先パイッ!「ビーエル」って何ですかっ?

AnnA

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第2話 謎と再燃

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結局全然講義に身が入らず、今 隣でアイツの講義を担当している教授は時間にルーズというか

ほぼ100%講義が長引くので有名な人で、その日も漏れなく長引いてくれたから アイツに会うことなく過ごせた。

「な~嵯峨、あの子と面識あんの?」

「無い。全く知らん」

「だよなぁ?あの反応からして…」

「何で…お前なんだろうな?」

「本当に。あのヒエラルキートップのインフルエンサー達すっ飛ばしてさ…」

「…分かんねぇ…マジで」

「だよなぁ~~?」

そして、この一件は瞬く間に 学内の全員が知ることになった。

何たって あのインフルエンサー達をすっ飛ばし、学校内で地味でモサくてモブキャラ1位レベルの俺の所に来たんだからな…。

マジで分からん。謎だ謎。ちなみに連れの2人、長崎と宮崎も同タイプ。モサくて地味なモブキャラだ。

入学して同じ専攻で、友人も無く、グループワークする時に「俺ら 苗字が九州だな?」「確かに…」のやり取りから3人で連むようになった。

俺は神奈川出身で、2人は東京だし 全く九州とは縁もゆかりも無い。…アイツに関わるまでは…。

それから数日後、昼時にカフェテリアで再会した。例の一件は学内全員が知っているので彼方此方から「ほらほら!あの2人!」と声がしていた。

アイツにはそんなの全く聞こえて無いし、周囲の反応も見えて無いようで

あの日と全く同じに「あっ!先パ~イッ!!」と言いながら 跳ねるように小走りでやって来た。

もちろん満面の笑みで瞳を輝かせて、手を振りながら…実際には無いけど 尻尾もブンブン振っているのが全員に見える程だった。

この光景を見た全員が「え?好きなの?あのモサい男が⁇」と、一番にそう思うのが自然だと考えられる程に。

俺自身ですら、え?俺のこと好きなの⁇と一瞬思う程に。

しかし、そんな事あるはずも無い。俺の見た目は、髪はボサボサの伸び放題で目が隠れてて 鼻の頭から下、口しか見えて無いし、その上眼鏡だ。オシャレでも何でもない。

清潔感無しで避けられるタイプだし。低い声でボソボソ言うし、基本無口だ。必要最低限しか話さない。

背は182cmで 骨格がガシッとしてるから、冷蔵庫に髪に見立てた黒いモップを乗せて眼鏡を描けば、ほぼ俺と瓜二つって外見だ。

もし、モサいモブ男決定戦があれば 学校代表として選ばれるレベルに仕上がってるつもりなんだけど…?

まぁ、だから顔も見えないんじゃ 万が一にも一目惚れなんて あるハズも無い。

俺は 誰かと勘違いしてるんだと思ったから、アイツが目の前に来たらそう言おうと思ってたのに、先に連れ2人が話しかけた。

「あ~朝日君だよね?」

「はいっ!こんにちはっ!」

「あ、こんにちは~…」

「あの、朝日君はさ、前に嵯峨と会った事あるの?」

「はいっ!入学する前に!東京来てすぐの頃に一回見ました!」

俺はそんな記憶無いし、コイツみたいな感じのキャラとか容姿とかの人間は覚えるタイプだから、コイツの人違いだと確定だ。

早く「人違い」と言ってやろうと思ったら、またしても 先に連れ2人が話し始め

更にコイツの仲良しグループ的なのも 周りを囲んで会話に入って来ようとしてる。

「あ~本屋で見たの?嵯峨を」

「本屋?」

「あれ?違った?」

「はい。本屋じゃないですけど、先パイ本屋によく行くんですか?」

「嵯峨は本屋でバイトしてるんだよ」

「えっ⁈マジッすかっ⁈すげぇっ!!」

百歩譲って、個人情報であるバイト先を言ったのには目を瞑るとして…。

俺はかなりイラッと来た。本屋のバイトがすげぇ…?何が?どこが?馬鹿にされたと思った。

俺が口を開く前に勝手に話が進み…
置いてけぼりになってしまった。

「え?本屋のバイトのどこがすげぇの?」

「言っとくけど、嵯峨のバイト先の本屋は大手じゃねぇよ?」

「大手って?」

「大手って…ほら、全国チェーンのさ?有名なのとか。TATSUYAとかジュンタ堂みたいなさ?」

「すごいですよっ!!本屋があるってだけですげぇしっ!!島には 本屋なんか無かったけんっ!!」

皆で声を合わせて同じ事を言った。
「島…?」と。俺も言った。

「はい。俺は島育ちで 本屋も文房具屋もコンビニも無かったし、対岸の港町にも無かったし、田舎やけん、高校の近くの本屋だって 教科書と参考書みてぇな学校に要るやつと、文房具もノートとか学校に要るやつばっかやし、制服とか体操服とかも一緒に売りよんような所しか知らんけん。大手って さっき先パイが言った所は県の中心にしか無ぇし…。フェリーの時間がある俺は、学校帰りにちゃんとした本屋に寄り道も出来んやったけん。本屋があるだけでも すげぇのに大手だけじゃねぇで 他の本屋まであるとかすげぇです!皆が本読むっち事っすよねっ⁈やっぱ 東京っちすげぇっ!!」

その場にいた全員が「…」となる中、コイツは目を輝かせて、本当に感動しているのが皆に分かった。

不覚にも俺は、そんな環境で育ったならば 本屋がある事は凄い事だと思うだろうな、と納得したし

本屋でバイトする事も コイツには凄い事なんだと納得し、怒りが一気に無くなった。

それに、コイツの言い方…本が好きなんだな?と思うと同時に声に出ていた。

「本が好きなの?」

「はいっ!本しか無かったけん!」

「どうゆう事?」

「あ、俺一人っ子で、島の小学校も2年の時に 俺一人になって、小3からは対岸の小学校行ったけど、それでも全部で5人。家に帰ったら 一緒に遊ぶ子おらんし、テレビは じーちゃんとばーちゃんが独占やし、そもそも東京の番組 こっち流れんし。やけん、本しか無かったんです。家で一人ん時。」

「そっか…なるほど…」

「先パイの本屋には、海の本とか、運河とか海峡…世界の有名な港町の本はありますかっ?」

「…あー…んーと…ある…な?あったと思う」

「マジっすかっ⁈」

「あーうん。けど、それが 君の知りたい内容かは 分かん無いよ?今言ったキーワードが 何ページか本の中に入ってそうってだけで…」

「なるほど…」

「どんな内容が知りたいの?」

「んーと、じーちゃん達、島の男は ほとんどが船乗りで、マグロ船とか貿易のタンカーとか車運ぶ船とかで 世界中を周ってて、航海から帰って来たら島中で集まって宴会して、今回はどうだったかを皆で話すんです。そん時にじーちゃん達は当たり前に スエズ運河とかパナマ運河とか、ジブラルタル海峡がどうだった、あそこの国は飯マズとか、酒がダメで、とか 普通に近所の事みてぇに話します。太平洋と大西洋の違いとか、船にイルカが並走してて邪魔とか、皆で 分かる分かる!って盛り上がるし…。普通に家に居ても色々教えてくれて、沖にイルカの群れが跳ねてんのを窓から見てたら、あのイルカは どこどこにもいるやつ。とか…俺は子供ん時からその話聞いて、一生懸命想像するけど 分からんくて、じーちゃん達と同じのが見てみたかったけど。学校の図書館には それが分かるの無かったし、大手の本屋に行った時に探しても 見つけきれんかったし。スマホあっても島じゃ電波悪いけん調べられんし。やけん、そーゆうのが全部分かる本…写真もあって、1こ1こ港の説明とか、その地域の食べ物とか暮らしとかも分かるようなの…じーちゃん達と同じ世界が見れる本が欲しいです!」

「……」

「先パイ?無いですか?」

「あ…あー、えっと…。店の本の内容全部把握している訳じゃ無いから…。でもその内容だと、どんなに上手にコンパクトにまとめられてても、何冊か必要と思う」

「あっ何冊でも大丈夫ですっ!」

「あのさ、東京だから もう電波普通に入るだろうし、そういう本は普通より定価高いのが多いから スマホで調べた方が、と思うけど」

「あ~俺、ほとんどスマホ使わねぇ生活で プラン一番安いままで、家にもWi-Fi入れて無いんで」

「あ、そっか…」

「はいっ それに本めくるの好きなんですよ~♪資料とかも わざわざコピーして紙媒体のが頭に入る感じで」

「あ、分かるわ。それ」

「ですよねっ⁈」

「あ…えっと…じゃあ、バイト先にその内容の本があるか確認して、あれば君に言うから」

「!!えっ⁈先パイッ!!優し過ぎる!!超良い人過ぎるっ!!」

「え…いや…」

「初めて見た時も 超優しくて良い人っち思ったけどっ!!やっぱ 超良い人やわっ先パイはっ!!友達なって良かったぁ~~っ!!へへっ♫」

「えっ…いや、友…」

「先パイっじゃ、よろしくお願いしますっ!!」

「あ…ハイ…」

「あっあと、「君」じゃ無いで、「渚央」っち呼んで下さいっ♪」

「あ…ハァ…」

「へへっ 「君」とか 初めて言われたし~!やっぱ 東京弁慣れんわ~!はははっ」

「……」

全員が東京弁って…標準語…と思ったけどアイツに突っ込むヤツも無く。

アイツは元気一杯に 台風のように仲良しグループと去って行った。

バイバイと手をブンブン振って弾ける笑顔だったのは 言うまでもない。

入学してからこの日数であれだけの仲良しグループがいる事がすげぇ…と 俺個人は思いつつ。

アイツのパワーに押されて、結局「人違い」とも言えないまま…。

アイツが去った後、呆然としていると連れ2人が話しかけて来た。

「嵯峨、超優しくて超良い人だってよ?」

「お前 ホントにあの子に会って無いの?入学前に」

「会って無い。人違いだ完璧に。俺が優しい事すると思うか?」

「いや、まあ…あの子みたいな性格の子からしたら、嵯峨を優しい人って感じるのかも…だろ?」

「だなぁ。島育ちって言ってたし、こう…何と言うか…純粋培養的な?」

「…お客の欲しい本を捜すのは 本屋の業務の一つなんだけど」

「確かにな。だけど 本屋無かったって言ってたから、それが普通のサービスって知らないんじゃん?」

「ああ、なるほどな?納得。ま、何にせよ人違いな訳だから、今度会った時にでも言うわ」

「おー それがいいと思う。」

「あ、つか昼飯!時間ねぇぞ」


そんな感じで3人で昼飯を食べ、いつも通りの流れで大学が終了し帰宅した。

一番に思ったのは…いや、アイツと話してる時からずっと思ってたのは、俺も同じ事が知りたい。

アイツが話してる内容、俺の知らない世界、興味が湧いた、知りたい、俺も同じ本読みたい、だ。

そんな日常があるのかと、島での暮らしとか、人間関係とか、方言とか…

アイツの言うこと全てが新鮮で俺に無い価値観、情報、世界…。ネタになる。小説の…。

せっかく諦めようと、本は読者の立場だけで諦めようとしてたのに。

脳内で物語を作っても文字に起さず、小説家を諦めようとしてたのに。

一瞬で、田舎暮らしとか移住のネタは今 人気あるし、エッセイとかも…アイツのじーちゃん達の航海記的なのも面白いんじゃないか?

あの飾らないアイツの じーちゃんだ、きっと面白いネタが山程あるんじゃ…と思うと、もう止まらず。

完全に小説家の夢が再燃してしまった。あーあ全く…。

これ以上気持ちが大きくなる前に さっさとアイツと距離を置こう。それがいい。
そう自分に言い聞かせた。
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