大怪獣がトリックです

天草一樹

文字の大きさ
14 / 40
第1怪:戦艦亀

犯人指摘までもう十分

しおりを挟む
 部屋の中は見るからに沈鬱な空気で満ちていた。
 二宮は眉間に深い皺を刻んだまま俯き、心木も険しい表情で天井を睨んでいる。水瀬に至っては虚ろな目で「だから戦艦亀が殺したんですよ」と呟き続けていた。
 そんな中、部屋を見回した宗吾は「天木先生はどこに」と尋ねた。
 二宮が顎で黒パネル部屋を指す。

「あそこに籠ったままだ」
「二人も殺されたのに声をかけなかったんですか?」
「声をかけたところでどうせ無駄だ。一時間経ってから声をかけたほうが効率がいい」
「それは困ります」
「何?」

 全員の視線が宗吾に向けられる。それらの視線を一切気にかけることなく黒パネル部屋に歩み寄った宗吾は、躊躇なくパネルを動かし、天木に呼びかけた。

「天木先生。また二人が殺されました。今すぐここから出ましょう」

 ノックもなしに黒パネルをどかされた天木は、明らかに苛立った様子で口を開いた。

「あのねえ。何人死んだかなんて僕には関係ないの。邪魔しないでくれるかな」
「無理です」
「はあ? どうして?」
「このままだと三十分以内に僕たちが全滅するからです」
「どういう意味だそれは!」

 宗吾を引き戻そうとすぐ後ろまで迫っていた一倉が、大声と共に彼の肩を掴む。
 宗吾は無抵抗で一倉を振り返ると、「言葉通りです」と告げた。

「このまま何もしないでいたら、三十分以内に僕らは全滅します」
「だからその理由を言えと言っている! この状況で根拠もなく不安を煽っているのなら許さんぞ!」
「根拠はあります。それに僕は、誰が三村さん含め三人を殺したのかも分かっています」
「な!」

 一瞬何を言われたのか理解できず、一倉は口を開けたまま固まる。いや、それは一倉だけではない。この場にいる全員が驚きの目で宗吾を見つめていた。
 数秒の間、奇妙な沈黙が部屋を支配する。
 真っ先に我を取り戻した二宮が、「三人を殺した犯人は誰だ」と尋ねる。
 宗吾は静かに首を横に振った。

「今はまだ言えません。皆さんを納得できるだけの説明ができないので」
「ふざけるな! 根拠があるんじゃなかったのか!」

 一倉がまたも怒鳴りつける。
 宗吾は動じることなく淡々と言い返した。

「僕にとっては十分すぎる根拠です。ですが皆さんを納得させるにはピースが足りません」
「ここまで言っておきながら何も話さないで――」
「十分ください」

 手を突き出し、宗吾は一倉の怒声を遮る。

「それまでに情報を整理して全てお話しします。誰が三人を殺したのか。なぜこのままだと全滅するのか」
「十分待ってる間に手遅れにならないの?」

 心木が聞いてくる。宗吾は彼女を見つめ、しっかり頷いた。

「十分間、皆さんがこの部屋から動かずじっとしていてくれるなら」
「ふうん。助かるって言うなら私は待つわ。どうせあと十分は部屋で待機の予定だったし」

 彼女はそう言ってストンとその場に座り込んだ。
 興奮していた一倉も彼女の反応を見て毒気を抜かれたのか、ようやく宗吾の肩から手を離す。
 より落ち着きを取り戻すためゆっくり呼吸を繰り返し、完全に顔から焦りが消えた一倉は、一度周囲の隊員に目を配る。周りの隊員たちは一人を除き、戸惑いと疲弊が色濃く出ていた。
 一倉は唯一の例外宗吾で視線を止めると、特務隊の英雄シルバースターらしく精悍な顔つきで言った。

「今、現状を正しく理解できている者はお前以外いないらしい。必要なら、いつでも声をかけろ」
「有難うございます。それでは、後ほどする僕の推理を聞き、指摘する犯人に納得がいった場合すぐさま拘束をお願いしたいです」
「犯人、か。承知した」

 一倉、そして二宮は銃を下し宗吾に敬礼する。
 宗吾は彼らに深くお辞儀をすると、「では、皆さん十分ほどその場で待機をお願いします。天木先生も、この間だけでいいので研究を止め休んでいてください」と告げ、部屋の隅へと移動した。
 皆が思い思いに腰を下ろす中、刹亜はさりげなく宗吾の横に移動し、小声で問いかけた。

「で、実際どこまで本気だ。本当に三十分したら俺たちは全滅すんのか」
「知らないよそんなこと」
「うわ、やっぱりか」

 さも当然のようにこれまでの流れをぶち壊す発言が飛び出す。だが刹亜はその回答を予期していたため、動じることなく質問を続けた。

「犯人に関して分かってるってのは本当なのか? 俺はさっぱりだけど」
「うん。そっちは本当。ただ、正確には二人まで絞り込んだところで行き詰ってる。ここまでの言動的に、間違いなくあっちが犯人だとは思うけど」
「決定的な証拠がないと」
「そうだね。証拠というか、もう一人の方じゃないと判断できる要素がない」
「成る程なあ。因みに誰と誰で迷ってるんだ」

 宗吾は目を瞑り、一度思考を巡らせる。それから疑っている二人の名前と、その根拠を簡単に呟いた。
 犯人候補の名前を聞いた刹亜は目を何度か瞬くと、

「なら○○が犯人で決まりじゃん」

 そうあっさり口にした。






『読者への挑戦』
 ここまでの物語より、三村、鏑木、北條の三人を殺したのは誰なのか、論理的に導くことが可能です。
 犯人は作中で最低一度は触れられており、作中に一度も登場していない者ではありません。
 加えてもう一つ、彼らの殺害には怪獣特有の能力が用いられております。
 それでは、犯人の特定ができた方から次のページへお進みください。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...