2 / 98
困惑の一日目
ピエロ男
しおりを挟む
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
突如、壊れた目覚まし時計が立てるかのような、人を不快にさせる奇怪な音が流れてくる。
東郷明は、その不快な音により、目を覚ました。
「……ここは、どこだ?」
あたりを見回すと、明と同じように、周囲を不思議そうに見渡している奴らがいる。
今いる部屋は、数十人を収容できる映画館の一室のようだ。どことなく薄暗い部屋に巨大なスクリーンと、フカフカな座り心地の椅子。明を含めこの場にいる全員は、その椅子の上に今の今まで眠らされていたらしい。
この場にいる誰もが状況を理解できず、戸惑い顔で自分の記憶を掘り起こそうとする。
すると、突然目の前のスクリーンが光り輝き、一人の人物がそこに映し出された。
そいつは、顔全体を赤と白の化粧で塗りたくった、ピエロのような男だった。
全員が呆然とスクリーンに映るピエロ男を見ていると、そいつは妙に響く甲高い声で話し始めた。
『やあ皆様、初めまして。私は今回のゲームの司会を務める喜多嶋と申します。今この場にいる十三人の隠れ殺人者の皆様には、これから実に心躍る、それはそれは楽しい殺し合いゲームを行ってもらいます。期限は今日から』
「おい、ふざけてんじゃねぇぞ! こんな意味不明な場所に連れてきやがって、最初からきちんとわかるように説明しやがれ!」
この場にいる男の一人がそう叫ぶ。
すると喜多嶋は話をやめ、面白そうに口をにやけさせた。
明はそんな喜多嶋の様子を見て、こちらの声が相手にも通じていることに気づいた。どうやらビデオを流しているのではなく、こちらの状況をリアルタイムで観察しているらしい。
どこかにカメラのようなものはないかと部屋中に素早く目を通していると、天井に監視カメラが取り付けられているのを発見した。明がカメラを発見するのと同時に、喜多嶋が再び口を開いた。
『それはそれは、まさにその通りでございますね。皆様におかれましては、今この状況をさっぱり理解できておらず、ずいぶんと戸惑っていることでしょう。それでは、ご要望通り最初から分かるように説明して差し上げましょう』
喜多嶋は、キキキと奇妙な笑い声をあげると、説明を始めた。
『皆様はある実験、もといゲームの栄誉ある被験者に選ばれたのです。おそらくなぜ自分が? とお思いになっていることでしょう。キキキ、その理由は非常に単純なものです。皆様が選ばれたのは、皆様全員が人殺しをしておきながら、警察に捕まることもなくのうのうと人生を謳歌していたからです』
「何を言ってるんですか! 私は人を殺したことなんてありません!」
明のすぐ横に座っている、白いワンピースを着た女が叫ぶ。かなり整った顔立ちの女性。まだ幼さも残っているが、シミ一つない透き通った白い肌。加えて優しさと知性の両方を兼ね備えたかのような美しい瞳を持っている。
不覚にも明は、今の状況を忘れてその横顔に見惚れてしまった。
『ほうほう、もちろん否定なさる気持ちは十分に分かりますよ。先程も言いましたが、皆様は警察の目を掻い潜り、所謂完全犯罪を成功させた方々なのですから。ご自身が人殺しであることを認めるのは許容しづらいものもあるのでしょう。しかし、確かにあなた――神楽耶江美様は、かつて自身を迫害していたご友人を線路に突き落として殺されたはずです。人がホームから溢れんばかりの時間帯に、人ごみに紛れてこっそりと突き落とす。全くうまくやったものですな』
キキキと、頭に響く嫌な笑い声をあげる喜多嶋。
白い服の女――神楽耶江美は泣きそうに顔ゆがめると、下唇を強くかんで俯いてしまった。
神楽耶以外には、喜多嶋の言葉に反論しようとする者はいない。おそらく全員何かしらの心当たりがあるのだろう。明自身も、余計な口は挟まずに、じっとピエロ男の話を待った。
喜多嶋は自分の頭をカリカリと掻きながら、あらら、と肩をすくめてみせた。
『う~ん、私はこう見えても紳士ですから、女性を泣かせるつもりはなかったのですがねぇ。とはいえ慰めの言葉も特には思いつきませんし……。私としては心苦しいことですが、このまま話を続けさせてもらいましょうか』
そう言うと、困ったような表情から一転。また薄気味の悪いにやけ顔になり話の続きを語りだした。
『さてさて、皆さまがどうして選ばれたかの理由は分かっていただけたと思います。では、本題。皆さまが今最も気になっている、これから行われる殺し合いゲームのルール説明といきましょうか! 皆さま、ご自身のズボンの左ポケットを調べてみてください。中に一枚の紙が入っているはずです」
喜多嶋の指示通り、各々自分のポケットへと手を突っ込み、中に入っていたものを取り出していく。
明もポケットの中から一枚の白い紙を取り出し、軽く書かれている文字を目で追っていった。話の流れからわかることではあったが、書かれているのはこのゲームのルールに関してのようだ。
てっきり喜多嶋がルール説明をするのかと思っていた明は、若干拍子抜けしながらも、スクリーンに映るピエロ男へと視線を戻した。
全員がその白い紙を取り出したのを見届けた喜多嶋は、満足げに頷きながら、そこに書かれてある文章を読むように促してくる。
『さっそく読み始めている方もおりますが、そちらに書かれている内容こそが、今回の殺し合いゲームにおけるルールとなります。キキキ、まずはじっくりゆっくりとその説明を読み込んでいただき、疑問があれば私に質問していただきたいと思います』
再度キキキ、と耳障りな声で笑うと、喜多嶋は自身の口を両手でふさいだ。
質問があるまで自分からは何も話さないぞという意思表示だろうか。
明は無感情に喜多嶋の動きを分析した後、手元にある用紙へと目を移した。
突如、壊れた目覚まし時計が立てるかのような、人を不快にさせる奇怪な音が流れてくる。
東郷明は、その不快な音により、目を覚ました。
「……ここは、どこだ?」
あたりを見回すと、明と同じように、周囲を不思議そうに見渡している奴らがいる。
今いる部屋は、数十人を収容できる映画館の一室のようだ。どことなく薄暗い部屋に巨大なスクリーンと、フカフカな座り心地の椅子。明を含めこの場にいる全員は、その椅子の上に今の今まで眠らされていたらしい。
この場にいる誰もが状況を理解できず、戸惑い顔で自分の記憶を掘り起こそうとする。
すると、突然目の前のスクリーンが光り輝き、一人の人物がそこに映し出された。
そいつは、顔全体を赤と白の化粧で塗りたくった、ピエロのような男だった。
全員が呆然とスクリーンに映るピエロ男を見ていると、そいつは妙に響く甲高い声で話し始めた。
『やあ皆様、初めまして。私は今回のゲームの司会を務める喜多嶋と申します。今この場にいる十三人の隠れ殺人者の皆様には、これから実に心躍る、それはそれは楽しい殺し合いゲームを行ってもらいます。期限は今日から』
「おい、ふざけてんじゃねぇぞ! こんな意味不明な場所に連れてきやがって、最初からきちんとわかるように説明しやがれ!」
この場にいる男の一人がそう叫ぶ。
すると喜多嶋は話をやめ、面白そうに口をにやけさせた。
明はそんな喜多嶋の様子を見て、こちらの声が相手にも通じていることに気づいた。どうやらビデオを流しているのではなく、こちらの状況をリアルタイムで観察しているらしい。
どこかにカメラのようなものはないかと部屋中に素早く目を通していると、天井に監視カメラが取り付けられているのを発見した。明がカメラを発見するのと同時に、喜多嶋が再び口を開いた。
『それはそれは、まさにその通りでございますね。皆様におかれましては、今この状況をさっぱり理解できておらず、ずいぶんと戸惑っていることでしょう。それでは、ご要望通り最初から分かるように説明して差し上げましょう』
喜多嶋は、キキキと奇妙な笑い声をあげると、説明を始めた。
『皆様はある実験、もといゲームの栄誉ある被験者に選ばれたのです。おそらくなぜ自分が? とお思いになっていることでしょう。キキキ、その理由は非常に単純なものです。皆様が選ばれたのは、皆様全員が人殺しをしておきながら、警察に捕まることもなくのうのうと人生を謳歌していたからです』
「何を言ってるんですか! 私は人を殺したことなんてありません!」
明のすぐ横に座っている、白いワンピースを着た女が叫ぶ。かなり整った顔立ちの女性。まだ幼さも残っているが、シミ一つない透き通った白い肌。加えて優しさと知性の両方を兼ね備えたかのような美しい瞳を持っている。
不覚にも明は、今の状況を忘れてその横顔に見惚れてしまった。
『ほうほう、もちろん否定なさる気持ちは十分に分かりますよ。先程も言いましたが、皆様は警察の目を掻い潜り、所謂完全犯罪を成功させた方々なのですから。ご自身が人殺しであることを認めるのは許容しづらいものもあるのでしょう。しかし、確かにあなた――神楽耶江美様は、かつて自身を迫害していたご友人を線路に突き落として殺されたはずです。人がホームから溢れんばかりの時間帯に、人ごみに紛れてこっそりと突き落とす。全くうまくやったものですな』
キキキと、頭に響く嫌な笑い声をあげる喜多嶋。
白い服の女――神楽耶江美は泣きそうに顔ゆがめると、下唇を強くかんで俯いてしまった。
神楽耶以外には、喜多嶋の言葉に反論しようとする者はいない。おそらく全員何かしらの心当たりがあるのだろう。明自身も、余計な口は挟まずに、じっとピエロ男の話を待った。
喜多嶋は自分の頭をカリカリと掻きながら、あらら、と肩をすくめてみせた。
『う~ん、私はこう見えても紳士ですから、女性を泣かせるつもりはなかったのですがねぇ。とはいえ慰めの言葉も特には思いつきませんし……。私としては心苦しいことですが、このまま話を続けさせてもらいましょうか』
そう言うと、困ったような表情から一転。また薄気味の悪いにやけ顔になり話の続きを語りだした。
『さてさて、皆さまがどうして選ばれたかの理由は分かっていただけたと思います。では、本題。皆さまが今最も気になっている、これから行われる殺し合いゲームのルール説明といきましょうか! 皆さま、ご自身のズボンの左ポケットを調べてみてください。中に一枚の紙が入っているはずです」
喜多嶋の指示通り、各々自分のポケットへと手を突っ込み、中に入っていたものを取り出していく。
明もポケットの中から一枚の白い紙を取り出し、軽く書かれている文字を目で追っていった。話の流れからわかることではあったが、書かれているのはこのゲームのルールに関してのようだ。
てっきり喜多嶋がルール説明をするのかと思っていた明は、若干拍子抜けしながらも、スクリーンに映るピエロ男へと視線を戻した。
全員がその白い紙を取り出したのを見届けた喜多嶋は、満足げに頷きながら、そこに書かれてある文章を読むように促してくる。
『さっそく読み始めている方もおりますが、そちらに書かれている内容こそが、今回の殺し合いゲームにおけるルールとなります。キキキ、まずはじっくりゆっくりとその説明を読み込んでいただき、疑問があれば私に質問していただきたいと思います』
再度キキキ、と耳障りな声で笑うと、喜多嶋は自身の口を両手でふさいだ。
質問があるまで自分からは何も話さないぞという意思表示だろうか。
明は無感情に喜多嶋の動きを分析した後、手元にある用紙へと目を移した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる