即興ミステリ

天草一樹

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事件のまとめと『読者への挑戦状?』

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「俺はこの事件に関する考えがまとまりましたが、多多岐先生はまだ何も考えついていなようですね」

 『トマトジュース館の殺人』の問題編を聞き終わり、俺はもう一人の探偵役である多多岐を見据えた。

 多多岐は両手で頭を抱えこみ、いかにも分かりませんと言ったポーズをとっている。その見るに堪えない滑稽な姿に憐れみを覚え、俺は「要点を整理しましょう」と言った。

「まず時系列を追ってみましょうか。

22時ごろ、三美津代子が赤貫の部屋へ。いろいろあって三美は赤貫をトマトナイフで刺してしまい、赤貫は腹から血を流して倒れ込む。その後、三美は赤貫の生死を確認せずに逃亡、次の日まで自室にこもる。

 ↓

22時30分ごろ、戸田賀華太が赤貫の部屋へ。これは本来予定していた時刻より早かったらしい。そこで戸田賀は、生きた赤貫を目撃。その後赤貫の部屋に居座ることはなく、すぐに自室へと引き返し、そのまま一晩を寝て過ごす。

 ↓

24時ごろ、羽切紀霊が赤貫の部屋へ。羽切は部屋に入った直後、トマトジュースまみれの床で倒れている赤貫を目撃。脈をとって死んでいることを確認すると、若干時間を空けて24時半ごろ警察に通報。その後は他二人と同様、自室にこもって一晩を明かす。

 おおよその容疑者の動きはこんな感じですね。そうだ、一つ今更な質問をさせてもらうが、赤貫の死亡推定時刻ってどうなってるんだ?」

「死亡推定時刻は当日の21時から次の日の午前1時だよ。要するに、全員犯人足りえるってことだね」

 俺は礼人の言葉に頷くと、とりあえず思案し始めたらしい多多岐へと視線を向けた。

「それで、先生はまだ何か疑問とかありますか。なければさっさと解決編に入りたいのですが」

 両手を顔の前でぶんぶんと振りながら、多多岐が否定の声を上げる。

「まだダメ! 僕は全然推理がまとまってないよ。センちゃんもうちょっと要約してくれよ。事件に関係ありそうなところだけ抜き出してパパッと」

「はぁ、別にいいですけど。そうですね……ヒントと言えるのは、礼人が補足説明のように話していた、警察の調査によって分かったことですかね。具体的には、三美が刺したと証言していたのと同じ場所に刺し傷があったこと。赤貫の死体の腹部もトマトジュースでぬれていたこと。赤貫の替えの服がなかったこと、ですね。後は、各人の行動を追っていけば結論に至るかと」

「う、ううン……。それってホントにヒントなの? いまだに全然わからない……。というか、仮にこの容疑者の中に犯人がいるとしたら、皆どのタイミングで赤貫さんを殺したってことになるの?」

「それぐらいは自分で考えてほしいですが、面倒なので説明しましょう。礼人、もしここの推理が間違ってたらさっさと言ってほしい。考えを一から改めないといけなくなるからな」

「了解。まあでもそれぐらいは分かってもらえないと、犯人を当てるなんて夢のまた夢だしね。軽く説明しちゃって言いんじゃないかな」

 礼人はあっさりと承諾する。

 グラスに入った麦茶を飲み干すと、俺は指を三本立ててみせた。

「一人ずつ行きましょう。まず、三美津代子。もし彼女が犯人だとしたら、赤貫を殺すタイミングは22時半から24時の間ということになる。理由は、戸田賀が22時半ごろに生きた赤貫を目撃しているから。要するに、一度自室に戻った後、もう一回赤貫の部屋に行き殺害を行ったということです。

次に、戸田賀華太。もしこいつが犯人だとしたら、当然殺したのは自身が訪れた22時半ごろとなる。要するに、刑事に対して堂々と嘘をついたわけだ。

で、最後、羽切紀霊が犯人の場合。わざわざ説明する必要はないと思うが、殺したのは24時ごろだろう。赤貫の部屋に約束通りいき、そのまま赤貫を殺害したということだ。

 多少ややこしいのは三美だけで、後は自分が訪れた時刻に赤貫を殺しているってことだな」

「そうそう、そこは特に間違ってないよ。というか滝先生、これくらい少し考えれば誰でもわかりますよ。教師なんですしもう少ししゃっきりしてくださいよ」

「ううー、そんなこと言われたってわからないものは分からないよ。ああでも、それだけ教えてくれたんだし、自分でも何かしらの推理はしたいからちょっと待っててね」

 ムムムと言いながら考え込む多多岐。そんな彼を横目で見ながら、俺は礼人を挑発するように言った。

「そういえば礼人、お前はこの事件の犯人を当てろと言っているが、もう一つ解明しないといけないことが残っているだろ」

「アハハ……さすが千里、いろいろと考えてるみたいだね。ちなみに、その解明しないといけないことっていうのは?」

「赤貫斗馬斗が発明したという『すっごいトマトジュース』。それが何かということだ」

 礼人は冷や汗を流しながら、上ずった声で肯定する。

「そうだね……それが分からないとこの事件の全貌を理解することはできないよね」

「まあ、俺の推理を楽しみにしてるんだな」

 俺たち二人の会話は、思考に没頭していた多多岐には聞こえなかったらしい。特に口を挟むことなく、何やら呟いている。俺が彼へと視線を移していると、突然礼人が明るい声を上げた。俺が一瞬視線を外した間に、元気を回復したらしい。

「じゃあ滝先生が自分なりの推理を思いついた時点で、解決編の開始と行きますか。そうだ、せっかくなので僕から決め台詞を。

『以上の語りから、赤貫斗馬斗殺害の真犯人を特定するに充分なデータが出揃いました。ご拝聴の皆様につきましては、自身が入手した手掛かりを一つ一つ吟味し、真相へとつながる唯一つの道筋を探し出してください。それでは、武運をお祈りいたします』
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