大怪獣がトリックです

天草一樹

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第2怪:真珠蜘蛛

裏切者の独白

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「サテ、ツギハオマエダナ」

 無傷で戻ってくるなりホンファはそう告げる。
 〇は内心でほくそ笑みながら、震え声で尋ねた。

「巨大蜘蛛は、現れませんでしたか?」
「デテイナイ。サキノタンサクデコロシツクシテイタノカモシレナイ」
「そうだと、いいですね」

 それは違う。巨大蜘蛛は、真珠蜘蛛内部に無数にいる。
 こいつを除けば、シルバースターであろうと逃げることすら不可能な数が。
 そう。邪魔なのは、目の前のこいつホンファただ一人。

「ハヤクセナカニノレ」

 無防備にもホンファは前を向いたまま背中を晒す。
 中国からの刺客にしてはずいぶん不用心なことだ。まあ、流石にこいつも疲弊しているのだろうと納得する。
 敵地とまではいわずも、信頼のおける協力者のいない環境で、さらに大怪獣内部の探索。いかに鍛えられた兵士であっても、気の緩みが生じるのも無理はない。
 今すぐ殺してしまおうか。
 懐の銃に意識を向けそう一考するも、すぐに考えを切り捨てる。今はまだ、後ろに人がいる。それに入り口からも遠く、ここで殺すのは都合が悪い。
 多少危険は伴うが、飛んでいる時に撃つのが最善のはずだ。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 初めて直接触ったが、一角鷹の羽毛は意外と柔らかかった。
 羽毛で銃弾が防がれることを危惧していたが、これならば影響はなさそうだ。まあ羽毛が硬かったとしても、その時は頭を撃ち抜くだけのことではあるのだが。

「シッカリツカマッテオケ」

 そんな注意喚起の後、ホンファは垂直に飛び上がった。
 体験したことのない重力が全身にかかる。
 あっという間に地面貝殻が遠ざかり、高所からの景色に。
 蜘蛛の糸の隙間を縫い、入口へと飛行する。
 巨大蜘蛛の襲撃を恐れてか、想像していたよりも緩慢な速度。
 振り落とされそうになるような揺れもなく、狙いをつけるのも容易い。
 〇はそっと懐の拳銃に触れる。首に腕を回し抱き着いている状態のため、かなり取り出しにくい。あまり動けば不自然に思われるため、最小限の動きで握りこむ。
 幸いホンファに勘づいた様子はない。
 角度を調整し、心臓の位置に銃口を向ける。
 一瞬下を見て、つばを飲み込む。うまくホンファをクッションにするか、途中で蜘蛛の糸に引っかからないと大怪我するのは間違いない。
 それでもここで撃たなければ、真珠蜘蛛との契約を果たせない。

 ――大丈夫。仮に怪我をしたって問題ない。この契約が成就すれば、〇は絶対的な安全を得られるんだから。

 覚悟を決め、引き金に力を籠める。
 パン
 と、軽い音が響くと同時にホンファの体が大きく揺れる。「キサマ……」という弱弱しい声が聞こえてくるも、振り落とされることはなく。むしろ最後の力を振り絞ってか、ゆっくりと下降し始めた。
 地面貝殻に着地するなり、ホンファは力尽きたように倒れこむ。
 〇は彼女の体から離れると、ほっと胸を撫で下ろした。最悪落下による墜落死も考えていただけに、この結果はまさしく僥倖の極み。
 天が〇に味方してくれている。
 あとは巨大蜘蛛たちに指示を出し、最奥に残っている隊員と集められた爆弾を処理するだけ。
 それで、それで、〇は――

「はい現行犯逮捕」
「は?」

 急に体を押さえつけられ、地面に組み伏せられる。

 ――何が起きている???

 訳が分からず混乱する思考に、とっくに脱出した者たちの声が流れ込んでくる。

「うまくいったね。それに刹亜の推理も大正解だ」
「だな。つっても宗吾の策がなけりゃこうも簡単に尻尾を見せてくれなかっただろうし、半分はお前の手柄だろ」
「でもこうも目の前で落下してくれたのは、僕というよりホンファさんの手腕だし。手柄三等分ってことでいいんじゃない?」
「……お二人って、普段からこんな感じなんですか?」

 声のする方に必死に顔を向ける。
 ちょうど〇を見下ろす位置に来た折原と目が合う。
 折原はにんまりと顔をほころばせ、挑発的な口調で裏切者の名を呼んだ。

「よ、裏切者こと伏見春馬・・・・さん。死にたくなかったら巨大蜘蛛たちにしっかり指示してくれよ。計画は順調。何も問題なしってな」
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