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第2怪:真珠蜘蛛
聞き込み
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「いや凄いですね石神さん! あんな堂々とホンファさんに応じられるなんて! 俺内心めっちゃビビってましたよ!」
隊員間での挨拶も済み、さっそく真珠蜘蛛の調査に向かう――かと思いきや、二宮が第四の隊員だけで話をしたいと提案したため、しばしの待機時間となった。
去り際、二宮から目配せされる。今のうちに各隊員と交流を深め、裏切者がだれか絞り込めと言いたいらしい。
さて誰から話しかけるかと二人で顔を見合わせていると、第一部隊の伏見が声をかけてきた。
第六の隊員が普段向けられることのないキラキラした瞳。先の宗吾とホンファのやり取りに感動していたようだ。
宗吾は人当たりのいい笑みを浮かべ、「普通に接しただけですよ」と謙遜した。
「いやいや! あんな怪獣の姿見たら普通動揺しまくりっすよ! しかも握手の時だって怪獣化したままだったし! めっちゃ好戦的だったじゃないっすか!」
「単純に警戒されてただけだと思いますよ。彼女からしたら周りに他国の兵士しかいない状況なわけで、力を誇示するのは当然のことですから。あそこで身構えたら、より警戒させることになったかもしれませんし」
「そりゃそうですけど、実際その通りに動けるのは別というか、マジ尊敬っす! 俺かなりビビりなんで真珠蜘蛛が来るのを見たときなんか――」
より一層目を輝かせる伏見。
若干蚊帳の外に置かれた刹亜は、こいつ声でけえなと、どうでもいい感想を抱いた。それを察してか、宗吾が口パクで「ここは任せて」と伝えてくる。
刹亜はそっと頷きを返すと、静かにその場を離れ周りを見回した。
第四部隊は密談中のため、話しかけるなら第五部隊の佐々木か第六部隊の斎藤の二択。
戦艦亀での一件を思い出し、ひとまずは佐々木に声をかけるかと歩き出した。
先ほどまでいたのとは別の、物置のような部屋で、佐々木は白衣が汚れるのも構わず床に寝転がっていた。
白衣で隠れた手は、今ではまるっきり見ることのなくなった稀少アイテム――携帯ゲーム機を握っており、彼女の視線もゲーム画面に釘付けだった。
部屋に入ってきた刹亜にも気づかず、彼女は夢中でゲームを遊んでいる。
いくら安全な拠点内とはいえ、近くに真珠蜘蛛もいる上に、そもそも任務の最中。よくこれだけ気を抜いていられるなと、刹亜は大きなため息を漏らした。
「えーと、お楽しみのところ悪いんだが、ちょっと話いいか?」
「……」
「おーい、聞こえてねえのか? ちょっと話がしたいからそれやめてこっち見てもらいたいんだが」
「……」
「……せい」
「ふびゃあ!」
思い切り背中を踏みつけると、汚い断末魔の叫びをあげ、エビぞりに飛び跳ねる。しかしその手はしっかりとゲーム機を握ったままであり、視線も画面から全く外れていなかった。
こいつ、怪獣に襲われてもゲーム優先すんじゃねえのか? と不安になりながら再度足を振り上げると、「あと十五分だけ待って!」と返された。
「無理だ。あと五秒なら待つけど」
「せめて五分!」
「5、4、3、2――」
「わー! セーブだけ! セーブだけさせて!」
「1、0」
「ふびゃあ!」
狭い物置部屋で、再び盛大な断末魔の声が響き渡った。
「いや君さー、少し容赦なさすぎじゃない?」
悲しげな表情でゲーム機を撫でながら、佐々木は唇を尖らせた。
「こんな見るからにか弱い女の子にこの仕打ち。これは血も涙もない怪獣の所業だと思うなー」
「部屋入ってきたのが怪獣だったらとっくにあの世行きだぞ。それに比べりゃ全然優しいだろ」
「でも君は怪獣じゃないでしょ? なら女の子にはもっと優しく接しないとー」
「女どうこう以前に職務放棄してゲームしてる奴いたら踏んづけられて当然だろ」
「別にいいじゃん。今は休憩中なんだからー」
「だとしてもこの場でゲームすんのは違うだろ。つうか何やってたんだ?」
「モンスターハンター」
「……それはリアルでやれよ」
今だからこそできるツッコミを入れたところで、刹亜は本題に切り替えた。
「これから真珠蜘蛛を調べる前に、いくつか聞いておきたいことがあってきたんだが、話いいか?」
「別にいいけど。何が聞きたいのー?」
「そもそもの話なんだが、俺らってここで何すりゃいいんだ?」
手抜きとしか思えないざるな指示書には、現在の真珠蜘蛛での具体的な調査内容など何も書かれていなかった。既に大型の重機は撤収しており、真珠蜘蛛から素材を回収することはできない。しかもこうして集められたメンバーを見てみれば、第五所属の研究者は目の前にいる佐々木のみ。現地で真珠蜘蛛の研究を進めているわけでもなさそうだった。
果たしてこのメンバーで真珠蜘蛛の中に入って一体何をしているのか。そもそもこいつらはどんな理由でここに足止めされているのか。
そんな刹亜の疑念を知る由もない佐々木は、ジト目で見返してきた。
「ちょっと君ー。人のことサボり魔みたいに言っておきながら、自分は任務の内容すら把握していないとかどうなのかなー。これは謝罪案件じゃないのー」
「それは違う。任務の内容を知らないのはちゃんと説明しない上が悪いんであって、俺の責任じゃない」
「うわー、責任転嫁いけないんだー。ま、上層部の指示が雑なのは異論ないけどねー」
佐々木はしばらくけたけた笑ってから質問に答えた。
「うちらの任務は真珠蜘蛛の監視だよー。毎日中に入って、昨日までと差がないか確認するわけ」
「監視って、真珠蜘蛛は死んでるんじゃないのか?」
「あっちの国はそう言ってるみたいだねー。でも本当に死んでる保証はないからさー。戦艦亀の例もあるし、大怪獣は死んだかどうかの判定が難しいからねー。念のため、うちらが毎日変化してないことを確認しに回ってるわけ」
「成程な」
容疑者たちを現場に留める魔法の言葉の正体は「真珠蜘蛛の死亡確認」だったわけだ。確かにこれなら容疑者たちに違和感を持たせることなく長期拘留ができる。まあ、なぜ自分がという思いは抱くだろうが。
そこのところ、実際どう考えているのか。刹亜は率直に尋ねてみた。
「で、どういう基準で選ばれたんだ? まさか挙手制じゃねえよな?」
「そりゃそうだよ。もし死んでなかったら真っ先に殺されるんだし。そもそもこんな怪獣がうようよしてる場所に残りたい人なんていないよー」
「じゃあどういう選抜理由なんだ?」
「さあねー。他の人がどうして選ばれてるのかは聞いてないから知らないかなー」
「他はともかくお前はどうなんだよ」
佐々木は気まずそうに目を背けた。
「私は……その、仕事サボってゲームしてるのがばれて……」
「やっぱサボり魔じゃねえか」
隊員間での挨拶も済み、さっそく真珠蜘蛛の調査に向かう――かと思いきや、二宮が第四の隊員だけで話をしたいと提案したため、しばしの待機時間となった。
去り際、二宮から目配せされる。今のうちに各隊員と交流を深め、裏切者がだれか絞り込めと言いたいらしい。
さて誰から話しかけるかと二人で顔を見合わせていると、第一部隊の伏見が声をかけてきた。
第六の隊員が普段向けられることのないキラキラした瞳。先の宗吾とホンファのやり取りに感動していたようだ。
宗吾は人当たりのいい笑みを浮かべ、「普通に接しただけですよ」と謙遜した。
「いやいや! あんな怪獣の姿見たら普通動揺しまくりっすよ! しかも握手の時だって怪獣化したままだったし! めっちゃ好戦的だったじゃないっすか!」
「単純に警戒されてただけだと思いますよ。彼女からしたら周りに他国の兵士しかいない状況なわけで、力を誇示するのは当然のことですから。あそこで身構えたら、より警戒させることになったかもしれませんし」
「そりゃそうですけど、実際その通りに動けるのは別というか、マジ尊敬っす! 俺かなりビビりなんで真珠蜘蛛が来るのを見たときなんか――」
より一層目を輝かせる伏見。
若干蚊帳の外に置かれた刹亜は、こいつ声でけえなと、どうでもいい感想を抱いた。それを察してか、宗吾が口パクで「ここは任せて」と伝えてくる。
刹亜はそっと頷きを返すと、静かにその場を離れ周りを見回した。
第四部隊は密談中のため、話しかけるなら第五部隊の佐々木か第六部隊の斎藤の二択。
戦艦亀での一件を思い出し、ひとまずは佐々木に声をかけるかと歩き出した。
先ほどまでいたのとは別の、物置のような部屋で、佐々木は白衣が汚れるのも構わず床に寝転がっていた。
白衣で隠れた手は、今ではまるっきり見ることのなくなった稀少アイテム――携帯ゲーム機を握っており、彼女の視線もゲーム画面に釘付けだった。
部屋に入ってきた刹亜にも気づかず、彼女は夢中でゲームを遊んでいる。
いくら安全な拠点内とはいえ、近くに真珠蜘蛛もいる上に、そもそも任務の最中。よくこれだけ気を抜いていられるなと、刹亜は大きなため息を漏らした。
「えーと、お楽しみのところ悪いんだが、ちょっと話いいか?」
「……」
「おーい、聞こえてねえのか? ちょっと話がしたいからそれやめてこっち見てもらいたいんだが」
「……」
「……せい」
「ふびゃあ!」
思い切り背中を踏みつけると、汚い断末魔の叫びをあげ、エビぞりに飛び跳ねる。しかしその手はしっかりとゲーム機を握ったままであり、視線も画面から全く外れていなかった。
こいつ、怪獣に襲われてもゲーム優先すんじゃねえのか? と不安になりながら再度足を振り上げると、「あと十五分だけ待って!」と返された。
「無理だ。あと五秒なら待つけど」
「せめて五分!」
「5、4、3、2――」
「わー! セーブだけ! セーブだけさせて!」
「1、0」
「ふびゃあ!」
狭い物置部屋で、再び盛大な断末魔の声が響き渡った。
「いや君さー、少し容赦なさすぎじゃない?」
悲しげな表情でゲーム機を撫でながら、佐々木は唇を尖らせた。
「こんな見るからにか弱い女の子にこの仕打ち。これは血も涙もない怪獣の所業だと思うなー」
「部屋入ってきたのが怪獣だったらとっくにあの世行きだぞ。それに比べりゃ全然優しいだろ」
「でも君は怪獣じゃないでしょ? なら女の子にはもっと優しく接しないとー」
「女どうこう以前に職務放棄してゲームしてる奴いたら踏んづけられて当然だろ」
「別にいいじゃん。今は休憩中なんだからー」
「だとしてもこの場でゲームすんのは違うだろ。つうか何やってたんだ?」
「モンスターハンター」
「……それはリアルでやれよ」
今だからこそできるツッコミを入れたところで、刹亜は本題に切り替えた。
「これから真珠蜘蛛を調べる前に、いくつか聞いておきたいことがあってきたんだが、話いいか?」
「別にいいけど。何が聞きたいのー?」
「そもそもの話なんだが、俺らってここで何すりゃいいんだ?」
手抜きとしか思えないざるな指示書には、現在の真珠蜘蛛での具体的な調査内容など何も書かれていなかった。既に大型の重機は撤収しており、真珠蜘蛛から素材を回収することはできない。しかもこうして集められたメンバーを見てみれば、第五所属の研究者は目の前にいる佐々木のみ。現地で真珠蜘蛛の研究を進めているわけでもなさそうだった。
果たしてこのメンバーで真珠蜘蛛の中に入って一体何をしているのか。そもそもこいつらはどんな理由でここに足止めされているのか。
そんな刹亜の疑念を知る由もない佐々木は、ジト目で見返してきた。
「ちょっと君ー。人のことサボり魔みたいに言っておきながら、自分は任務の内容すら把握していないとかどうなのかなー。これは謝罪案件じゃないのー」
「それは違う。任務の内容を知らないのはちゃんと説明しない上が悪いんであって、俺の責任じゃない」
「うわー、責任転嫁いけないんだー。ま、上層部の指示が雑なのは異論ないけどねー」
佐々木はしばらくけたけた笑ってから質問に答えた。
「うちらの任務は真珠蜘蛛の監視だよー。毎日中に入って、昨日までと差がないか確認するわけ」
「監視って、真珠蜘蛛は死んでるんじゃないのか?」
「あっちの国はそう言ってるみたいだねー。でも本当に死んでる保証はないからさー。戦艦亀の例もあるし、大怪獣は死んだかどうかの判定が難しいからねー。念のため、うちらが毎日変化してないことを確認しに回ってるわけ」
「成程な」
容疑者たちを現場に留める魔法の言葉の正体は「真珠蜘蛛の死亡確認」だったわけだ。確かにこれなら容疑者たちに違和感を持たせることなく長期拘留ができる。まあ、なぜ自分がという思いは抱くだろうが。
そこのところ、実際どう考えているのか。刹亜は率直に尋ねてみた。
「で、どういう基準で選ばれたんだ? まさか挙手制じゃねえよな?」
「そりゃそうだよ。もし死んでなかったら真っ先に殺されるんだし。そもそもこんな怪獣がうようよしてる場所に残りたい人なんていないよー」
「じゃあどういう選抜理由なんだ?」
「さあねー。他の人がどうして選ばれてるのかは聞いてないから知らないかなー」
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