私の使い魔がたわしだった件

雷庵

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十九話 よう、俺死ぬかもしれないんだぜ……

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 その日の夜、アリスは就寝し、たわしはアリスの寝顔を眺めながらぼんやりしていた。そんなたわしの心に語りかける者がいた、使い魔界の魔界大王バジルノコフである。 

「ねぇちょっとお前なにしてくれてるの、なんで人間にルーン文字教えてるの? さすがに俺も切れるぞお前ぇ」

「大王様!? えぇ、その、だって、アリスちゃんあのままじゃかわいそうじゃないっスか……」

 たわしは覚悟した。知識共有をしてから思い出したのだ、人間にルーン文字を教えてはならないという使い魔の絶対の掟を。

「人間達が使い魔界や天界、精霊界やら魔界……そういったものをおこがましくも統一しようとして、各界の長が人間からルーン文字を奪ったんだけど、まさか魔柱ともあろう者が忘れたなんていわねぇよなぁ?」

 バジルノコフの口調がどんどん乱暴になっている。たわしはなんとかやり過ごせないか? と、様々な返答と対応を瞬時に計算する。わずかな間を置き答えを導き出した。

「ほんとうにさーせんでした、マジさーせんでした、アリスちゃんと、俺の命ばかりは助けてください……」

 謝罪のみが活路を見出すと。しかしバジルノコフは切れた。

「そもそもお前魔柱なのになんで使い魔になった!? お前ちょっと使い魔界こい、ちょっと死刑にしてやる」

 たわしは青ざめる。しかしバジルノコフの言い分に寸分の非りはなく、むしろ非は自分にすべてある事に気づいた。

「大王様、アリスちゃんに書置きしてもいいっすか? 実家に帰る、ルーン文字は絶対に他言してはならぬ、と」

「……よかろう。お前が死ねば共有した知識にアリスが触れる事もないからな。王座でまっているから、はよこいよ」

 バジルノコフはため息をつくとたわしとの会話を終える。たわしは天を仰ぎ目を閉じる。

「ノリで生きる事は罪なのか……うん、罪だよなぁ……アリスちゃんがルーン文字を悪用するわけねぇだろうよ、なぁ、アリスちゃん……」

 たわしはアリスを横目で見ると深くため息をつく。そしてメモ帳に[大王に呼ばれたから行ってくる。ルーン文字は他人にいわないでちょ、絶対だからね!]と記載すると使い魔界へと消えて行く。それと同時にアリスは目覚めた、たわしと知覚の共有をしているからこそ、たわしが使い魔界に移動したことに気づいたのだ。

「ねむいのに、なんなのもう……なんでたわしが使い魔界にいるのよ」

 アリスはベッドで寝ぼけ眼をこすりながらたわしの知識を手繰る。使い魔のルールは主人が死ぬまで使い魔は使い魔界に帰ってはならない、しかし例外としてルールを破った者については大王の呼び出しに応じなければならない……という知識を得る。そしてルーン文字を人間に教える事が大罪であるという知識を見つける。アリスは意味が理解できていなかった、たわしがそんな大罪を気分で犯したと。

「あぁでもたわしだもんね……やりかねないなぁ」

 アリスは一つため息を吐き出すとベッドから飛び出す。そして制服に着替える。

「まったく、主人に迷惑かける使い魔とかほんと最低なんだけど……とりあえずたわし探しにいかないとね」

 アリスはそう言い終えると、世界線移動の魔法を発動し、この人間界からアリスの存在を失わせた。



 アリスが気が付くと鬱蒼とした森の中にいた。わずかに光を感じるが太陽のようなものは見当たらず、気温は熱くもなく涼しくもなく丁度良いくらいであった。

「ふぅん、ここが使い魔界ってところなのね……延々木しかみえないんだけど。まぁ私にはたわしの知識があるから関係ないけど」

 そういうとたわしから得た知識を手繰る。どうやら大王はここから歩いて少しした所で城暮らしをしているようだ。早速アリスは城に向かって歩き出す……するとどこからともなく声が聞こえる。

「帰れ、人間はこの世界に存在してはならぬ。帰れ、従わなければ命を失う事になるぞ」

「うっさい! たわし返しなさいよ、大王バジルノコフ! あんたの事しってるんだからね!」

 アリスは意を決し強く言葉を発する。まもなくしてどこからともなく聞こえた声が小言で話しているようだ。

「……え、まって、たわしあの子やばくない? え、俺一応使い魔界の大王よ? 初対面であんなこと言うとか、え、どんな教育を……」

 眉間に深いしわを寄せたアリスは小さくため息をつく。

「あの、聞こえてるんだけど」

 その言葉を発すると5秒ほど沈黙が訪れる。その沈黙を切り裂くかのようにたわしの必死な様子の声がこだまする。

「逃げるんだアリスちゃん! 大王様と戦ってはダメだ! 俺でも勝てないんだから、アリスちゃんが勝てるわけがない!!」

「うっさい! あんた私の使い魔でしょ!? 主人の言うことを聞きなさい!」

「いいから逃げぇって!」

「生きて一緒に人間界に帰ろう、これは命令!」

「アリスちゃぁぁぁん!!!!! うええーん!!」

 たわしが号泣するさなか大王は声を張り上げた。

「くくく、たわしは2時間後に処刑をする。アリスといったな、お前には魔柱を刺客として送ろう。くく、生きて我が城にきてたわしを助けてみるがいい!」

 バジルノコフはそう言い放つ。アリスはもう声が聞こえなくなると思っていたのだが、小声で話しているのが続けて聞こえた。

「たわし、お前あんな粗忽な人間の使い魔になってよかったのか? お前が知識を与えるからこんな面倒臭いことになってるんだぞ」

「マジさーせん……でもこの子だーって思っちゃったから仕方ないじゃないですか? 僕も心を持ち合わせたたわしなんですよ」

「どんな顔をしているのか今から楽しみだが……だが、刺客を送らねばなるまいよ。魔柱の上位を差し向けるとしよう」

 どうやら刺客を送られるとの事、アリスは小さくため息をついた。

「あーもー、くだらなーい! こそこそ話はちゃんと声の送信魔法切ってからやってよ! ぐっだぐだじゃない!!」

 アリスは心底イライラしていた、この訳のわからない世界で訳のわからない相手に相まみえなければならない事を。しかし使い魔のたわしが自分のせいで死んでしまうのは罪悪感もあった以上、歩みを止めるわけにもいかない。

「バジルノコフ、あんたよくわかんないけどたわしの遺失ルーンつかってでもボッコボコにするからね! たわし! あんたの魔法力隅々まで空にするつもりだから、あんたも無事に帰れると思わないことね!」

 アリスは怒りのあまり頬を膨らませズンズンと進んでいく。その目は少女のもつ純真なものではなく、ただただ怒りの炎がともってた。

「おぉ怖……たわし、お前どんな遺失ルーンしってるの……?」

「あんまり言いたくないんですが、あらゆる対象の灰化ルーンを……ていうか俺干からびて死ぬかも……」

「なんでお前がそれを、というかそれあかんやつや……防ぐ手立てがない失われなければならなかったルーンじゃねぇか……お前何で知ってんだよマジで……」

 もともと薄い青の肌を持ったバジルノコフの顔がディープブルーに変色していた。
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