大怪獣がトリックです

天草一樹

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第1怪:戦艦亀

祭りの後

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「お疲れ刹亜。怪我はない?」
「あるわけないだろ。てか他の奴らってどうなんだ。みんな死んじまったのか?」
「ううん。骨折とか腹部に穴開いてたりするけど、死んではなさそうだよ」
「なら良かった……じゃねえよ! 骨折はともかく腹に穴開いてたら死ぬだろ!」
「腹に穴開いてるのは御園生さんだから。怪獣化のおかげか血は止まってて死ぬ心配はなさそうだよ」
「いやいや、だけど放置は出来ねえだろ。リュウ、悪いけどもうひと働きしてくれるか」
「うむ」

 既にリュウと刹亜の合体は解けており、リュウは普段の白マフラーの姿に戻っていた。
 するすると体を伸ばし御園生の腹の上に乗ると、自身の体を細かい繊維状にして、彼女の傷口を塞いでいく。
 リュウによる応急処置を眺めながら、刹亜と宗吾は雑談を始めた。

「にしても、まさか怪獣化した天木と戦うことになるなんて夢にも思わなかったな。今更だけど、人類の至宝が怪獣だったのヤバくねえか?」
「そうだね。僕としては天木先生がというより、特務隊に怪獣が紛れてる可能性が出てきたことが怖いけど」
「流石にこれは例外だと思いてえな」
「うん。まあでも、僕たちにとっては大きな一歩だったんじゃないかな。どうですかリュウさん」
「うむ。確かにここ数年で一番と呼べる成果であった。だが、我にとってあまり嬉しい成果ではなかったのう」

 応急処置は続けたまま、リュウはしょんぼりと項垂れる。
 自分が何者であるか、何のためにここにいるのか。それを知ることこそがリュウの目的。今回初めて怪獣との会話に成功したわけであり、怪獣自身の考えを聞くこともできた。けれどその答えは、生まれてきたことに意味も理由もないというもの。リュウの望みとは真逆の答えであった。

「実は怪獣ってのは宇宙人が地球に送り込んだ殺戮ロボットで、全員そう言う指示を受けてんのかと思ってたけど、天木の答えからすると違うっぽいな」
「何者かが意図的に地球を攻撃しているにしては、流石に動きがなさすぎるしね」
「答えを知るにはまだまだ先が長そうだのう」
「前に進んではいるんだからあんまり落ち込むなって。それよか、そろそろこの後の言い訳について考えようぜ」
「そうだね。天木先生が怪獣化するところは見られたかもしれないし、どうやって倒したことにするか――」
「あの、これってどういう状況ですか?」

 宗吾の呟きに、別の声が混じる。
 リュウの治療が成功し、いつの間にか御園生が目を覚ましていたらしい。
 起き抜けでぼんやりとした思考の中、自分の体の上に乗っている白い蛇の様な生き物と、宗吾らの顔を交互に見回している。
 二人と一匹はそれぞれ顔を見合せ、しまったと口に出さず後悔する。しかし同時に妙案が思い浮かんだらしく、満面の笑顔を御園生に向けた。


  *  *  *


 特務隊本部。とある会議室。
 普段は粛々と話し合いが進められるこの場は、今日に限って喧騒に満ちていた。

「全く。誰がこんな任務を許可したんだ。シルバースター一人にバーサーカー一体、さらには天木研究長が死亡だと? 一体どれだけの損失だと思っている」
「仕方がないでしょう。我々とて天木研究長の機嫌を損ねるわけにはいかなかった」
「その結果、天木は死んだんだぞ。どう責任を取るつもりだ」
「ですが報告によれば天木研究長は怪獣だったのでしょう。であればここで被害少なく殺すことができたのは僥倖とみるべきでは?」
「その報告自体が怪しい。助けられなかったのを誤魔化すための虚偽の報告かもしれん」
「一倉や二宮がそのようなことをするとも思えませんが」
「それにしても死ぬなら貴重な第四の隊員でなく第六の雑用が死ねばよかったのに。任務に真面目なのも考えものですな」
「しかしその第六の隊員が天木の正体に気付いたという話もある」
「だからどうしたというのか。普段の怪獣討伐には何の役にも立たないじゃないか」
「まあまあ皆さん、また新しい英雄が生まれたのですし良かったではありませんか。『篝猫』による大怪獣討伐。大いに喧伝していきましょう」
「カラーブラックの存在自体まだ公表する前だというのに――」

 既に十分以上、あちこちでこのような会話が飛び交っている。
 喧騒は一向に収まる気配はなく、むしろ責任のなすりつけ合いからヒートアップしていくばかり。
 しかしその喧騒も、

「ああ皆、静粛に」

 一人の壮麗な男が口を開いた途端、嘘のようにぴたりと静止した。

「今回の件、それぞれ意見があるとは思うが、私は良かったと思っているよ。怪獣討伐というのは、プラスどころか、マイナスのみをもたらすことも多い。その点今回の一件は、大きなプラスがある。
 新たな英雄の誕生と、不穏分子の削除だ」

 しわぶき一つ聞こえない会議室に、男の声だけが響き渡る。

「今の時代、求められるのは明日への希望であり、暗い世界を照らす煌々たる光だ。そして我々は今日、その灯を手にすることができた。ならば我々のすべきことはただ一つ。
 この小さな灯を、大火になるよう育てていこうじゃないか」

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