陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。

沢田美

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陰キャ、無自覚な恋模様 ー鈍感主人てマジですか?ー

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 不知火先輩に連れられてやってきたのは、駅前の小洒落たカフェだった。
 
 ガラス張りの外観に、木目調のインテリア。BGMには穏やかなジャズが流れている。
 
 ……なんだここ、完全にリア充の巣窟じゃないか。

「ここ、私のお気に入りなの」

 不知火先輩が嬉しそうに言う。
 
 俺は周りを見回した。カップルや女子グループばかり。完全にアウェイだ。

「あの、俺みたいな陰キャが来ていい場所じゃないような……」

「大丈夫だよ。私が一緒だから」

 不知火先輩はそう言って、俺の手を引いて店内に入った。
 
 その手の感触が柔らかくて、思わず心臓が跳ねた。

「いらっしゃいませ~」

 店員の明るい声に迎えられ、俺たちは窓際の席に案内された。

「ここ、景色がいいんだよ」

 不知火先輩が窓の外を指差す。
 
 確かに、駅前の賑わいが見渡せて、夕暮れの空が綺麗だった。

「……まあ、悪くないですね」

「でしょ?」

 不知火先輩は満足そうに微笑んだ。
 
 メニューを開くと、どれもこれも俺の財布に優しくない値段だった。

「あの、先輩……俺、お金そんなに……」

「安心して。私も出すから」

「え、でも俺が奢るって――」

「半分こでいいよ。デートだと思えば安いもんでしょ?」

「デ、デート!?」

 俺は思わず大声を出してしまった。
 
 周りの客がこちらを見る。恥ずかしい。

「冗談だよ、冗談」

 不知火先輩はクスクスと笑った。

「でも、半分は冗談じゃないかもね」

「どっちですか!」

 俺のツッコミに、不知火先輩はただ笑っているだけだった。

 ※ ※ ※

 注文を済ませ、飲み物が運ばれてくるまでの間。
 
 不知火先輩は真剣な顔で俺を見つめていた。

「それで……昨日のこと、ちゃんと聞かせてよ」

「あ、あれは……」

「由良がバニーガール着てて、高一くんが机に押し倒されてたよね」

「う……」

 言い逃れできない。完全に見られていた。

「あれって、どういう流れだったの?」

「えっと……俺が小説のアイデアで瀬良先輩をあっと言わせたら、先輩が書いてる官能小説と同じシチュエーションをしてくれるっていう約束があって……」

「ふーん」

 不知火先輩は少し考え込む表情をした。

「それで、由良が官能小説にバニーガールを出してたから、ああなったってこと?」

「そ、そうです……」

「へぇ……由良、そういうの書いてたんだ」

 不知火先輩は少し驚いたような、でもどこか嬉しそうな顔をした。

「前にも言ったけど。由良ってさ、私には作品あんまり見せてくれないんだよね」

「え、そうなんですか?」

「うん。恥ずかしいからって。でも、高一くんには見せてるんだね」

 不知火先輩は少し寂しそうに笑った。
 
 その表情に、俺は少しだけ胸が痛くなる。

「でも……嬉しいよ」

「え?」

「由良が、心を開ける相手が増えたってこと」

 不知火先輩は優しく微笑んだ。

「由良ね、昔からちょっと人見知りなの。だから友達も少なくて」

「瀬良先輩が……?」

 あの妖艶な雰囲気を纏った瀬良先輩が人見知り? 信じられない。

「意外でしょ? でも本当なの。あの雰囲気は、自分を守るための鎧みたいなものだから」

「そう……なんですか」

「うん。だから、高一くんが文芸部に入ってくれて、由良は本当に嬉しかったと思う」

 不知火先輩はそう言って、俺の目を見つめた。

「だから、これからも由良のこと、よろしくね」

「は、はい……」

 その時、店員が飲み物を運んできた。
 
 不知火先輩はアイスティー、俺はコーヒーを頼んでいた。

「それにしても――」

 不知火先輩がストローを咥えながら言う。

「高一くん、結構モテるよね」

「は? 何言ってるんですか?」

「だって、由良も浅葱ちゃんも、高一くんに好意持ってるでしょ」

「え、ちょ、それは……」

 俺は慌てて否定しようとしたが、不知火先輩は続ける。

「浅葱ちゃん、高一くんのこと見る目がキラキラしてるもん」

「そ、それは……友達として、ですよね?」

「どうかな?」

 不知火先輩は意味深に笑った。

「それに、由良も――私も」

「え? 冗談ですよね?」

「本当にそう思う?」

 不知火先輩の問いかけに、俺は言葉に詰まった。
 
 昨日のバニーガール事件。あの距離感。触れそうだった唇、不知火先輩との日々。

「……わかりません」

「正直だね」

 不知火先輩はクスクスと笑った。

「まぁ、焦らなくていいよ。高一くんはまだ高一だし」

「はい……」

「でも」

 不知火先輩は少し真剣な顔になった。

「もし、誰かの気持ちに気づいたら……ちゃんと向き合ってあげてね」

「向き合う……」

「うん。逃げないで、ちゃんと」

 その言葉に、何か重みを感じた。
 
 不知火先輩は、何か経験があるんだろうか。

「……はい、分かりました」

「よし! じゃあ、暗い話はおしまい!」

 不知火先輩は急に明るい顔に戻った。

「ねえ、高一くん。ケーキ食べない? ここのケーキ、めっちゃ美味しいんだよ」

「え、でもお金……」

「いいから! 私が出すから!」

「で、でも……」

「遠慮しないで。これは私の我儘だから」

 不知火先輩はそう言って、メニューを開いた。

「えーっと、チョコレートケーキとチーズケーキと……あ、これも美味しそう!」

 嬉しそうにメニューを見る不知火先輩。
 
 その姿が、なんだか子供みたいで可愛かった。

「……先輩」

「ん?」

「ありがとうございます」

「え? 何が?」

「色々と……気にかけてくれて」

 俺がそう言うと、不知火先輩は少し驚いた顔をした。
 
 そして――優しく微笑んだ。

「どういたしまして」

 ※ ※ ※

 カフェを出た頃には、すっかり日が暮れていた。
 
 街灯が灯り、駅前の喧騒が夜の雰囲気に包まれている。

「ごちそうさまでした」

「うん。楽しかった」

 不知火先輩は満足そうに笑った。

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

「はい」

 駅に向かって歩き始める。
 
 少し肌寒い風が吹いて、俺は思わず身震いした。

「寒い?」

「いえ、大丈夫です」

「無理しないでいいのに」

 不知火先輩はそう言って、少しだけ俺に近づいた。
 
 距離が近い。先輩の体温が伝わってくる。

「あの、先輩……」

「ん?」

「今日は……その、楽しかったです」

 素直な気持ちを口にすると、不知火先輩は嬉しそうに笑った。

「私も。また行こうね」

「はい」

 駅の改札前で、俺たちは別れた。

「じゃあ、また明日」

「はい、また明日」

 不知火先輩が改札を通っていく背中を見送る。
 
 そして、俺も自分の電車に乗り込んだ。

 ※ ※ ※

 帰りの電車の中。
 
 俺はスマホを取り出した。
 
 LINEの通知が来ている。

『LINE - 瀬良由良』

 瀬良先輩からだ。

『今日、優花と一緒だったんだって?』

 ……なんで知ってるんだ。

『はい、カフェに行ってました』

 すぐに返信が来た。

『ふーん。楽しかった?』

『まあ、そこそこ』

『そっか。良かったね』

 なんだか、文面から少しだけ不機嫌さが伝わってくる気がする。

『小説の続き、書いてる?』

『はい、少しずつですが』

『頑張ってね。期待してるから』

『ありがとうございます』

 メッセージのやり取りを終えて、俺はスマホをしまった。
 
 窓の外を見ると、夜景が流れていく。

 瀬良先輩、不知火先輩、浅葱。
 
 三人の顔が頭に浮かぶ。

「……俺、どうなってるんだ」

 そう呟いて、俺は深いため息をついた。
 
 ぼっち生活は完全に終わった。
 
 そして――俺の青春ラブコメは、まだまだ続きそうだ。

 電車が次の駅に到着する。
 
 俺はゆっくりと立ち上がり、降りる準備をした。

「……明日も、頑張るか」

 そう自分に言い聞かせて、俺は電車を降りた。
 
 これからどんな展開が待っているのか分からないけど――きっと、悪くない。
 
 そんな予感がしていた。
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