即興ミステリ

天草一樹

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所詮は即興ミステリ(Perfect solution?)

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 礼人の言葉を聞き、俺は大きく安堵の息を漏らすと、ぐったりと体を後ろに倒した。

「全く、面倒な問題を作ったもんだ。せっかくの俺の貴重な休みが随分潰れちまっただろ」

 そう文句を言うとすぐに体を起こし、俺は人差し指を礼人に向けた。

「だが礼人。正直今の問題はかなり危うかったぞ。俺だから犯人を絞り込めたものの、一般の奴らじゃそこのダメ教師の様に穴だらけの解答しかできなかったはずだ。お前、この問題、どれぐらいの時間かけて作ったんだ?」

「ダメ教師って……センちゃんひどい」

 多多岐がまたいじけ始めたが、これは無視だ。どうせ数秒すれば立ち直る。

「うーん、六限の授業中ずっと考えてたから、大体五十分くらいかな」

「さっすがレイちゃん! こんな難しい問題をそんな短時間で作るなんて、やっぱり優秀だねぇ」

「違いますよ先生。この問題が難しかったのは、こいつが細部まで煮詰めて考えなかったからです。要するに、必要な情報が少なすぎたんですよ。そのせいで、一部飛躍した推理を行わないと解決にたどり着けないようになっていたんだ。即興ミステリ故の完成度の低さ、それこそが最大のトリックだったわけですよ。さて、問題も解き終わりましたし、俺は帰らせてもらいます。それじゃあ、クッキーごちそうさまでした」

 えーもっと話していこうよー、とわめいているダメ教師を置いて、俺は素早く保健室を出る。が、保健室を出てすぐに立ち止まると、近くの壁に背を預けて、しばらくの間動かないでいた。

 数分後、保健室の扉が再び開き、中から上機嫌の礼人が飛び出してきた。廊下をきょろきょろと見まわしたあいつは、すぐに俺のことを見つけると、飼い主に突進する馬鹿犬のような勢いで突っ込んできた。ギリギリのタイミングで礼人の突進をかわすと、俺は礼人の首根っこをつかみ、無理やり横に並ばせた。

「千里、わざわざ俺が出てくるのを待ってくれたんだね!」

「……いくつか質問したいことがあったんだよ」

 礼人の喜び勇んだ表情にイライラを感じながら、俺は淡々と質問する。

「実際、お前が考えていた答えって何だったんだ。俺の答えが間違っているとは思わないが、お前の考えと全く一緒、というわけはないだろ」

 一転、礼人は困ったような表情に変わると、俺をちらちら見つめながら小声で聞いてきた。

「それって、言わないとだめ?」

「ダメだ」

 断固とした口調で答える。すると、礼人は渋々と言った様子で、ぼそりと呟いた。

「ないよ」

「……何?」

 聞き間違えたのかと思い、俺はもう一度聞きなおす。

「今、なんて言った」

「だから、僕が考えていた答えなんて、特にないよ」

 は? 俺は頭の中で、いくつもの疑問符が浮かび上がるのを感じた。

 答えが、ない?

 それは一体どういうことだ?

 思考がまとまらず、ぐるぐると同じことを考え続ける俺に対し、礼人は言葉を続けた。

「ないって言ったけど、無数にある、ともいえるかな。単に、これが正しいって答えは用意してなかったってこと。僕としては、なんか推理ができそうな舞台と証言を思いついたから、それを千里がどう解釈するのか知りたくて、この問題を解いてもらったんだ。それこそ、僕が考えつかなかった完全な答えを導きだしてくれるかと思って。まあ、さすがの千里でもそれは無理だったみたいだけど」

「無理だった? あれが間違った解答だとでもいうのか」

「ううん、別に間違ってはないよ。千里の解答は、僕が考えていた中でもベストな解答だった。ただ、完璧な解答ではなかったっていうだけ」

「どこが、完璧じゃなかったっていうんだ」

 声が震えそうになるのを、俺は必死にこらえながら聞く。

「例えば、羽切さんが犯人だとしたら、どうして警察に通報なんてしたのかってこととか。警察に通報せずに、朝何食わぬ顔でみんなと合流して赤貫さんの死体を発見すればよかったよね。そのうえで、24時の時点では赤貫さんは生きていたと証言すればよかった」

「そ、それは、死亡推定時刻から妙な勘繰りをされるのを避けるために……」

「24時に部屋に行ったけど、すぐに帰されました。後のことは知りませんって言っておけば問題なくない?死亡推定時刻って大体数時間の範囲があるから、そこから羽切さんに疑いが行くようなことにはならなかったと思うよ」

「それだと、三美に疑いを向けづらくなるだろ。羽切は赤貫が死んでいたと証言するしかなかったんだ」

「うーん、じゃあそれはそれでいいとして、他にもあるよ。羽切さんが赤貫さんを殺すにしても、どうして着替えや床の掃除をした後に殺さなかったのか。どうして戸田賀が見たトマトジュース瓶を隠してしまったのか。中身だけ捨てて別のトマトジュースを入れておけばよかったのに。まだまだあるけど、とりあえずはこのくらいでいいかな、千里の解答からじゃ説明できないこと」

「それらは全部! お前が十分なヒントを他に作っておいてくれなかったからだろうが! 俺が悪いわけじゃない!」

 堪えきれず激昂する俺を、礼人が悲しそうな瞳で見つめてくる。

「別に千里が悪いなんて言ってないよ。ただ、完璧な解答ではなかったってだけの話で。それに……うん、結局は僕の準備不足だったわけだからね! 千里が落ち込むことじゃないよ! よぉし、今度は千里を満足させられるような問題を作るぞ! というわけで、じゃあね千里、今日はとっても楽しかったよ」

 そう言って、礼人は俺の手から抜け出し、走って廊下を去っていった。

 俺は、礼人がいなくなった方を見ながら、拳を強く握りしめた。

「結局、俺はお前の期待に応えられなかった。そういうことなんだろ……」
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