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不動の二日目
協力関係
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「……突然、どうした」
まさに目を丸くすると言った様子で東郷が呆然とこちらを見つめる。
どうやら自分は彼の意表を突くのが得意らしい。
鬼道院は微笑を浮かべると、静かに理由を述べ始めた。
「いえ、最初に東郷さんが仰いましたよね。銃を持ったプレイヤーがいたのなら、どうして橋爪さんだけを殺したのかと。今ここで、銃を持つプレイヤーが存在しているであろうことは、東郷さんにも認めてもらえたと思います。となると、どんな理由かは不明なままとはいえ、銃を所持し私たちを今も狙っている人物がいることになります。複雑に考えなければ、その人物が橋爪さんのみを襲ったのは慎重だったから。他のスペル持ちのプレイヤーに返り討ちにされることを恐れたためでしょう。となれば、次に狙われるのは単独で動いていて狙いやすいプレイヤーとなるはず。ですから今のうちに東郷さんと協力関係を築き、銃持ちのプレイヤーを牽制したいのです」
「断る」
銃弾へと視線を戻した東郷から、光速と言っても差し支えないほど素早く返答が返ってくる。了承されるとは思っていなかったものの、まさか一考の余地すらなく断られるというのは予想外。条件付きなら構わないと、自身が有利になるような交渉を仕掛けてくるものと考えていた。
今更ながら、自分にとっても彼にとっても、お互い最悪の相性なのではないかという思いが浮かんでくる。
しかし、はいそうですかと言って会話を終わらせるわけにもいかない。鬼道院はやや笑みを薄めながら、そっと数珠をなでた。
「それは残念です。まあ、すでに仲間を作っている東郷さんにはデメリットの方が大きいくらいですから、仕方がないかもしれませんね。ただ、東郷さんは私の申し出を誤解されていると思いますので、少しだけ補足させてください」
「チームを組むのに誤解も何もないだろ。少なくとも俺はお前を信用していない。はっきり言ってこの中で一番警戒している。たとえどんな条件を出されようと、そんな奴と一緒に行動するつもりはないし、ましてスペルを教え合う仲間になんてなる気はない」
まさに取り付く島もない反応。こうも警戒され続けると純粋に嫌われているんじゃないかと落ち込みそうになる。だけれども返答としては予想していたもの。想定はしていたが、やはり微妙に勘違いして伝わっていたようである。
少しばかり東郷から距離をとると、鬼道院は片手で一本、線を引いて見せた。
「残念ではありますが、あなたが私のことを必要以上に警戒していることは理解しています。ですからあなたと神楽耶さんのような、純粋な仲間になれるとは思っていません。私の望みは、銃を持ったプレイヤーから狙われにくくするための、ちょっとした協力関係にすぎません」
鬼道院の話に興味を持ったのか、東郷はようやく意識を銃弾から外した。そのことに満足感を覚えつつ、鬼道院はゆったりと語りかけていく。
「まず一つ。東郷さんも納得していただけることとして、私が橋爪さんを殺した銃持ちのプレイヤーでないことは理解していただけますよね。もし私が銃持ちであるならば、銃の存在を知らせるような真似をしたりはしませんから」
警戒した表情ながらも、東郷は小さく頷いた。
「……確かに、それは認めざるを得ないな。敢えてそう語ることで自身を容疑者圏外にしようとしたと考えられなくもないが、銃の所持を黙っていることの方が明らかにメリットが大きい」
「納得していただき有難うございます。それでは二つ目。これも納得していただけると思うのですが、私とあなたとでは話をする相手が見事に異なっていますよね。性格の問題でしょうが、私が比較的親しく話す藤城さんなどは、東郷さんのお嫌いな相手でしょう。
つまりここで提案したい協力関係というのは、話す相手の異なる我々が、それぞれ接したプレイヤーについての情報を補い合うことです」
話し終えると、鬼道院はそっと数珠に指を触れた。
今の話を受けるか受けないかを考えているのか、目の前で東郷は目を瞑って考え込んでいる。ゲーム上暴力が禁止されているとはいえ、警戒している相手の前でこうも無防備な姿をさらすとは。
お互い様ではあるだろうが、どうにも相手の考えていることが読めない。警戒しているという言葉に嘘はなさそうであったが、その割に殺される心配はしていないようなのだから。
些か考え疲れ、鬼道院は頭のスイッチをオフにした。患者たちを前に、ただ黙って瞑想しているときの状態。
鬼道院自身は与り知らぬことだが、友人曰くこの状態が最も神秘的らしい。
考えることを止めた男と、考え続ける男が共存する静かな時間が流れる。
当然この空間を壊すのは考え続ける男。
ふと目を開けると、考え続ける男は疑問を投げかけた。
「その協力関係だったら、受けるのは吝かではない。だが、これと銃を持ったプレイヤーから狙われにくくなることの繋がりが見えないな。もし俺に情報を流していることがばれれば、事実上仲間を持たないお前は銃持ちだけでなく他のプレイヤーからも真っ先に狙われ始めるだろう。はっきり言ってお前にはリスクの方が多いぐらいだ。この協力におけるお前の本当のメリットは何だ?」
思考停止していた頭を再起動しつつ、鬼道院はぼんやりと口を開き、言う。
「東郷さんは面白い方ですね。絶対に本当の答えが返ってこないような質問を、敢えてしてくるんですから。でも、そうですね。どうせ信じてもらえないことを前提に答えるとするなら……私とあなたが組んでいると知れば、どのプレイヤーも恐ろしくなって避けるようになるから。でしょうかね」
まさに目を丸くすると言った様子で東郷が呆然とこちらを見つめる。
どうやら自分は彼の意表を突くのが得意らしい。
鬼道院は微笑を浮かべると、静かに理由を述べ始めた。
「いえ、最初に東郷さんが仰いましたよね。銃を持ったプレイヤーがいたのなら、どうして橋爪さんだけを殺したのかと。今ここで、銃を持つプレイヤーが存在しているであろうことは、東郷さんにも認めてもらえたと思います。となると、どんな理由かは不明なままとはいえ、銃を所持し私たちを今も狙っている人物がいることになります。複雑に考えなければ、その人物が橋爪さんのみを襲ったのは慎重だったから。他のスペル持ちのプレイヤーに返り討ちにされることを恐れたためでしょう。となれば、次に狙われるのは単独で動いていて狙いやすいプレイヤーとなるはず。ですから今のうちに東郷さんと協力関係を築き、銃持ちのプレイヤーを牽制したいのです」
「断る」
銃弾へと視線を戻した東郷から、光速と言っても差し支えないほど素早く返答が返ってくる。了承されるとは思っていなかったものの、まさか一考の余地すらなく断られるというのは予想外。条件付きなら構わないと、自身が有利になるような交渉を仕掛けてくるものと考えていた。
今更ながら、自分にとっても彼にとっても、お互い最悪の相性なのではないかという思いが浮かんでくる。
しかし、はいそうですかと言って会話を終わらせるわけにもいかない。鬼道院はやや笑みを薄めながら、そっと数珠をなでた。
「それは残念です。まあ、すでに仲間を作っている東郷さんにはデメリットの方が大きいくらいですから、仕方がないかもしれませんね。ただ、東郷さんは私の申し出を誤解されていると思いますので、少しだけ補足させてください」
「チームを組むのに誤解も何もないだろ。少なくとも俺はお前を信用していない。はっきり言ってこの中で一番警戒している。たとえどんな条件を出されようと、そんな奴と一緒に行動するつもりはないし、ましてスペルを教え合う仲間になんてなる気はない」
まさに取り付く島もない反応。こうも警戒され続けると純粋に嫌われているんじゃないかと落ち込みそうになる。だけれども返答としては予想していたもの。想定はしていたが、やはり微妙に勘違いして伝わっていたようである。
少しばかり東郷から距離をとると、鬼道院は片手で一本、線を引いて見せた。
「残念ではありますが、あなたが私のことを必要以上に警戒していることは理解しています。ですからあなたと神楽耶さんのような、純粋な仲間になれるとは思っていません。私の望みは、銃を持ったプレイヤーから狙われにくくするための、ちょっとした協力関係にすぎません」
鬼道院の話に興味を持ったのか、東郷はようやく意識を銃弾から外した。そのことに満足感を覚えつつ、鬼道院はゆったりと語りかけていく。
「まず一つ。東郷さんも納得していただけることとして、私が橋爪さんを殺した銃持ちのプレイヤーでないことは理解していただけますよね。もし私が銃持ちであるならば、銃の存在を知らせるような真似をしたりはしませんから」
警戒した表情ながらも、東郷は小さく頷いた。
「……確かに、それは認めざるを得ないな。敢えてそう語ることで自身を容疑者圏外にしようとしたと考えられなくもないが、銃の所持を黙っていることの方が明らかにメリットが大きい」
「納得していただき有難うございます。それでは二つ目。これも納得していただけると思うのですが、私とあなたとでは話をする相手が見事に異なっていますよね。性格の問題でしょうが、私が比較的親しく話す藤城さんなどは、東郷さんのお嫌いな相手でしょう。
つまりここで提案したい協力関係というのは、話す相手の異なる我々が、それぞれ接したプレイヤーについての情報を補い合うことです」
話し終えると、鬼道院はそっと数珠に指を触れた。
今の話を受けるか受けないかを考えているのか、目の前で東郷は目を瞑って考え込んでいる。ゲーム上暴力が禁止されているとはいえ、警戒している相手の前でこうも無防備な姿をさらすとは。
お互い様ではあるだろうが、どうにも相手の考えていることが読めない。警戒しているという言葉に嘘はなさそうであったが、その割に殺される心配はしていないようなのだから。
些か考え疲れ、鬼道院は頭のスイッチをオフにした。患者たちを前に、ただ黙って瞑想しているときの状態。
鬼道院自身は与り知らぬことだが、友人曰くこの状態が最も神秘的らしい。
考えることを止めた男と、考え続ける男が共存する静かな時間が流れる。
当然この空間を壊すのは考え続ける男。
ふと目を開けると、考え続ける男は疑問を投げかけた。
「その協力関係だったら、受けるのは吝かではない。だが、これと銃を持ったプレイヤーから狙われにくくなることの繋がりが見えないな。もし俺に情報を流していることがばれれば、事実上仲間を持たないお前は銃持ちだけでなく他のプレイヤーからも真っ先に狙われ始めるだろう。はっきり言ってお前にはリスクの方が多いぐらいだ。この協力におけるお前の本当のメリットは何だ?」
思考停止していた頭を再起動しつつ、鬼道院はぼんやりと口を開き、言う。
「東郷さんは面白い方ですね。絶対に本当の答えが返ってこないような質問を、敢えてしてくるんですから。でも、そうですね。どうせ信じてもらえないことを前提に答えるとするなら……私とあなたが組んでいると知れば、どのプレイヤーも恐ろしくなって避けるようになるから。でしょうかね」
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