私の使い魔がたわしだった件

雷庵

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一話 よう、お前の相棒だ

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 薄暗い部屋の中、少女は部屋の床に描かれた魔法陣に向かい使い魔を得る為の呪文を唱える。

「暗き闇から現れし力よ。示せ、我が心の片割れ……現れいでよ、魂の友よ!」



 魔法陣から強い光があふれる、そして地から響くような地響きのような音とともに少女の使い魔が現れた。

「よう、召喚してくれてありがとな! 俺がお前の魂の友であり使い魔だ。よろしく頼むぜ」

 その姿はたわしに丸い目玉がついており、手足の棒がついている生き物だった。少女は怪訝にそれを凝視ししばらくの間思考と身体が固まった。そう、当然だが理解を超えた生き物のようなものがそこにあったのだ、仕方がない。たわしのような使い魔は察した。

「我が魂の友よ、俺はたわしの精霊だ。お前のきれい好きな性格から生まれたんだぜ……へへっ、こんなイケメンにしてくれてありがとな」

 それを聞いた少女は突っ込まざるを得なかった。

「ど……どこをみてイケメンなの!? 猫とか犬とか、なんだったら蛙でも諦めがついたけど、なんなのあんた!」

「情熱的な疑問のぶつけ方だな。さっきも言ったが俺はたわしの精霊、お前の魂の友、魂の友だ」

「大切な事だからって二回いってんじゃない! ちょっとまって、なんで私の使い魔たわしなのよ」

 少女は頭を抱え下を向いたまま座り込んでしまった。まもなくすすり声が聞こえ、鼻をすする音も聞こえ始める。たわしは細い足で少女の傍に寄った。

「おい、泣くんじゃねぇ……お前に涙はにあわねぇ。俺を使って涙をぬぐいな」

「……せめてハンカチくらいだしてよ……たわしで涙なんて拭えるわけないじゃん! みんな猫とか犬とか鳥なのに、なんで私だけたわしなの……ぐすっ」

 少女は声を殺しながらも涙していた。たわしはそれを見て感極まり目を潤ませていた。そう、たわしは自分が原因なのを理解しておらず、ただただ少女の涙に悲しみを覚えたのである。たわしは少女が泣き止むのを待ち続けた。

「なんで、なんで……一人一匹の特別な相棒である使い魔を持つことができるのが魔法使いの特権っていうから、ちょっとかっこいいなって思って死ぬほど頑張って魔法使いになったのに……なんで、なんでよりによってたわしの精霊なんてでてくるのよ……こんなのが使い魔だなんていったら、皆に笑われるどころか、いじめられるかもしれないじゃない……ぐすっ」

「おいおい、ほめるなよ! 照れちまうぜ」

「……ほめてないし! せめて言葉の意味をもう少しかみくだいてよぉ! うわーん!」

 かくして、少女の使い魔がこの世界に降り立った。世界にも類を見ないたわしの精霊と少女の奇妙な物語がここから始まった。

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