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第2怪:真珠蜘蛛
雑談
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半ば追い出される形で隊長室から出た刹亜と宗吾は、二人揃ってぐっと腕を伸ばした。
「やったね刹亜。今日は休みだって。これから何する?」
「そうだな。訓練室に行ってトレーニングでもしてくるわ」
「またトレーニング? 明日から遠征なんだしほどほどにしときなよ」
「遠征だからだろ。この指示書、ひでえことに日数何にも書いてねえんだぞ。次いつまともにトレーニングできるか分かんねえんだし、今日やらずにいつやるって話だ」
「はいはい。じゃあ取り敢えず準備だけは先にしとこうか」
とある目的から特務隊に入隊している二人の青年。同日に入隊試験を受け、志願者の少ない第六部隊――主な仕事は事務と雑用――を選んだ二人は、有難いことに同室を割り振られていた。
彼らがこっそり特務隊に連れ込んでいる白マフラーこと怪獣リュウの存在から、自室が同室の二人部屋であることは重要だった。もし同室に違う隊員をあてがわれていた場合、いかにして追い出すかに苦心していただろう。
それはさておき、今もリュウは刹亜の首元にマフラーとして擬態を続けている。二人の会話は当然聞こえてはいるものの、人目人耳がある通路で口を挟むわけにもいかず、沈黙を保っていた。
二人は自室に向かいながら、たわいない雑談を交わす。
「正直遠征とか面倒極まりないが、あれだな。明日用事ができたのは悪くないな」
「ああ、そう言えば明日は心木さんとのデートの日だったっけ」
「デートじゃねえ。実験に無理やり付き合わされてるだけだ」
「でも付き合ってるってことは嫌じゃないんでしょ?」
「嫌だよ。ただこれは俺が約束を破った罰だからな。拒否しづらいんだよ」
今から約一か月前に起きた、通称『戦艦亀事件』と呼ばれる、戦艦亀の体内で起きた特務隊員連続殺害事件。先の灰崎の話でもあったが、そこで二人は戦艦亀を蘇らせる計画を企てていた研究者の企みを暴き、事件解決に貢献した。
ただ、事件解決をするにあたり、刹亜は心木――第四の女性隊員で、怪獣の血が大好きな変態――の秘密を暴露してしまった。
状況が状況ゆえ仕方がなかったことではあるが、許可なく秘密を暴露したことは事実。人生全てかけての妨害こそされない代わりに、色々と実験に付き合うよう約束させられていた。
実験の内容は――思い出すだけで気持ち悪くなる。刹亜は頭を振って悪夢を追い出し、話題を変えた。
「そう言うお前は御園生とどうなんだ。今もいろいろと連絡を取り合ってるんだろ」
宗吾は事もなげに答える。
「それは勿論。彼女にはあの事ばれちゃったし、監視しておかないとだからね」
「……そう言う意味で聞いたわけじゃないんだけどな」
「まあでも、頻度はあんまり多くないよ。僕らのせいで御園生さんは特務隊の英雄になっちゃったから。いろんな場所に派遣されてここに戻ってくることも滅多にないし」
「ああ、そりゃそうか。つうかその件に関しては今度謝らなきゃだよなあ」
そんなことを話しているうちに自室に到着。
部屋の中に入るとすぐ、刹亜が無言のまま首に巻いた白マフラーを撫でる。十数秒の後にピクリと一度だけ白マフラーが震える。
二人は小さく頷くと、ほっと息を吐きだしながらベッドの上に腰を下ろした。
「流石にもう盗聴はされてねえか。リュウも好きにしていいぞ」
「うぬ」
白マフラーもといリュウがもぞもぞと動き出し、ポンと顔が出てくる。腕を伸ばすかのように二本の長いひげをピンと張り上げ、マロ眉の下にある小さな目を瞬かせた。
「ひとまずお主らへの疑惑も解けたようじゃな。そもなぜ疑われていたのか分からぬが」
「僕らというより、もしかしたら全隊員が対象だったのかもしれませんよ。あの人は例外中の例外だと思いますけど、他にも怪獣側に付こうとする裏切者がいる可能性は零じゃありませんから」
戦艦亀の事件からしばらくして、刹亜らの自室に盗聴器が仕掛けられた。一部の怪獣は電波を察知する力があるのだが、リュウもその能力を有していたため、盗聴器の存在を察知。刹亜と宗吾にそのことを伝えていた。
二人は実際に盗聴器の存在を確認すると、見かけ上は気づいていないように今日まで振舞ってきた。
最近になってようやく盗聴器が外されたが、いつまた取り付けられるか分からず。普段より警戒を強めているのが現状だった。
「確かにお主らだけを狙ったかどうかは分からぬの。ただ今回の件と言い、あまり歓迎されていない雰囲気を感じるのじゃ」
「歓迎されてないってか、死んだ方が有効活用できる手駒と認識されたっぽいな。相変わらず腐った組織だ」
刹亜はそう吐き捨てるも、宗吾は逆に目を輝かせて頷いた。
「だけど、僕たちにとっては必ずしも悪い話じゃない。むしろチャンスでもある。真珠蜘蛛の調査なんて本来なら参加できるわけなかったし」
「うむ。実は我も真珠蜘蛛は気になっておったのだ。数少ない怪獣を襲う怪獣。もしかしたら我と同じルーツの可能性もある」
「でも人間も襲ってるからな。仮に記憶を思い出しても、すぐに裏切ったりすんなよ」
「分かっておる。我の正体が何であれ、そこまで不義理を働くつもりはない、約束はしっかり守るであろう」
「やったね刹亜。今日は休みだって。これから何する?」
「そうだな。訓練室に行ってトレーニングでもしてくるわ」
「またトレーニング? 明日から遠征なんだしほどほどにしときなよ」
「遠征だからだろ。この指示書、ひでえことに日数何にも書いてねえんだぞ。次いつまともにトレーニングできるか分かんねえんだし、今日やらずにいつやるって話だ」
「はいはい。じゃあ取り敢えず準備だけは先にしとこうか」
とある目的から特務隊に入隊している二人の青年。同日に入隊試験を受け、志願者の少ない第六部隊――主な仕事は事務と雑用――を選んだ二人は、有難いことに同室を割り振られていた。
彼らがこっそり特務隊に連れ込んでいる白マフラーこと怪獣リュウの存在から、自室が同室の二人部屋であることは重要だった。もし同室に違う隊員をあてがわれていた場合、いかにして追い出すかに苦心していただろう。
それはさておき、今もリュウは刹亜の首元にマフラーとして擬態を続けている。二人の会話は当然聞こえてはいるものの、人目人耳がある通路で口を挟むわけにもいかず、沈黙を保っていた。
二人は自室に向かいながら、たわいない雑談を交わす。
「正直遠征とか面倒極まりないが、あれだな。明日用事ができたのは悪くないな」
「ああ、そう言えば明日は心木さんとのデートの日だったっけ」
「デートじゃねえ。実験に無理やり付き合わされてるだけだ」
「でも付き合ってるってことは嫌じゃないんでしょ?」
「嫌だよ。ただこれは俺が約束を破った罰だからな。拒否しづらいんだよ」
今から約一か月前に起きた、通称『戦艦亀事件』と呼ばれる、戦艦亀の体内で起きた特務隊員連続殺害事件。先の灰崎の話でもあったが、そこで二人は戦艦亀を蘇らせる計画を企てていた研究者の企みを暴き、事件解決に貢献した。
ただ、事件解決をするにあたり、刹亜は心木――第四の女性隊員で、怪獣の血が大好きな変態――の秘密を暴露してしまった。
状況が状況ゆえ仕方がなかったことではあるが、許可なく秘密を暴露したことは事実。人生全てかけての妨害こそされない代わりに、色々と実験に付き合うよう約束させられていた。
実験の内容は――思い出すだけで気持ち悪くなる。刹亜は頭を振って悪夢を追い出し、話題を変えた。
「そう言うお前は御園生とどうなんだ。今もいろいろと連絡を取り合ってるんだろ」
宗吾は事もなげに答える。
「それは勿論。彼女にはあの事ばれちゃったし、監視しておかないとだからね」
「……そう言う意味で聞いたわけじゃないんだけどな」
「まあでも、頻度はあんまり多くないよ。僕らのせいで御園生さんは特務隊の英雄になっちゃったから。いろんな場所に派遣されてここに戻ってくることも滅多にないし」
「ああ、そりゃそうか。つうかその件に関しては今度謝らなきゃだよなあ」
そんなことを話しているうちに自室に到着。
部屋の中に入るとすぐ、刹亜が無言のまま首に巻いた白マフラーを撫でる。十数秒の後にピクリと一度だけ白マフラーが震える。
二人は小さく頷くと、ほっと息を吐きだしながらベッドの上に腰を下ろした。
「流石にもう盗聴はされてねえか。リュウも好きにしていいぞ」
「うぬ」
白マフラーもといリュウがもぞもぞと動き出し、ポンと顔が出てくる。腕を伸ばすかのように二本の長いひげをピンと張り上げ、マロ眉の下にある小さな目を瞬かせた。
「ひとまずお主らへの疑惑も解けたようじゃな。そもなぜ疑われていたのか分からぬが」
「僕らというより、もしかしたら全隊員が対象だったのかもしれませんよ。あの人は例外中の例外だと思いますけど、他にも怪獣側に付こうとする裏切者がいる可能性は零じゃありませんから」
戦艦亀の事件からしばらくして、刹亜らの自室に盗聴器が仕掛けられた。一部の怪獣は電波を察知する力があるのだが、リュウもその能力を有していたため、盗聴器の存在を察知。刹亜と宗吾にそのことを伝えていた。
二人は実際に盗聴器の存在を確認すると、見かけ上は気づいていないように今日まで振舞ってきた。
最近になってようやく盗聴器が外されたが、いつまた取り付けられるか分からず。普段より警戒を強めているのが現状だった。
「確かにお主らだけを狙ったかどうかは分からぬの。ただ今回の件と言い、あまり歓迎されていない雰囲気を感じるのじゃ」
「歓迎されてないってか、死んだ方が有効活用できる手駒と認識されたっぽいな。相変わらず腐った組織だ」
刹亜はそう吐き捨てるも、宗吾は逆に目を輝かせて頷いた。
「だけど、僕たちにとっては必ずしも悪い話じゃない。むしろチャンスでもある。真珠蜘蛛の調査なんて本来なら参加できるわけなかったし」
「うむ。実は我も真珠蜘蛛は気になっておったのだ。数少ない怪獣を襲う怪獣。もしかしたら我と同じルーツの可能性もある」
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