無理やり抑えて顔を上げる。渡辺が自分に追い打ちをかけようと、走り向かってくるのが見えたエメラダは次の攻撃を凌ぐために頭を回転させる。

 あの左腕はもう使い物にならない。ヤツにはこの力に耐えられる防御力がないからだ。ならば、警戒すべきなのは右腕と両足。だが、右の拳もおそらく前回受けた傷がまだ完治していないはず。つまり、次の攻撃は、蹴りだ。

 答えを導き出したエメラダは、渡辺からのキックをガードすることに意識を集中したが、それは無意味に終わる。もう一発、先程と同様。渡辺は左拳をエメラダに叩き込んできたのだ。
 エメラダの体が壁を2、3枚突き抜けて、建物の外まで吹っ飛んで転がる。

 「……グッ……馬鹿な。何故、左腕を動かせる」

 エメラダは吐血しつつおもむろに立ち上がると、右手から対物ライフルを手放し、代わりに1丁の拳銃を腰から引き抜いた。その銃は渡辺のために準備したもので、渡辺の防御力に対して適した速度の弾丸が発射される。

 渡辺が自分を追って建物の外に出てきたタイミングで、エメラダは発砲した。
 カンッカンッカンッ!
 と、金属に当たったような音とともに、弾丸は弾かれた。
 その様子を見て、エメラダは気づく。

 「防御力が上がっている……」
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