俺のチートって何?

臙脂色

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第四章   ― 革命 ―

第165話 君の感情にふれて僕は 前編

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 枝葉の隙間から入り込んでくる日差しが眩しくて、額の上に手をかざす。
 ピヒョンピヒョン。
 キーコロコロ。
 聞いた事のない生き物の鳴き声が森の至る所から響いてくる。鳥? それとも虫だろうか?
 サアァ――。
 ふわっと清涼感を含んだ心地良い風が頬を撫でる。
 
 「何で……森に? えっと、俺は確かアルーラ城でルーノールと闘ってて……それで負けて……城から落とされて……」

 落下死、した……よな? なのに、

 「受けた傷どころか、流した血も体にまったくついてない、どうなってるんだ? ……待てよ。俺もしかして、死んでまた転生しちゃったのか? それで別の世界に飛ばされて――」

 ぼんやりとする頭をフル回転させて現状を把握していると、遠くに青い髪の人影が歩いて行くのが見えた。
 後姿だったけど、すぐわかった。

 「マリン!」

 呼びかけたが、彼女は反応を示さないまま奥へと行ってしまう。

 「待ってくれ!」

 俺は急いで後を追いかけた。
 落ち葉や枝を踏み鳴らしながら、道なき道を駆ける。
 しばらく走ると、森を抜けてひらけた場所に出た。
 そこは草原の丘だった。
 頭上を遮るものは何も無くて広大な空がどこまでも続いており、その場所は草の緑と空の青の2色しかなかった。
 そんな中、丘の頂上に一本だけ聳え立つ大きな木が一本だけ存在した。
 マリンを見失ってしまった俺は、とりあえずその木を目指して歩いた。

 「……ここは……日本?」

 大木のそばまで来て、不意にそんな感想が口から漏れた。
 現代文明が建ち並んでいるのが目に飛び込んできたからだ。
 数え切れないほど並ぶ家やマンション。アスファルトとその上にある自動車。信号機。電車が通る線路。
 俺の元いた世界にとても酷似していた。

 「でも変だ。これだけの街だっていうのに、人が全然見当たらない。道を歩いている人もいないし、車も走ってない、全部停まってる」

 信号機も電気が通っていないのか、何色にも光っていない。
 文明はまるで呼吸を止めているみたいに静かだった。

 この場所が一体何なのか気になるけど、それよりもマリンがどこに行ったのか探さないと。
 目を細めて景色の中に彼女の姿を探す。
 街の奥には海があり砂浜も確認できたが、まさかあんな遠くには行ってはいないだろう。

 そう考えた矢先だった。

 水平線に、それが見えた。

 「あれは、何だ?」
 
 何と表現したらいいんだろうか。
 簡単に言うなら、それはだった。
 さながら、ボールペンで描いた様な黒い線。
 数多の黒い線が水平線から空に向かって真っ直ぐ伸びていた。
 俺はしばらく呆然と、上に伸び続ける線を眺める。

 ドボッ。

 すると、目の前を何かが落ちた。
 何だろうと顔を下に向けてみれば、赤黒い液体だがベットリと草に付着していた。血を連想させるような色に俺はギョッとする。
 「どうしてこんなものが青空から?」と、見上げた瞬間、心臓がドクンッと跳ね上がった。

 「なん、だよ。これ」

 声が震えた。

 さっきまで青かった空が、真っ赤に染まっていた。
 そして何より、その真っ赤な空には、とてつもなく巨大な赤黒い魔法陣が浮かんでいた。
 いや、巨大なんて言葉じゃ足りない。全体像がわからない。魔法陣があまりにも大き過ぎるから、空気の層に阻まれて途中から見えなくなっている。

 上を見上げたまま後退りする。
 自然と恐怖が胸から込み上げてくる。
 逃げる様に、俺は視線を魔法陣から地上へと移したが、上はまだマシだったと知る。

 「――っうわああぁぁぁ!!!!」

 絶叫した。
 不快感が一気に喉元までせり上がってくる。
 目の前に、数え切れないほどの人の死体が転がっていた。
 多くがバラバラに分断されて、どれが誰の部位なのかわからないほど肉塊がそこら中に散乱し、草原を赤くしていた。
 草原だけじゃない。遠くにある街も老若男女たちの惨たらしい死体で、埋め尽くされていた。

 街の全ての信号機が、俺にこれ以上踏み込んでくるなと警告するかのように赤信号を示す。

 「わ、わけがわからない! 一体何が起きて……はっ!」

 目を何度か瞬かせた時、前方にマリンが忽然と現れた。
 マリンは赤と死に彩ろられた街の方に顔を向けていて、自分の身を守るように両腕で自分を抱きしめている。

 「マリン!」

 俺が呼びかけると、彼女はゆっくり顔をこちらに向けた。

 「――」

 虚ろな瞳が見えた。

 直後、魔法陣から赤黒い液体がドロリと流れ落ちてきてマリンを飲み込んでしまった。

 「な、マリン!」

 彼女を助けようと駆け出すが、落ちてきた赤黒い液体が俺の方にまで一気に広がってきて押し流そうとしてくる。
 身体が液体に沈み視界全体が血の色になる中、足の指先に力を入れてどうにか流されまいと耐える。

 「く、そ!……えっ!」

 その時、何故か赤ん坊の泣き声が脳内に響いてきた。
 それも一人や二人どころじゃない。何百、何千人……いや、もっとだ。

 『たすけて』
 それは、救いを求めるような泣き声で、とても苦しそうだった。

 何なんだよ!
 黒い線が見えたかと思ったら、赤黒い魔法陣が出てきて、液体が流れ落ちてきて、たくさんの赤ん坊の泣き声が聞こえてきて、もうわけがわからない!
 この世界は一体何なんだよ!

 「――ッ!」

 そこで俺は、街を眺めていたマリンを思い出す。

 「……まさかこれがマリンの、俺と出会う前のマリンの、本当の過去なのか?! こんなにも恐ろしい世界にいたっていうのか?!」

 俺は赤黒い液体の流れに逆らって、歩き出す。

 助けたい。
 知りたい。
 君の手を引っ張って、青空の見える場所へ連れて行きたい。

 俺は血の海を掻き分けて、彼女へと手を伸ばした。

 同時に、真っ赤だった世界が金色に輝き始めた。


 *


 ……彼女を独りにさせたらダメだ……。

 気がつけば、俺はまた遠ざかっていく空を見ていた。
 さっきとまったく変わらない場面だ。けど、状況は完全に変わっていた。
 世界の色と音を感じる。
 死んでいたはずの身体に、力が漲ってくる。
 それも、全てをひっくり返せるほどの溢れんばかりの力だ。
 黒い風も再び溢れ出すが、それだけじゃない。稲妻の様な光がバリィッと音を立てて体中を迸る。

 今の俺なら、何だってやれる!

 俺はその力の一部を使って、重力に逆らって上へと向かっていった。

 「……! ショウマ、さま!」

 謁見の間まで上がると、マリンが涙を流しながら喜んだ。

 「……何だと?」

 ルーノールが目を剥いた。
 ルーノールだけじゃない。ディックもフィオレンツァさえも、みんな唖然として俺に視線を注ぐ。

 「ど、どうなってんだ?! 渡辺のヤツ! ――ま、魔法を、使ってやがる!!」

 ディックの言うとおりだった。
 俺は、『風魔法』を使って自分の体を宙に浮かせていた。

 「……ウヌのチート能力、一体何だというのだ? 身体強化の類ではないのか?」

 「俺のチートが何か? んなもん、どうだっていいだろ。俺の力が何であれテメェと俺のやる事は変わらねぇ。さあ、構えろよ人類最強。こっからが、本番だ!!!」

 俺は片手を前に突き出した。
 『炎魔法』。
 手から炎が洪水の様に流れ出て、ルーノールに迫る。ルーノールはそれを背負っていた盾で防ぐが、問題ない。
 炎はあくまで視界を奪うため。

 「ッ!!」
 
 炎を突き破って横から現れた俺に対し、『絶対反撃』を発動させようとするが遅い。

 俺の拳が、ルーノールの顔面を殴打した。

 「ウオオオオォォォォ!!!!!」

 腰を捻り、肩に力を入れ、思い切り振り抜いた。
 ルーノールが大きく上体を倒し、口からは血が飛んだ。

 人類最強に、ついにダメージを与えた。

 「――く、童めがあぁ!」「ダラアアアアァァァァァ!!!!!」

 反撃されるよりも早く、もう片方の拳でルーノールを殴った。今度は逆側にルーノールの体が傾く。
 1発だけではない。
 2発、3発、4発、5発、6発と、一発一発に渾身の力を込めて、全体重を大きく左右に振って連続で殴る。

 反撃を許すな。
 反射神経を超える速度で殴れ。
 呼吸をさせるな。
 瞬きもさせるな。
 攻撃の海に沈めて全ての動きを封じろ。
 終わらせるんだ。このワンチャンスで。

 終わらせなきゃ、負ける!

 「ウオオオオォォォォ!!!!!」

 拳をハンマーの様に振り下ろして頭をド突いた後、腹に蹴りを入れルーノールをアルーラ城の外へと飛ばした。
 それを俺は『風魔法』で自身の体を加速させて追いかける。

 一瞬で間合いを詰めた俺は、さらに蹴り飛ばす。
 空中での移動手段が無いルーノールはされるがまま、血を撒き散らしながら街の上空まで弾丸の如きスピードで飛んでいく。

 「まだだ!!」

 ディックの見様見真似。『氷魔法』で空中に氷の塊を作り、それを足場代わりに蹴ってまたルーノールへと迫った。

 「ハアアアアアァァ!!!――ぐっ!!」

 殴ろうと力んだ瞬間、腹に激痛がはしった。
 そのせいでコンマ1秒、パンチが出遅れる。

 パァンッ!!

 ルーノールの頬に拳が直撃するが、

 「……どうやら、傷が癒えたわけではないようだな」

 「しまっ――」

 『絶対反撃』を受けて、俺は街へと叩きつけられた。
 地上へ落ちてもその勢い止まらず。体を跳ねさせて家を何軒か突き破ったところでようやく止まる。

 ……いてぇ……痛いけど……これまでと比べたらまだいける。
 『防御支援』はとっくに無くなったけど、どうも俺自身の防御力が高くなってるみたいだ。
 とはいえ……。
 ネチャ。
 腹を触ると手にベッタリとした血が付着した。
 猶予はない。
 まともに闘えるのは、あと1分がせいぜいなところだ。

 俺は自分に被さっている家の瓦礫を退かして立ち上がる。

 ドッ! ガッ! バキッ! ゴッ!

 そこへ連続した破壊音が鳴り出す。
 ルーノールが家を次々にぶち抜き最短最速でこっちに向かってきている音だった。

 ならばと俺は両手を地面に突けた。
 案の定、家の壁を突き破ってルーノールが俺の前に出てくる。

 「くらえ!!」

 そこで自分のイメージする攻撃を思い浮かべながら、『地魔法』を発動させた。
 ルーノールがいた場所の地面が、まるで怪物が口を開いたかのようにバックリと大きく裂けた。
 ルーノールはその口の中へと落ちる。
 それを確認した俺は、両手を合わせて怪物の口を堅く閉じさせた。

 やったか。
 そう思わせる時間すらも、ヤツは与えてくれなかった。

 地面に亀裂が走る。

 やばい! 地面に対しての『絶対反撃』!!

 慌てて俺が飛び退いた後、地面が文字通り爆発した。地面を構成していた石やら土やらが広範囲に飛散し、クレーターが出来上がる。そのクレーターの中央にルーノールは立っていた。
 ヤツは何故か持っていた盾を捨てて、空中にいる俺に向かって小指を向ける。

 何だ?と、思っているとその小指が青白く輝き出した。

 『避けろ!!』
 「ッ!」

 ディックの『精神感応』が響いて、咄嗟に俺は自分自身を『風魔法』で吹き飛ばした。

 直後、小指から青白い光線が発射された。
 家一軒を丸々覆ってしまえるほどの太い光線が、俺のすぐ横を抜けてアルーラ城の塔の一つに当たる。
 光線は塔を容易く貫通し倒壊させた。

 「な、何だよ今のは!!」

 『聞こえてるか渡辺! あれがアイツの3つ目の能力『テスカトリポカの自己犠牲』だ!!』
 『てすかぽ……何だって?!』
 『『テスカトリポカの自己犠牲』!! 自らの体の一部を破壊する代わりに、強力な魔力の塊を放出できるっつー能力だ!!』

 『自らの体を犠牲にして……って、おい! それってまさか!!』

 『ああ、そうだ『禁じられたチート能力』さ! あの中年野郎はセラと同じ宿命を背負った人間なんだよ!』

 セラ。
 確か『クロノスの祈り』とかいう時間を止める能力を持った女の子か。
 あの能力も凄まじいもんだと思っていたが、コイツもヤバイ威力だ。あんなのがもし直撃でもしたら一溜まりも無いぞ。

 「ん? ん?!」

 民家の屋根の上に着地した俺は、上からルーノールを見下ろして疑念を抱いた。

 『ちょっと待て。自分の肉体を犠牲にする能力って言ったよな? 見た感じそれで負傷したようには思えないが』

 ルーノールにある傷は俺が与えた分のみ。他は見当たらない。

 『……残念な知らせで悪いが、ルーノールは『禁じられたチート能力』をノーリスクで使える』

 …………は?

 『通常、今みてーに『テスカトリポカの自己犠牲』を使用した場合、手がぶっ飛んで無くなってるところだが、野郎はそれを『絶対反撃』で反射して無効にしちまってんだ』

 ……おいおい、本当にどこまで規格外なんだよ、この男は!!

 『絶対反撃』という最強の盾に、『テスカトリポカの自己犠牲』という最強の矛。
 正直、体は恐怖していた。今すぐ逃げ出せと訴えているかのようにブルブルと震えている。
 けど、その恐怖を心で捻じ伏せた。

 びびってんじゃねぇ渡辺 勝麻。
 相手がどんな力を持っていようが関係ない。俺のやる事は変わらない!

 「……来い!」

 俺の一言を合図に、ルーノールが屋根にいる俺に向かって一直線に跳躍してきた。
 振り下ろされる剣。それを避けると、剣はそのまま屋根に当たって家を全壊させる。
 その攻撃後の隙を狙って俺は『炎魔法』を放った。さっきと同じ作戦だ。
 炎でルーノールの視界を覆い尽くしてから飛び掛かる。
 しかし、同じ手は食わんとばかりに、攻撃位置を見破られ『絶対反撃』を食らってしまう。

 「ぐはっ!!」

 俺の体は真っ直ぐアルーラ城の方へと飛ばされる。

 「チッ!!」

 空中で態勢を立て直した俺は、アルーラ城にある塔の壁に着地した。
 続けて追いかけてきたルーノールが、俺よりも下の位置に着地する。

 地面に垂直な塔の壁で俺はルーノールを見下ろし、ルーノールは俺を見上げる。
 ガゴッという音が鳴ったかと思えば、塔が傾き始めた。
 俺とルーノールの着地の衝撃で塔の根元が崩れたんだ。

 ゆっくりと倒れていく塔。
 その塔の壁の上で俺は駆け出して『雷魔法』をルーノールへと放った。
 ルーノールの全身を雷撃が駆け巡るが、『絶対反撃』によって弾かれる。

 それはわかっていた事だ。けど『雷魔法』で全身を攻撃しつつ、そこに強力な一撃を当てれば流石に『絶対反撃』でも捌き切れないはずだ。

 「甘い」

 突き出した拳が『絶対反撃』に届く前に、ルーノールの剣によって弾かれた。
 さらに縦に振り下ろされた剣を受けて俺は塔の壁に叩きつけられ、そのまま塔の内部へ入ってしまう。
 塔の中はまるで無重力空間の様に多くの物が宙に浮いていた。とくに武器が多い。ここは武器庫か。

 ルーノールも壁を破って塔の内部へ侵入してくる。
 それに対し、俺は近くに浮いていた短剣を蹴り飛ばして攻撃するが、ルーノールはそれを手であっさりと弾く。

 そして、薬指を青白く光らせた。

 「――ッ!!!」

 急ぎ『風魔法』を使って塔を脱出した後、横になって落ちていく塔の天辺から青白い光線が放出された。
 光線は遥か彼方のフィラディフィアの外にある山まで伸びていった。薄っすらと小さく土煙が上がるのが見えてから数秒後、ドンという音が遅れてやってきた。

 塔は石と石がぶつかり合う音を発しながら横倒しになって瓦礫と化した。
 その瓦礫の中から、空中にいる俺に向かって槍が飛来してきて、俺の頬を掠める。

 「くっ!」

 槍に続いて、ハルバードや薙刀、両手剣と多様な武器がトビウオの群れみたく隙間無く飛んでくる。ルーノールが俺に向かって武器を投げているんだ。
 とても避け切れる量じゃない。
 やむを得ず、俺は『氷魔法』で大量の氷柱を自分の周りに作り出すと、それを一斉発射した。
 氷柱で飛んでくる武器群を弾き、軌道をずらす。
 その武器の中に、どんなに攻撃しても軌道を変えない強力なものが混じっていたのだが、俺はその存在に気づくのが遅れて、もろに食らってしまう。
 バリスタの矢だ。

 空中で態勢を崩した俺は、視線が下から上に向く。
 その向いた先のすぐ前に、ルーノールがいた。

 「――!!!」

 そして絶望の光を放つ中指を、俺の胸に当てた。

 「果てよ」

 ゼロ距離。
 視界が光に覆われた。
 全身を焼き焦がす滝の様なそれに、地上へと落とされるだけでなくアルーラ城へと押し流される。
 アルーラ城の壁を何十枚とぶち破っていき、青白い光線が細くなって消えたところで止まる。

 「う……ぐ……」

 光線の威力を物語るように、天井から石や砂がパラパラと落ちてくる。
 俺はその音に耳を傾けないようにして立ち上がった。

 身体がフラつく。
 意識も遠のいてきてる。
 上半身の服は完全に燃え尽きて、黒コゲになった皮膚が露出している。

 「まだ……だ! まだ!」
 「しぶとい男よ。だが、結果は変わらぬ」

 音を遥かに越えた速度でルーノールが迫り、剣で胸を刺し貫かれた。

 「ガハァッ!!」

 喉奥から大量の血が上ってきて吐き出される。

 「我は人類守護神。人類の未来を引きずり下ろそうとする存在を決して許さぬ」

 胸から剣を引き抜かれる。
 身体から力が抜ける。
 立っていられなくなって、横に倒れそうになる。

 ――ショウマ様、勝って!!――

 「ッッッ!!!!」

 全身を、稲妻となって金色の光が駆け巡った。
 足に力を入れ、倒れかけた身体を支える。

 「ぬっ!!」

 そして、下から抉り込むようにしてルーノールの腹にアッパーを入れた。
 意表を突く反撃に、ルーノールは『絶対反撃』を間に合わせられなかった。

 「……引きずり下ろすだって? 違う。押し上げてやるんだよ。誰もが笑って暮らせる未来へなあああ!!!!」

 拳を真っ直ぐ天に向かって突き上げた。
 瞬間、ルーノールが天井をいくつも突き抜けて上へと飛んでいき、最後には虹のステンドグラスを破ってそのまま空の曇天に埋もれていった。

 ガラスの破片がキラキラと虹色の輝きを振り撒いて落ちてくる。このガラスには見覚えがあった。謁見の間の天井にあったステンドグラスだ。ここはちょうどマリンたちがいる場所の真下だったんだ。

 虹が俺に降り注がれる。
 まるで行くべき道を指し示すかのように、虹の道が空に向かって続いている。

 そうだ。
 まだ終わってない。
 アイツはくたばっちゃいない!

 虹の道の先。フィラディルフィアの遥か上空。空の中に、ヤツの殺意を感じる。
 俺は大地を力強く蹴って跳躍した。
 瞬く間にアルーラ城を飛び出し、曇天の空へと向かう。

 曇天に突っ込んですぐ、全身から血を噴出させながらルーノールが落ちてくるのが見えた。
 ヤツも地上から上がってきた俺の存在に気がつく。

 「「 ――おおおおおおお!!!! 」」

 互いの視線が交差した瞬間、曇天に二人の男の殺意が響き渡った。

 ルーノールが剣を捨てて、拳を握る。
 俺もそれに対して、腕を大きく後ろへと引いた。

 天から下された絶対。
 大地から飛び立った絶対。
 2つの絶対が大空で衝突した。

 俺の拳とルーノールの拳がぶつかり合い、重低音が大気を震わせる。

 「――! 馬鹿な! その力、真に無限か!!」

 ルーノールが驚く。
 大方、拳に一点集中させた『絶対反撃』でやり返せると思ったんだろうが、大間違いだ。
 俺の絶対は、アンタの絶対を凌駕してる!

 ルーノールの絶対を突き抜け、そのまま俺の絶対をその身体に叩き込んだ。

 「これで、終わり、だああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 渾身。全身全霊。身体全部。
 すべてをその一撃に捧げて。
 振り抜いた。

 瞬く間に、ルーノールの体はフィラディルフィアの北区の街へと吹っ飛んでいき、見えなくなった。

 拳を振り抜いた際に生じた衝撃波により、空を覆っていた雲がかき消されて身体が暖かいものに晒される。
 日の光だ。
 日の光が俺だけでなく、フィラディフィアの街全体に注がれる。
 それはまるで闘いの終わりを告げるようだった。

 ……太陽の光……久々に見たな……ああ、そうか……そういえば俺……牢獄に入れられてからずっと…………あれ……何だか、ねむ、い……。

 ふっ、と力が抜ける。
 全部を出し切ったせいか、日の光の心地良さのせいか、急激な眠気に襲われる。
 これから地上へ落ちていくというのに、着地の態勢を取る時間も無く、俺の目蓋は閉じられた。
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