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第四章 ― 革命 ―
第166話 君の感情にふれて僕は 後編
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「……サマ…………ショ……」
何だろう……声が……聞こえる。
「ショウマ様!!」
高く澄んだ声の必死の呼びかけに、閉じていた目を開ける。
すると、愛しい人が目に涙を溜めながら俺の顔を覗き込んでいた。
周りに視線を泳がせてみればそこは謁見の間で、俺は床で横になっている状態だった。
どんな経緯でこうなったのかわからなかったが、どうでも良かった。
「……マリン。やっと会えたな」
「っ!」
俺が微笑んで言うと彼女は涙を流しながら、ぱぁっと嬉しそうに笑った。
うん、この顔だ。この顔が見たくて、俺はここまで来たんだ。
「良かったっ!」
カバっと覆い被さるように、マリンが俺に抱き着いてきた。
「ま、マリン?! って、イタタタ!!」
久しぶりに彼女の温もりを感じ嬉しくなるが、同時にアチコチの傷に響いてメチャクチャ痛い。
「あ、ご、ごめんなさい!」
マリンは慌てて離れる。
ホッしたような、残念なような。
「目ぇ覚ましたかと思ったら、早速イチャつき始めやがって」
横からディックがやってきた。
「い、イチャ……」
マリンが恥ずかしそうに頬を染める。
俺も同じ様に顔が熱くなるのを感じた。
「アイリスが『回復魔法』である程度は治癒したとはいえ、生きてるのが不思議なくらいダメージ受けてたんだ。お楽しみはもうちっと後にしてしばらく休んどけ」
「お、お楽しみってお前はすぐそういう……まあいいや。それよりも俺、空で気絶して真っ逆さまに落ちたんだよな。よく死ななかったもんだ」
「あ、それはディックさんが空から落ちてくるショウマ様を受け止めてくれたからですよ」
「え、そうだったのか」
「結果的にな。一番最初に飛び出したのはマリンだ。ったく力が無いクセに危ねーマネしやがる」
「う……すみません」
マリンが申し訳なさそうな表情をして俯いてしまう。
俺も一言言いたいところだけど……。
「ディックのやつの言うことなんて気にすんな。今はまた会えたことを一緒に喜ぼう」
俺は彼女の笑顔を消したくなくて、そんなちょっとクサイ台詞を言った。
するとマリンは顔を上げて「はい!」と元気よく返事をして笑ってくれた。
「ディック! 能力で確認しマーシタが、ルーノールの反応は動かないままです! ホントのホントに倒しちゃったみたいデース!!」
アイリスが興奮気味に語る。
「だとさ。やれやれマジにあのルーノールを倒しちまうとは。お前はどこまでも底無しだな。とにかく、これで戦いは終わりだ。俺たちの勝利でな!」
俺たちの勝ち……やっと終わったんだな……やっと元に戻るんだ……マリンとミカとまた一緒に過ごして……たまにオルガがやって来て……そんな暮らしがまたできるんだ…………。
とんでもなく懐かしい平穏。
もう忘れかけてしまいそうな感覚だったけど、ようやくまた思い出せそうだ。
「ショウマ様」
「ん?」
「助けに来てくれて、本当に、ありがとうございます」
……礼を言いたいのは俺の方なんだけどな。
何度も負けると思った。でも、その度に君の声が闇に溶けかけた俺を引っ張りあげてくれた。
俺は真っ赤な世界を思い出す。
あれが何なのか、マリンは知っているのかもしれない。
けど、今はいい。
この穏やかなひと時を、ゆっくりと味わおう。
俺はそう思った。
キ ミ の い か り は そ の て い ど な の ?
「――!!!!」
心にドス黒いモノが注がれた。
ドクンッと心臓がいきなり飛び跳ね、冷めかけていた血がまた熱くなっていく。
……何で、だ! もう終わっただろ! 俺たちの勝ちで! なのに!
「ぐ……」
「どうしました?」
苦しそうに胸を押さえる俺を見て、マリンが不安そうにする。
どうにかしてこの熱から逃れようと、もがいて体を横に向けた時あの女の顔が見えてしまった。
この戦いの元凶。カトレア女王。
俺は、両手足をガクガクと震わせながらボロボロな身体を強引に立たせた。
「ショウマ様?! まだ立つのは無茶ですよ!」
マリンの制止を無視し、俺は足を引きずって前に進む。
「カトレアさん、これでアナタは私に逆らえなくなりました」
「くっ、忌々しい『絶対服従』とやらか」
「安心して下さい。決して苦しめるような行いは致しませんし、アナタの代わりに魔人から人類を守って――」
フィオレンツァの目が俺と合う。
『止まりなさい』
『読心』で思考を読まれたんだろう。すぐに俺のやろうとしてる行いを防ごうとしてきた。
だが、俺は止まらない。
それを受けてフィオレンツァはあり得ないものを見たような顔をした。
「――『絶対服従』が、通じていない? これまでも刀柊さんやモンデラさん、『絶対服従』の下でも動ける実例はありましたが、これはその比じゃない……完全に私の命令を無効化して……っ! まさか、cheatで刻み込んだ能力が変化しているのですか?!」
「渡辺!!」
騒ぎに気づいたディックが前に駆け込んできて俺の両肩を掴んだ。
「お前……カトレアを殺そうとしてやがるのか」
その問いかけに、刺すような目つきで「そうだ」と答える。
カトレアはかつて自分を虐めていた連中と同じだ。何の罪も無い人たちを安全圏から甚振って悦に浸ってやがるんだ。こんな人間、死んでもらうしかないじゃないか。
「バカ! これ以上の殺しは無意味だ! もう勝負はついてんだよ!」
「勝ち負けの問題じゃない。あの女には責任を――筋を通してもらう」
「だからって、殺す必要はねーだろ!」
「ある。アイツが一体どれだけの人々を苦しめてきたと思ってる? アリーナで人同士を戦わせて。能力のために人に性行為を強いて。兵器として利用するために人の一生を牢獄に閉じ込めてきたんだ。生きる資格なんて無い」
「オメェの気持ちもわかるが冷静になれ! ここでカトレアを殺せば、余計な反感を国民から買っち――」
「どけ!!」
「うっ!」
俺はディックを突き飛ばした。
「こ、こいつ! 死にかけの体でなんて力出しやがる! エマ! アイリス! 渡辺をカトレアに近づけさせるな!!」
「は、はいデース!」
「ああもう、急にどうしたってんのさコイツは!」
エマとアイリスが同時に飛び掛ってくるが、
「「 うわっ! 」」
二人とも手首を掴んで投げ飛ばす。
そして、フィオレンツァの横にいるカトレアに殺意を向けた。
「……殺したければ殺すがいい。覚悟など、とうの昔にできている」
「よく言った」
拳を殺意で堅め、一歩前に踏み込もうとする。
そこへまた誰かが割って入ってきた。またかと、そいつを突き飛ばそうとした。
「俺の、邪魔をするな!!」
その人物はマリンだった。
「――っ!」
俺はハッとなって立ち止まった。
マリンは俺から放たれた殺意に驚いて、身を竦ませていて……それから、あの目を向けていた。
「あ……あ……」
初めて好意を抱いた女の子から、あの目を向けられた俺は息ができなくなって後ずさりする。
あの頃に向けられた眼差しと同じだ。
クソな連中を物理的に黙らせた後、みんながその目で俺を見ていた。
普通じゃない。
マリンはそれと同じ目をしていた。
どうしてマリンまで、そんな目をするんだ……俺が……間違ってるって言うのか……。
「わりぃが寝てもらうぞ!!」
背後からディックの声が聞こえた後、頭に強い衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。
*
「う……ぅ……」
再び目を覚ますと、オレンジ色の空が見えた。
夕焼けだ。
……ディックに殴られた箇所が痛む……さっきのは夢じゃない……。
「あ……ショウマ様。目が覚めましたか?」
横から心配そうに彼女が顔を出す。
その距離はさっきの時よりも近くて、後頭部に柔らかな感触を感じる。
俺はマリンに膝枕されていた。
……初めてマリンに会った時もこんな風だったな。
あの時はすごく驚いて……それでドキドキして……ドキドキし過ぎてわけわかなくなってたっけ……なのに今は……ただ苦しい…………彼女の顔を見るのが辛い……。
俺は逃げるように、マリンから身体を起こした。
「しょ、ショウマ様。まだ起きるのは――」
「アイツらは?」
無意識にそっけなく、突き放すような態度で言ってしまう。
辺りにディックやカトレアたちの姿はない。場所もアルーラ城じゃないフィラディルフィアの街のどこかの公園で、俺はベンチに座っていた。
周りにはジェヌインのメンバーたちの姿がちらほら確認できる。
「あ……その、皆さんは革命が終わった事を国民に声明する準備をするそうです。それでディックさんがまた暴れたりされたら困るからと、エマさんにショウマ様を仲間がいる北区にまで運ぶように言われてここに」
「……そっか…………ごめん……面倒かけちゃったな……」
彼女の方を見ないまま謝る。
「いえ、ショウマ様のためなら……」
ズキリと胸が痛む。
縋りたくなるような優しい言葉。
けど、その言葉もあの眼差しで塗りつぶされてしまう。
「この人殺し!!」
突然、子どもの声が響いてきて、そっちに顔を向けた。
見れば7、8歳くらいの少年が革命軍の一人に石を投げていた。
石を投げつけられた人物はどうにか少年を宥めようとするが、効果は無く少年はさらに石を投げる。
「こ、コラ! やめさない!」
少年の母親らしき人物が止めに入るが、少年はその母親の腕の中でなおも暴れ続けた。
「何で父さんを殺したんだ! 僕たちが何をしたっていうんだよ!! 父さんは悪い事してないのに、何で!! 父さんを返してよお!!」
嗚咽混じりに、少年が叫ぶ。
俺は、泣きじゃくる少年の姿を目の当たりにして呆然とした。
どこかで見たような姿だった。その叫びをよく知っていた。
”どうして自分がこんな目に合わなければいけないのか。自分が何か悪い事をしたというのか”。
……俺だ。
過去の辛い時期に、何度も心の中で叫んでいた言葉だ。
その言葉が今、俺に向けられている。
「あ……ああ……」
気づいてしまう。
自分が今日、何をしてきたのか。
自分を正当化して、知らないフリをして、見ないようにして、罪の無い人たちを傷つけた。
「……同じじゃないか……」
俺はこの世で最も嫌悪する人間たちと、同じ行いをした。
目から一筋の涙が零れていくのを感じる。
その涙を拭って、山の影に沈もうとしている夕日を眺めた。
……遠い。
本当に遠い場所に来てしまった。
もう俺は、あの日々には帰れないんだな。
「……なぁ、母さん……今日……たくさん人を殺したよ……」
何だろう……声が……聞こえる。
「ショウマ様!!」
高く澄んだ声の必死の呼びかけに、閉じていた目を開ける。
すると、愛しい人が目に涙を溜めながら俺の顔を覗き込んでいた。
周りに視線を泳がせてみればそこは謁見の間で、俺は床で横になっている状態だった。
どんな経緯でこうなったのかわからなかったが、どうでも良かった。
「……マリン。やっと会えたな」
「っ!」
俺が微笑んで言うと彼女は涙を流しながら、ぱぁっと嬉しそうに笑った。
うん、この顔だ。この顔が見たくて、俺はここまで来たんだ。
「良かったっ!」
カバっと覆い被さるように、マリンが俺に抱き着いてきた。
「ま、マリン?! って、イタタタ!!」
久しぶりに彼女の温もりを感じ嬉しくなるが、同時にアチコチの傷に響いてメチャクチャ痛い。
「あ、ご、ごめんなさい!」
マリンは慌てて離れる。
ホッしたような、残念なような。
「目ぇ覚ましたかと思ったら、早速イチャつき始めやがって」
横からディックがやってきた。
「い、イチャ……」
マリンが恥ずかしそうに頬を染める。
俺も同じ様に顔が熱くなるのを感じた。
「アイリスが『回復魔法』である程度は治癒したとはいえ、生きてるのが不思議なくらいダメージ受けてたんだ。お楽しみはもうちっと後にしてしばらく休んどけ」
「お、お楽しみってお前はすぐそういう……まあいいや。それよりも俺、空で気絶して真っ逆さまに落ちたんだよな。よく死ななかったもんだ」
「あ、それはディックさんが空から落ちてくるショウマ様を受け止めてくれたからですよ」
「え、そうだったのか」
「結果的にな。一番最初に飛び出したのはマリンだ。ったく力が無いクセに危ねーマネしやがる」
「う……すみません」
マリンが申し訳なさそうな表情をして俯いてしまう。
俺も一言言いたいところだけど……。
「ディックのやつの言うことなんて気にすんな。今はまた会えたことを一緒に喜ぼう」
俺は彼女の笑顔を消したくなくて、そんなちょっとクサイ台詞を言った。
するとマリンは顔を上げて「はい!」と元気よく返事をして笑ってくれた。
「ディック! 能力で確認しマーシタが、ルーノールの反応は動かないままです! ホントのホントに倒しちゃったみたいデース!!」
アイリスが興奮気味に語る。
「だとさ。やれやれマジにあのルーノールを倒しちまうとは。お前はどこまでも底無しだな。とにかく、これで戦いは終わりだ。俺たちの勝利でな!」
俺たちの勝ち……やっと終わったんだな……やっと元に戻るんだ……マリンとミカとまた一緒に過ごして……たまにオルガがやって来て……そんな暮らしがまたできるんだ…………。
とんでもなく懐かしい平穏。
もう忘れかけてしまいそうな感覚だったけど、ようやくまた思い出せそうだ。
「ショウマ様」
「ん?」
「助けに来てくれて、本当に、ありがとうございます」
……礼を言いたいのは俺の方なんだけどな。
何度も負けると思った。でも、その度に君の声が闇に溶けかけた俺を引っ張りあげてくれた。
俺は真っ赤な世界を思い出す。
あれが何なのか、マリンは知っているのかもしれない。
けど、今はいい。
この穏やかなひと時を、ゆっくりと味わおう。
俺はそう思った。
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「――!!!!」
心にドス黒いモノが注がれた。
ドクンッと心臓がいきなり飛び跳ね、冷めかけていた血がまた熱くなっていく。
……何で、だ! もう終わっただろ! 俺たちの勝ちで! なのに!
「ぐ……」
「どうしました?」
苦しそうに胸を押さえる俺を見て、マリンが不安そうにする。
どうにかしてこの熱から逃れようと、もがいて体を横に向けた時あの女の顔が見えてしまった。
この戦いの元凶。カトレア女王。
俺は、両手足をガクガクと震わせながらボロボロな身体を強引に立たせた。
「ショウマ様?! まだ立つのは無茶ですよ!」
マリンの制止を無視し、俺は足を引きずって前に進む。
「カトレアさん、これでアナタは私に逆らえなくなりました」
「くっ、忌々しい『絶対服従』とやらか」
「安心して下さい。決して苦しめるような行いは致しませんし、アナタの代わりに魔人から人類を守って――」
フィオレンツァの目が俺と合う。
『止まりなさい』
『読心』で思考を読まれたんだろう。すぐに俺のやろうとしてる行いを防ごうとしてきた。
だが、俺は止まらない。
それを受けてフィオレンツァはあり得ないものを見たような顔をした。
「――『絶対服従』が、通じていない? これまでも刀柊さんやモンデラさん、『絶対服従』の下でも動ける実例はありましたが、これはその比じゃない……完全に私の命令を無効化して……っ! まさか、cheatで刻み込んだ能力が変化しているのですか?!」
「渡辺!!」
騒ぎに気づいたディックが前に駆け込んできて俺の両肩を掴んだ。
「お前……カトレアを殺そうとしてやがるのか」
その問いかけに、刺すような目つきで「そうだ」と答える。
カトレアはかつて自分を虐めていた連中と同じだ。何の罪も無い人たちを安全圏から甚振って悦に浸ってやがるんだ。こんな人間、死んでもらうしかないじゃないか。
「バカ! これ以上の殺しは無意味だ! もう勝負はついてんだよ!」
「勝ち負けの問題じゃない。あの女には責任を――筋を通してもらう」
「だからって、殺す必要はねーだろ!」
「ある。アイツが一体どれだけの人々を苦しめてきたと思ってる? アリーナで人同士を戦わせて。能力のために人に性行為を強いて。兵器として利用するために人の一生を牢獄に閉じ込めてきたんだ。生きる資格なんて無い」
「オメェの気持ちもわかるが冷静になれ! ここでカトレアを殺せば、余計な反感を国民から買っち――」
「どけ!!」
「うっ!」
俺はディックを突き飛ばした。
「こ、こいつ! 死にかけの体でなんて力出しやがる! エマ! アイリス! 渡辺をカトレアに近づけさせるな!!」
「は、はいデース!」
「ああもう、急にどうしたってんのさコイツは!」
エマとアイリスが同時に飛び掛ってくるが、
「「 うわっ! 」」
二人とも手首を掴んで投げ飛ばす。
そして、フィオレンツァの横にいるカトレアに殺意を向けた。
「……殺したければ殺すがいい。覚悟など、とうの昔にできている」
「よく言った」
拳を殺意で堅め、一歩前に踏み込もうとする。
そこへまた誰かが割って入ってきた。またかと、そいつを突き飛ばそうとした。
「俺の、邪魔をするな!!」
その人物はマリンだった。
「――っ!」
俺はハッとなって立ち止まった。
マリンは俺から放たれた殺意に驚いて、身を竦ませていて……それから、あの目を向けていた。
「あ……あ……」
初めて好意を抱いた女の子から、あの目を向けられた俺は息ができなくなって後ずさりする。
あの頃に向けられた眼差しと同じだ。
クソな連中を物理的に黙らせた後、みんながその目で俺を見ていた。
普通じゃない。
マリンはそれと同じ目をしていた。
どうしてマリンまで、そんな目をするんだ……俺が……間違ってるって言うのか……。
「わりぃが寝てもらうぞ!!」
背後からディックの声が聞こえた後、頭に強い衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。
*
「う……ぅ……」
再び目を覚ますと、オレンジ色の空が見えた。
夕焼けだ。
……ディックに殴られた箇所が痛む……さっきのは夢じゃない……。
「あ……ショウマ様。目が覚めましたか?」
横から心配そうに彼女が顔を出す。
その距離はさっきの時よりも近くて、後頭部に柔らかな感触を感じる。
俺はマリンに膝枕されていた。
……初めてマリンに会った時もこんな風だったな。
あの時はすごく驚いて……それでドキドキして……ドキドキし過ぎてわけわかなくなってたっけ……なのに今は……ただ苦しい…………彼女の顔を見るのが辛い……。
俺は逃げるように、マリンから身体を起こした。
「しょ、ショウマ様。まだ起きるのは――」
「アイツらは?」
無意識にそっけなく、突き放すような態度で言ってしまう。
辺りにディックやカトレアたちの姿はない。場所もアルーラ城じゃないフィラディルフィアの街のどこかの公園で、俺はベンチに座っていた。
周りにはジェヌインのメンバーたちの姿がちらほら確認できる。
「あ……その、皆さんは革命が終わった事を国民に声明する準備をするそうです。それでディックさんがまた暴れたりされたら困るからと、エマさんにショウマ様を仲間がいる北区にまで運ぶように言われてここに」
「……そっか…………ごめん……面倒かけちゃったな……」
彼女の方を見ないまま謝る。
「いえ、ショウマ様のためなら……」
ズキリと胸が痛む。
縋りたくなるような優しい言葉。
けど、その言葉もあの眼差しで塗りつぶされてしまう。
「この人殺し!!」
突然、子どもの声が響いてきて、そっちに顔を向けた。
見れば7、8歳くらいの少年が革命軍の一人に石を投げていた。
石を投げつけられた人物はどうにか少年を宥めようとするが、効果は無く少年はさらに石を投げる。
「こ、コラ! やめさない!」
少年の母親らしき人物が止めに入るが、少年はその母親の腕の中でなおも暴れ続けた。
「何で父さんを殺したんだ! 僕たちが何をしたっていうんだよ!! 父さんは悪い事してないのに、何で!! 父さんを返してよお!!」
嗚咽混じりに、少年が叫ぶ。
俺は、泣きじゃくる少年の姿を目の当たりにして呆然とした。
どこかで見たような姿だった。その叫びをよく知っていた。
”どうして自分がこんな目に合わなければいけないのか。自分が何か悪い事をしたというのか”。
……俺だ。
過去の辛い時期に、何度も心の中で叫んでいた言葉だ。
その言葉が今、俺に向けられている。
「あ……ああ……」
気づいてしまう。
自分が今日、何をしてきたのか。
自分を正当化して、知らないフリをして、見ないようにして、罪の無い人たちを傷つけた。
「……同じじゃないか……」
俺はこの世で最も嫌悪する人間たちと、同じ行いをした。
目から一筋の涙が零れていくのを感じる。
その涙を拭って、山の影に沈もうとしている夕日を眺めた。
……遠い。
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