八角館殺人事件

天草一樹

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20:元凶と回想

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 僕らの住む村には、角島にあるかの有名な館を模倣して建てられた『八角館』なる建物が存在する。八角館を建てたのは村で変わり者として有名な小村赤司という男。村のはずれの山奥に、いつのまにやら建てていたとか。

 八角館の外観は、名前の通り装飾も何も施されていない武骨な正八角形の建物。あまりのシンプルさから一見するとただの倉庫のようにも見えてしまう。いや、実際ただの倉庫なのかもしれない。というのもこの館の中に入ったものは誰一人としていないのだ。

 勿論館を建てた張本人である小村は別だが、それ以外に館の中を見た者はいない。先に言った通り、八角館はいつの間にか建てられていたからだ。

 そもそも八角館の建てられた場所は村人も早々立ち入らないような山奥。小村自身が八角館なる建物を建てたことを吹聴し、それに興味を持つもの好きがいなければ半永久的に見つけられることすらなかっただろう。

 要するに何が言いたいのかと言えば、八角館は小村以外誰もその詳細を知らず、そして近寄ることすらしない魔境の館だったのである。

 だから、あの陰惨な事件の真犯人は八角館だったのかもしれない、と今では考える。

 あの魔境の館こそが、一人の男を『ゴースト』という殺人者に変えてしまったのだと。

 ――いや、これは僕の身勝手な責任転嫁に過ぎない。僕にほんの少しでも勇気があれば、あの惨劇は起こらなかった。

 八角館は、僕にとって弱さと後悔の象徴である。これからの道を進んでいくうえでまた同じ後悔をしないために、改めて僕はあの惨劇を振り返る。取り返しのつかない過去も、未来の惨劇を防ぐ架け橋になると信じて。
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