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終わりと始まり
喜多嶋悲喜交交
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醜く顔を腫らした佐久間の死体が横を通り過ぎる。
喜多嶋はその死体を憎々し気に眺めてから、本館へと向かって歩きだす。
今回の後片付けは、これまでよりも時間がかかっていた。
佐久間がどこにどんな毒を仕込んだのかが分からないため、姫宮から『毒物添加』のスペルを聞かされた後に彼が触れたと思われるものは、全て館の外に運び出させていた。
推理小説では毒による殺害は定番。頭脳戦をお好みの御方々には好まれるのではないかと考えていた。加えて毒が存在していると分かれば、食べ物に対する警戒も強まり、より緊迫したゲームが繰り広げられることも見込まれた。だからあのスペルを導入した。
しかし結果としては後始末が面倒になっただけで、毒がゲームを盛り上げることはなかった。それどころか架城があっさりと死んでしまったり、佐久間の断末魔の悲鳴を聞けないなど、いくつかのイベントを台無しにしてしまった。
「ちっ、六道が毒を使いたがらなかった理由はこれか。勿体ぶらず理由を説明しておけばいいものを」
自身の無能さを棚に上げ、前任者である六道を毒づく。だが、歪んだ顔も、自身の現状を思い出すことですぐさま笑顔に変わる。
ついに掴んだ司会というポジション。四大財閥のトップと直に会話を交わすことのできる、栄光の地位。
これまでは六道によって「君は弁舌巧みではあるけれど、少し思慮に欠けて軽率なところがある。まだ司会は任せられないかな」と、妬みから妨害され続けてきた。しかしその六道自身がスペルの密告などと言う軽率な行動をとり、司会の地位を追われゲームの被験者に成り下がった。一応勝ち残りこそしたものの、それは運が良かっただけ。
お前こそ口だけの男だったではないかと、勝利の笑い声を堪えるのに苦労したものだ。
今回のゲームは必ずしも高い評価を得られなかったようだが、それでも降板させられるほど大きな失態は犯さなかった。それに八雲様にこそ気に入っていただけなかったようではあるが、個人的にはラスト、鬼道院と東郷が同時に死亡した瞬間は非常に興奮した。ほぼ同時に引き金が引かれ、勝利は間違いないと思われる男たちが血潮に染まるあの一瞬。
まるで映画のように劇的で滾る終幕だった。
是非彼ら二人の死に様は直で見たいと思い、部下にはすぐ死体を運ばず現場保存をするよう頼んでおいた。
足取りも軽やかに連絡通路を渡り、喜多嶋は本館へ移動。途中絵画を運ぶ数人の部下とすれ違いながら、一直線に大広間を目指した。
大広間の扉の前には屈強な黒服の男たちが二人。彼らは喜多嶋を見るとすぐさま敬礼し、恭しく扉を開けた。
自身が礼を尽くされる対象であることに満足感を抱きつつ、悠々と部屋の中に足を踏み入れる。中に入るとすぐ扉が閉まり、モニターから見ていたのと全く同じ光景が喜多嶋の視界に現れた。
天井を見上げるように仰向けで倒れた鬼道院の死体と、床に額をつけ俯せに倒れた東郷の死体。
まずは鬼道院の死体の近くにより、その死に顔をまじまじと観察する。眉間にぽっかりと穴が開き、まるで第三の目が開眼したように見える。自殺宣告のスペルを受け死ぬことを悟ったのか、引き金を引く直前に鬼道院は目を閉じていた。それゆえか死に顔は決して醜く歪んだものではなく、むしろ第三の目の影響もあり神々しさすら醸し出していた。
さすがは元教祖。死んでなおその威光は顕在かと、感嘆の吐息を漏らす。
これほど珍妙な存在は前例がなく、今回のゲームで失ってしまったことには勿体なさを感じてしまう。しかし、死んでしまったものは仕方がない。残念ながらスペルの力を使っても、死者を蘇らせることはまだ成功していないのだから。
特に手を合わせたりせず観察を止め、今度は東郷の死体に近づく。こちらは俯せに倒れているため、死に顔はまだ拝めていない。ゲーム中は常に陰気で真面目腐った顔をしていたが、果たして死んだ後はどのような表情を浮かべているのか。
足で小突いて体を回転させ、東郷の死体を仰向けにする。
仰向けにした彼の顔を見て、喜多嶋は一瞬びくりと肩を震わせた。東郷は鬼道院と違い目を見開いており、その目と視線が合ったように思えたからだ。
しかしそんなことはただの偶然だと心を叱咤する。東郷の額を銃弾が貫いたのは疑いようのない事実。モニター班が徹底検証しているのだから、そこに間違いが起きうる余地はない。
それに今も、血で赤く染まった顔を向けたままピクリとも動かない。生きているわけないと心を落ち着かせた。
ただ、目と目が合ったように感じたのは事実。どこか気味の悪い思いを抱きながら東郷の顔をまじまじと見つめ、喜多嶋はぼそりと呟いた。
「全く、最後まで不気味な男だったな。経歴だけ見れば、今回のゲームで真っ先に脱落しても不思議じゃないと考えていたが……まあ十分ゲームを盛り上げてはくれたんだ。礼の一つでも言ってやるか」
「それは結構だ。お前のために動いたことなど一度たりともないからな」
「…………………は?」
死んでいたはずの東郷が口を開き、そこからはっきりと声が聞こえてきた。
何が起こったのか分からず頭がフリーズする。しかし異常事態が起きたことだけは認識し、すぐさま廊下にいる部下たちに声をかけようとした。
だが、再びの異常事態。声を発する前に死者のように冷たい手で口を塞がれ、さらには首元にナイフを突きつけられてしまった。
一瞬で抵抗する術を奪われた喜多嶋に、さらに追い打ちをかけるが如く、
「決して動かないでくださいね」
と、圧倒的な強制力を持った声が囁かれる。
その声により抵抗する意思すら挫かれた喜多嶋は、黙って何者かの指示に従う。
するとそんな喜多嶋の目の前で、先ほどまで死体だったはずの東郷が立ち上がり、皮肉気な笑みを浮かべ言ってきた。
「どうも喜多嶋さん。あまりのクソゲーに文句を言いたくて、地獄から舞い戻ってきましたよ」
喜多嶋はその死体を憎々し気に眺めてから、本館へと向かって歩きだす。
今回の後片付けは、これまでよりも時間がかかっていた。
佐久間がどこにどんな毒を仕込んだのかが分からないため、姫宮から『毒物添加』のスペルを聞かされた後に彼が触れたと思われるものは、全て館の外に運び出させていた。
推理小説では毒による殺害は定番。頭脳戦をお好みの御方々には好まれるのではないかと考えていた。加えて毒が存在していると分かれば、食べ物に対する警戒も強まり、より緊迫したゲームが繰り広げられることも見込まれた。だからあのスペルを導入した。
しかし結果としては後始末が面倒になっただけで、毒がゲームを盛り上げることはなかった。それどころか架城があっさりと死んでしまったり、佐久間の断末魔の悲鳴を聞けないなど、いくつかのイベントを台無しにしてしまった。
「ちっ、六道が毒を使いたがらなかった理由はこれか。勿体ぶらず理由を説明しておけばいいものを」
自身の無能さを棚に上げ、前任者である六道を毒づく。だが、歪んだ顔も、自身の現状を思い出すことですぐさま笑顔に変わる。
ついに掴んだ司会というポジション。四大財閥のトップと直に会話を交わすことのできる、栄光の地位。
これまでは六道によって「君は弁舌巧みではあるけれど、少し思慮に欠けて軽率なところがある。まだ司会は任せられないかな」と、妬みから妨害され続けてきた。しかしその六道自身がスペルの密告などと言う軽率な行動をとり、司会の地位を追われゲームの被験者に成り下がった。一応勝ち残りこそしたものの、それは運が良かっただけ。
お前こそ口だけの男だったではないかと、勝利の笑い声を堪えるのに苦労したものだ。
今回のゲームは必ずしも高い評価を得られなかったようだが、それでも降板させられるほど大きな失態は犯さなかった。それに八雲様にこそ気に入っていただけなかったようではあるが、個人的にはラスト、鬼道院と東郷が同時に死亡した瞬間は非常に興奮した。ほぼ同時に引き金が引かれ、勝利は間違いないと思われる男たちが血潮に染まるあの一瞬。
まるで映画のように劇的で滾る終幕だった。
是非彼ら二人の死に様は直で見たいと思い、部下にはすぐ死体を運ばず現場保存をするよう頼んでおいた。
足取りも軽やかに連絡通路を渡り、喜多嶋は本館へ移動。途中絵画を運ぶ数人の部下とすれ違いながら、一直線に大広間を目指した。
大広間の扉の前には屈強な黒服の男たちが二人。彼らは喜多嶋を見るとすぐさま敬礼し、恭しく扉を開けた。
自身が礼を尽くされる対象であることに満足感を抱きつつ、悠々と部屋の中に足を踏み入れる。中に入るとすぐ扉が閉まり、モニターから見ていたのと全く同じ光景が喜多嶋の視界に現れた。
天井を見上げるように仰向けで倒れた鬼道院の死体と、床に額をつけ俯せに倒れた東郷の死体。
まずは鬼道院の死体の近くにより、その死に顔をまじまじと観察する。眉間にぽっかりと穴が開き、まるで第三の目が開眼したように見える。自殺宣告のスペルを受け死ぬことを悟ったのか、引き金を引く直前に鬼道院は目を閉じていた。それゆえか死に顔は決して醜く歪んだものではなく、むしろ第三の目の影響もあり神々しさすら醸し出していた。
さすがは元教祖。死んでなおその威光は顕在かと、感嘆の吐息を漏らす。
これほど珍妙な存在は前例がなく、今回のゲームで失ってしまったことには勿体なさを感じてしまう。しかし、死んでしまったものは仕方がない。残念ながらスペルの力を使っても、死者を蘇らせることはまだ成功していないのだから。
特に手を合わせたりせず観察を止め、今度は東郷の死体に近づく。こちらは俯せに倒れているため、死に顔はまだ拝めていない。ゲーム中は常に陰気で真面目腐った顔をしていたが、果たして死んだ後はどのような表情を浮かべているのか。
足で小突いて体を回転させ、東郷の死体を仰向けにする。
仰向けにした彼の顔を見て、喜多嶋は一瞬びくりと肩を震わせた。東郷は鬼道院と違い目を見開いており、その目と視線が合ったように思えたからだ。
しかしそんなことはただの偶然だと心を叱咤する。東郷の額を銃弾が貫いたのは疑いようのない事実。モニター班が徹底検証しているのだから、そこに間違いが起きうる余地はない。
それに今も、血で赤く染まった顔を向けたままピクリとも動かない。生きているわけないと心を落ち着かせた。
ただ、目と目が合ったように感じたのは事実。どこか気味の悪い思いを抱きながら東郷の顔をまじまじと見つめ、喜多嶋はぼそりと呟いた。
「全く、最後まで不気味な男だったな。経歴だけ見れば、今回のゲームで真っ先に脱落しても不思議じゃないと考えていたが……まあ十分ゲームを盛り上げてはくれたんだ。礼の一つでも言ってやるか」
「それは結構だ。お前のために動いたことなど一度たりともないからな」
「…………………は?」
死んでいたはずの東郷が口を開き、そこからはっきりと声が聞こえてきた。
何が起こったのか分からず頭がフリーズする。しかし異常事態が起きたことだけは認識し、すぐさま廊下にいる部下たちに声をかけようとした。
だが、再びの異常事態。声を発する前に死者のように冷たい手で口を塞がれ、さらには首元にナイフを突きつけられてしまった。
一瞬で抵抗する術を奪われた喜多嶋に、さらに追い打ちをかけるが如く、
「決して動かないでくださいね」
と、圧倒的な強制力を持った声が囁かれる。
その声により抵抗する意思すら挫かれた喜多嶋は、黙って何者かの指示に従う。
するとそんな喜多嶋の目の前で、先ほどまで死体だったはずの東郷が立ち上がり、皮肉気な笑みを浮かべ言ってきた。
「どうも喜多嶋さん。あまりのクソゲーに文句を言いたくて、地獄から舞い戻ってきましたよ」
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