大怪獣がトリックです

天草一樹

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第1怪:戦艦亀

待つのは難しい

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 天木が黒パネル部屋に籠ってから三十分が経過した。
 自由に動いてはいけない。この中に裏切者がいるかもしれない。得体のしれない怪獣が襲ってくるかもしれない。
 そんなストレスを受けての三十分はかなりの精神的疲労を蓄積させた。

「俺、ちょっとサンポしてくるわ」

 唐突にそう宣言したのは北條。もちろん二宮は北條に対し銃口を向けた。

「言ったはずだ。今は自由行動は一切禁止。命令違反者は射殺すると」

 北條はへらへらとした挑発的な笑みを浮かべる。

「別に俺はジユーに動いても構わねえだろ? だって俺は最強じゃんか。怪獣がいようが裏切り者がいようがヤラレル心配はねえ」
「そう言う問題じゃない。規律を乱すなと言っている」
「だーかーらー、俺はんなキリツに縛られなくちゃいけねえようなやわな存在じゃねえんだわ。そういうのは弱い奴らだけでやってりゃいい。どうしても守らせたきゃ撃ってもいいけどよ。そんときゃ俺もハンゲキするぜ?」
「……」

 二宮は無言で銃を構え続ける。
 それは動けば撃つという意思表示にも、反論できず硬直しているだけにも見えた。
 どうやら北條は前者だと捉えたようで、ちっと軽い舌打ちをしてから、矛先を一倉に変えた。

「なあ一倉タイチョー。あんたはこのままでいいのかよ?」
「……何の話だ」
「ナカマをよ、みすみすと殺されたわけだろ。カタキウチをせず、尻尾巻いて逃げてもいいのかって聞いてんの」
「……任務中に私情で動くなどあってはならない。今は二宮の言う通り待機するのが最善だ」
「けけけけけけ。死体見た時はアンだけ取り乱してたくせによく言うぜ。それによ、本当に動かねえのがサイゼンか?」
「どういう意味だ」
「だってよ。もしあんたが三村殺しの犯人じゃねえなら、やっぱり犯人はカイジューだと思うんだわ。実際他のザコどもにあんたら第四メンバーを殺せると思わねえし。ま、俺と同じくカイジューでもあるあんたは別かもしんねえけどよお」

 厭らしい目で御園生を見つめる。
 彼女がぶるりと体を震わせると、鏑木が一歩前に出た。

「彼女は僕とずっと一緒にいた。怪獣化もしていなかったし、彼女に三村さんを殺す機会はなかった」
「んなこと分かってるよ。単にヤれるかどうかの話をしただけだ」

 北條はつまらなそうに鼻を鳴らすと、再び一倉に視線を戻した。

「てなわけで、俺たちの中に三村殺しの犯人はいなくなるわけだ。そしたらもうカイジューがやったとしか考えられねえだろ」
「だが、怪獣ならその後の行動が――」
「一人殺すのにめっちゃエネルギーを使うカイジューなのかもしれねだろ? 今はエネルギーをためてて、たまったらまた襲いに来るのかもしれねえ」
「それは……」
「あり得ねえ話じゃねえよな。大体カイジューにヒトサマの理屈は通じねえんだ。こうしてないからカイジューじゃねえなんて言いきれないはずだろ」
「怪獣に理屈は通じない……」

 不意に、刹亜の隣からぼそりと呟きが聞こえる。見れば宗吾が顎に手を当て、何か思案し始めていた。
 現状場の雰囲気は、北條の意見がやや優勢になりつつある。
 今のところ固まっていることで被害は出ていないが、北條の言葉通り三村殺しは怪獣による可能性が高い。となればここでじっとしている間にも怪獣がこちらを殺すための準備をしているかもしれない。本当に動かずにじっとしていてよいのかと。
 それに何より、北條の我慢も限界に近いように見えた。口調こそまだ冷静さを保っているが、足はしきりに動いており、意味もなく爪を怪獣化させたりしている。
 また一倉も本心ではじっとしていることに反対なのだろう。北條の説に一理あると理解したことで、彼自身どこか動きたがっているように見えた。
 そんなもどかしい、方向性の決まり切らない状態の中、宗吾がそっと挙手をした。

「二宮隊員。ここは一度、周囲を捜索すべきなんじゃないでしょうか」
「……」

 二宮が無言のまま、銃口を宗吾に向ける。
 宗吾は銃に臆することなく発言を続けた。

「捜索は必ず二人以上で行う。索敵範囲と帰還時間を設定しておく。万一接敵した場合はすぐに逃走し皆に知らせること。逃げられないと判断した際、それが知っている怪獣なら左手に、知らない怪獣なら右手にそれと分かる傷を残しておく。
 この条件に皆さんが納得してもらえるなら、怪獣捜索にデメリットはないと考えますが、いかがですか」
「……分かった」

 何か言いたげではあったが、二宮は言葉を飲み込み宗吾の提案に首肯する。
 二宮以外にこれといって否定派はいなかったため、すぐさまチーム分けが行われ、各チーム通路を捜索することとなった。
 チーム分けの結果は次の通り。

・一倉、鏑木、水瀬チーム
・北條、心木チーム
・御園生、宗吾、刹亜チーム

 唯一、二宮だけは天木の護衛を兼ね部屋に残ることになった。
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