キラースペルゲーム

天草一樹

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終わりと始まり

BAD END2:ゲームルーラーXを〇〇〇〇〇と推理した場合

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『第67話:推理小説の様にはいかない』のラストから


 神楽耶は何度か目をぱちりと瞬かせた後、「本当にありきたりな言葉ですね」と微笑んだ。
 心を優しく包み込むような可憐な笑みに、明は一瞬放心状態に陥る。それから彼女の笑顔に釣られるようにして、明もぎこちない笑みを浮かべ彼女の隣に腰を下ろした。
 神楽耶は一瞬驚いたようにこちらを見つめたが、特に何も言わず再び微笑みを浮かべる。
 明は、そんな神楽耶の笑みをしばらく眺めた後、徐々に顔を近づけ――、

「実は俺は、二人を殺した犯人を知っている。いや、二人だけでなく、藤城を殺し、このゲームを裏で操っていた奴をだ」
「え!」

 唐突に秘していた考えを打ち明けた。
 予想外の展開に驚いた声を漏らす神楽耶の口の前に人差し指を当て、静かにするよう促す。
 それから運営に聞こえないレベルの囁き声で、明は続けた。

「俺がここまで抱いてきた違和感。それらを統合すると、ある人物なら一連の犯行が可能であると、推測できた」

 三つ、いや、四つ。
 ここまでのゲームを通して抱いた違和感。
 一つ。二日目に藤城が言っていた『十四人目のプレイヤー説』
 二つ。三日目の宮城による裁判で、全員が藤城の殺害を否定できたこと
 三つ。今日、姫宮と秋華の二人が同時に殺されたこと
 そして四つ。初日におけるある人物の行動
 これらに論理的な筋を通そうとすれば、一見あり得ない、しかしキラースペルゲームを使えばあり得る、悪夢のような答えが浮かび上がる。
 そう、このゲームを裏から操ってきたゲームルーラーX。その正体は――

「藤城、姫宮、秋華を殺した犯人は、お前だ。神楽耶江美」
「な、何を言ってるんですか!」

 静かにしろという明の指示を無視して、神楽耶はその場で悲鳴に近い声を上げた。
 まあそれも当然だろうと思い、明も普通の声量に戻す。

「別におかしなことを言っているつもりはない。論理的に考えた結果、お前以外に一連の犯行をできそうな者がいなかっただけの話だ」

 神楽耶は顔を真っ赤にし、大きく首を横に振った。

「そ、それがおかしいじゃないですか! 他でもない東郷さんだけは、私が無実であることを誰よりもよく知っているはずです!」
「いいや、俺だからこそお前が犯人だと気づけたんだよ。何せ実際に奴らを殺したのは、お前に操られた俺だったんだからな」
「……言ってる意味が分かりません。ストレスで頭がおかしくなっちゃったんですか?」
「ここにきてとぼける必要性はないと思うんだがな。まあせっかくだ、どうして俺がお前の犯行に気付けたか教えてやろう」

 困惑を通り越し、どこか侮蔑した表情を浮かべる神楽耶。
 まるでこちらが的外れな推理をしているかに思えるが、これが最も合理的な考えのはず。
 明はベッドから立ち上がると、部屋を練り歩きながら自らが導き出した『真実』を語り始めた。

「実のところ最初から疑問ではあったんだ。どうしてお前が俺とチームを組むことを認めたのか。確かに俺はお前が仲間になってくれるよう誘導はした。しかし、ゲーム序盤にスペルを無駄打ちし、見も知らぬ人殺しに命を預ける。本当にそんなことをする馬鹿が存在するのか、ずっと疑問だったんだ」
「……馬鹿で悪かったですね」
「謙遜するな。お前はそうして馬鹿のふりをしていたにすぎなかったんだ。実際に馬鹿だったのは、そのことを疑わずにスペルを唱えさせた俺の方だ」
「……ですね。頭がいいと思っていましたが、東郷さんは馬鹿だったみたいです」

 くだらないといった雰囲気を隠そうともせず、神楽耶は云い捨てる。
 その態度が全く演技には見えず、頭の片隅で推理への疑念が生じる。しかしそれを押し殺し、明は話をつづけた。

「お前の本当のスペルは『背後奇襲』なんかじゃない。鬼道院が持っている『記憶改竄』と同系統の、相手の記憶を操る『記憶操作』と言ったスペルだったんだろう。お前は初日にそのスペルを唱え、俺の記憶を自由に操る力を得たんだ。そして、俺を介して各プレイヤーの殺害を行っていった」

 図星を突かれたはずにも関わらず、神楽耶の表情は呆れを全面に出したまま変化しない。
 彼女は想像していたより遥かに演技派だったらしい。これだけの美貌の持ち主であるし、もしかしたら女優の卵だったのかもしれない。
 明が神楽耶の経歴に思いを馳せる中、彼女は渋々口を開いた。

「……聞くのも馬鹿らしいですけど、一応聞きます。なぜ私がそんな面倒なことをしてあなたに他のプレイヤーを殺させたんですか?  普通に協力すればいいだけの話だと思うんですけど」
「それなら単純な話だ。お前は俺に裏切られるのが怖かった。だから自らを馬鹿に見せかけ、裏切る必要もない相手だと誤認させたかった。そのために自分の能力を隠して俺を操ったんだ」
「私のスペルって他人の記憶だか認識だかを操る能力なんですよね、あなたの妄想の中では。だったら最初から、部分的に記憶を変えたりせず、私に従うように操ってると思うんですけど」
「それだと他のプレイヤーから狙われるだろう。初対面のはずの俺を一方的に従わせている要注意人物。そんな役回りより、馬鹿な偽善者を演じていた方が狙われる危険性はずっと下がる」
「だとしても、彼らを殺してないって風にあなたの記憶を変える必要性はなくないですか?」
「それは『虚言既死』のスペルが原因だろうな。俺があいつらを殺したと記憶していない方が有利に働くと考えて、お前は殺人の記憶を消したんだ」
「……はあ。この調子だと、何を言っても言い返されそうですね」
「それは俺の発言を認めるってことだな」
「違いますよ!」

 神楽耶は眉間に声でもかと皺をよせ、叫び声をあげる。
 この期に及んでまだ否定するのか。
 予想していたものとは違う展開に、明は自分の推理を振り返ってみた。しかしやはり、神楽耶に操られた自分以外に、藤城の殺害を否定でき、秋華と姫宮を殺せた人物はいないはずだと結論が出た。

 藤城殺害の記憶を消去されていたから、『虚言既死』でも殺されなかった。
 『自殺宣告』のスペルを使うことで、秋華と姫宮を心中するよう仕向けた。

 これ以上に、一連の殺人を説明できる真実があるだろうか?
 明は迷いを断ち切るように大きく首を振ると、神楽耶に視線を合わせた。

「言っておくが、俺はお前に操作されていたことに腹を立てたりはしていない。こんな状況になったのは、純粋に俺の力不足だからな」
「なら、なぜ今こんな話を?」

 怒りはもう収まったらしく、神楽耶は諦観した顔つきで見つめてくる。
 明は澄んだ瞳で、彼女の美しい顔を見つめ返した。

「残りの人数も少なくなったし、ここらで対等な関係に戻したいと思ったんだよ。実際に今俺たちが持っているスペルや状況を把握できれば、一気にゲームを終わらせる方法を思いつくかもしれないからな」
「……ここまで私に一方的に操られてきた東郷さんに、そんな素敵な考えが浮かびますかね?」
「確かに俺はお前に後れを取った。だが、俺の思考力がお前より圧倒的に低いってことはないはずだ。お前が思いつかなかった方法の一つや二つ、すぐに出して見せるさ」
「そうですね……」

 神楽耶は一瞬、俯いて何かを呟いた。
 そしてすぐさま顔を上げると、これまで一度も見せたことのない、満面の笑みを明に向けた。

「申し訳ありませんが、お断りします。東郷さんは、私がチームを組むに値するほど価値のある人じゃなかったみたいなので」
「何!?」
「それに、どうしても私に操られてたことにしたいみたいですし――実際に操ってあげますよ」
「ま、待て――」
「『記憶改竄』」
「…………………………ワン」

 神楽耶の口よりスペルが唱えられて数秒後。
 明は床に四つん這いになっていた。その目からは先ほどまであった知性の光が完全に失われており、まるで人形のような無機質さが漂っていた。
 四つん這いになった明は犬のように舌を垂らし、神楽耶の足元に移動する。
 そんな犬《明》の姿をくすくすと嘲りながら、神楽耶はその上にふわりと腰を下ろす。
 そして優しい手つきで犬の頭を撫でつつ、優雅な声で囁いた。

「これからは、正真正銘私の犬として、しっかり働いてくださいね」



→Dog end(?)
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感想 1

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みんなの感想(1件)

外谷狭現
2020.06.29 外谷狭現

一日で読みきってしまいました。
話によって視点が別人物に切り替わる部分や作品独自の要素が、少し読むのを難しくしていると感じましたが、それを感じさせないくらい作り込まれた素晴らしい作品だと思いました。
プレイヤー同士の心理戦や、意識の裏をかいたスペルの活用などがとても面白い。
もっと評価されるべき良い作品だと思います。
拙い文章で申し訳ないです。

2020.06.29 天草一樹

感想有難うございます!
頭脳戦などを行う際は、誰か一人に焦点を当てすぎると他のメンバーの影が薄くなってしまいそうだなと思い、視点は時々切り替えるようにしていました。それにより読むのが難しくなってしまっていたのなら申し訳ありません。改善の余地ありですね。
スペルの活用は、驚きを与えられるけど、反則だと言われないレベルを狙ってみました。面白いと思っていただけたなら幸いです。
個人的には前半が少しぐだついているかなと思っているので、そこら辺で読者が離れているのかなあと思ったり……でもこうして評価してくださる人がいるので十分です!
とても励みになりました。今後より面白い作品を創れるよう精進していきたいと思います。

解除

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