俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第147話 後半戦開始

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 フィラディルフィア北の平原での戦闘が始まってから3時間が経過していた。

 アルーラ城にて、騎士団を統括する存在である騎士団総司令官セルギウスは部下からの報告を受け、謁見の間を訪れていた。

 「決着の報せ……というわけではなさそうだな」

 跪くセルギウスの前で、玉座にどっかりと腰を下ろしているカトレア。
 その眼差しからは苛立ちが見て取れた。

 「たかだか、4千にずいぶんと時間をかけているようだな」

 「申し訳ございません。敵もなかなかの粒ぞろいのようで、制圧には時間を要します」

 「ふん、その粒も所詮はレベル100程度の小物であろう? フィオレンツァ側の戦力で脅威になり得るのはジイとディックの両人ぐらいなものだ」

 「実はそのことでお伝えしたいことがあって参りました。ディックとジイ以外にもう一人、つわものが戦場で猛威を振るっているようです。伝令の話では、その者の実力はパワーだけならディックをも超えているとか」

 「何?」

 カトレアは口元に手を当て考える。
 記憶を掘り起こしているのだ。

 「おそらく、陛下はご存知ない人物かと。何せ二ヶ月前に転生してきたばかりの人間ですから」

 「二ヶ月前だと? 馬鹿な。それほどの短期間でディックに相当する力を得たと申すのか。その転生者のチート能力は一体何なのだ?」

 「不明です。ギルドの登録情報でも能力の欄は空白のままでした。しかし、アリーナの記録にて気になる結果が残っております」

 「気になる結果とな?」

 「その転生者は1回戦目で勝利を収めているのです」

 「ほう……転生者でありながら初陣で白星を挙げるとは、大した者だ」

 「はい。私もこの記録を見て、少し前に騎士たちが『期待の戦力が現れた』と浮足立っていたのを思い出しました」

 カトレアがゆっくりと玉座から立ち上がる。

 「その転生者の名は?」

 「渡辺 勝麻でございます」

 「ならばセルギウス。下の者に伝えよ。渡辺とやらの四肢をもいで生け捕りにしろとな」

 「種馬、ですね」

 「そうだ。短期間でディック並みの戦力が量産できるのであれば、魔人殲滅への大きな足掛かりとなろう」


 *


 「生け捕りとは……陛下も無茶な要求をなさる」

 伝令からの報告を受けて、司令官の男は眉をひそませる。

 「殺さず捕えるのは実力差があるからこそ可能な技。これほどの相手にそれを為すには……騎士5000人では利かぬであろうな」

 司令官が視線を送る先では、渡辺がまた騎士たちを宙へ高く舞い上げていた。
 退魔の六騎士である髪使いの女とサイボーグのネトレイトを倒した渡辺は、あれから3時間が経過した今でも、命を奪う拳を振るい続けていた。

 「しかし、あと1万人もかければ状況は変わるだろう。ヤツも生物である以上、避けられんからな」

 冷静に、淡々と、司令官は先が見えたとばかりに呟く。

 渡辺は殴り続ける。蹴り続ける。気を失わせて。殺して。
 それを三時間も続けてきた。
 息は絶え絶えで、喉も渇き、黒いポンチョの下に着た衣服は流れ出る汗を大量に吸っていた。

 渡辺の肉体は疲れ切っていた。

 加えてネトレイトから受けた超振動によるダメージ。どうにか戦いながら『回復魔法』の魔法石を使って完治させることはできたものの、『回復魔法』は魔法を受けた者の体力を低下させるため、余計に渡辺のスタミナは消耗されていた。

 それはディックにも同じことが言える。
 ディックも退魔の六騎士である二人と戦闘して傷つき、『回復魔法』を使用していた。
 渡辺と比べればディックは戦闘経験豊富なため、バテないよう上手く力を調整してこそいるが、それにも限界はある。

 「クソッ、まだか」

 ディックは敵の額に向けてスナイパーライフルのトリガーを引いた。
 飛び出した銃弾は額ではなく、頬をかすめる。
 腕に疲労が溜まり、精密な射撃ができなくなってきていた。


 動きが鈍くなってきている二人を、千頭は森の中から遠目に見て考え込んでいた。

 「……これ以上の長期戦は苦しいか」

 次に4千がいる本隊の方の状況を双眼鏡越しに確認する。

 「Cグループが『土魔法アース マジック』で作った塹壕で休息を取らせ、それをローテーションさせていたけど、流石に限界のようだね。が出てくるまではと思ってたけど、向こうも勘付いているのか、出してこないし……仕方がない」

 千頭が紺色のPコートのポケットから『精神感応テレパシー』の魔法石を取り出して使った。
 『精神感応』先はディック。

 『ッ! いいのか?! まだ連中の切り札は――――。そうか、そうだな。オメェの言う通りこのままじゃジリ貧だ。どっちにしろピンチってわけだ』

 千頭の説明に納得したディックがライフルの銃口を騎士ではなく上、空へと向けた。

 「なら、おっぱじめるとしようぜ!」

 発砲音が鳴り響きライフルから薬莢が飛び出す。
 その後、ディックは戦場から姿を消した。『位置交換スワップポジション』で入れ替わったのだ。

 上空300mの高さにディックが現れた。

 「ミカアァ!!!」

 重力に従って加速し始める中で彼女の名を呼ぶと、彼女は森の中から矢のような勢いで真っ直ぐディックへと羽ばたいてきてくれた。

 「待ってました!」

 ミカがディックを空中でキャッチした。

 「行くぜミカ! 作戦開始だ!」

 「うん!」

 ミカがディックの後ろから両手を回して抱きかかえる格好で、二人はフィラディルフィア北区の上空へと向かう。
 そのスピードは速く、ディックとミカの耳元では風の音がボボボと鳴り響いていた。

 二人が空を翔ける姿を見て地上の騎士たちは動揺していたが、司令官は慌てることなく仰ぎ見ていた。

 「やはりそう来たか」

 ディックが白いローブの内側から魔法石を取り出す。

 「フィォレンツァの目的が陛下であるのなら、当然お前達はこの障壁を突破しなくてはならない。だが、力で破壊するにはそれこそ人類最強の男であるルーノール以外には不可能だ」

 取り出した魔法石には千頭の『道具収納』が込められている。

 「それ以外の方法、攻撃以外で障壁を突破するには、障壁に流れる魔力そのものを遮断するしかない」

 ディックが魔法石からピンを引き抜くと、石から魔力が溢れ出し、それが宙に直径3mほどの紫色の穴を生じさせる。

 「それができるのは、空の魔法石だけだ」

 穴から、百、いや千を超える数の未加工の魔法石が落ちる。
 落ちて障壁とぶつかった魔法石が、たちまち障壁から魔力を吸い上げていく。

 「アルカトラズは魔法石の産地。それを利用しない手はないだろう」

 多くの魔法石に魔力を吸い取られたことで、障壁にバスケットボールサイズの穴が空いた。
 それを見てミカが歓喜の声をあげる。

 「やった! このまま穴を拡げて内側に入れば――」

 「ッ! ミカ、上昇しろ!」

 「へっ?!」

 ミカはわけもわからないまま、とにかくディックの指示に従って翼を羽ばたかせて急上昇した。
 すると、二人がいた位置を何本もの光の筋が通った。

 「い、今のって何?!」

 「へっ、もう忘れちまったのかミカ。お前がカッコイイってアホみたいにはしゃいでた兵器様のご登場だぞ」

 ディックが顔を地上の方ではなく横へ向けるので、ミカも横方向を向いた。

 「……そんな……まさかあれって」

 地平線の彼方からやってくるそれらを見て、ミカは開いた口が塞がらなくなる。

 「そのまさかだ。ドロップスカイ第九開発局が開発した自律型兵器――AUWだぜ!」

 
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