俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第138話 私

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 ピピーッ! ピピーッ!

 けたたましい電子音によって、私は目を覚ます。

 ピピーッ! ピピーッ!

 「……うぅん」

 いつもながら、凄まじいボリュームだ。絶対に相手を眠らせないという製作者の意思を感じる。
 あまりにもうるさくて毎度毎度苛立ちを覚えるが、朝の弱い私にとって必需品だ。

 私は身を捩らせてベッドのヘッドボードに備え付けられたスイッチを押す。

 ピピーッ! ピ――。

 「……起きないと」

 二度寝を避けるべく、顔を洗おうと起き上がる。

 「電気つけて」

 私が言うと部屋の天井に備え付けられた電灯に明かりが灯り、部屋の内装が顕になる。
 最低限の家具に、白い壁、白い床、白い天井、窓も無い無機質な部屋。散らかってもいなければ、飾りも無い。私らしさが出ている。

 私はベッドから降りて、白い床に足をつける。
 すると、キッチンに置いてあったコーヒーメーカーが独りでに動き出した。
 コーヒーメーカーは自らの内部にストックしてある使い捨てカップを外へスライドさせて出すと、そこへドリップコーヒーを注ぐ。

 そんな様子を横目で見ながら洗面台へ行く途中、私は今朝の気分を口にする。

 「砂糖はいつもの2倍でお願い」

 これに対してコーヒーメーカーが、女性の声の音声で答えた。

 『かしこまりました。砂糖を設定より2倍多く入れます』

 今日は仕事がオフの日。
 暗い気持ちのままでいるのはもったいない。

 洗面台で顔を洗う際、鏡を見る。
 金髪のショートヘアで、翠玉色の瞳を持つ自分の顔が映る。

 「疲れた顔してる」

 それから、朝の身支度を済ませた私は、先程注がれたコーヒーを片手にボックスの扉を開ける。
 中には、カロリーを得るための固形食と、人間に必要な栄養素がまとめられた錠剤がある。

 「せっかくの休みだものね。さっさと朝食済ませて、読みかけだった小説でも読み進めようかしら」

 『お待ちください』

 ローテーブルに置かれた端末から、人工知能AIの電子音声が鳴った。

 「あら? 何か問題でも?」

 私は訊ねる。

 『今朝はご友人と食事する予定が入っております。朝食は控えた方がよろしいかと』

 「あ……いっけない。すっかり忘れてたわ」

 そういえば、モール内を見て回る約束してたんだった。
 確か集合場所は店の前で、時間は……まずい! すぐに出なきゃ!
 
 私は慌ててコーヒーを飲み干すと、女らしさの欠片もない格好を少しはマシにして、部屋を飛び出していった。


 「おそーい! 何やってたのよ!」

 「ごめん! ちょっと忘れちゃってて……」

 店の前で待ちくたびれていた友人に、両手を顔の前で合わせて頭を下げる。

 「もー、誰のための食事だと思ってるの。常日頃、総合栄養食ばっかりで味を愉しむってことを知らないアンタのために誘ったんだからね」

 そんなこと誰も頼んでないんだけどなーと思いつつも口には出さない。彼女なりに私のことを想っての気遣いなのがわかっているから。
 私としては食事よりも彼女と話せるのが嬉しい。
 同じ船の中に住んでいるのにおかしな話だが、互いの職場が離れているので会う機会が滅多に無いのだ。

 私たちは店に入る前に、店の扉の前に設置されている機械に、前腕に埋め込まれているナノチップを読み込ませた。
 それにより扉のロックが解除されて横にスライドして開き、私たちは店の中へと入る。


 席に着いてから10分ぐらいだろうか、注文した料理が持ち運ばれてきた。
 それを口にした私は思わず唸る。

 「ッ! 美味しいわ! これ、本当にカレーライスなの?!」

 「でしょー! ここのは他の店みたいなそれ風じゃなくて、本物の味を再現してるんだから!」

 「本物って……地球があった時代の話よね? 元となるスパイスの一部が失われて再現は不可能だって聞いたのに」

 「それがこの店では長年の研究の末にスパイスの代わりを完成させたってわけ!」

 「へぇ。すごい店じゃない。その割には大して人が入ってないけど」

 「そりゃ、それが完成したのはもう何年も前の話だから今は落ち着いてるだけよ」

 「あ、そうだったの?」

 「アンタが仕事に熱中してる間も、世界はどんどん進んでるのよ。で、どうなのよ、ここのカレーライスは」

 「そうね。これだけ美味しいなら、また次も食べたいわ」

 「良かった。他にもいろいろあるんだから、ここに停泊してる間はとことん付き合ってもらうわよ!」

 「はいはい。どこへでもついていくわよ」

 ちょっと面倒。
 でも楽しみ。
 新しい世界を知るのは大変な労力を強いられるけれど、それは新しい自分の発見に繋がるから。

 彼女はまたどんな世界を私に教えてくれるのか。
 どんな私を見つけてくれるのか。
 今からそれが待ち遠しい。

 「ところで、前に気になる男が仕事場にいるって言ってわよね? その後どうなのよ?」
 
 理解できない質問に、私はぽかんとした顔をする。
 え? 私そんなこと言ったかしら……何か勘違いしてるんじゃ……あ、わかった。

 「それ、気になるじゃなくて、仕事中にペラペラしゃべる男がいてうるさいって言ったやつでしょ。全然違うわよ」

 「そうだったの? んー、そこから始まるロマンスとか――」

 「ない。だいたい、その人には奥さんもいるんだからね」

 「あちゃー、なら無理だわー」

 「そう、無理」

 彼女はすぐに色恋沙汰に話を持っていこうとするから困りものだ。私自身、まったく興味が無いのに。

 その後も他愛の無いやり取りが続く。
 すごくどうでもいい話ばかり。
 けれど、それが現実を忘れさせてくれる。
 私はまんまと友人の狙いにはまっていたというわけだ。


 『ただいま速報が入りました』

 それでも、現実は追いついてくる。

 『長らく緊張状態にあった惑星モルタナのターミナル前で動きがあった模様です』

 店の角に置かれていた電子モニターから焦りの色がある声が聞こえてきた。
 私はそちらに注目する。

 『現場のドローンからの映像を映します』

 それは最悪な映像だった。

 「あー、もう!」

 彼女はガッカリした様子で額を押さえた。
 当然だ、彼女はを私から忘れさせたくて今回の食事を企画したというのに、完全に台無しにされてしまったのだ。

 『すごい勢いです! デモ隊が一斉に走り出して警備隊に突っ込んでいます!』

 本当にすごい勢いだった。
 大勢の人間が雪崩のように押し寄せていて、明らかに死人が出てもおかしくない状況だった。

 この勢いを前に警備隊たちもゴム弾や催涙ガスで武力行使に出るのだが、効果は無くどんどん人の波に飲み込まれていく。

 「これは……次の私たちの勤め先は決まったかしら……」

 友人の言葉に、私は頷く。

 ……今度はこの人たちを手にかけなくてはならないのね……。

 否応なしに憂鬱な気分になる。

 しかし、事態はこれだけに留まらない。

 『爆発です! デモ隊の後ろの方で爆発が起きたようです!』

 ドローンのカメラがそちらを向く。

 その爆発の規模は思っていた以上に大きく、爆発の煙がデモ隊の後ろの景色を完全に覆い尽くすほどだった。

 「ちょっとちょっと。いくらなんでも派手にやり過ぎでしょ」

 あまりにも現実離れした光景に彼女は呆れ果てていた。

 「待って」

 その時、私は違和感に気がついた。

 「どうしたの?」

 「何か……変だわ……いくらなんでも人の数が多過ぎる」

 煙の奥から大量の人々が途切れることなくやってくるが、デモにここまでの人数が参加していただろうか?
 よくよく見るとおかしな点はまだある。

 「……みんな、後ろを気にしてる?」

 走る人々は一様に、後ろを振り返っている。

 ……後ろに何か……いるの?

 私は席を立ってモニターに近づくと、ジッと煙の中を注視した。

 再び後ろで爆発が起きた瞬間だった。
 煙が爆風で流れたことで奥が見えた。

 そこにいたのは――。


 *


 「かはぁっ!!! はぁっ!! はぁっ! はぁ…………夢……」

 その夜、夢を見た私は飛び起きた。

 「……こっちに来てから長い間見ていなかったのに……すごい汗……身体は私以上にわかっているの?」

 隣で寝ている愛娘を起こさぬよう、ベッド脇にある豆電球をつけて、懐中時計の時刻を確認する。

 「少し早いけど、汗を流せばちょうどいい時間ね」

 衣類を脱ぎ捨て、部屋に備え付けられたシャワー室へ足早に入る。
 できるだけ早く、私はこの汗を流したかった。

 温かく、そして心地良い熱が、全身にまとわりついた不快な汗を落としていく。
 でも、不安までは落としてくれない。

 「……私は……私よね」

 私は私のはずだ。
 私の判断で、今日この日を迎える。誰のモノでもない。

 シャワーの湯気で曇った鏡を見やると、私はその鏡を手で拭った。
 すると、私の顔が見えた。
 金髪のロングヘアに、翠玉色の瞳。弱気に満ちた情けない顔。

 「……なんて顔をしているの。……これから大勢の人が命を落とす……こうなったのは誰のせい? 私のせいよ。私が逃げ出したから……」

 一度目を瞑る。
 そして、表情を変えてから再び目を開ける。

 鏡には、いつものおっとりしたフィオレンツァわたしの表情が映っていた。

 「私は女王の役目を果たす。だから、シーナにもちゃんと引き継いでもらうの。これまでそうしてきたように」

 キュッと、蛇口を捻ってシャワーを止める。

 「カトレアさん。本当にごめんなさい。あなたに押し付けておきながら、私は今からそれを取り返しに行きます」
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