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最悪は突然に
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俺はそのまま真っ白になった頭で、歩みをすすめた。俺の中で渦巻くのは困惑、動揺と殺意だけだった。付き合っていた彼女が浮気をしていた。しかも俺の知人と――俺が信頼していた先輩と。
俺はそのままフラフラとした足取りで、自分の教室に向かった。俺の目に映る全てがどうでも良くなるほどに俺は悲壮感に包まれていた。廊下を行き交う生徒たちの笑い声が、やけに遠くに聞こえる。俺は一体なにを求めていたんだ。何を得ようとしていたんだ。
「お! 隆太郎だ!」
朝日の声が聞こえた。俺はそのまま視線を向けた。そこには明るい笑顔で俺に手を振っている彼女がいた。
でも、今の俺にはその笑顔を見る余裕がなかった。
「隆太郎? どうしたの? 顔色悪いよ?」
朝日が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。その黒い瞳が、俺を真っ直ぐに見つめている。
「あ、ああ……ちょっと、な」
俺は言葉を濁した。言えるわけがない。白州に浮気されていたなんて。それも、桜井先輩と。朝日がせっかくサポートしてくれたのに、俺は結局こんな結果になってしまった。
「ねぇ、隆太郎。何かあったでしょ?」
朝日の声が、いつもより真剣だった。
「……見ちまったんだよ」
「何を?」
「白州が……桜井先輩と、キスしてるところを」
その言葉を口にした瞬間、朝日の表情が一瞬だけ強張った。
「……そっか」
朝日はそれだけ言うと、俺の手を掴んだ。
「ちょっと来て」
「え?」
「いいから!」
朝日に手を引かれて、俺は屋上へと連れて行かれた。初夏の風が、俺の頬を撫でる。
「隆太郎、聞いて」
朝日が俺の方を向いた。その表情は、いつもの明るい笑顔ではなく、どこか決意を秘めたような真剣な顔だった。
「白州ちゃんのこと、好きだった?」
「……ああ」
「今も?」
その質問に、俺は答えられなかった。好きだった。でも、今は――今は、何も分からない。
「隆太郎はさ、白州ちゃんに利用されてたんだよ」
「……え?」
「白州ちゃんはね、最初から桜井先輩のことが好きだったの。でも、桜井先輩は後輩には手を出さない主義だった。だから白州ちゃんは、隆太郎と付き合うことで桜井先輩に嫉妬させようとしてたんだよ」
朝日の言葉が、俺の胸に突き刺さる。
「なんで、お前がそんなこと知ってるんだよ……」
「私、白州ちゃんと同じバドミントン部のマネージャーしてるの、知ってたでしょ? 部活の時、白州ちゃんが友達に話してるの聞いちゃったんだよね」
朝日の言葉が、本当なら――俺は最初から、白州の駒に過ぎなかったということだ。
「だったら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ!」
俺は思わず、朝日に怒鳴っていた。
「ごめん……でも、証拠もないのに言っても、隆太郎は信じてくれなかったと思うし……それに、もしかしたら白州ちゃんが本当に隆太郎のこと好きになるかもって、少しだけ期待してたの」
朝日の目から、涙が一筋流れた。
「ごめんね……私のせいで、隆太郎が傷ついちゃった」
「いや……お前のせいじゃない」
俺は朝日の頭に手を置いた。朝日は俺を助けようとしてくれていたんだ。それなのに、俺は八つ当たりをしてしまった。
「隆太郎……」
朝日が顔を上げて、俺を見つめた。その黒い瞳が、夕日に照らされて輝いている。
「だったら――私と付き合わない?」
「え?」
突然の言葉に、俺は戸惑った。
「私ね、ずっと隆太郎のことが好きだったの。でも、隆太郎が白州ちゃんのこと好きだって知って……だから、せめて隆太郎の恋を応援しようって思ってた」
朝日の告白に、俺は言葉を失った。
「でも、もう我慢しなくていいよね? 白州ちゃんは隆太郎を裏切ったんだから」
朝日の手が、俺の手を強く握る。
「私、隆太郎を幸せにする自信あるよ。白州ちゃんなんかより、ずっとずっと隆太郎のこと大切にするから」
その言葉が、俺の心に染み込んでくる。朝日の真剣な眼差しが、俺を見つめている。
「……ありがとう、朝日」
俺は、朝日の手を握り返した。
「じゃあ、付き合ってくれるの?」
「ああ……お願いします」
朝日の顔がパッと明るくなった。いつもの明るい笑顔が戻ってくる。
「やった! じゃあ、明日デートしよ!」
「明日?」
「うん! 隆太郎、明日空いてるでしょ? 私、隆太郎を元気にしてあげるから!」
朝日の積極的な態度に、俺は少しだけ気持ちが軽くなった。そうだ、前を向かなきゃいけない。白州のことなんか、もう忘れよう。
※ ※ ※
次の日、俺は朝日と待ち合わせをしていた。駅前の広場で待っていると、朝日が走ってやってきた。
「隆太郎ー! 待ったー?」
朝日は今日も元気いっぱいだった。私服姿の朝日は、いつもより大人っぽく見える。
「いや、今来たところだよ」
「そっか! じゃあ、行こ!」
朝日が俺の手を掴んで、歩き出す。その手は温かくて、柔らかかった。
その日、俺たちは遊園地に行った。朝日は色々なアトラクションに俺を引っ張り回して、俺は久しぶりに心から笑った。絶叫マシンで叫んだり、お化け屋敷で朝日が俺にしがみついてきたり。
「ねぇ、隆太郎! あれ乗ろう! 観覧車!」
朝日が指差す先には、大きな観覧車があった。夕暮れ時の空を背景に、観覧車がゆっくりと回っている。
「ああ、いいな」
俺たちは観覧車に乗り込んだ。ゴンドラが上昇していくにつれて、街の景色が広がっていく。
「綺麗だね」
朝日が窓の外を見ながら言った。夕日に照らされた街並みが、オレンジ色に染まっている。
「ああ、本当にな」
「ねぇ、隆太郎」
朝日が俺の方を向いた。
「今日、楽しかった?」
「ああ、すごく楽しかったよ。ありがとう、朝日」
「良かった! 私ね、隆太郎が笑ってくれるのが一番嬉しいの」
朝日が俺の手を握った。
「隆太郎、あの二人を見返そうよ」
「見返す?」
「うん。私たちが幸せになることが、一番の復讐だよ。白州ちゃんも桜井先輩も、きっと後悔するよ。隆太郎を手放したこと」
朝日の言葉に、俺は頷いた。
「ああ、そうだな」
「だから、私と一緒に幸せになろう?」
「ああ」
観覧車が一番高いところに到着した時、朝日が俺に寄りかかってきた。
「隆太郎、大好き」
その言葉が、俺の心に温かく響いた。
※ ※ ※
デートが終わり、俺たちは駅で別れることになった。
「今日は本当に楽しかったよ、朝日」
「うん! また明日ね、隆太郎!」
朝日が手を振りながら、改札へと向かっていく。その後ろ姿を見送りながら、俺は思った。これから、朝日と一緒に新しい未来を築いていこう、と。
俺は駅を後にして、家路についた。
でも、その時の俺は知らなかった。朝日に、もう二度と会えなくなることを。
※ ※ ※
朝日は、改札を通ってホームへと向かった。電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。
(ああ、今日は本当に楽しかった)
朝日は今日のデートを思い出しながら、ホームで電車を待っていた。隆太郎の笑顔が脳裏に浮かぶ。
(隆太郎、本当に可愛いんだから)
朝日は思わず顔がにやけてしまう。黄色い線の内側で、電車の到着を待つ。
その時だった。
背後から、何か強い力で押される感覚があった。
「え――」
朝日の体が、ホームから線路へと落ちていく。時間がスローモーションのように感じられた。
(何が起きたの――)
朝日の視界に、迫りくる電車のライトが映る。
ガタンゴトンという音が、急速に大きくなる。
(隆太郎――)
最後に浮かんだのは、隆太郎の笑顔だった。
そして、朝日の意識は――闇に包まれた。
駅のホームに、悲鳴が響き渡った。
※ ※ ※
その日の夜、俺の携帯電話が鳴った。朝日の母親からだった。
電話口から聞こえてきたのは、信じられない言葉だった。
「朝日が――事故に遭って」
俺の手から、携帯電話が落ちた。
朝日が、死んだ。
駅のホームから転落して、電車に轢かれて――死んだ。
俺の頭が、真っ白になった。
さっきまで、あんなに笑っていたのに。
さっきまで、あんなに元気だったのに。
それなのに――もう、朝日はないのか。
俺は、その場に崩れ落ちた。涙が止まらなかった。
俺はそのままフラフラとした足取りで、自分の教室に向かった。俺の目に映る全てがどうでも良くなるほどに俺は悲壮感に包まれていた。廊下を行き交う生徒たちの笑い声が、やけに遠くに聞こえる。俺は一体なにを求めていたんだ。何を得ようとしていたんだ。
「お! 隆太郎だ!」
朝日の声が聞こえた。俺はそのまま視線を向けた。そこには明るい笑顔で俺に手を振っている彼女がいた。
でも、今の俺にはその笑顔を見る余裕がなかった。
「隆太郎? どうしたの? 顔色悪いよ?」
朝日が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。その黒い瞳が、俺を真っ直ぐに見つめている。
「あ、ああ……ちょっと、な」
俺は言葉を濁した。言えるわけがない。白州に浮気されていたなんて。それも、桜井先輩と。朝日がせっかくサポートしてくれたのに、俺は結局こんな結果になってしまった。
「ねぇ、隆太郎。何かあったでしょ?」
朝日の声が、いつもより真剣だった。
「……見ちまったんだよ」
「何を?」
「白州が……桜井先輩と、キスしてるところを」
その言葉を口にした瞬間、朝日の表情が一瞬だけ強張った。
「……そっか」
朝日はそれだけ言うと、俺の手を掴んだ。
「ちょっと来て」
「え?」
「いいから!」
朝日に手を引かれて、俺は屋上へと連れて行かれた。初夏の風が、俺の頬を撫でる。
「隆太郎、聞いて」
朝日が俺の方を向いた。その表情は、いつもの明るい笑顔ではなく、どこか決意を秘めたような真剣な顔だった。
「白州ちゃんのこと、好きだった?」
「……ああ」
「今も?」
その質問に、俺は答えられなかった。好きだった。でも、今は――今は、何も分からない。
「隆太郎はさ、白州ちゃんに利用されてたんだよ」
「……え?」
「白州ちゃんはね、最初から桜井先輩のことが好きだったの。でも、桜井先輩は後輩には手を出さない主義だった。だから白州ちゃんは、隆太郎と付き合うことで桜井先輩に嫉妬させようとしてたんだよ」
朝日の言葉が、俺の胸に突き刺さる。
「なんで、お前がそんなこと知ってるんだよ……」
「私、白州ちゃんと同じバドミントン部のマネージャーしてるの、知ってたでしょ? 部活の時、白州ちゃんが友達に話してるの聞いちゃったんだよね」
朝日の言葉が、本当なら――俺は最初から、白州の駒に過ぎなかったということだ。
「だったら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ!」
俺は思わず、朝日に怒鳴っていた。
「ごめん……でも、証拠もないのに言っても、隆太郎は信じてくれなかったと思うし……それに、もしかしたら白州ちゃんが本当に隆太郎のこと好きになるかもって、少しだけ期待してたの」
朝日の目から、涙が一筋流れた。
「ごめんね……私のせいで、隆太郎が傷ついちゃった」
「いや……お前のせいじゃない」
俺は朝日の頭に手を置いた。朝日は俺を助けようとしてくれていたんだ。それなのに、俺は八つ当たりをしてしまった。
「隆太郎……」
朝日が顔を上げて、俺を見つめた。その黒い瞳が、夕日に照らされて輝いている。
「だったら――私と付き合わない?」
「え?」
突然の言葉に、俺は戸惑った。
「私ね、ずっと隆太郎のことが好きだったの。でも、隆太郎が白州ちゃんのこと好きだって知って……だから、せめて隆太郎の恋を応援しようって思ってた」
朝日の告白に、俺は言葉を失った。
「でも、もう我慢しなくていいよね? 白州ちゃんは隆太郎を裏切ったんだから」
朝日の手が、俺の手を強く握る。
「私、隆太郎を幸せにする自信あるよ。白州ちゃんなんかより、ずっとずっと隆太郎のこと大切にするから」
その言葉が、俺の心に染み込んでくる。朝日の真剣な眼差しが、俺を見つめている。
「……ありがとう、朝日」
俺は、朝日の手を握り返した。
「じゃあ、付き合ってくれるの?」
「ああ……お願いします」
朝日の顔がパッと明るくなった。いつもの明るい笑顔が戻ってくる。
「やった! じゃあ、明日デートしよ!」
「明日?」
「うん! 隆太郎、明日空いてるでしょ? 私、隆太郎を元気にしてあげるから!」
朝日の積極的な態度に、俺は少しだけ気持ちが軽くなった。そうだ、前を向かなきゃいけない。白州のことなんか、もう忘れよう。
※ ※ ※
次の日、俺は朝日と待ち合わせをしていた。駅前の広場で待っていると、朝日が走ってやってきた。
「隆太郎ー! 待ったー?」
朝日は今日も元気いっぱいだった。私服姿の朝日は、いつもより大人っぽく見える。
「いや、今来たところだよ」
「そっか! じゃあ、行こ!」
朝日が俺の手を掴んで、歩き出す。その手は温かくて、柔らかかった。
その日、俺たちは遊園地に行った。朝日は色々なアトラクションに俺を引っ張り回して、俺は久しぶりに心から笑った。絶叫マシンで叫んだり、お化け屋敷で朝日が俺にしがみついてきたり。
「ねぇ、隆太郎! あれ乗ろう! 観覧車!」
朝日が指差す先には、大きな観覧車があった。夕暮れ時の空を背景に、観覧車がゆっくりと回っている。
「ああ、いいな」
俺たちは観覧車に乗り込んだ。ゴンドラが上昇していくにつれて、街の景色が広がっていく。
「綺麗だね」
朝日が窓の外を見ながら言った。夕日に照らされた街並みが、オレンジ色に染まっている。
「ああ、本当にな」
「ねぇ、隆太郎」
朝日が俺の方を向いた。
「今日、楽しかった?」
「ああ、すごく楽しかったよ。ありがとう、朝日」
「良かった! 私ね、隆太郎が笑ってくれるのが一番嬉しいの」
朝日が俺の手を握った。
「隆太郎、あの二人を見返そうよ」
「見返す?」
「うん。私たちが幸せになることが、一番の復讐だよ。白州ちゃんも桜井先輩も、きっと後悔するよ。隆太郎を手放したこと」
朝日の言葉に、俺は頷いた。
「ああ、そうだな」
「だから、私と一緒に幸せになろう?」
「ああ」
観覧車が一番高いところに到着した時、朝日が俺に寄りかかってきた。
「隆太郎、大好き」
その言葉が、俺の心に温かく響いた。
※ ※ ※
デートが終わり、俺たちは駅で別れることになった。
「今日は本当に楽しかったよ、朝日」
「うん! また明日ね、隆太郎!」
朝日が手を振りながら、改札へと向かっていく。その後ろ姿を見送りながら、俺は思った。これから、朝日と一緒に新しい未来を築いていこう、と。
俺は駅を後にして、家路についた。
でも、その時の俺は知らなかった。朝日に、もう二度と会えなくなることを。
※ ※ ※
朝日は、改札を通ってホームへと向かった。電車の到着を知らせるアナウンスが流れる。
(ああ、今日は本当に楽しかった)
朝日は今日のデートを思い出しながら、ホームで電車を待っていた。隆太郎の笑顔が脳裏に浮かぶ。
(隆太郎、本当に可愛いんだから)
朝日は思わず顔がにやけてしまう。黄色い線の内側で、電車の到着を待つ。
その時だった。
背後から、何か強い力で押される感覚があった。
「え――」
朝日の体が、ホームから線路へと落ちていく。時間がスローモーションのように感じられた。
(何が起きたの――)
朝日の視界に、迫りくる電車のライトが映る。
ガタンゴトンという音が、急速に大きくなる。
(隆太郎――)
最後に浮かんだのは、隆太郎の笑顔だった。
そして、朝日の意識は――闇に包まれた。
駅のホームに、悲鳴が響き渡った。
※ ※ ※
その日の夜、俺の携帯電話が鳴った。朝日の母親からだった。
電話口から聞こえてきたのは、信じられない言葉だった。
「朝日が――事故に遭って」
俺の手から、携帯電話が落ちた。
朝日が、死んだ。
駅のホームから転落して、電車に轢かれて――死んだ。
俺の頭が、真っ白になった。
さっきまで、あんなに笑っていたのに。
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俺は、その場に崩れ落ちた。涙が止まらなかった。
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