38 / 40
第2怪:真珠蜘蛛
裏切者は
しおりを挟む
「マタセタ」
高倉襲撃から三十分程が経ったころ、ようやくホンファが帰還した。
無事に戻ってきたことに対し安堵の表情を浮かべる者もいる一方、伏見を筆頭に疑いの目を向ける者もちらほら。
一角鷹に変身できるホンファであれば、真珠蜘蛛が巨大とはいえ、直線距離なら一分もかからず移動が可能だ。勿論蜘蛛の糸が張り巡らされている上に、巨大蜘蛛が隠れていないか、安全に脱出できる経路があるかも調べていたため、時間がかかり過ぎているというほどではない。
が、高倉襲撃時に唯一この場にいなかったことや、これまでの立ち回りからして、何をしていたのか疑いたくなるには十分すぎる時間ともいえた。
「成果はあったか」
二宮が尋ねる。
ホンファは変身を解きながら頷いた。
「セイカハアル。タダ、イイシラセデハナイ」
「悪い知らせか。具体的に何を見てきた」
「ニジュウヨンタイノキョダイグモトソウグウシタ。スベテコロシタガ、イマココデ、アラタニキョダイグモガハッセイシツヅケテイルカモシレナイ」
「……そうか」
流石の二宮も表情が曇る。
今なお怪獣の発生原因は不明。一度確認された怪獣がその後自然消滅することはないが、未知・既存の怪獣が唐突に何もない場所に出現する事例は無数にある。
つまり今、真珠蜘蛛内部で巨大蜘蛛が大量発生してもおかしくはないということ。
一刻も早い脱出が必要と感じたのか、二宮は口早に指示を出した。
「急ぎここから撤退する。ホンファ、全速で佐々木と石神、折原を出口まで運んでくれ」
「ショウチシタ」
ホンファが刹亜たちに足を向ける。
そして再び変身しようとした直後、宗吾が手を挙げ、
「裏切者が分かりました。撤退する前に、共有させていただいてもいいですか」
「ほ、ほんとっすか!」
宗吾の宣言に伏見が目を見開いて反応する。
一方、二宮は僅かに眉を寄せた。急いでいると言った直後であり、なぜこのタイミングなのかと不満を覚えている様子だった。
しかし宗吾に対しある程度の信頼を抱いているらしく、否定せず問い返してきた。
「共有、か。それなら先に裏切者を拘束すべきだったんじゃないか。それとも、お前たちだけでは拘束することが困難な相手が裏切者か?」
二宮は視線をホンファに向ける。
疑いの目を向けられるも、ホンファの様子に変化はない。まるで今の話が聞こえていないかのように、無感情で疑惑の視線を受け止めている。
彼女をかばうように前に出ると、宗吾は静かに首を振った。
「そんな危険な相手なら、なおさらここで言ったりしませんよ」
「危険でない人ってなると、それはそれで絞られる気もするっすけど……」
伏見が口を挟む。
実際、暴れられてもすぐに拘束できる人物など、この場には一人しかいない。
自然と皆の目がひょろりとした体の佐々木に向かう。
急に注目を浴び、彼女はびっくりした様子で何度も瞬きする。
無意識に後ずさり始めた彼女を安心させようと、宗吾は笑顔で首を振った。
「佐々木さんでもありません。彼女は僕とずっと行動を共にしていましたし、その間に怪しい動きもありませんでしたから」
「じゃ、じゃあいったい誰が」
「難しい話じゃありません。この中にいない隊員が裏切者だったんですよ」
「この中にいない隊員? まさか、俺たちの知らない隊員が潜んでるってことっすか!?」
ここにるメンバーが知らない第三者がいる可能性。
伏見にとってそれ完全に盲点だったらしく、驚きと興奮で頬を上気させている。
ただ宗吾は、笑顔で首を横に振った。
「違います。裏切者は、斎藤洋司さんですよ」
「は!??」
伏見が馬鹿みたいに口を開き固まる。
もちろん驚いたのは彼だけでなく、大石も驚愕の表情で固まっていた。
しばらくして驚きから回復した伏見が、不格好な笑みを浮かべながら言った。
「そ、そう言えば石神さんは斎藤さんの死体を生で見てなかったっすね。申し訳ないんすけど、それはあり得ないと思うっすよ」
「なぜですか?」
「言いづらいっすけど、生首だったんすよ。撃たれたとか刺されたとか、そんなレベルじゃなくて首と胴体が完全に分離してて。あれで生きてられる人間はいないっす」
同意を求めるように伏見は大石や刹亜に目を向ける。
大石も伏見に完全同意らしく、「ああ、間違いなく斎藤は死んでいた」と断言。刹亜も小さく頷き、「生きてるようには見えなかったな」と同意した。
伏見はほっとしたような、しかしどこか残念そうに「やっぱり、その推理は間違ってますよ」と返す。
宗吾は否定も肯定もせず、二宮とホンファにも尋ねた。
「お二人はどうですか? 斎藤さんは死んでいたと思いますか?」
「死んでいたな。間違いなく」
「ワタシモオナジクダ。タダ……」
彼女にしては珍しく、少し迷ったように顔を俯かせる。
「ただ?」
「キレイスギタコトハ、キニナッテイル」
「ああ、そういやそんな話もしたな」
刹亜は改めて、斎藤の生首に切断面以外の傷が全くなかったことを説明した。ただ怪獣に襲われたのなら、もっと悲惨な状態だったはずだと。
その話を聞き、宗吾は満足そうに頷いた。
「刹亜ありがとう。おかげでより推理に確信を持てたよ」
「いやいや、確かに気になる話っすけど、だからって斎藤さんが生きてることにはならないんじゃ。まさかあの生首は偽物だったとか言わないっすよね」
「いえ、そのまさかですよ」
「え?」
「斎藤さんの生首は真珠蜘蛛によって作り出された偽物、いえ、真珠だったんですよ」
高倉襲撃から三十分程が経ったころ、ようやくホンファが帰還した。
無事に戻ってきたことに対し安堵の表情を浮かべる者もいる一方、伏見を筆頭に疑いの目を向ける者もちらほら。
一角鷹に変身できるホンファであれば、真珠蜘蛛が巨大とはいえ、直線距離なら一分もかからず移動が可能だ。勿論蜘蛛の糸が張り巡らされている上に、巨大蜘蛛が隠れていないか、安全に脱出できる経路があるかも調べていたため、時間がかかり過ぎているというほどではない。
が、高倉襲撃時に唯一この場にいなかったことや、これまでの立ち回りからして、何をしていたのか疑いたくなるには十分すぎる時間ともいえた。
「成果はあったか」
二宮が尋ねる。
ホンファは変身を解きながら頷いた。
「セイカハアル。タダ、イイシラセデハナイ」
「悪い知らせか。具体的に何を見てきた」
「ニジュウヨンタイノキョダイグモトソウグウシタ。スベテコロシタガ、イマココデ、アラタニキョダイグモガハッセイシツヅケテイルカモシレナイ」
「……そうか」
流石の二宮も表情が曇る。
今なお怪獣の発生原因は不明。一度確認された怪獣がその後自然消滅することはないが、未知・既存の怪獣が唐突に何もない場所に出現する事例は無数にある。
つまり今、真珠蜘蛛内部で巨大蜘蛛が大量発生してもおかしくはないということ。
一刻も早い脱出が必要と感じたのか、二宮は口早に指示を出した。
「急ぎここから撤退する。ホンファ、全速で佐々木と石神、折原を出口まで運んでくれ」
「ショウチシタ」
ホンファが刹亜たちに足を向ける。
そして再び変身しようとした直後、宗吾が手を挙げ、
「裏切者が分かりました。撤退する前に、共有させていただいてもいいですか」
「ほ、ほんとっすか!」
宗吾の宣言に伏見が目を見開いて反応する。
一方、二宮は僅かに眉を寄せた。急いでいると言った直後であり、なぜこのタイミングなのかと不満を覚えている様子だった。
しかし宗吾に対しある程度の信頼を抱いているらしく、否定せず問い返してきた。
「共有、か。それなら先に裏切者を拘束すべきだったんじゃないか。それとも、お前たちだけでは拘束することが困難な相手が裏切者か?」
二宮は視線をホンファに向ける。
疑いの目を向けられるも、ホンファの様子に変化はない。まるで今の話が聞こえていないかのように、無感情で疑惑の視線を受け止めている。
彼女をかばうように前に出ると、宗吾は静かに首を振った。
「そんな危険な相手なら、なおさらここで言ったりしませんよ」
「危険でない人ってなると、それはそれで絞られる気もするっすけど……」
伏見が口を挟む。
実際、暴れられてもすぐに拘束できる人物など、この場には一人しかいない。
自然と皆の目がひょろりとした体の佐々木に向かう。
急に注目を浴び、彼女はびっくりした様子で何度も瞬きする。
無意識に後ずさり始めた彼女を安心させようと、宗吾は笑顔で首を振った。
「佐々木さんでもありません。彼女は僕とずっと行動を共にしていましたし、その間に怪しい動きもありませんでしたから」
「じゃ、じゃあいったい誰が」
「難しい話じゃありません。この中にいない隊員が裏切者だったんですよ」
「この中にいない隊員? まさか、俺たちの知らない隊員が潜んでるってことっすか!?」
ここにるメンバーが知らない第三者がいる可能性。
伏見にとってそれ完全に盲点だったらしく、驚きと興奮で頬を上気させている。
ただ宗吾は、笑顔で首を横に振った。
「違います。裏切者は、斎藤洋司さんですよ」
「は!??」
伏見が馬鹿みたいに口を開き固まる。
もちろん驚いたのは彼だけでなく、大石も驚愕の表情で固まっていた。
しばらくして驚きから回復した伏見が、不格好な笑みを浮かべながら言った。
「そ、そう言えば石神さんは斎藤さんの死体を生で見てなかったっすね。申し訳ないんすけど、それはあり得ないと思うっすよ」
「なぜですか?」
「言いづらいっすけど、生首だったんすよ。撃たれたとか刺されたとか、そんなレベルじゃなくて首と胴体が完全に分離してて。あれで生きてられる人間はいないっす」
同意を求めるように伏見は大石や刹亜に目を向ける。
大石も伏見に完全同意らしく、「ああ、間違いなく斎藤は死んでいた」と断言。刹亜も小さく頷き、「生きてるようには見えなかったな」と同意した。
伏見はほっとしたような、しかしどこか残念そうに「やっぱり、その推理は間違ってますよ」と返す。
宗吾は否定も肯定もせず、二宮とホンファにも尋ねた。
「お二人はどうですか? 斎藤さんは死んでいたと思いますか?」
「死んでいたな。間違いなく」
「ワタシモオナジクダ。タダ……」
彼女にしては珍しく、少し迷ったように顔を俯かせる。
「ただ?」
「キレイスギタコトハ、キニナッテイル」
「ああ、そういやそんな話もしたな」
刹亜は改めて、斎藤の生首に切断面以外の傷が全くなかったことを説明した。ただ怪獣に襲われたのなら、もっと悲惨な状態だったはずだと。
その話を聞き、宗吾は満足そうに頷いた。
「刹亜ありがとう。おかげでより推理に確信を持てたよ」
「いやいや、確かに気になる話っすけど、だからって斎藤さんが生きてることにはならないんじゃ。まさかあの生首は偽物だったとか言わないっすよね」
「いえ、そのまさかですよ」
「え?」
「斎藤さんの生首は真珠蜘蛛によって作り出された偽物、いえ、真珠だったんですよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる