7 / 11
事件のまとめと『読者への挑戦状?』
しおりを挟む
「俺はこの事件に関する考えがまとまりましたが、多多岐先生はまだ何も考えついていなようですね」
『トマトジュース館の殺人』の問題編を聞き終わり、俺はもう一人の探偵役である多多岐を見据えた。
多多岐は両手で頭を抱えこみ、いかにも分かりませんと言ったポーズをとっている。その見るに堪えない滑稽な姿に憐れみを覚え、俺は「要点を整理しましょう」と言った。
「まず時系列を追ってみましょうか。
22時ごろ、三美津代子が赤貫の部屋へ。いろいろあって三美は赤貫をトマトナイフで刺してしまい、赤貫は腹から血を流して倒れ込む。その後、三美は赤貫の生死を確認せずに逃亡、次の日まで自室にこもる。
↓
22時30分ごろ、戸田賀華太が赤貫の部屋へ。これは本来予定していた時刻より早かったらしい。そこで戸田賀は、生きた赤貫を目撃。その後赤貫の部屋に居座ることはなく、すぐに自室へと引き返し、そのまま一晩を寝て過ごす。
↓
24時ごろ、羽切紀霊が赤貫の部屋へ。羽切は部屋に入った直後、トマトジュースまみれの床で倒れている赤貫を目撃。脈をとって死んでいることを確認すると、若干時間を空けて24時半ごろ警察に通報。その後は他二人と同様、自室にこもって一晩を明かす。
おおよその容疑者の動きはこんな感じですね。そうだ、一つ今更な質問をさせてもらうが、赤貫の死亡推定時刻ってどうなってるんだ?」
「死亡推定時刻は当日の21時から次の日の午前1時だよ。要するに、全員犯人足りえるってことだね」
俺は礼人の言葉に頷くと、とりあえず思案し始めたらしい多多岐へと視線を向けた。
「それで、先生はまだ何か疑問とかありますか。なければさっさと解決編に入りたいのですが」
両手を顔の前でぶんぶんと振りながら、多多岐が否定の声を上げる。
「まだダメ! 僕は全然推理がまとまってないよ。センちゃんもうちょっと要約してくれよ。事件に関係ありそうなところだけ抜き出してパパッと」
「はぁ、別にいいですけど。そうですね……ヒントと言えるのは、礼人が補足説明のように話していた、警察の調査によって分かったことですかね。具体的には、三美が刺したと証言していたのと同じ場所に刺し傷があったこと。赤貫の死体の腹部もトマトジュースでぬれていたこと。赤貫の替えの服がなかったこと、ですね。後は、各人の行動を追っていけば結論に至るかと」
「う、ううン……。それってホントにヒントなの? いまだに全然わからない……。というか、仮にこの容疑者の中に犯人がいるとしたら、皆どのタイミングで赤貫さんを殺したってことになるの?」
「それぐらいは自分で考えてほしいですが、面倒なので説明しましょう。礼人、もしここの推理が間違ってたらさっさと言ってほしい。考えを一から改めないといけなくなるからな」
「了解。まあでもそれぐらいは分かってもらえないと、犯人を当てるなんて夢のまた夢だしね。軽く説明しちゃって言いんじゃないかな」
礼人はあっさりと承諾する。
グラスに入った麦茶を飲み干すと、俺は指を三本立ててみせた。
「一人ずつ行きましょう。まず、三美津代子。もし彼女が犯人だとしたら、赤貫を殺すタイミングは22時半から24時の間ということになる。理由は、戸田賀が22時半ごろに生きた赤貫を目撃しているから。要するに、一度自室に戻った後、もう一回赤貫の部屋に行き殺害を行ったということです。
次に、戸田賀華太。もしこいつが犯人だとしたら、当然殺したのは自身が訪れた22時半ごろとなる。要するに、刑事に対して堂々と嘘をついたわけだ。
で、最後、羽切紀霊が犯人の場合。わざわざ説明する必要はないと思うが、殺したのは24時ごろだろう。赤貫の部屋に約束通りいき、そのまま赤貫を殺害したということだ。
多少ややこしいのは三美だけで、後は自分が訪れた時刻に赤貫を殺しているってことだな」
「そうそう、そこは特に間違ってないよ。というか滝先生、これくらい少し考えれば誰でもわかりますよ。教師なんですしもう少ししゃっきりしてくださいよ」
「ううー、そんなこと言われたってわからないものは分からないよ。ああでも、それだけ教えてくれたんだし、自分でも何かしらの推理はしたいからちょっと待っててね」
ムムムと言いながら考え込む多多岐。そんな彼を横目で見ながら、俺は礼人を挑発するように言った。
「そういえば礼人、お前はこの事件の犯人を当てろと言っているが、もう一つ解明しないといけないことが残っているだろ」
「アハハ……さすが千里、いろいろと考えてるみたいだね。ちなみに、その解明しないといけないことっていうのは?」
「赤貫斗馬斗が発明したという『すっごいトマトジュース』。それが何かということだ」
礼人は冷や汗を流しながら、上ずった声で肯定する。
「そうだね……それが分からないとこの事件の全貌を理解することはできないよね」
「まあ、俺の推理を楽しみにしてるんだな」
俺たち二人の会話は、思考に没頭していた多多岐には聞こえなかったらしい。特に口を挟むことなく、何やら呟いている。俺が彼へと視線を移していると、突然礼人が明るい声を上げた。俺が一瞬視線を外した間に、元気を回復したらしい。
「じゃあ滝先生が自分なりの推理を思いついた時点で、解決編の開始と行きますか。そうだ、せっかくなので僕から決め台詞を。
『以上の語りから、赤貫斗馬斗殺害の真犯人を特定するに充分なデータが出揃いました。ご拝聴の皆様につきましては、自身が入手した手掛かりを一つ一つ吟味し、真相へとつながる唯一つの道筋を探し出してください。それでは、武運をお祈りいたします』
『トマトジュース館の殺人』の問題編を聞き終わり、俺はもう一人の探偵役である多多岐を見据えた。
多多岐は両手で頭を抱えこみ、いかにも分かりませんと言ったポーズをとっている。その見るに堪えない滑稽な姿に憐れみを覚え、俺は「要点を整理しましょう」と言った。
「まず時系列を追ってみましょうか。
22時ごろ、三美津代子が赤貫の部屋へ。いろいろあって三美は赤貫をトマトナイフで刺してしまい、赤貫は腹から血を流して倒れ込む。その後、三美は赤貫の生死を確認せずに逃亡、次の日まで自室にこもる。
↓
22時30分ごろ、戸田賀華太が赤貫の部屋へ。これは本来予定していた時刻より早かったらしい。そこで戸田賀は、生きた赤貫を目撃。その後赤貫の部屋に居座ることはなく、すぐに自室へと引き返し、そのまま一晩を寝て過ごす。
↓
24時ごろ、羽切紀霊が赤貫の部屋へ。羽切は部屋に入った直後、トマトジュースまみれの床で倒れている赤貫を目撃。脈をとって死んでいることを確認すると、若干時間を空けて24時半ごろ警察に通報。その後は他二人と同様、自室にこもって一晩を明かす。
おおよその容疑者の動きはこんな感じですね。そうだ、一つ今更な質問をさせてもらうが、赤貫の死亡推定時刻ってどうなってるんだ?」
「死亡推定時刻は当日の21時から次の日の午前1時だよ。要するに、全員犯人足りえるってことだね」
俺は礼人の言葉に頷くと、とりあえず思案し始めたらしい多多岐へと視線を向けた。
「それで、先生はまだ何か疑問とかありますか。なければさっさと解決編に入りたいのですが」
両手を顔の前でぶんぶんと振りながら、多多岐が否定の声を上げる。
「まだダメ! 僕は全然推理がまとまってないよ。センちゃんもうちょっと要約してくれよ。事件に関係ありそうなところだけ抜き出してパパッと」
「はぁ、別にいいですけど。そうですね……ヒントと言えるのは、礼人が補足説明のように話していた、警察の調査によって分かったことですかね。具体的には、三美が刺したと証言していたのと同じ場所に刺し傷があったこと。赤貫の死体の腹部もトマトジュースでぬれていたこと。赤貫の替えの服がなかったこと、ですね。後は、各人の行動を追っていけば結論に至るかと」
「う、ううン……。それってホントにヒントなの? いまだに全然わからない……。というか、仮にこの容疑者の中に犯人がいるとしたら、皆どのタイミングで赤貫さんを殺したってことになるの?」
「それぐらいは自分で考えてほしいですが、面倒なので説明しましょう。礼人、もしここの推理が間違ってたらさっさと言ってほしい。考えを一から改めないといけなくなるからな」
「了解。まあでもそれぐらいは分かってもらえないと、犯人を当てるなんて夢のまた夢だしね。軽く説明しちゃって言いんじゃないかな」
礼人はあっさりと承諾する。
グラスに入った麦茶を飲み干すと、俺は指を三本立ててみせた。
「一人ずつ行きましょう。まず、三美津代子。もし彼女が犯人だとしたら、赤貫を殺すタイミングは22時半から24時の間ということになる。理由は、戸田賀が22時半ごろに生きた赤貫を目撃しているから。要するに、一度自室に戻った後、もう一回赤貫の部屋に行き殺害を行ったということです。
次に、戸田賀華太。もしこいつが犯人だとしたら、当然殺したのは自身が訪れた22時半ごろとなる。要するに、刑事に対して堂々と嘘をついたわけだ。
で、最後、羽切紀霊が犯人の場合。わざわざ説明する必要はないと思うが、殺したのは24時ごろだろう。赤貫の部屋に約束通りいき、そのまま赤貫を殺害したということだ。
多少ややこしいのは三美だけで、後は自分が訪れた時刻に赤貫を殺しているってことだな」
「そうそう、そこは特に間違ってないよ。というか滝先生、これくらい少し考えれば誰でもわかりますよ。教師なんですしもう少ししゃっきりしてくださいよ」
「ううー、そんなこと言われたってわからないものは分からないよ。ああでも、それだけ教えてくれたんだし、自分でも何かしらの推理はしたいからちょっと待っててね」
ムムムと言いながら考え込む多多岐。そんな彼を横目で見ながら、俺は礼人を挑発するように言った。
「そういえば礼人、お前はこの事件の犯人を当てろと言っているが、もう一つ解明しないといけないことが残っているだろ」
「アハハ……さすが千里、いろいろと考えてるみたいだね。ちなみに、その解明しないといけないことっていうのは?」
「赤貫斗馬斗が発明したという『すっごいトマトジュース』。それが何かということだ」
礼人は冷や汗を流しながら、上ずった声で肯定する。
「そうだね……それが分からないとこの事件の全貌を理解することはできないよね」
「まあ、俺の推理を楽しみにしてるんだな」
俺たち二人の会話は、思考に没頭していた多多岐には聞こえなかったらしい。特に口を挟むことなく、何やら呟いている。俺が彼へと視線を移していると、突然礼人が明るい声を上げた。俺が一瞬視線を外した間に、元気を回復したらしい。
「じゃあ滝先生が自分なりの推理を思いついた時点で、解決編の開始と行きますか。そうだ、せっかくなので僕から決め台詞を。
『以上の語りから、赤貫斗馬斗殺害の真犯人を特定するに充分なデータが出揃いました。ご拝聴の皆様につきましては、自身が入手した手掛かりを一つ一つ吟味し、真相へとつながる唯一つの道筋を探し出してください。それでは、武運をお祈りいたします』
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
三年目の離婚から始まる二度目の人生
あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。
三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。
理由はただ一つ。
“飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。
女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。
店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。
だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。
(あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……)
そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。
これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。
今度こそ、自分の人生を選び取るために。
ーーー
不定期更新になります。
全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる