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雷鳴轟く四日目
時刻は二十二時ちょっと前
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「ぷきき。こうもうまく物事が進むと、やっぱり気分がいいなあ」
ごろりと床に横になりながら、『杉並』たるボクは鼻歌交じりにそう呟いた。
順調も順調、絶好調。負ける気も死ぬ気も一切しない。余裕でこのゲームを勝ち抜く未来しか想像できないほどだ。
今回は一筋縄ではいかない完全犯罪を成し遂げた犯罪者どもを集めたというから、始まった当初は多少の緊張感がないでもなかった。だがしかし、どいつもこいつもこのゲームの本質を見抜くのが遅い愚図ばかり。リスクを恐れてかちんたらちんたら様子見を続ける体たらく。
「負ける気がしない。どころか負ける方が難しいぐらいだ。ぷききききき」
奴らの中に自分たちが今どれ程間抜けな状況に陥っているか、気づいている奴は一人でもいるだろうか? かなりヒントは与えてやったものの、現実的な思考をしていては一生正解には辿り着けない。
完全犯罪を成し遂げるような奴らであれば論理的思考力はかなり高いのだろうが、如何せん考えが凝り固まっているように思える。キラースペルという異次元の力を使う上では、子供のように柔軟な思考の方が求められるというのに。
とはいえそれも仕方のないことではあるのだろう。突然こんな場所に拉致され、科学で解明できていない超能力を与えられたと言われても、凡人では受け入れることすらできないはずだ。その点、ほとんど動揺を見せずにゲームに参加していることは、素直に評価するべきかもしれない。
「まあ、それでも期待外れであることに変わりはないけどねえ。どいつもこいつもスペルの使い方がありきたりで面白みがないんだよ」
キラースペルは与えられた言葉に大きく反してさえいなければ、想像力次第でいかようにも応用が利く。
例えば一井が持っていた『武器創成』というスペル。あのゴリラは見た目から人を恐怖させることのできる武器を望み、その結果切れ味を極限まで上げたごつい斧を作り出した。
別にそれが間違った選択だとは言わないが、もし純粋にゲームの攻略を目指すのなら、もっとチートな武器だって作り出せたのだ。声を聞かせただけで相手を意のままに操れるメガホンや、透明で視認することが不可能な拳銃。任意に動かすことが可能な超小型の虫型爆弾など――現実に存在せず原理不明な武器だって、キラースペルの力をもってすれば作り出すことは可能なのだ。……まあボク自身も、カウンタースペルを恐れて殺傷能力のあるそうした武器とは異なる物を作り出すことにしてしまったが。
他にも藤城が持っていた『記憶操作』というスペル。奴はスペルを早期に使うことにビビッて保持していたが、普通ならゲームが始まってすぐ一井か宮城に唱え、強力な手駒を作るところだろう。しかしこれもボクなら、さらにもう一段階上の使い方ができる。
それは植物や動物の記憶を操作して人を襲わせたり、また、死体に記憶を植え付けてゾンビを作り出し人を襲わせることだ。
ほとんどの奴らが動物はともかく植物には記憶などないし、死体もそもそも機能が停止しているのだから記憶を植え付けても無意味だと考えるかもしれない。まあ植物が意識や記憶を持つのかは定義によって変わるものだし、何をもって死者とするかも実際曖昧なところが多く、人によって捉え方が違うだろうけど。
ただここで重要なのは、現実問題としてボクたちに与えられたスペルの力であれば、想像力次第でそういった通常ではあり得ないことも起こせるということだ。
ボクは『杉並』としてその現場を何度か見てきたし、この館に来る前にも一度、自身でスペルを使用しこの力が紛い物でない『神の力』であることを確認している。
そう。こうした前提知識を考慮して言えば、一番恐れていた相手は六道だった。あいつはボクよりも遥かにキラースペルについて詳しい。幸いボクの顔をあいつは知らないから警戒されることこそなかったが、それでも最も油断ならない相手であることは間違いなかった。
「しかしまあ、気にし過ぎだったみたいだけどね」
今も生き残ってこそいるものの、現状六道から脅威を感じることはない。
ゲームの元司会者という経験からか、仮に仲間内であってもスペルを決して口にしない、させないよう徹底しており、盗聴の甲斐なくあいつ自身のスペルは未だ不明だ。しかしこの状況になっても使う気配がないとなれば、相当ハズレのスペルを与えられたということだろう。確かあいつもボク同様、罰としてこのゲームに参加させられることになったみたいだし、それは不思議な話ではない。
「ま、ボクのスペルは完全なアタリだったけどね。ぷききききき」
運営が即死スペルをアタリだと考えているのだとすれば、この能力は大して使えるものではないという判断だったのだろうけど。ボクはそんじょそこらの犯罪者どもとは違う、諜報機関『杉並』の一員だ。与えられたスペル『完全複製』を使って、初日から最高のショー、そして必勝の型を見せてあげた自信がある。
「ここまで来たら大人しくしてるだけでも勝てそうだけど、それじゃあつまらないよなあ。せっかくなら全女性コンプしたいし、適当なタイミングで東郷を殺して神楽耶ちゃんと……ぷききききき」
そろそろ時刻は十時になる。
これからまた、ボクだけの絶対安全な時間が始まる。さて、明日の楽しみについて思いを馳せよう――と、そう考えた時。
手にしていた受信機から、扉の開く音が聞こえてきた。
ごろりと床に横になりながら、『杉並』たるボクは鼻歌交じりにそう呟いた。
順調も順調、絶好調。負ける気も死ぬ気も一切しない。余裕でこのゲームを勝ち抜く未来しか想像できないほどだ。
今回は一筋縄ではいかない完全犯罪を成し遂げた犯罪者どもを集めたというから、始まった当初は多少の緊張感がないでもなかった。だがしかし、どいつもこいつもこのゲームの本質を見抜くのが遅い愚図ばかり。リスクを恐れてかちんたらちんたら様子見を続ける体たらく。
「負ける気がしない。どころか負ける方が難しいぐらいだ。ぷききききき」
奴らの中に自分たちが今どれ程間抜けな状況に陥っているか、気づいている奴は一人でもいるだろうか? かなりヒントは与えてやったものの、現実的な思考をしていては一生正解には辿り着けない。
完全犯罪を成し遂げるような奴らであれば論理的思考力はかなり高いのだろうが、如何せん考えが凝り固まっているように思える。キラースペルという異次元の力を使う上では、子供のように柔軟な思考の方が求められるというのに。
とはいえそれも仕方のないことではあるのだろう。突然こんな場所に拉致され、科学で解明できていない超能力を与えられたと言われても、凡人では受け入れることすらできないはずだ。その点、ほとんど動揺を見せずにゲームに参加していることは、素直に評価するべきかもしれない。
「まあ、それでも期待外れであることに変わりはないけどねえ。どいつもこいつもスペルの使い方がありきたりで面白みがないんだよ」
キラースペルは与えられた言葉に大きく反してさえいなければ、想像力次第でいかようにも応用が利く。
例えば一井が持っていた『武器創成』というスペル。あのゴリラは見た目から人を恐怖させることのできる武器を望み、その結果切れ味を極限まで上げたごつい斧を作り出した。
別にそれが間違った選択だとは言わないが、もし純粋にゲームの攻略を目指すのなら、もっとチートな武器だって作り出せたのだ。声を聞かせただけで相手を意のままに操れるメガホンや、透明で視認することが不可能な拳銃。任意に動かすことが可能な超小型の虫型爆弾など――現実に存在せず原理不明な武器だって、キラースペルの力をもってすれば作り出すことは可能なのだ。……まあボク自身も、カウンタースペルを恐れて殺傷能力のあるそうした武器とは異なる物を作り出すことにしてしまったが。
他にも藤城が持っていた『記憶操作』というスペル。奴はスペルを早期に使うことにビビッて保持していたが、普通ならゲームが始まってすぐ一井か宮城に唱え、強力な手駒を作るところだろう。しかしこれもボクなら、さらにもう一段階上の使い方ができる。
それは植物や動物の記憶を操作して人を襲わせたり、また、死体に記憶を植え付けてゾンビを作り出し人を襲わせることだ。
ほとんどの奴らが動物はともかく植物には記憶などないし、死体もそもそも機能が停止しているのだから記憶を植え付けても無意味だと考えるかもしれない。まあ植物が意識や記憶を持つのかは定義によって変わるものだし、何をもって死者とするかも実際曖昧なところが多く、人によって捉え方が違うだろうけど。
ただここで重要なのは、現実問題としてボクたちに与えられたスペルの力であれば、想像力次第でそういった通常ではあり得ないことも起こせるということだ。
ボクは『杉並』としてその現場を何度か見てきたし、この館に来る前にも一度、自身でスペルを使用しこの力が紛い物でない『神の力』であることを確認している。
そう。こうした前提知識を考慮して言えば、一番恐れていた相手は六道だった。あいつはボクよりも遥かにキラースペルについて詳しい。幸いボクの顔をあいつは知らないから警戒されることこそなかったが、それでも最も油断ならない相手であることは間違いなかった。
「しかしまあ、気にし過ぎだったみたいだけどね」
今も生き残ってこそいるものの、現状六道から脅威を感じることはない。
ゲームの元司会者という経験からか、仮に仲間内であってもスペルを決して口にしない、させないよう徹底しており、盗聴の甲斐なくあいつ自身のスペルは未だ不明だ。しかしこの状況になっても使う気配がないとなれば、相当ハズレのスペルを与えられたということだろう。確かあいつもボク同様、罰としてこのゲームに参加させられることになったみたいだし、それは不思議な話ではない。
「ま、ボクのスペルは完全なアタリだったけどね。ぷききききき」
運営が即死スペルをアタリだと考えているのだとすれば、この能力は大して使えるものではないという判断だったのだろうけど。ボクはそんじょそこらの犯罪者どもとは違う、諜報機関『杉並』の一員だ。与えられたスペル『完全複製』を使って、初日から最高のショー、そして必勝の型を見せてあげた自信がある。
「ここまで来たら大人しくしてるだけでも勝てそうだけど、それじゃあつまらないよなあ。せっかくなら全女性コンプしたいし、適当なタイミングで東郷を殺して神楽耶ちゃんと……ぷききききき」
そろそろ時刻は十時になる。
これからまた、ボクだけの絶対安全な時間が始まる。さて、明日の楽しみについて思いを馳せよう――と、そう考えた時。
手にしていた受信機から、扉の開く音が聞こえてきた。
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