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たいしつ、ですって?
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「間違ってない……って」
二人を見つめて、目を白黒。
「お二人ともそんなに扱いづらいんですか!?」
吹き出す神山さん、頭を抱える一子さん。
「んっふ……まあ、はい。そうですね。ふふふ」
「めっちゃ笑ってるじゃないですか……」
「いえ……失礼。そんな真っ直ぐに言われるとは思わなかったので」
一笑い取れた。あざっす。
「あざっす、じゃないんですよ……神山さんも謝らなくて良いですから」
うおっと、口に出てたみたい。これ私の悪い癖。一子さんは はあ、とため息をついている。
「そういう部署送りになっている時点で、貴女もその頭数に入っている、って考えないんですか」
「え、私ですか? あー、拡散が世界規模だから逆に会社が困るんですかね?」
「超絶変化球でミラクルポジティブな考え方ですね」
「よっしゃ、あざます!」
「褒めてません」
何? 一子さんめっちゃ褒めてくれてる! ……わけじゃないみたいだけど。こういう思考になるの、私のいい所だと思う。たぶん。
「どこまで規格外なんですか」
「うっわまた出た規格外……!」
規格外。規格外。昨日からそればっかり。早くもちょっと慣れてきたその言葉。一子さんの口癖なのかな? なんて。そう思うとちょっと面白い、かも。規格外……規格外、か。
「あ、そうだ一子さんは? 何か扱いづらい……というか規格外な所あるんですか?」
「……仕事行ってきます!」
「え、あ、ちょっと!」
そういえば、自分が扱いづらい、って事自体は一子さんは否定してない。それをなんとなく聞いてみたら、つかつかと出て行ってしまった。仕事……仕事か。そりゃそうか。一応営業部なわけだし。そうじゃなきゃ部署の意味ないし。
そこまで考えて、ん? となった。
「仕事……って何するんですかね。そういえば」
「あーそうですねえ。三川さんについて行けば分かると思いますよ」
「……一子さんって何が規格外なんですかね」
「ついて行けば、分かると思いますよ。嫌でもね」
……何にも教えてくれなかった。神山さんはにっまにまにっまにま笑っている。そんなの一子さんに聞けって言わんばっかり……というかもう完全にそう言ってる。
待ってくださ~い! ともう結構遠い背中を追う。
その後ろで、また笑う声が聞こえた気がした。ちらっと見ると神山さんはまた棚の整理を始めていたから、気のせいかな、と向き直る。それより一子さんだよ、一子さん。
「……何か面白い事になりそうですねえ。んふふ」
*
「……一子さん!」
会社の吹き抜けをやたらと気にしたり、きょろきょろ辺りを見回したかと思ったら急に走り出したり、物影に隠れたかと思ったらジャンプして木箱を飛び越えたり。いやどんな不審者ムーブかましてるの……!? なんて思っていたら、意外と速いから中々追いつけなくて。たぶん公園っぽい芝生の場所に出た所で、やっと背中を捉えた。思いっきり名前を叫ぶと、一子さんは驚いた顔で振り向く。
「な、何で付いてきたんですか!?」
「え? 神山さんに言われて、ですけど」
「……神山さんから?」
「あ、えっと、仕事の事は一子さんに聞けって」
「あの人は……まったく」
「あ、あと純粋な私の興味です!!」
「そちらが本題でしょうに……まったく」
一子さんは頭を抱えていたけど、少し間を置いてハッとして歩き出した。私もそれに続く。
「……付いてきた所で仕事なんて分からないと思いますが」
「え、でもさっき一子さん、仕事行ってくるって」
「そういう事覚えてるんですね」
「好きなドラマ一言一句聞き漏らさないようにしてるから記憶力えげつないですよ?」
「それ世間的には地獄耳って言うんですよ」
ため息をつく一子さん、私はキョトンとしたまま。少し歩いた先にベンチがあり、とりあえず座りますか、という言葉に、とりあえず頷いておいた。
公園の端っこのような場所に、無造作に置かれたようなベンチ。背中側に植え込みがあるから少しゆったりしても大丈夫かもしれない。並んで……座ろうとした所で一子さんがサッと避けたから、一つ間を空けて座る事になった。ちょ、なんで避けるんですか隣でも良いのに、って思ったけど、また距離なしって言われそうだからそのままにしておいた。間に流れる時間があんまりにも静かすぎて、遠くから子供が遊んでいるような声まで聞こえる。グダグダしてるとまた逃げられるかもしれないから、とりあえず本題に入る。
「で、結局仕事って何なんですか?」
「ないですね」
「え?」
「まあ強いて言うならば……一課と二課の補佐になりますか」
「あ、営業事務とかそんな感じですか?」
「いいえ」
一子さんは顎を押さえて上を向いたり、うーん、と唸ってみたり。そして最後に、こっちを向いて。
「無いんですよ」
吐き捨てるみたいに言われて、頭がぐるぐるする。
「え、無い、ない、って、」
「そのままの意味ですよ」
「いやそうじゃなくて、えっと、え? 営業三課、縮めてエーサン、なんですよね?」
「営業一課が大口の取引先を担当し、営業二課が一課の補佐とその他全てを担当しているので、三課には明確な仕事、というものはありません」
「ちょっと待って、頭が追いつかないんですけど」
言いながら、一子さんの方に手を翳す。もう片方の手は頭を抱えたまま。
「一課が大口、二課がそれ以外、」
指折り数えて、顔を上げて。
「じゃあ三課は、何をする部署なんですか?」
そのまま一子さんの方を向いたものの、一子さんはやっぱり表情を変えない。ちょっと間を置いて、またうーん、と唸り。
「そうですね……与えられる仕事がない部署なので、基本的には自分で探す事になります。まあ簡単に言うと、当てもなく様々な場所に飛び込む外回りか、倉庫と兼用になっている課内の片付けのどちらかです」
ぐるぐるしている頭に、更に叩き込まれる事実。
「なお、外回りで仕事を取ってきたとしても、最終的には一課か二課に引き継ぎとなります」
えっ、と、それは、つまり。
「……仕事が無くて、無意味にずっと探すか、無意味な片付けか。で、仕事を見つけても無意味」
「ええ」
「……社内ニートじゃないですか」
「有り体に言うとそうなりますね」
「いやいやいやいや、何で部署丸ごと社内ニート作ってるんですか」
「ここまで言っても分からないんですか」
「分からないです!」
「では一つ質問をしましょうか。会社から仕事を与えられない、頑張って仕事を取ってきても自分の手柄にはならない。そんな状況が続いたら、貴女はどうしますか」
「え、私ですか? 労基に通報した上でどうせならギリギリまで会社ライフ満喫してネトフリとか見てます」
「怠惰にアクティブですね。すみません、貴女が規格外なのを忘れていました」
「ふふ、あーざます!」
「褒めてません」
まったく、口の中で言いながら、表情は少し柔らかくなっている。なんとなく勝った気がしたけど、口にしたら怒られると思うから言わない。一つ息をついて、一子さんは言葉を続ける。
「まあ通報した所で給料は支払われてるので取り合って貰えないと思いますが……」
やれやれと首を振り、またこっちに向き直して。
「すなこさんはともかく、大抵の方は、そんな状況に陥ったら転職や退室を考えるものなんです」
「確かに……つらい人にはつらいですもんね。あと美砂子です」
「つまりこの部署に送られる、ということは?」
「うーわ無視されたあ……えっとじゃあ要するに、会社側から遠回しに辞めろって……?」
ハッとした。
「えっうわっ、ガチショムニじゃないですか!?」
「しょむ……何です?」
「あ、そっか、一子さん知らないんですよね。えっと簡単に言うと、会社の掃き溜めと言われる部署、庶務二課を舞台とした傑作コメディで、庶務二課だから通称ショムニ。問題社員に会社側から解雇を通達すると不当解雇になるから、一度仕事のほとんどない悪名高き庶務二課に送って自主退職を促す、言うならば追い出し部屋、って感じです」
「なるほど、確かに近いですね」
「あ、でも追い出し部屋って本当は違法なんですよね? あれはフィクションだから……って注釈付いてましたけど」
「……先ほど言った通り給料は出ますし、一応飛び込み営業と倉庫管理、それから一課と二課に仕事を持って来る、という名目があるので法律上は引っ掛からない、と云うのが弊社の見解です。どうせ大抵の方は神山さんに辞令が出た理由聞いた時点で辞めてしまいますし」
「うっわ名実ともにショムニじゃないですか……営業三課、というかエーサン……」
フィクションなら笑えるけど、ノンフィクションだと笑えない。労基……は一子さんがそう言うなら通報しても無駄そうだし。座ったまま肩を落とすと、何だかちょっと気分も落ちてきた。
辞令が出た理由、か。そういえばさっき聞いた。世界規模のやらかし。そこまで気分は悪くないけど、なんかヤバめなのは分かる。で、さっき聞いた文脈。会社辞めて欲しいから飛ばされたって事ね。ごめんね、私が世界規模過ぎるばっかりに。
考えを巡らせていると、ん? と引っかかった。
「……あ、そういえば。一子さんって、なんでこの課に来たんですか?」
そう。そもそもそれを聞こうと思って来たんだった。
ショムニが問題社員が集められる課なら、エーサンはコピー用紙のA3ばりに扱いづらいヤツが集められる課。さっき聞いた文脈も足すと、「そんな課に送られるような出来事」があったってことで。
隣の顔を覗き込むと、さすがに驚いたのか何か変な顔になってた。大げさに体をそらして、
「……なか、いなか……」
「あ、またそれ言ってる」
「?」
「え、自覚無し? いなかいなかってずっと言ってますけど」
「……いなかいなかとは言ってませんが。そうですか、口に出てましたか」
一子さんは顔色を変えずに、ぽつりと。
「罠か、否か」
はい?
「罠……?」
「罠です」
「いやいやいや意味分かんないですって。今どきミステリーでも聞かないですよそんなの」
「あるんですよ。日常の何処に仕掛けられているか分からない、些細なものではあるんです、が――」
ふと言葉を止める。ぽん、ぽん、と音を立てて、突然転がってきたサッカーボールが、一子さんの足にぶつかった。地味っちいけど鋭い眼光でボールを見つめる姿は迫力満点、としか言いようがない。ふ、と視線がこちらを向いた。
「……どうやら、疑問を二つほど、解消できそうですよ。これはあからさまな罠なので、普段なら無視して立ち去るのが最適解なんですが」
まあ、今回は乗ってあげる事にします。一子さんはそう言って、ぴょん、と立ち上がって、赤いイヤリングがぐおんとなるぐらい体を捻って、足を振りかぶって、少し跳び上がって、って、ちょちょちょ、ちょっと待って、
ドラマならもんのすごい効果音が付けられそうなぐらいのスーパーキック。
あがががが、な、なにやってんのこれ。滞空時間エグすぎる。たぶんボールを探しに来たっぽい男子達が「すげー……」って口をあんぐりさせている。
しゅたって音が付きそうに華麗に降り立って、はあ、と息を一つ。いや、はあ、じゃないし。
ぱち、ぱち、と背後で音がして、思わず振り向いた。見れば長身のおじさんが近寄ってきて、って、え?
「素晴らしいキックですねえ」
一子さんの方を見て、目をキラキラさせて。
「わたくし、なでしこリーグの者でして……」
懐から名刺を出して差し出した……ところまでしか確認できなかった。一子さんが急に私の手首を掴んで走り出したから。
「え、あ、ちょっと!」
あんまりにも乱暴すぎるし、何か途中すぎる退場。
「なんかなでしこリーグとか言ってますけど」
後ろを見たところで取り合って貰えない。一子さんはさっきより凄い眼光になっていて、さすがに何も言えなくなる。
昨日の今日でまた全力疾走。それも同じ人に手を引かれて。
流れる風景がイチョウ並木に変わってきた辺りで手を離されて、大きく息をついた。ぜーぜーしている私とは違って、涼し気な顔で歩く一子さんの背中に向けて。
「もう……なんなんですか……急に……」
「言ったでしょう。罠だと」
「それが分かんないんですって……なんなんですか、罠って」
「そのまま話を進めると面倒事に巻き込まれる事象、と言えば分かりますか」
「……面倒どころか、なんか面白そうな感じがしましたけど」
「こんな真っ昼間からそんな偉い方がうろついてる訳無いでしょう。トントン拍子に壺買わされる詐欺か単にサッカー好きの変態かのどちらかだと思いますが」
「偏見エゲつな!」
「イレギュラーな登場人物や事象は基本的には全て信用に足らないと思わなければ」
「……疑心暗鬼すぎません?」
「それくらいじゃないと この人生生き抜けないんですよ」
「人生て! さっきから大げさすぎますって」
「……大袈裟じゃないんですよ」
一子さんは少し背筋を震わせて、急に足を止めた。距離が近かったから普通にぶつかる。肩が少し痛かった。
「罠、が分からないのでしたら……そうですね……貴女的に言うなら」
一子さんは少し古い映画のヒロインみたいに、口の前に指を立てて。
「ドラマチック」
振り向いた瞬間突風が吹いて、木に付いていたイチョウが舞い上がる。
「私にはそれが降り掛かって来るんです。どう云う訳かは分からないんですが、そういう体質、と言えば分かりやすいでしょうか」
バサバサと降りかかってくる葉っぱを払いながら、一子さんは吐き捨てるように言う。咄嗟に「はい?」と口から出た。
「え、いや、あのちょっと待って待って、待って下さいって」
「ここまで噛み砕いて説明しても分からないんですか」
「いや言ってる意味は分かるんですけど、私の心が理解を拒んでます」
また右手は頭を抱えて、左手は一子さんの方に翳して。
「あんまりにも理想の生活ですそれ……」
「理想ですって?」
「羨ましすぎてハゲます」
「……剛毛に見えますが」
「たとえ話真顔でツッコまれると私虚しいんですけど……」
待って、待って待って。どういうわけか降りかかって来る体質? 事もなげに言ってるけど、それこそ私が求めていた生活そのものじゃないか。そんな人実在されたら情緒がバグる。
「……理想とは程遠いと思いますけどね」
やれやれ、とばかりに歩き出す一子さんの上にまだまだ落ち葉が降りかかってくる。私には1枚も来ない。
「なんで! 楽しくないんですか?」
慌ててその背中を追いながら、大声で叫ぶ。そんな……なんていうかもう羨ましいというか明らか自慢みたいな状況を嫌がるもんだから、どうしても言葉が強くなる。一子さんはまた ふ、と息を吐く。
「まあ楽しんでいた時期もありましたが……それが毎日だったらどうですか」
「ええ? そんなの毎日配信したら広告収入だけで暮らせると思うんですけど」
「……そんな『トゥルーマン・ショー』のような生活嫌でしょう」
「あ、『トゥルーマン・ショー』は知ってるんだ」
「あれは名作ですね……運命に振り回される所はハラハラします」
今までの傾向的に、その口から出てこないだろう名詞が出てきて驚いた。
「一子さんも普段ドラマとか映画とか見るんですか?」
「見ません。一般教養としては幾つか押さえてますが」
「うわ、全然楽しくない視聴動機」
「フィクションを楽しむ余裕がないんですよ。トゥルーマンは境遇が近いので楽しめましたが」
「いやトゥルーマン側からの楽しみ方!」
なんかもう笑けてきた。完全に"そちら"側の人の発言。
一子さんが歩く度に、風もないのにまだまだバサバサ降ってくるイチョウの葉。この辺りの葉っぱ全部無くなるんじゃないかと思うぐらいに。どんな仕組みだよ、と思わなくもないけど、まあ、体質、と言われればそうなのかも。聞く限り、というか見ている限りはやっぱり楽しそうで、何が理想じゃないのか分からない。
「あ、でも確かにこんな短時間に葉っぱ落ちたら『あの木の最後の葉が落ちたら……』的な遊び出来ないですね。それは楽しくないかも」
「そんな不謹慎な遊びはそもそもしなくて良いです」
うう、怒られた。
しばらくそのまま歩いて、一子さんがまた足を止めた。なんだろう、と思ったら腕時計を見ている。
「……さて、そろそろですかね」
「え、何かあるんですか?」
衝撃の告白、の後すぐの意味深な行動。となると。
「もしかして……時限爆弾仕掛けてるとか?」
「なんでそうなるんですか。昼休憩ですよ。現実はドラマじゃない、って昨日も言ったでしょうに」
「それこんな短期間で矛盾する事あります?」
「矛盾ですって?」
「だってドラマチックな事が降りかかって来るんですよね?」
「現実はドラマじゃない事と、どういう訳かドラマチックな事に巻き込まれるのは両立しますよ」
「……意味分かんないんですけど」
「分からなくていいですよ。さ、お昼なので解散しましょう。後はご自由に」
「じゃあ一子さんのおすすめのお店教えて下さい!」
言いながら一子さんの顔を覗き込むと、また変な顔になった。この顔今日だけで何回見たか分からない。
「ま、まだ付いてくる気ですか貴女」
「そりゃ付いていきますよ! 現役営業の人のお昼ご飯とか絶対美味しい場所知ってるに決まってるじゃないですか!!」
「……それもまた何かの受け売りですか」
「あ、分かっちゃいました? 勿論情報源は孤独の」
「それの受け売りなら一人にさせて下さいな……まったく」
これでもか、と目を伏せて早足で歩く一子さんの後ろを歩く。相変わらず速いけど少し慣れてきた。並木道を抜けて、商店街を直進。さて、どこに連れて行ってくれるのか、
「な、」
ピカピカの木製造りの自動ドアをくぐって、2名です、って店員さんに言って。パーテーションで区切られた2名席に案内される。
メニューも見ずに早々に定食を注文すると、はいよろこんで! って威勢のいい掛け声が返ってきて、
「……って、がっつりチェーン店じゃないですか……こういう時って個人経営のお店とか行くんじゃ」
「安定して美味しい物が食べられる上、一人で来ても目立ちませんし、何より適度に放っておいてくれるのが好きなんですよ」
「それやんわり私ディスってます?」
「……自覚があるなら改めて下さい」
「え、改められるなら改めてますよ?」
「……そうですか」
とか何とか言ってる間にランチが到着。確かに提供も早くてメニューも豊富。昼からお寿司にデザート! とかやっても何も言われない。悪くないかも。
「――いや~めっちゃ良いですね! チェーン店のグルメ!」
「最初文句言ってたのは誰ですか……さて、昼休憩も終わりましたし……」
「あっ、ついに私の初仕事ですね!! よろしくお願いします!!」
顔を覗き込む、またギョッとされる。
「……そろそろストーカーで訴えたら勝てるんじゃないですかね」
「だって結局なんの仕事するか分からないじゃないですか~! 私内勤しかやったことないですし」
「明確な仕事は無いと言ったでしょう。やるとしたら適当に回るだけです」
「だから、その適当が分からないんですって! 本当にどっこでも行って良いんですか?」
「公序良俗に反しない限りは」
「じゃあ適当に選んだバーが反社の溜まり場だったらどうするんですか?」
「……通報すれば良いんじゃないですかね」
「むしろ突っ込んで捕まっちゃったらどうするんですか!?」
「貴女わざと遣りかねないですね……良いです、分かりました」
また大きめのため息と、そんなのほっといてキラキラの期待しかない私と。
「……忠告はしましたからね。今後どんな事があっても、保障できませんから」
「またまた大げさな事言っちゃって~! だ~いじょうぶですって!」
少し肩を落とした一子さん……の腕を取ろうとしたら逃げられた。あっちは勝手に私の手を引くのにね。また背中を追いかける感じになりながら、ふっと笑ってみる。
どんな事って? めちゃくちゃ大量の葉っぱが落ちてくるとか?
なんか動きづらそうだけど、主人公っぽいかも。
「……それで済めば、良いんですけどね」
あれ、また口に出てたみたい。声を落として言われた言葉に、さすがにちょっと不安がよぎる。
まあ私にはドラマチックな事が起きるわけないし? なんとかなるっしょ。なんとか。
あ、これドラマならフラグだな……そう思える内は大丈夫。たぶん。
二人を見つめて、目を白黒。
「お二人ともそんなに扱いづらいんですか!?」
吹き出す神山さん、頭を抱える一子さん。
「んっふ……まあ、はい。そうですね。ふふふ」
「めっちゃ笑ってるじゃないですか……」
「いえ……失礼。そんな真っ直ぐに言われるとは思わなかったので」
一笑い取れた。あざっす。
「あざっす、じゃないんですよ……神山さんも謝らなくて良いですから」
うおっと、口に出てたみたい。これ私の悪い癖。一子さんは はあ、とため息をついている。
「そういう部署送りになっている時点で、貴女もその頭数に入っている、って考えないんですか」
「え、私ですか? あー、拡散が世界規模だから逆に会社が困るんですかね?」
「超絶変化球でミラクルポジティブな考え方ですね」
「よっしゃ、あざます!」
「褒めてません」
何? 一子さんめっちゃ褒めてくれてる! ……わけじゃないみたいだけど。こういう思考になるの、私のいい所だと思う。たぶん。
「どこまで規格外なんですか」
「うっわまた出た規格外……!」
規格外。規格外。昨日からそればっかり。早くもちょっと慣れてきたその言葉。一子さんの口癖なのかな? なんて。そう思うとちょっと面白い、かも。規格外……規格外、か。
「あ、そうだ一子さんは? 何か扱いづらい……というか規格外な所あるんですか?」
「……仕事行ってきます!」
「え、あ、ちょっと!」
そういえば、自分が扱いづらい、って事自体は一子さんは否定してない。それをなんとなく聞いてみたら、つかつかと出て行ってしまった。仕事……仕事か。そりゃそうか。一応営業部なわけだし。そうじゃなきゃ部署の意味ないし。
そこまで考えて、ん? となった。
「仕事……って何するんですかね。そういえば」
「あーそうですねえ。三川さんについて行けば分かると思いますよ」
「……一子さんって何が規格外なんですかね」
「ついて行けば、分かると思いますよ。嫌でもね」
……何にも教えてくれなかった。神山さんはにっまにまにっまにま笑っている。そんなの一子さんに聞けって言わんばっかり……というかもう完全にそう言ってる。
待ってくださ~い! ともう結構遠い背中を追う。
その後ろで、また笑う声が聞こえた気がした。ちらっと見ると神山さんはまた棚の整理を始めていたから、気のせいかな、と向き直る。それより一子さんだよ、一子さん。
「……何か面白い事になりそうですねえ。んふふ」
*
「……一子さん!」
会社の吹き抜けをやたらと気にしたり、きょろきょろ辺りを見回したかと思ったら急に走り出したり、物影に隠れたかと思ったらジャンプして木箱を飛び越えたり。いやどんな不審者ムーブかましてるの……!? なんて思っていたら、意外と速いから中々追いつけなくて。たぶん公園っぽい芝生の場所に出た所で、やっと背中を捉えた。思いっきり名前を叫ぶと、一子さんは驚いた顔で振り向く。
「な、何で付いてきたんですか!?」
「え? 神山さんに言われて、ですけど」
「……神山さんから?」
「あ、えっと、仕事の事は一子さんに聞けって」
「あの人は……まったく」
「あ、あと純粋な私の興味です!!」
「そちらが本題でしょうに……まったく」
一子さんは頭を抱えていたけど、少し間を置いてハッとして歩き出した。私もそれに続く。
「……付いてきた所で仕事なんて分からないと思いますが」
「え、でもさっき一子さん、仕事行ってくるって」
「そういう事覚えてるんですね」
「好きなドラマ一言一句聞き漏らさないようにしてるから記憶力えげつないですよ?」
「それ世間的には地獄耳って言うんですよ」
ため息をつく一子さん、私はキョトンとしたまま。少し歩いた先にベンチがあり、とりあえず座りますか、という言葉に、とりあえず頷いておいた。
公園の端っこのような場所に、無造作に置かれたようなベンチ。背中側に植え込みがあるから少しゆったりしても大丈夫かもしれない。並んで……座ろうとした所で一子さんがサッと避けたから、一つ間を空けて座る事になった。ちょ、なんで避けるんですか隣でも良いのに、って思ったけど、また距離なしって言われそうだからそのままにしておいた。間に流れる時間があんまりにも静かすぎて、遠くから子供が遊んでいるような声まで聞こえる。グダグダしてるとまた逃げられるかもしれないから、とりあえず本題に入る。
「で、結局仕事って何なんですか?」
「ないですね」
「え?」
「まあ強いて言うならば……一課と二課の補佐になりますか」
「あ、営業事務とかそんな感じですか?」
「いいえ」
一子さんは顎を押さえて上を向いたり、うーん、と唸ってみたり。そして最後に、こっちを向いて。
「無いんですよ」
吐き捨てるみたいに言われて、頭がぐるぐるする。
「え、無い、ない、って、」
「そのままの意味ですよ」
「いやそうじゃなくて、えっと、え? 営業三課、縮めてエーサン、なんですよね?」
「営業一課が大口の取引先を担当し、営業二課が一課の補佐とその他全てを担当しているので、三課には明確な仕事、というものはありません」
「ちょっと待って、頭が追いつかないんですけど」
言いながら、一子さんの方に手を翳す。もう片方の手は頭を抱えたまま。
「一課が大口、二課がそれ以外、」
指折り数えて、顔を上げて。
「じゃあ三課は、何をする部署なんですか?」
そのまま一子さんの方を向いたものの、一子さんはやっぱり表情を変えない。ちょっと間を置いて、またうーん、と唸り。
「そうですね……与えられる仕事がない部署なので、基本的には自分で探す事になります。まあ簡単に言うと、当てもなく様々な場所に飛び込む外回りか、倉庫と兼用になっている課内の片付けのどちらかです」
ぐるぐるしている頭に、更に叩き込まれる事実。
「なお、外回りで仕事を取ってきたとしても、最終的には一課か二課に引き継ぎとなります」
えっ、と、それは、つまり。
「……仕事が無くて、無意味にずっと探すか、無意味な片付けか。で、仕事を見つけても無意味」
「ええ」
「……社内ニートじゃないですか」
「有り体に言うとそうなりますね」
「いやいやいやいや、何で部署丸ごと社内ニート作ってるんですか」
「ここまで言っても分からないんですか」
「分からないです!」
「では一つ質問をしましょうか。会社から仕事を与えられない、頑張って仕事を取ってきても自分の手柄にはならない。そんな状況が続いたら、貴女はどうしますか」
「え、私ですか? 労基に通報した上でどうせならギリギリまで会社ライフ満喫してネトフリとか見てます」
「怠惰にアクティブですね。すみません、貴女が規格外なのを忘れていました」
「ふふ、あーざます!」
「褒めてません」
まったく、口の中で言いながら、表情は少し柔らかくなっている。なんとなく勝った気がしたけど、口にしたら怒られると思うから言わない。一つ息をついて、一子さんは言葉を続ける。
「まあ通報した所で給料は支払われてるので取り合って貰えないと思いますが……」
やれやれと首を振り、またこっちに向き直して。
「すなこさんはともかく、大抵の方は、そんな状況に陥ったら転職や退室を考えるものなんです」
「確かに……つらい人にはつらいですもんね。あと美砂子です」
「つまりこの部署に送られる、ということは?」
「うーわ無視されたあ……えっとじゃあ要するに、会社側から遠回しに辞めろって……?」
ハッとした。
「えっうわっ、ガチショムニじゃないですか!?」
「しょむ……何です?」
「あ、そっか、一子さん知らないんですよね。えっと簡単に言うと、会社の掃き溜めと言われる部署、庶務二課を舞台とした傑作コメディで、庶務二課だから通称ショムニ。問題社員に会社側から解雇を通達すると不当解雇になるから、一度仕事のほとんどない悪名高き庶務二課に送って自主退職を促す、言うならば追い出し部屋、って感じです」
「なるほど、確かに近いですね」
「あ、でも追い出し部屋って本当は違法なんですよね? あれはフィクションだから……って注釈付いてましたけど」
「……先ほど言った通り給料は出ますし、一応飛び込み営業と倉庫管理、それから一課と二課に仕事を持って来る、という名目があるので法律上は引っ掛からない、と云うのが弊社の見解です。どうせ大抵の方は神山さんに辞令が出た理由聞いた時点で辞めてしまいますし」
「うっわ名実ともにショムニじゃないですか……営業三課、というかエーサン……」
フィクションなら笑えるけど、ノンフィクションだと笑えない。労基……は一子さんがそう言うなら通報しても無駄そうだし。座ったまま肩を落とすと、何だかちょっと気分も落ちてきた。
辞令が出た理由、か。そういえばさっき聞いた。世界規模のやらかし。そこまで気分は悪くないけど、なんかヤバめなのは分かる。で、さっき聞いた文脈。会社辞めて欲しいから飛ばされたって事ね。ごめんね、私が世界規模過ぎるばっかりに。
考えを巡らせていると、ん? と引っかかった。
「……あ、そういえば。一子さんって、なんでこの課に来たんですか?」
そう。そもそもそれを聞こうと思って来たんだった。
ショムニが問題社員が集められる課なら、エーサンはコピー用紙のA3ばりに扱いづらいヤツが集められる課。さっき聞いた文脈も足すと、「そんな課に送られるような出来事」があったってことで。
隣の顔を覗き込むと、さすがに驚いたのか何か変な顔になってた。大げさに体をそらして、
「……なか、いなか……」
「あ、またそれ言ってる」
「?」
「え、自覚無し? いなかいなかってずっと言ってますけど」
「……いなかいなかとは言ってませんが。そうですか、口に出てましたか」
一子さんは顔色を変えずに、ぽつりと。
「罠か、否か」
はい?
「罠……?」
「罠です」
「いやいやいや意味分かんないですって。今どきミステリーでも聞かないですよそんなの」
「あるんですよ。日常の何処に仕掛けられているか分からない、些細なものではあるんです、が――」
ふと言葉を止める。ぽん、ぽん、と音を立てて、突然転がってきたサッカーボールが、一子さんの足にぶつかった。地味っちいけど鋭い眼光でボールを見つめる姿は迫力満点、としか言いようがない。ふ、と視線がこちらを向いた。
「……どうやら、疑問を二つほど、解消できそうですよ。これはあからさまな罠なので、普段なら無視して立ち去るのが最適解なんですが」
まあ、今回は乗ってあげる事にします。一子さんはそう言って、ぴょん、と立ち上がって、赤いイヤリングがぐおんとなるぐらい体を捻って、足を振りかぶって、少し跳び上がって、って、ちょちょちょ、ちょっと待って、
ドラマならもんのすごい効果音が付けられそうなぐらいのスーパーキック。
あがががが、な、なにやってんのこれ。滞空時間エグすぎる。たぶんボールを探しに来たっぽい男子達が「すげー……」って口をあんぐりさせている。
しゅたって音が付きそうに華麗に降り立って、はあ、と息を一つ。いや、はあ、じゃないし。
ぱち、ぱち、と背後で音がして、思わず振り向いた。見れば長身のおじさんが近寄ってきて、って、え?
「素晴らしいキックですねえ」
一子さんの方を見て、目をキラキラさせて。
「わたくし、なでしこリーグの者でして……」
懐から名刺を出して差し出した……ところまでしか確認できなかった。一子さんが急に私の手首を掴んで走り出したから。
「え、あ、ちょっと!」
あんまりにも乱暴すぎるし、何か途中すぎる退場。
「なんかなでしこリーグとか言ってますけど」
後ろを見たところで取り合って貰えない。一子さんはさっきより凄い眼光になっていて、さすがに何も言えなくなる。
昨日の今日でまた全力疾走。それも同じ人に手を引かれて。
流れる風景がイチョウ並木に変わってきた辺りで手を離されて、大きく息をついた。ぜーぜーしている私とは違って、涼し気な顔で歩く一子さんの背中に向けて。
「もう……なんなんですか……急に……」
「言ったでしょう。罠だと」
「それが分かんないんですって……なんなんですか、罠って」
「そのまま話を進めると面倒事に巻き込まれる事象、と言えば分かりますか」
「……面倒どころか、なんか面白そうな感じがしましたけど」
「こんな真っ昼間からそんな偉い方がうろついてる訳無いでしょう。トントン拍子に壺買わされる詐欺か単にサッカー好きの変態かのどちらかだと思いますが」
「偏見エゲつな!」
「イレギュラーな登場人物や事象は基本的には全て信用に足らないと思わなければ」
「……疑心暗鬼すぎません?」
「それくらいじゃないと この人生生き抜けないんですよ」
「人生て! さっきから大げさすぎますって」
「……大袈裟じゃないんですよ」
一子さんは少し背筋を震わせて、急に足を止めた。距離が近かったから普通にぶつかる。肩が少し痛かった。
「罠、が分からないのでしたら……そうですね……貴女的に言うなら」
一子さんは少し古い映画のヒロインみたいに、口の前に指を立てて。
「ドラマチック」
振り向いた瞬間突風が吹いて、木に付いていたイチョウが舞い上がる。
「私にはそれが降り掛かって来るんです。どう云う訳かは分からないんですが、そういう体質、と言えば分かりやすいでしょうか」
バサバサと降りかかってくる葉っぱを払いながら、一子さんは吐き捨てるように言う。咄嗟に「はい?」と口から出た。
「え、いや、あのちょっと待って待って、待って下さいって」
「ここまで噛み砕いて説明しても分からないんですか」
「いや言ってる意味は分かるんですけど、私の心が理解を拒んでます」
また右手は頭を抱えて、左手は一子さんの方に翳して。
「あんまりにも理想の生活ですそれ……」
「理想ですって?」
「羨ましすぎてハゲます」
「……剛毛に見えますが」
「たとえ話真顔でツッコまれると私虚しいんですけど……」
待って、待って待って。どういうわけか降りかかって来る体質? 事もなげに言ってるけど、それこそ私が求めていた生活そのものじゃないか。そんな人実在されたら情緒がバグる。
「……理想とは程遠いと思いますけどね」
やれやれ、とばかりに歩き出す一子さんの上にまだまだ落ち葉が降りかかってくる。私には1枚も来ない。
「なんで! 楽しくないんですか?」
慌ててその背中を追いながら、大声で叫ぶ。そんな……なんていうかもう羨ましいというか明らか自慢みたいな状況を嫌がるもんだから、どうしても言葉が強くなる。一子さんはまた ふ、と息を吐く。
「まあ楽しんでいた時期もありましたが……それが毎日だったらどうですか」
「ええ? そんなの毎日配信したら広告収入だけで暮らせると思うんですけど」
「……そんな『トゥルーマン・ショー』のような生活嫌でしょう」
「あ、『トゥルーマン・ショー』は知ってるんだ」
「あれは名作ですね……運命に振り回される所はハラハラします」
今までの傾向的に、その口から出てこないだろう名詞が出てきて驚いた。
「一子さんも普段ドラマとか映画とか見るんですか?」
「見ません。一般教養としては幾つか押さえてますが」
「うわ、全然楽しくない視聴動機」
「フィクションを楽しむ余裕がないんですよ。トゥルーマンは境遇が近いので楽しめましたが」
「いやトゥルーマン側からの楽しみ方!」
なんかもう笑けてきた。完全に"そちら"側の人の発言。
一子さんが歩く度に、風もないのにまだまだバサバサ降ってくるイチョウの葉。この辺りの葉っぱ全部無くなるんじゃないかと思うぐらいに。どんな仕組みだよ、と思わなくもないけど、まあ、体質、と言われればそうなのかも。聞く限り、というか見ている限りはやっぱり楽しそうで、何が理想じゃないのか分からない。
「あ、でも確かにこんな短時間に葉っぱ落ちたら『あの木の最後の葉が落ちたら……』的な遊び出来ないですね。それは楽しくないかも」
「そんな不謹慎な遊びはそもそもしなくて良いです」
うう、怒られた。
しばらくそのまま歩いて、一子さんがまた足を止めた。なんだろう、と思ったら腕時計を見ている。
「……さて、そろそろですかね」
「え、何かあるんですか?」
衝撃の告白、の後すぐの意味深な行動。となると。
「もしかして……時限爆弾仕掛けてるとか?」
「なんでそうなるんですか。昼休憩ですよ。現実はドラマじゃない、って昨日も言ったでしょうに」
「それこんな短期間で矛盾する事あります?」
「矛盾ですって?」
「だってドラマチックな事が降りかかって来るんですよね?」
「現実はドラマじゃない事と、どういう訳かドラマチックな事に巻き込まれるのは両立しますよ」
「……意味分かんないんですけど」
「分からなくていいですよ。さ、お昼なので解散しましょう。後はご自由に」
「じゃあ一子さんのおすすめのお店教えて下さい!」
言いながら一子さんの顔を覗き込むと、また変な顔になった。この顔今日だけで何回見たか分からない。
「ま、まだ付いてくる気ですか貴女」
「そりゃ付いていきますよ! 現役営業の人のお昼ご飯とか絶対美味しい場所知ってるに決まってるじゃないですか!!」
「……それもまた何かの受け売りですか」
「あ、分かっちゃいました? 勿論情報源は孤独の」
「それの受け売りなら一人にさせて下さいな……まったく」
これでもか、と目を伏せて早足で歩く一子さんの後ろを歩く。相変わらず速いけど少し慣れてきた。並木道を抜けて、商店街を直進。さて、どこに連れて行ってくれるのか、
「な、」
ピカピカの木製造りの自動ドアをくぐって、2名です、って店員さんに言って。パーテーションで区切られた2名席に案内される。
メニューも見ずに早々に定食を注文すると、はいよろこんで! って威勢のいい掛け声が返ってきて、
「……って、がっつりチェーン店じゃないですか……こういう時って個人経営のお店とか行くんじゃ」
「安定して美味しい物が食べられる上、一人で来ても目立ちませんし、何より適度に放っておいてくれるのが好きなんですよ」
「それやんわり私ディスってます?」
「……自覚があるなら改めて下さい」
「え、改められるなら改めてますよ?」
「……そうですか」
とか何とか言ってる間にランチが到着。確かに提供も早くてメニューも豊富。昼からお寿司にデザート! とかやっても何も言われない。悪くないかも。
「――いや~めっちゃ良いですね! チェーン店のグルメ!」
「最初文句言ってたのは誰ですか……さて、昼休憩も終わりましたし……」
「あっ、ついに私の初仕事ですね!! よろしくお願いします!!」
顔を覗き込む、またギョッとされる。
「……そろそろストーカーで訴えたら勝てるんじゃないですかね」
「だって結局なんの仕事するか分からないじゃないですか~! 私内勤しかやったことないですし」
「明確な仕事は無いと言ったでしょう。やるとしたら適当に回るだけです」
「だから、その適当が分からないんですって! 本当にどっこでも行って良いんですか?」
「公序良俗に反しない限りは」
「じゃあ適当に選んだバーが反社の溜まり場だったらどうするんですか?」
「……通報すれば良いんじゃないですかね」
「むしろ突っ込んで捕まっちゃったらどうするんですか!?」
「貴女わざと遣りかねないですね……良いです、分かりました」
また大きめのため息と、そんなのほっといてキラキラの期待しかない私と。
「……忠告はしましたからね。今後どんな事があっても、保障できませんから」
「またまた大げさな事言っちゃって~! だ~いじょうぶですって!」
少し肩を落とした一子さん……の腕を取ろうとしたら逃げられた。あっちは勝手に私の手を引くのにね。また背中を追いかける感じになりながら、ふっと笑ってみる。
どんな事って? めちゃくちゃ大量の葉っぱが落ちてくるとか?
なんか動きづらそうだけど、主人公っぽいかも。
「……それで済めば、良いんですけどね」
あれ、また口に出てたみたい。声を落として言われた言葉に、さすがにちょっと不安がよぎる。
まあ私にはドラマチックな事が起きるわけないし? なんとかなるっしょ。なんとか。
あ、これドラマならフラグだな……そう思える内は大丈夫。たぶん。
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