上京して一人暮らし始めたら、毎日違う美少女が泊まりに来るようになった

さばりん

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第一章 出会い編

第十話 不安な幼馴染

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 春香はるかが起きた後、二人で世間話などをしていると、話の流れで、春香が昼寝させてくれたお礼に夕食を作ってくれることになった。

 今キッチンでは、春香が手際よく調理を進めている。
 春香の料理の腕前は分かっているので、安心して任せることが出来る。
 優衣さんの時は、ほんと気が気じゃなかったからな……

 そういえば、あれから優衣さんはもう家に帰ってきているのだろうか? ちゃんと道に迷わずに、入社式には間に合ったのだろうか??
 頭の中で心配していると、部屋中にカレーの美味しそうな香りが充満しているのに気が付いた。

「大地ごめん、大きめの深皿どこにあるか分からないからふたつ出してくれない? あと、机拭いて、箸とスプーンと取り皿出してくれる」
「了解」

 俺は春香に言われた通り、厚底の大きめのお皿を春香の元へ二つ持っていき、春香から受け取った布巾ふきんで机を拭いてから、箸とスプーンと取り皿を並べた。
 直後、炊飯器からご飯が炊けたことを知らせるチャイムが鳴り、春香は炊飯器をパカっと開けて、しゃもじでご飯をほぐす。

 春香は渡した器に、湯気が立っている白いご飯を片側によそい、コンロの上に乗った鍋から、完成したアツアツのルーを注ぎこみ、美味しそうなカレーが完成する。
 俺は春香からカレーが入った器を受け取り、机へ持っていった。春香は、冷蔵庫に入れておいたサラダを取りだして持ってくる。
 机の上には、ニンジンとじゃがいもと玉ねぎが入った色合いが綺麗な美味しそうなカレーと、プラスチックのボウルの中に入った、トマトとレタスにきゅうりが添えられた彩のよいサラダが並んでいた。
 
 春香は、栄養バランスを考えて料理を作るので、一品料理だけではなく、副菜やサラダもちゃんと作ってくれる。だから高校の時は、いつもこうして、頭が上がらないほどおいしい料理を食べさせてもらっていた。

「よし、食うか」
「うん」

 俺と春香は、お互いに机を間に挟んで向かい合って座る。

「いただきます」
「いただきます」

 二人とも手を合わせて、丁寧に「いただきます」の挨拶をしてから、食事にありつく。
 お互いにスプーンでカレーをすくって、二、三回フーフーと冷ましてから口の中に入れる。
 カレーのまろやかな風味が口の中にいきわたり、じゃがいもが口の中でホクホクと崩れていく。そして、後からピリッとくる中辛のカレーの辛さが、食欲をさらに刺激する。

「うん、うまい」

 俺がそう言うと、春香は安心したような表情を見せた。

「よかった。いつもと火加減とか違ったから、ちょっと不安だったんだよね」
「何が不安だよ。春香の作った料理でまずいものなんて出てきたこと一度もないじゃねーか」
「それは、そうかもしれないけど……」

 春香は浮かない表情を浮かべている。どうやら春香なりに、料理の味付けや火加減など、かなりのこだわりがあるらしい。

「まあ、とにかく、俺はすげぇ美味しいって思ってるから、作ってくれてありがとな」

 俺はそう言って、再びカレーを口に頬張る。その様子を見て、春香は頬を少し赤く染めながら「どういたしまして」と小さな声で呟いた。

 しばらく食事を黙々と食べていると、春香がふと思い出したように言ってきた。

「そういえば、二人でこうやって食べるのって随分久しぶりかもね」

 春香がそんなことを口にしたので、俺はカレーを飲みこんでから答える。

「確かに、いつもは大空そらと三人の時が多かったからな」

 大空そらというのは、俺の四つ下の妹である。両親が共働きの南家では、基本俺が料理を作っていたのだが、部活などで帰りが遅くなってしまった日には、よく春香の家で夕食をご馳走になったり、家に作りに来てくれたりしていたのだ。

「大空ちゃん、大地がこっちに上京しちゃって寂しがってるんじゃないの?」
「あぁ、引っ越す前日も『お兄ちゃん、行っちゃヤダよ』って泣かれながら懇願された」
「あー、やっぱり。大空ちゃんブラコンだもんね」

 春香が苦笑しながら、カレーを一口放り込む。

「だから、『大丈夫、お兄ちゃんはどこへ行っても。大空の心の中で見守ってるぞ』って言って慰めた」
「ぶっ!」

 春香がむせてせき込んだ。慌てて水を飲みこんで、変なところに入ってしまったカレーを胃の中に流し込む。息を整えた後、とがった目線を俺に向けた。

「キッモ! あんた妹になんてこと言ってんの!?」
「でも、喜んでくれてたぞ」

 俺がそう言うと、今度は若干顔を引きつらせ、呆れたようなじとっとした表情になった。

「シスコン」
「うるせ。」
「はぁ、全く。このブラコン・シスコン兄妹め」

 春香は少し顔を膨らませながら、再びカレーを一口口に含んだ。


 ◇


 食事を終え、余った白米を炊飯器からタッパーに詰め、使ったお皿や調理器具などを洗って後片づけをしていると、春香に声を掛けられた。

「ねぇ、大地はさ」
「ん?」

 俺は、作業をしながら生返事だけを春香に返す。

「やっぱり私のこの髪型似合わないと思う?」

 先週と同じ質問を再び春香は投げかけてきた。

「前も言ったろ、春香がその髪型が気に入ってるならそれでいいんじゃないかって」
「そうだけど……でも、なんか不安で……」

 春香の方に目線を向けると、不安そうな表情で腕を机に置き、腕枕にして頭を置いてうなだれていた。
 おそらく春香が言っているのは髪型のことだけではなく、新しい環境で仲良くすることが出来のだろうかという不安も、言葉の中には含まれているのだろう。それを察した俺は、食器洗いを中断し、濡れていた手をタオルで拭いてから、春香が突っ伏している机に向かう。
 
 そして、春香がいる机の対面側に座りこんで、ポンっと春香の頭に手を置いた。

「心配すんなって、すぐに話せる友達なんてできるだろ」
「でも、大地みたいに似合ってないって言う子もいるかもしれないし……」
「そんな初対面から似合わないなんて、バカ正直に言ってくる奴はいねぇよ、俺はお前のことを昔から知ってるから、正直に言ってるだけだよ」
「それは分かってるんだけど……」
「はぁ、ったくお前はどうしてそう悲観的な方向に物事を進めるかね」

 俺はもう一方の手で、自分の頭を掻いた。

「まあ、でも、そうやって心配してるのは春香だけじゃないと思うぞ。他の奴だって知らない人だらけだし、初対面の人とどうやって話したらいいんだろう? とか、周りからどう見えてるんだろうとか、色々過敏になりやすいから」
「うん」
「だから、そういう時はいつものお前の明るさで積極的に話しかけていけば、問題ないだろ」
「本当に?」
「おうよ。今までお前に助けられてきた人は何人もいるよ、俺も含めてな」

 そうだ、高校の時も当時人見知りだった俺に対して、他の人との接点を持たせてくれたのは、全部春香だった。俺はそんな春香の気兼ねなく人と接することが出来る優しさやおおらかさに、いつも助けられてきたのだ。 
 俺がそんなことを思い出しながら、春香に優しく微笑みを返すと、春香は少し頬を赤らめ目線を逸らしながら

「そっか……ありがと……」

 と、一言恥ずかしそうにぼそっと答えた。


 ◇


 しばらく春香の頭を撫でていたが、突然春香がムクっと起き上がったので、手を離した。春香は大きく息を吐いて、俺の方に向き直り、恥じらいながらも微笑みを浮かべる。

「ありがと、ちょっと自信出てきた。大地に励ましてもらったおかげだね」
「そっか、ならよかった」

 お互いにしばし微笑み合い、春香は「よしっ」と言って立ち上がった。
 
 その時だ、ドスドスドスと物凄い足音が外に響き渡る。
 そして、隣の部屋のドアがガチャりと開かれて、ガシャーンという謎の音をたてながら、バタンという音が鳴り終えて、再び辺りが静寂に包まれた。

 春香は何事かと驚いたように、隣の部屋の方へ顔を向けて少し怯えたような表情を浮かべた。

「何、今の音……」
「多分お隣さんが帰ってきただけだろ。気にすんな」

 そう春香にはあしらったが、俺は心中で安心していた。
 良かった、優衣ゆいさん無事に帰ってくれたんだね!

 春香はその答えに納得したようで、気を取り直してポーチのような鞄を首に掛けて振り返る。

「さてっ! 今日はもう帰るね。ありがと」
「最寄りまで送って行こうか?」

 俺がそう言いながらコートを取りに行こうとする。

「いいよ、道分かるし。それに、今日はなんだか一人で歩きたい気分なの」

 春香はどこかすっきりしたような表情を浮かべて言ってきた。

「そうか」

 俺はそう返事を返して、コートを取りに行くのを止めた。

 春香は玄関の前まで行き、ヒールを履くために座りこむ。俺も慌てて玄関の前まで歩いていく。春香の後ろに立つと、春香はヒールを履き終わり立ち上がった。俺は春香の隣から腕を伸ばして、ドアの鍵を開けてあげる。
 春香は、「ありがと」と一言お礼を言って、玄関のドアを開けた。

 外は真っ暗になっており。アパートの廊下にある心許ない蛍光灯の光だけが、夜の暗闇に明かりを灯していた。三月最終日といえども、流石に夜は冷え込み、外の肌寒い空気を吸い込み身体が震えた。

 春香は、玄関からアパートの外の廊下に出ると、外を見てふうっと一息吐いてから俺の方に向き直る。

「じゃ、またね」
「おう。帰り道、気を付けてな」
「うん、分かってる。じゃあね」

 春香は、にこやかな微笑みと共に、何か自信を取り戻したかのように表情は晴れやかだった。そんな彼女は、暗闇の中でも太陽のように光を発しているかのごとく輝いて見えた。それが、容姿のせいなのか、髪色のせいなのか、はたまた春香の表情のせいなのかは分からなかったが、そんなことを思っている俺を他所に、春香は手をひらひらと振りながら軽やかな足取りでアパートの階段を降りていき、駅の方へ歩いていった。
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