琥珀の夜鷹_ep1. 星降りの守り人

朝河 れい

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EP1_1章

1章_8 琥珀徽章の男

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 「カムラン・リードでございます。
メリッサ様の召喚の命に、この度参上致しました。」

カムランが言い終えると、玉座の向こうから壮年の男の声がした。

「ほう。旅商人と聞いていたが、随分作法の整った挨拶をなさる。
さぞ付き合いの幅の広い御仁なのでしょうな。面を上げられよ。」

カムランが顔を上げると、
空いた玉座の右側に一人の男が立っていた。

彫りの深い顔に、銀色の髪。
眼光は鋭く、背の高いその男は、
落ち着きの中に威厳を感じさせる。

「私はロクサリオ。このレフコーシャの宰相を勤める者。
リード卿、話は姫殿下より聞いています。
殿下の危ないところを救って頂いたとか。感謝しますぞ。」

メリッサはどこまで話をしたのだろうか。
助けられたのは私も同じことだとカムランが口を開こうとしたその時、
メリッサが奥から姿を現した。

「ごめんなさい、前の予定が遅れてしまいました。
今日は親書もお持ちくださったそうですね。
カムランさん、ありがとうございました。」

昨日の軽装とは違い、
清楚ないでたちのメリッサはにこやかに笑って、
玉座の左側に収まった。


「エオメル大公殿下は只今所用により不在である。
故に宰相の任を務めるこのロクサリオより、
姫殿下護衛の件、謝礼と致しましょう。

しかしながら、卿も同じように姫殿下に救われたとか。
公国の財は国民から預かっている大切な物ですから、
姫殿下のお働きの分は引き算させてもらいますぞ。」


空席の玉座に少し目をやり、
深みのある笑顔でそう言った。

メリッサは横で優しく微笑んでいる。

まさか謝礼が出るなど思ってもいなかったカムランは、
一瞬面喰ってしまったが、その取り計らいに深く感謝の意を示した。


「姫様、宰相殿、大変ありがたいのですが、
このカムラン、申し開きすべきことがあります。」


言葉を続けようとしたロクサリオの口が止まり、
代わりに片方の眉をつり上げ、無言で続きを促した。

「メリッサ様に救われた際、
姫君であることを知らなかったために身分を隠しておりました。
私は旅商人ではなく、都市国家アンバルの執行官です。

王都トルトーザで任を受けておりましたが、
ここレフコーシャの審判官付として転任命令を受け、
エンタール公国へ参りました。」

そう言うと、
カムランは包みから琥珀飾りのついた徽章を取り出し、近衛兵に預けた。


近衛兵がその徽章をロクサリオへ手渡すと、
ロクサリオの表情から感情が読めなくなった。

「ほう、琥珀徽章アンバルナイツ。アンバルの執行官か。」

思慮を巡らせるロクサリオの隣で、
メリッサは少し驚いたような表情でカムランを見ていた。


「私はアンバルの審判官と交流が少なくてな、
しかし良い機会だ。貴官からもよろしく伝えておいてほしい。
好奇心で尋ねるが、アンバル本国では、カムラン殿の主はどなたか?」


ロクサリオはカムランに歩み寄り、小さく質問した。


「私はアンバル公国五摂家、アンクァルナキア公に仕えております。」

それだけ聞くと、ロクサリオは静かにに頷き、
カムランに徽章を手渡すと玉座の隣に身を戻した。


「なるほど、わかった。
貴公は表向きは今後も旅の商人でよい。
近衛からもアンバルの執行官が来たとは報告を受けておらん。
話を戻したまえ。」

ロクサリオは有無を言わせぬと言った顔だ。
何を考えているかはわからないが、下手をうつ必要も感じなかったのでカムランは黙って頷いた。


「・・はい、おっしゃる通り姫様に救われた身でございます。
その分際で謝礼など恐縮でございます。
ご恩に応えるため、お役に立てることがあれば何でもお申し付けください。」
ロクサリオはカムランの返答にうんうんと頷いた。

「貴公の尽力、大いに期待する。
今後何かあればこちらとしても、お願いしたい。
縁というのはやはり重要なものである。

それと、謝礼については執務官からお受け取り頂きたい。
では、私はこれで失礼する。

姫殿下、先に議場の準備をしておりますので、お待ちしております。」

宰相ともなれば次から次と仕事があるのだろう。
ロクサリオはメリッサに一礼をし、今度こそ歩き去っていった。
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