大怪獣がトリックです

天草一樹

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第2怪:真珠蜘蛛

裏切者は

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「マタセタ」

 高倉襲撃から三十分程が経ったころ、ようやくホンファが帰還した。
 無事に戻ってきたことに対し安堵の表情を浮かべる者もいる一方、伏見を筆頭に疑いの目を向ける者もちらほら。
 一角鷹に変身できるホンファであれば、真珠蜘蛛が巨大とはいえ、直線距離なら一分もかからず移動が可能だ。勿論蜘蛛の糸が張り巡らされている上に、巨大蜘蛛が隠れていないか、安全に脱出できる経路があるかも調べていたため、時間がかかり過ぎているというほどではない。
 が、高倉襲撃時に唯一この場にいなかったことや、これまでの立ち回りからして、何をしていたのか疑いたくなるには十分すぎる時間ともいえた。

「成果はあったか」

 二宮が尋ねる。
 ホンファは変身を解きながら頷いた。

「セイカハアル。タダ、イイシラセデハナイ」
「悪い知らせか。具体的に何を見てきた」
「ニジュウヨンタイノキョダイグモトソウグウシタ。スベテコロシタガ、イマココデ、アラタニキョダイグモガハッセイシツヅケテイルカモシレナイ」
「……そうか」

 流石の二宮も表情が曇る。
 今なお怪獣の発生原因は不明。一度確認された怪獣がその後自然消滅することはないが、未知・既存の怪獣が唐突に何もない場所に出現する事例は無数にある。
 つまり今、真珠蜘蛛内部で巨大蜘蛛が大量発生してもおかしくはないということ。
 一刻も早い脱出が必要と感じたのか、二宮は口早に指示を出した。

「急ぎここから撤退する。ホンファ、全速で佐々木と石神、折原を出口まで運んでくれ」
「ショウチシタ」

 ホンファが刹亜たちに足を向ける。
 そして再び変身しようとした直後、宗吾が手を挙げ、

「裏切者が分かりました。撤退する前に、共有させていただいてもいいですか」
「ほ、ほんとっすか!」

 宗吾の宣言に伏見が目を見開いて反応する。
 一方、二宮は僅かに眉を寄せた。急いでいると言った直後であり、なぜこのタイミングなのかと不満を覚えている様子だった。
 しかし宗吾に対しある程度の信頼を抱いているらしく、否定せず問い返してきた。

「共有、か。それなら先に裏切者を拘束すべきだったんじゃないか。それとも、お前たちだけでは拘束することが困難な相手が裏切者か?」

 二宮は視線をホンファに向ける。
 疑いの目を向けられるも、ホンファの様子に変化はない。まるで今の話が聞こえていないかのように、無感情で疑惑の視線を受け止めている。
 彼女をかばうように前に出ると、宗吾は静かに首を振った。

「そんな危険な相手なら、なおさらここで言ったりしませんよ」
「危険でない人ってなると、それはそれで絞られる気もするっすけど……」

 伏見が口を挟む。
 実際、暴れられてもすぐに拘束できる人物など、この場には一人しかいない。
 自然と皆の目がひょろりとした体の佐々木に向かう。
 急に注目を浴び、彼女はびっくりした様子で何度も瞬きする。
 無意識に後ずさり始めた彼女を安心させようと、宗吾は笑顔で首を振った。

「佐々木さんでもありません。彼女は僕とずっと行動を共にしていましたし、その間に怪しい動きもありませんでしたから」
「じゃ、じゃあいったい誰が」
「難しい話じゃありません。この中にいない隊員が裏切者だったんですよ」
「この中にいない隊員? まさか、俺たちの知らない隊員が潜んでるってことっすか!?」

 ここにるメンバーが知らない第三者がいる可能性。
 伏見にとってそれ完全に盲点だったらしく、驚きと興奮で頬を上気させている。
 ただ宗吾は、笑顔で首を横に振った。

「違います。裏切者は、斎藤洋司さんですよ」
「は!??」

 伏見が馬鹿みたいに口を開き固まる。
 もちろん驚いたのは彼だけでなく、大石も驚愕の表情で固まっていた。
 しばらくして驚きから回復した伏見が、不格好な笑みを浮かべながら言った。

「そ、そう言えば石神さんは斎藤さんの死体を生で見てなかったっすね。申し訳ないんすけど、それはあり得ないと思うっすよ」
「なぜですか?」
「言いづらいっすけど、生首だったんすよ。撃たれたとか刺されたとか、そんなレベルじゃなくて首と胴体が完全に分離してて。あれで生きてられる人間はいないっす」

 同意を求めるように伏見は大石や刹亜に目を向ける。
 大石も伏見に完全同意らしく、「ああ、間違いなく斎藤は死んでいた」と断言。刹亜も小さく頷き、「生きてるようには見えなかったな」と同意した。
 伏見はほっとしたような、しかしどこか残念そうに「やっぱり、その推理は間違ってますよ」と返す。
 宗吾は否定も肯定もせず、二宮とホンファにも尋ねた。

「お二人はどうですか? 斎藤さんは死んでいたと思いますか?」
「死んでいたな。間違いなく」
「ワタシモオナジクダ。タダ……」

 彼女にしては珍しく、少し迷ったように顔を俯かせる。

「ただ?」
「キレイスギタコトハ、キニナッテイル」
「ああ、そういやそんな話もしたな」

 刹亜は改めて、斎藤の生首に切断面以外の傷が全くなかったことを説明した。ただ怪獣に襲われたのなら、もっと悲惨な状態だったはずだと。
 その話を聞き、宗吾は満足そうに頷いた。

「刹亜ありがとう。おかげでより推理に確信を持てたよ」
「いやいや、確かに気になる話っすけど、だからって斎藤さんが生きてることにはならないんじゃ。まさかあの生首は偽物だったとか言わないっすよね」
「いえ、そのまさかですよ」
「え?」
「斎藤さんの生首は真珠蜘蛛によって作り出された偽物、いえ、真珠・・だったんですよ」
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