即興ミステリ

天草一樹

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羽切紀霊の証言

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「僕は、午前零時ごろ、赤貫先生の部屋に行ったんです。……はい、そうです。事前に赤貫さんからその時間に来るように言われていたので。え? 時間前に着いたりはしなかったのかですって? いえ、言われた時間――零時ちょうどにつきましたよ。……くっ、この先を話さないといけないことは分かっています……。しかし! 僕にとってここから先のことは、涙なしには語れない内容なんです! まさか、あの尊敬すべき赤貫先生が、あんな無残な状態で殺されているなんて……。刑事さんたちも見たでしょう! 大量のトマトジュースに囲まれるようにして死んでいる赤貫先生の無残な姿を! あれほど愛していたトマトジュースに囲まれて死ねるのなら本望にも思えますが、それでも殺人などと言う悪逆非道な行いの装飾としてトマトジュースが用いられたという事実! これに憤りを感じないでいられるでしょうか、いやできない! 刑事さん、一刻も早く赤貫先生を殺した犯人を捕まえて、その罪を償わせてやってください!

 あ、すみません、興奮しすぎてしまいました。今は僕が見た事実をできる限り正確に伝えて、刑事さんの捜査のお手伝いをするべき時ですからね。どうぞ、質問したいことは何でも質問してください。

 ……いつの段階で、あの大量のトマトジュースが血でないことに気づいたのかですか。それは、入ってすぐですね。確かに、部屋に入った瞬間は大量の血の中に赤貫先生が倒れていると思いましたが、すぐに匂いでトマトジュースであることに気づきました。でも、よくあたりを見てみたら、血でぬれたトマト柄のナイフが落ちていましたし、呼びかけてみても赤貫先生が一切反応しないので……。それで脈をとってみたところ、止まっているのが分かって、慌てて警察に通報したのです。ただ、その時はかなり混乱していたので、通報するまでに少々時間がかかってしまいましたが。

 警察に通報した後、僕はこのことを皆に伝えに行こうと思いました。でも、僕はこの時とんでもない事実に気が付いてしまったんです! この時はちょうど嵐が来ていましたし、何よりこの館の防犯は完璧で、外から誰かが侵入できるはずはないんです! 念のため鍵のチェックをしたところ、どこもちゃんと施錠がされていました。つまり! 赤貫先生を殺したのは、考えたくないことですが、今この館に集まっている三美さんと戸田賀さんのどちらかである! そのことに僕は気が付いてしまったんです!

 ……それに気づいてしまった僕は、彼らに赤貫先生が殺されたことを伝えに行くのをやめ、自室に引きこもりました。怖かったんです! 犯人の狙いがなんであるか分からない以上、次に僕が殺される可能性もあったんですから!

 ふぅ……。すみません、また脱線してしまいました。……はい、次で質問は最後ですか? 赤貫先生の着ていた服に見覚えがあるかですか? はい、夕飯の時に着ていたのと同じ服でしたし、もちろん見覚えはありますよ。それだけでいいんですか? ……では、犯人逮捕、必ずお願いします!」



 + + +



「なんというかこいつ、熱血というより情緒不安定なんじゃないか? クレオパトラ似の女と似た雰囲気を感じたぞ」

 最後の容疑者の証言が終わった時点での俺の第一声である。

 礼人は恥ずかしそうに顔を赤らめると、言い訳するようにそっぽを向いた。

「しょうがないだろ。僕の周りにはあんまり熱血キャラっていないんだよ。千里はクールキャラだし、滝先生は天然キャラだし」

「僕って天然キャラなの?」

「お前にはヒステリー女と中年オカマの知り合いがいるのか?」

 この話とは一切関係ないことで礼人を問い詰める俺と多多岐。礼人は怒った様子で一度テーブルをたたくと、声を上ずらせながら言った。

「とにかく、これで最後の証言も終わったんだよ。何か質問とかあるなら、もうここが最後のチャンスだよ」

 俺は中指で額をたたきながら、礼人に問う。

「おおよそ俺の予想通りの証言だったな。だいたい謎は解けたといっても過言ではないが……、礼人。まだ出し惜しみしている話があるなら、先にそれを話してくれ」

「ちょっとちょっとセンちゃんもう謎が解けたの! 僕なんてまだ何が起こってるのかちんぷんかんぷんなんだけど」

「解けたといっても、あってるかは分かりませんよ。あくまで解答っぽいものを思いついたというだけです。で、どうなんだ、俺の考えではまだ提示されてない情報があると思うんだが」

 少しふてくされた様子で麦茶をがぶ飲みしようとしていた礼人が、いったん手を止めて俺に目を向ける。

「千里の言う通り、もう少しだけ追加情報があるよ。容疑者三人は全員赤貫さんの部屋に呼ばれてたわけだけど、何時にだれが呼ばれていたのかは全員共有していたらしい。それと、これは警察が赤貫さんの部屋を調べて分かったことなんだけど、赤貫さんの部屋に備え付けられている冷蔵庫。この中身がかなり減ってたらしいんだ。おそらく死体周辺のトマトジュースはこの冷蔵庫内のトマトジュースだったと考えられるけど、それにしてもかなりの量の缶や瓶がなくなっていたそうだよ」

「中に入っていた冷蔵庫から、容疑者の指紋とかは検出されなかったのか?」

「うん、特に検出されなかったって。ちなみに、赤貫さん以外の部屋の全ての冷蔵庫や保管庫も調べたけど、どこもトマトジュースがなくなってたりはしなかったらしい。それともう一つ奇妙な点が見つかってる。最初の方に言ったことだから覚えてないかもしれないけど、トマトジュース館での滞在日程は二泊三日の予定だったんだよ。にもかかわらず、赤貫さんの部屋には、着替えの服が一切見当たらなかったんだ。気になった警察は館中を捜索したけど、結局見つからなかったそうだよ。

 ……そうだ、最後に一つ宣誓しておくけど、証言した容疑者たちは、犯人以外全員自分が見たこと感じたことを素直に証言しているとするよ。なんだかよく分からない嘘をついていたりはしていない。あくまで赤貫さんを殺した犯人だけが嘘をついている。勿論、犯人は単独犯であって複数いたりはしない。

 さて、以上が僕から提供する『トマトジュース館の殺人』に関する詳細の全てだよ。後は赤貫さんを殺した犯人を当てるだけだ!」

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