学校で成績優秀生の完璧超人の義妹が俺に隠れて、VTuberとしてネトゲ配信してたんだが

沢田美

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届けた先にあるもの

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 その言葉を口にした瞬間、
 胸の奥を締めつけていた何かが――ぷつりと、ほどけた気がした。

 コメント欄が一気に騒がしくなる。

 『え? え???』 
 『家族じゃなくてって……まさかのガチ??』 
 『展開が急すぎて心臓やばい』
  『お兄ちゃん反応しろ!!!』

 私は震える手でマイクを握りしめる。
 けれど、それ以上に震えていたのは、自分の心だった。
 部屋の隅。さっきまで気配を消していたお兄ちゃんが、ゆっくりと姿を現した。

「……お前、その……」

 気まずそうに、けれど誤魔化しのない目で、私を見る。
 私は笑うしかなかった。
 だって――こんな告白、普通に言えるわけない。でも、言わなきゃいけなかった。言わずにいたら、きっと後悔する。

「ごめんね、お兄ちゃん。こんな言い方しかできない私で。でも、ずっと言いたかったの」

 『お兄ちゃん出てきた!?』
  『状況やばすぎて草』 
 『これ既に家族会議案件』 
 『いやむしろ結婚会議だろ』

 配信のコメントが止まらない。
 けれど、もう何も気にならなかった。

 今、私の視界に映っているのは――
 お兄ちゃんだけだ。

「お前……なんで泣いてるんだよ」

 お兄ちゃんが、小さく呟く。
 その声は、怒ってもいない。呆れてもいない。
 ただ、本気で私を心配していた。

「泣くよ……だって、こわかったんだもん。嫌われるの。気持ち悪いって言われるの」

 涙が頬を伝う。
 でも、それでも目を逸らさなかった。
 これが私の本気の想いだから。

「……気持ち悪いわけ、ないだろ」

 お兄ちゃんが、そっと近づいてくる。
 心臓が跳ねる。
 そこにいたのは、
 ずっと大好きだった“優しいお兄ちゃん”そのものだった。

「だってお前……ずっと俺のこと避けてたじゃん。急に距離置かれて……俺、何したのかなって、ずっと悩んでた」

 お兄ちゃんの声も震えていた。

「なのに、お前はそんな理由だったのかよ……」

 私は顔を上げた。
 お兄ちゃんの優しい目が、真っ直ぐに私を捉えている。

「……お兄ちゃん」

「ここじゃ言えないこと、いっぱいあるだろ。配信切ったら……ちゃんと話そう。二人だけで」

 その一言で、胸の奥が温かくなる。

 『お兄ちゃん優しすぎるだろ』 
 『これもう付き合ってるやん』 
 『配信切った後の方が本番なんだよなぁ』 
 『尊死した、ありがとうさすまたさん』

 私は微笑んで、マイクに向き直る。

「みんな……ありがとう。今日は……ここまでにするね」

 静かに、配信終了ボタンを押す。
 モニターの光が消え、
 部屋の中に静寂が戻った。
 残されたのは、
 照明の暖かい光と――
 私を見つめるお兄ちゃんだけ。

「……涼香」

「……なに、お兄ちゃん」

 お兄ちゃんはゆっくりと私に近づき、そして――。

「ちゃんと話そう。全部聞かせてくれ」

 その言葉に、私は小さく頷いた。

 これが、
 “兄妹”という殻を破るための
 最初の夜になる。
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