陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。

沢田美

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陰キャ、誘惑と挑戦を受ける ー先輩からの突然の壁ドンー

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「お、おい、あれ見ろよ」
「あぁん?」

 震える指の先にいるのは――学校の女王、不知火と瀬良。そのど真ん中に俺。
 彼女たちへは憧れの眼差し、俺へは憎悪のレーザービーム。やめてほしい、物理的に痛い。

「マジかよ……あいつ誰だよ」
「新入生のくせに……」
「羨ましすぎる……というか殺意湧くわ」

「な、なんか今すぐ暴動起きそうなんですけど……も、もう離れていいですか?」

「ダメ」

「嫌よ」

 ――拝啓、過去の俺へ。
 孤独を愛したぼっちの君は、高校で“悪魔がかった可愛い二人”に好かれる未来に耐えられますか。助けて過去の俺!!

 そんなことを考えているうちに、三人で昇降口へ。
 ようやく解放された俺は、そそくさと履き替え、負の視線をかいくぐって教室へダッシュ。

「せ、セーフ!」

 ガラッと扉を開け、俺の奥義“完全ステルス”を発動。気配を消して席にスッ……。
 ――が、あの二人の近くではバグる。青春ラブコメの神、仕様書出して来い。

 教科書を出したあたりで、限界が来た。徹夜明けの眠気が脳を制圧、机に沈む。

「高一くん、高一くん!」

 浅葱の声でハッと顔を上げると、クラスは朝の号令で全員起立。座ってるの俺だけ。
 立ち上がると、あっけらかんと笑いが起きた。

「あはは、また寝てた」「高一くん、面白いね」

 クソ……最近ツイてないにもほどがある。
 教壇の四宮先生は困った笑顔で「ちゃんと寝てね?」。すみません。

 ※

 昼休み。俺は“いつもの”空き教室でぼっち飯――のつもりが、隣には当然のように浅葱。

「ねぇ高一くん、今日の朝、あの二人の先輩と一緒に登校してたよね?」

「は? なんで知ってる」

「みんな見てたし、みんな噂してたよ?」

 第三者視点で語られる地獄の通学。俺は青ざめる。

「俺、今日中に始末されるかもしれない……」

「そんな大袈裟」

 くすくす笑うな。
 それにしても――。

「てか浅葱、なんで当然のように俺の隣?」

「だって高一くんと一緒にいたいから」

「昨日のアレ、本気?」

「さあ、どうかな?」

 意味深スマイルはやめてくれ。無言で食べ続けるしかない俺。
 そこへ――

「やほ! 二人とも!」

「不知火先輩!」

 浅葱の声が一段高くなる。俺は“ウゲッ”の顔。
 不知火先輩は椅子を引いて、俺の隣に当然のようにすとん。距離、近。

「昨日、ここにいたでしょ? 来てみた」

「先輩なら人が自然に集まるのに……どうやってここを――まさか」

「……君みたいな勘のいい後輩は嫌いだよ」

 はい、つまり先輩も一人で食べる場所を探していた、と。了解。

「私の弁当、食べたらダメだよー? 高一くん」

「自分のあるんで」

「じゃあ私が高一くんの食べよっかな!」

 浅葱の視線が俺の弁当にロックオン。頼む、この昼が穏便に終わりますように。

「あ、唐揚げだ! 一個ちょうだい!」
 
「ダメ」
 
「えー、ケチ」

 その頬の膨らませ方が可愛いの、反則。
 不知火先輩は俺の目の下を見て、少し眉を寄せる。

「昨日、小説書いてて寝てないでしょ? 無理しないでね」

「ありがとうございます」

 優しさが刺さる。
 浅葱が身を乗り出す。

「小説? どんな話、書いてるの?」

「バトル物。まだ骨組みだけど」

「面白そう! 完成したら読ませてね!」

「え、あ、はい……」

 三人で取り留めもなく喋っていると、空き教室が妙に居心地よく感じる。
 ――ぼっち飯じゃない昼も、悪くない。

「やっぱ唐揚げ一個――」
 
「ダメ」
 
「えー!」

 浅葱の抗議が反響して、昼は終了。

 ※

 昼を終え、俺は文芸部の部室へ。静かな前室で深呼吸。ノック。「どうぞ」。

 白い髪が窓光で輝く。瀬良先輩はキーボードの手を止め、切れ長の瞳でこっちを向いた。

「それで? 書けたのよね」

「はい……一応」

「見せて。貴方が一晩かけた“アイデア”」

「ハードル上げないでください……」

 ノートを手渡す。ページをめくる音だけが部屋に落ちる。
 沈黙が長い。長すぎる。胃がきりきり――。

 ぱたん。視線が刺さる。

「……一言で言うなら――ダメダメ。昨日、官能小説をバカにしてたけど、私以下。却下の却下。やり直し」

「それ、一言って言わないですよね? じゃあ俺も“一言”で先輩に悪口――」

 俺のムッとした顔に、先輩はぷっと笑う。

「冗談。……でも、もっと“貴方の味”がほしい」

「味? 『たけのこ派』か『きのこ派』かって聞かれたら俺は――」

「そういう味じゃないのだけれど。ちなみに私は“きのこ派”」

 先輩はすっと俺の隣へ。距離、近。いい匂いするのやめて。

「高一くんなら、もっと“らしい物語”が書ける」

「俺らしいって……は!」

「何かひらめいた?」

「瀬良先輩と俺の官能小――」

「高一くん」

 声色が一段、低い。

「は、はい!」

「それ以上言ったら、拳、入れるわ。こう見えて空手、やってたの」

 すみませんでした。
 先輩は小さくため息をつき、すっと立ち上がる。

「分かった。やる気、出させてあげる」

「やる気、って……“殺る気”じゃないですよね? 先輩?」

 じり……じり……。無言で詰められ、俺は壁際へ。
 次の瞬間――

 ドンッ。

 顔が近い。近すぎる。心臓が爆音。

「今週中に、私を“あっ”と言わせるアイデアを持ってきたら――私が今書いてる官能小説の“シチュエーション”と同じこと、してあげる」

「――それ、マジですか」

 この瞬間だけ、俺の死んだ魚の目が蘇生した。
 先輩は悪魔じみた微笑み。

「ええ、本当。やる気、出た?」

「出ました! 超出ました! やります! やらせていただきます! 瀬良先輩――いえ、瀬良様!」

 勢いで先輩の手を取る。

「今週中に必ず驚かせます!」

「ふふ、楽しみにしてる」

「はい! 絶対に!」

 ノートを握りしめ、部室を飛び出す。
 夕焼けの廊下で、脳内でプランが爆速回転。

 “瀬良先輩をあっと言わせるアイデア”
 “官能小説のシチュ同等のなにか”――って俺、今どこへ向かってる?

 頬が熱い。心臓もうるさい。
 でも、やってやる。絶対に。

 ぼっち生活は終わった。代わりに、目標ができた。
 ――悪くない。悪くない高校生活だ。

 俺はニヤけそうになる口元をなんとか抑えつつ、夕陽の廊下を歩いた。
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