陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。

沢田美

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陰キャ、青春に巻き込まれる ーボッチ志願者、高校初日で人生設計が崩壊するー

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 は、離せぇっ! 俺をここから早く解放しろぉぉぉ!

 心の中で叫ぶ俺をよそに、不知火は容赦なく体育館へと連行していく。
 廊下を進みながら、俺は彼女に話しかけた。

「不知火さんって、瀬良さんと仲良いんですね」

「まぁね。中学からの付き合いだから。最初はお互いライバル視してて、色々あったけど――今は親友だよ、私たち」

「へぇ……そうなんですね。ところで、俺もう帰っていいですか?」

「何言ってんの。君は今からバスケ部の見学に行くの。逃げたら――“私の胸揉んで逃げた”って言いふらすよ?」

「ヒエッ」

 この人、脅しのセンスが体育教師レベルに高い。
 怯えながらも、俺は隣を歩く彼女に視線を向ける。
 颯爽とした歩き姿。堂々とした背中。まさに“スポーツ少女”。

「何見てんの? 惚れた?」

「は? いや、そんなわけ……絶対ないですから!」

「気持ち悪いね」

「それ、普通に傷つくからやめて!」

 俺が抗議すると、不知火はくすくす笑った。
 そして、ふと真剣な表情に変わる。

「……でも、私は思うんだよね。高一くん、多分由良の部に入ると思うな」

「は? なんでいきなり……」

「由良、見た目はあんな感じだけど、実はけっこう寂しがり屋なんだよ。中学の頃もいつも一人で何か書いててさ。だから――君みたいな子が来てくれたら、きっと喜ぶ」

 少し寂しげに微笑む不知火。
 その言葉に、俺は小さく息を呑んだ。

「……そうですか」

「うん。君なら由良の“魔性”にも呑まれなさそうだし。なんていうか、赤点取らなそう!」

「それ説得になってないですよ。俺けっこう性格悪いんで」

 軽口を返すと、不知火は「へぇ~?」と体を屈めて俺の顔を覗き込む。
 距離が近い。近すぎる。
 この人、パーソナルスペースという単語を知らないのか?

 そんな掛け合いをしているうちに、俺たちは体育館に着いた。


 ※

「おーい、みんなー! 新入生の見学連れてきたよー!」

 不知火はジャージの前を開け、体育館の扉を勢いよく開く。
 途端に、練習していた男子部員の視線が一斉に集まった。

「わぁっ、不知火先輩だ!」
「可愛い! マジ天使!」
「不知火ちゃん、今日一緒に帰ろう!」

 ――まさに生徒のアイドル。
 俺は呆れ半分、感心半分で眺める。

 不知火はジャージを俺に放り、ボールを手に取る。
 流れるようなモーションで放たれたシュートは、美しい弧を描いてネットを通過。爽快な音が響いた。

「ほら、高一くんも!」

「えっ、俺!?」

 投げられたボールをなんとか受け止める。
 やれるのか? いや、なんで俺がやる流れだ?

 体育館中の視線が刺さり、鼓動が跳ねる。
 観念して一歩踏み出した。

「……行くか!」

 ドリブル、ステップ、跳躍、リリース――。
 放ったボールは放物線を描き、シュパッ、とネットを抜けた。

「おぉっ!」

 歓声。
 不知火が笑顔でハイタッチを求め、パシッと手を合わせる。

「やるじゃん! 高一くん!」

「……奇跡だ……」

 笑われると思っていた。
 返ってきたのは拍手と笑顔。

 ――俺のぼっち生活、どうなるんだよ!

 内心で悲鳴を上げつつ、ふと窓の外を見る。
 文芸部の部室棟から、瀬良がこちらを見ていた。
 目が合う――すぐに姿が消える。
 表情までは、見えなかった。


 ※

 約一時間後。
 見学を終えた俺に、不知火が声をかける。

「いや~、お疲れ様! 高一くん!」

 額の汗を拭いながら駆け寄る不知火。
 濡れた髪が頬に貼りつき、少し息が上がった色っぽさがある。

「“水も滴るいい女”ってやつ?」

「何言ってるんですか」

 冷静にツッコむ俺。
 その視線の先――体育館の扉の外に瀬良。
 少し不安げな表情で、俺を見つめていた。

「どうだった? 高一くん」

 瀬良の声はかすかに震えていた。
 俺は考える。入るべきは、バスケ部か文芸部か。

 バスケ部は楽しかった。歓迎もされた。不知火もいる。
 思ったより自分も動けた。
 けれど――。

 悩む俺の肩に、不知火の腕が回される。
 汗とシャンプーが混じった匂いが、ふわりと鼻をくすぐった。
 そのまま静かに、瀬良へと視線を向ける。

 瀬良の瞳はまっすぐで、どこか儚い。
 期待と不安が、同じ色で揺れていた。

「――文芸部で!」

「――本当!?」
「――えっ!?」

 三人の声が重なる。
瀬良の顔がぱっと明るくなる。不知火は一瞬驚いて、穏やかに微笑んだ。

「瀬良さん――いや、瀬良先輩! よろしくお願いしまーす!」

「うん! こちらこそ、よろしくね!」

 瀬良の笑顔は太陽みたいに眩しい。
 思わず、少しだけ照れくさくなる。

「ありがとう、高一くん。本当に……ありがとう」

「い、いえ、そんな……」

「やったじゃん、由良」

 不知火が瀬良の肩を軽く叩く。
 瀬良は嬉しそうに頷いた。

「うん! これで文芸部も続けられる!」

「良かったね。じゃあ、高一くん――由良のこと、よろしくね」

「え、あ、はい……」

 こうして、俺が三年間掲げていた“ぼっち生活”という目標は、
 入学初日であっさり崩壊した。

 ――いや、別にぼっちが嫌だったわけじゃない!
 ただ、瀬良先輩が可哀想だったから入っただけで!
 ……そう、それだけだ!

 心の中で必死に言い訳しながら、二人の美少女に挟まれて校門へ向かう。
 夕陽が三人の影を長く伸ばしていた。

 これから始まる高校生活は、俺が想像していた“静かな日々”とは――
 まるで違うものになりそうだ。

 ――でも、不思議と。悪くない、と思えた。
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