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EP1_序章
序章_1 悲劇の海戦
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ー大北方戦争ー
大陸をまるごと擁する我々が、まさかあんな島国に遅れをとるとは。
つい数年前まで、存在も知られていなかった島国。
奴らは当初交易を望んでいた。そして我々は彼らを小国と侮った。
交易品に足元をみるような関税を課し、渋れば禁輸をちらつかせた。
中央宮廷はとにかく彼らを軽んじた。
そのつけが、これだ。
カナート将軍は思わずため息を漏らす。
今この時も、大陸軍の最大射程を誇る大弓隊でさえ手が出せない沖合から、
巨大なカタパルトを搭載した軍船がひっきりなしに巨石を打ち込んで来ている。
この悲惨な戦況をいくら上奏しても、
ちっぽけな島国に遅れをとるなどあり得ないと一蹴され、
中央からの援軍はろくに来ない。
大陸最北部を所領とするメルヴィア公家は、この強力な敵を相手に、
領地領民共に疲弊しきっていた。
メルヴィアの軍船はことごとく撃沈され、
残った船もあの忌々しいノルドラントの軍船が誇る装甲を破る力もなく、
港の影に隠れて置物になっている。
制海権を奪われたメルヴィアは、商船は略奪され、避難船も鹵獲され、
内地からの陸路補給に頼らざるを得ない状況だ。
それなのに、あの愚王は実情を知ろうともせず、要求にまったく足りない補給しか出さなかった。
もしやこのメルヴィアを、大陸北部を見捨てるつもりなのか。
砲弾に軋む砦壁の音の中、暗い感情がカナート将軍に影を落とす。
もはや、この大陸に友邦がどれだけあることだろうか。
都市国家アンバルは、一定の補給と支援兵を派兵してくれた。
しかし、この大陸で唯一の独立を保つだけあって狡猾だ。
裏でどう結んだかわからないが、ノルドラント軍はアンバルの港には攻撃を加えていないらしい。
南西の友邦、エンタール公国からは、一国にしては多くの援軍が届いた。
しかし希望の半数にも満たない。中央から妨害工作を受けた、と援軍使は紛糾していたが、
実のところを調べる余裕もない。
この困難の中にあっても一向に援軍を寄こさない中央はどういうつもりなのか、
本来なら追及してやりたいが、もしも拗れて数少ない友軍に離反されてはもうどうしようもなかった。
思案に暮れていると、衛兵が飛び込んできた。
「カナート将軍、カッセル陛下がお呼びです。ご出陣をとの事です。」
我が死地が、決まったようだ。敗軍の将として散らなければならないとは口惜しい。
カナートは項垂れるように頷き、港砦の地下路を通り、城内のカッセル公の元へ急いだ。
「ああ、カナート将軍、心境推して忍びない。
君の忠義には最期まで甘え通しだな。」
メルヴィア公カッセルは、カナートを椅子へと促した。
「アンバルの協力で、何とか数隻、
やつらの攻撃に耐えうる装甲の軍船を用意できた。
しかしこの我が海軍において、
ノルドラントと戦える提督はもう君しか、、残っていない。」
カッセルは部下への申し訳なさと、一向に救援を寄こさない中央への怒りで震えていた。
「祖国を守るものとして、このまま降伏することはできない。
たとえ敗北の恥をうけるとしても、
今は領民を内陸部へ避難させる時間を稼がなければならない。
ゆえにカナート将軍は、我が子ラムサスと共に、
軍船を率いてノルドラント軍を迎え撃て。」
ご子息を共に向かわせるとは。
カナートは、カッセルの胸中を想像した。
おそらくは、最期まで徹底抗戦を貫くつもりなのだろう。
我が子と一緒では、鈍る判断もあるのだろう。
カッセルの命令を受け、直ちに来た道を引き返した。
港砦の監視塔からは、おびただしい数の敵船が地平線にうごめいているのが見えた。
確かに、此方と比べれば土地は小さい島なのだろうが、大きさではなく国力を推し量るべきだった。
海軍工廠へ赴くと、すでに公子ラムサスは軍船を整え、交戦の支度をしていた。
「カナート殿、また貴公に世話になってしまうな。」
快活明朗。公子ラムサスは死なせるには実に惜しい男だ。
「公子様。軍の整備など、公の仕事ではありませんぞ。私にも残していただかなければ。」
「自分で整えた軍で死ぬならば、やむなし。しかし任せた軍の中で死ぬのなら、
貴公を恨まなければなりません、だからこれで良い。」
ラムサスは笑っていた。
公の子息のラムサスは、軍船の経験など果たしてあったのだろうか、
しかしながら彼の指揮下の軍は中々に整っていた。
敵船の砲弾が轟く中、抜錨の合図で船団が動き出す。
海軍工廠から埠頭を越えるまで半刻もない。
埠頭の外は砲撃の嵐だ。
船員が覚悟を決めて港を進む。先頭に流した囮船が港を離れると、
まっていたとばかりに付近に投石と砲弾が降り注いだ。
そして、数キロも進まないうちに囮船は転覆し、竜骨を割られて沈んでいった。
知ってはいた。もう何度も友軍船が同じ目にあった。
しかし、あの囮船にこれから続いて出撃をしなければならないと思うと、恐怖で足がすくむ。
それでも、メルヴィアは戦わなければならない。
「海士たちよ!敵船が次弾装填を済ませる前に、一斉に接近せよ、
だたしこちらは散開し、砲弾の集中を避けよ。行け!」
カナートの号令を受けたメルヴィア海軍士官たちは、
恐怖に気圧されながらも指示に従った。
いつ次弾が飛んでくるかわからない恐怖の海を進む。
大陸をまるごと擁する我々が、まさかあんな島国に遅れをとるとは。
つい数年前まで、存在も知られていなかった島国。
奴らは当初交易を望んでいた。そして我々は彼らを小国と侮った。
交易品に足元をみるような関税を課し、渋れば禁輸をちらつかせた。
中央宮廷はとにかく彼らを軽んじた。
そのつけが、これだ。
カナート将軍は思わずため息を漏らす。
今この時も、大陸軍の最大射程を誇る大弓隊でさえ手が出せない沖合から、
巨大なカタパルトを搭載した軍船がひっきりなしに巨石を打ち込んで来ている。
この悲惨な戦況をいくら上奏しても、
ちっぽけな島国に遅れをとるなどあり得ないと一蹴され、
中央からの援軍はろくに来ない。
大陸最北部を所領とするメルヴィア公家は、この強力な敵を相手に、
領地領民共に疲弊しきっていた。
メルヴィアの軍船はことごとく撃沈され、
残った船もあの忌々しいノルドラントの軍船が誇る装甲を破る力もなく、
港の影に隠れて置物になっている。
制海権を奪われたメルヴィアは、商船は略奪され、避難船も鹵獲され、
内地からの陸路補給に頼らざるを得ない状況だ。
それなのに、あの愚王は実情を知ろうともせず、要求にまったく足りない補給しか出さなかった。
もしやこのメルヴィアを、大陸北部を見捨てるつもりなのか。
砲弾に軋む砦壁の音の中、暗い感情がカナート将軍に影を落とす。
もはや、この大陸に友邦がどれだけあることだろうか。
都市国家アンバルは、一定の補給と支援兵を派兵してくれた。
しかし、この大陸で唯一の独立を保つだけあって狡猾だ。
裏でどう結んだかわからないが、ノルドラント軍はアンバルの港には攻撃を加えていないらしい。
南西の友邦、エンタール公国からは、一国にしては多くの援軍が届いた。
しかし希望の半数にも満たない。中央から妨害工作を受けた、と援軍使は紛糾していたが、
実のところを調べる余裕もない。
この困難の中にあっても一向に援軍を寄こさない中央はどういうつもりなのか、
本来なら追及してやりたいが、もしも拗れて数少ない友軍に離反されてはもうどうしようもなかった。
思案に暮れていると、衛兵が飛び込んできた。
「カナート将軍、カッセル陛下がお呼びです。ご出陣をとの事です。」
我が死地が、決まったようだ。敗軍の将として散らなければならないとは口惜しい。
カナートは項垂れるように頷き、港砦の地下路を通り、城内のカッセル公の元へ急いだ。
「ああ、カナート将軍、心境推して忍びない。
君の忠義には最期まで甘え通しだな。」
メルヴィア公カッセルは、カナートを椅子へと促した。
「アンバルの協力で、何とか数隻、
やつらの攻撃に耐えうる装甲の軍船を用意できた。
しかしこの我が海軍において、
ノルドラントと戦える提督はもう君しか、、残っていない。」
カッセルは部下への申し訳なさと、一向に救援を寄こさない中央への怒りで震えていた。
「祖国を守るものとして、このまま降伏することはできない。
たとえ敗北の恥をうけるとしても、
今は領民を内陸部へ避難させる時間を稼がなければならない。
ゆえにカナート将軍は、我が子ラムサスと共に、
軍船を率いてノルドラント軍を迎え撃て。」
ご子息を共に向かわせるとは。
カナートは、カッセルの胸中を想像した。
おそらくは、最期まで徹底抗戦を貫くつもりなのだろう。
我が子と一緒では、鈍る判断もあるのだろう。
カッセルの命令を受け、直ちに来た道を引き返した。
港砦の監視塔からは、おびただしい数の敵船が地平線にうごめいているのが見えた。
確かに、此方と比べれば土地は小さい島なのだろうが、大きさではなく国力を推し量るべきだった。
海軍工廠へ赴くと、すでに公子ラムサスは軍船を整え、交戦の支度をしていた。
「カナート殿、また貴公に世話になってしまうな。」
快活明朗。公子ラムサスは死なせるには実に惜しい男だ。
「公子様。軍の整備など、公の仕事ではありませんぞ。私にも残していただかなければ。」
「自分で整えた軍で死ぬならば、やむなし。しかし任せた軍の中で死ぬのなら、
貴公を恨まなければなりません、だからこれで良い。」
ラムサスは笑っていた。
公の子息のラムサスは、軍船の経験など果たしてあったのだろうか、
しかしながら彼の指揮下の軍は中々に整っていた。
敵船の砲弾が轟く中、抜錨の合図で船団が動き出す。
海軍工廠から埠頭を越えるまで半刻もない。
埠頭の外は砲撃の嵐だ。
船員が覚悟を決めて港を進む。先頭に流した囮船が港を離れると、
まっていたとばかりに付近に投石と砲弾が降り注いだ。
そして、数キロも進まないうちに囮船は転覆し、竜骨を割られて沈んでいった。
知ってはいた。もう何度も友軍船が同じ目にあった。
しかし、あの囮船にこれから続いて出撃をしなければならないと思うと、恐怖で足がすくむ。
それでも、メルヴィアは戦わなければならない。
「海士たちよ!敵船が次弾装填を済ませる前に、一斉に接近せよ、
だたしこちらは散開し、砲弾の集中を避けよ。行け!」
カナートの号令を受けたメルヴィア海軍士官たちは、
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