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第一章:視点はだいたい橘礼人
D班:事態は唐突に
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沢知の突然の行動に一瞬唖然としていた四人だったが、沢知が走っていく先に視線を向けると、すぐさま事態を理解した。
「おいおい、まさか銃だけじゃなくて弓まで持ってんのかよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! さっさと沢知を追いかけるよ」
D班の視線の先には、木に寄り掛かっている速見と、その速見に対し弓を構えているオオカミ使いの姿があった。
沢知に遅れまいと、波布と多摩、伊吹の三人が走り出す中、沢知はすでに速見のそばまで近づいていた。
沢知が近づいてきているのを察したオオカミ使いは、狙いを速見から沢知へと変え、矢を射ち放つ。間一髪のところで矢を避けきった沢知は、速見のもとまで駆け込むと、正面からオオカミ使いと対峙した。
そんな沢知の姿を見たオオカミ使いは、なぜか愉快そうに声をあげて笑うと、矢の狙いを沢知ではなく、遅れながらも向かってきていた波布へと向けた。
「マジかよ! この状況で俺が狙われんのか!」
「馬鹿! ぼさっとしてないで避けるんだよ」
自身に矢が向けられたことに驚き足を止めた波布の首根っこを掴むと、多摩は全力でオオカミ使いとは逆の方へと波布を投げ飛ばした。多摩が投げ飛ばしたのと同時に、波布がさっきまでいた場所に矢がつきささる。
狙いが外れたことから、再び矢をつがえようとオオカミ使いが準備をしていると、いつの間にか目の前までやってきていた伊吹が、オオカミ使いの顔面めがけて殴りかかった。オオカミ使いは矢をつがえるのを諦め、片手で軽く伊吹の拳をいなす。と、そのまま伊吹の脇腹目掛けて蹴りを放った。脇腹に蹴りを受け、一瞬伊吹がよろめいた隙を逃さず、さらに追い討ちをかけようと拳を振りかざす。が、その瞬間伊吹は懐から小型のナイフを取り出した。ナイフの存在に気づき、伊吹から距離をとろうとオオカミ使いが後ろに下がるのと同時に、伊吹は取り出したナイフをオオカミ使いの顔面に向けて投げつける。ナイフはオオカミ使いのほほを掠め、近くの木につき刺さった。
オオカミ使いは自分の頬に手をあてて、血が流れているのを確認する。そして、小さな声で何かを呟くと、伊吹らに背を向けて全速力で逃げ出していった。
突然のオオカミ使いの逃走に、一瞬呆気にとられていた一同だったが、
「皆さん、速見君を館まで運ぶのを手伝ってください!」
という沢知の一言で正気を取り戻した。
「お、おお、そうだな。つうか速見は無事なのか? 矢とか体に刺さってねぇよな?」
波布が動揺しながらも、速見のそばに寄っていく。
「矢は刺さってはいません。少し速見君の腕をかすめただけみたいです。でも、さっきから速見君、全然動いてくれません。もしかしたらさっきの矢に毒が塗ってあったのかも」
沢知が泣きそうな表情でそう言うと、多摩が速見の体を持ち上げ、早足に館へと戻り始めた。
「何にしろいったん館に運ぶしかないね。無月館が以前と変わらない内装なら、医務室があるはずだ。致死性の毒とは限らないし十分治療の余地はあるはずだよ。波布! 速見を運ぶのは私一人で十分だから、あんたは空条の奴を呼んできな。伊吹はまたオオカミ使いが出たときに備えて、森の方を見張りながらついてきな。ほら、沢知、あんたもしゃっきりしなよ。まだ速見が死んだと決まったわけじゃないんだから。……よし、それじゃあさっさと無月館に戻るよ」
多摩の指示のもと、再び動きを取り戻したD班は、無月館への帰還を開始した。
「おいおい、まさか銃だけじゃなくて弓まで持ってんのかよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! さっさと沢知を追いかけるよ」
D班の視線の先には、木に寄り掛かっている速見と、その速見に対し弓を構えているオオカミ使いの姿があった。
沢知に遅れまいと、波布と多摩、伊吹の三人が走り出す中、沢知はすでに速見のそばまで近づいていた。
沢知が近づいてきているのを察したオオカミ使いは、狙いを速見から沢知へと変え、矢を射ち放つ。間一髪のところで矢を避けきった沢知は、速見のもとまで駆け込むと、正面からオオカミ使いと対峙した。
そんな沢知の姿を見たオオカミ使いは、なぜか愉快そうに声をあげて笑うと、矢の狙いを沢知ではなく、遅れながらも向かってきていた波布へと向けた。
「マジかよ! この状況で俺が狙われんのか!」
「馬鹿! ぼさっとしてないで避けるんだよ」
自身に矢が向けられたことに驚き足を止めた波布の首根っこを掴むと、多摩は全力でオオカミ使いとは逆の方へと波布を投げ飛ばした。多摩が投げ飛ばしたのと同時に、波布がさっきまでいた場所に矢がつきささる。
狙いが外れたことから、再び矢をつがえようとオオカミ使いが準備をしていると、いつの間にか目の前までやってきていた伊吹が、オオカミ使いの顔面めがけて殴りかかった。オオカミ使いは矢をつがえるのを諦め、片手で軽く伊吹の拳をいなす。と、そのまま伊吹の脇腹目掛けて蹴りを放った。脇腹に蹴りを受け、一瞬伊吹がよろめいた隙を逃さず、さらに追い討ちをかけようと拳を振りかざす。が、その瞬間伊吹は懐から小型のナイフを取り出した。ナイフの存在に気づき、伊吹から距離をとろうとオオカミ使いが後ろに下がるのと同時に、伊吹は取り出したナイフをオオカミ使いの顔面に向けて投げつける。ナイフはオオカミ使いのほほを掠め、近くの木につき刺さった。
オオカミ使いは自分の頬に手をあてて、血が流れているのを確認する。そして、小さな声で何かを呟くと、伊吹らに背を向けて全速力で逃げ出していった。
突然のオオカミ使いの逃走に、一瞬呆気にとられていた一同だったが、
「皆さん、速見君を館まで運ぶのを手伝ってください!」
という沢知の一言で正気を取り戻した。
「お、おお、そうだな。つうか速見は無事なのか? 矢とか体に刺さってねぇよな?」
波布が動揺しながらも、速見のそばに寄っていく。
「矢は刺さってはいません。少し速見君の腕をかすめただけみたいです。でも、さっきから速見君、全然動いてくれません。もしかしたらさっきの矢に毒が塗ってあったのかも」
沢知が泣きそうな表情でそう言うと、多摩が速見の体を持ち上げ、早足に館へと戻り始めた。
「何にしろいったん館に運ぶしかないね。無月館が以前と変わらない内装なら、医務室があるはずだ。致死性の毒とは限らないし十分治療の余地はあるはずだよ。波布! 速見を運ぶのは私一人で十分だから、あんたは空条の奴を呼んできな。伊吹はまたオオカミ使いが出たときに備えて、森の方を見張りながらついてきな。ほら、沢知、あんたもしゃっきりしなよ。まだ速見が死んだと決まったわけじゃないんだから。……よし、それじゃあさっさと無月館に戻るよ」
多摩の指示のもと、再び動きを取り戻したD班は、無月館への帰還を開始した。
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