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EP1_1章
1章_9 新たな仕事、新たな仲間
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ロクサリオが出て行くのを見届け、
メリッサはカムランに向き直る。
メリッサの口が開く前に、カムランは弁解をした。
「メリッサ様、事情は先の通りですが、
身分を隠していたこと、お詫びいたします。
もちろん親書は偽りの文書ではありません。」
意外にも、メリッサは怒らなかった。
「いいんです。私も身分を明かしてはいなかったので、
おあいこです。
それに、ロクサリオはこういう判断は違えない人ですから。」
二人はしばしの間、共に過ごした小さな冒険をお互いに労った。
「カムランさん。今回は改めてお願いしたいことがあって、
出向いて頂きました。依頼の前に、怪我はもう良くなりましたか。」
「はい。メリッサ様に処置していただいたお陰で、
腫れも収まり、痺れも無くなっています。何なりと。」
カムランはすっかり良くなった事を伝え、謝意を込めてメリッサに頭を下げた。
「それは何よりでした。怪我には気を付けてくださいね。
では、今回お願いしたいことについてです。
実は、昨日お話した星晶石の件なのですが、
採掘量に対して納入量が少ないことがあり、問題になっています。
採掘はこのレフコーシャの南西、
トレド星石鉱で厳格な管理の元に行われているはずなのです。
各月の減った量はそれほど多くはないため、大事にはなっていないぶん、
こちらとしても動きづらくて困っていたところです。
それでも、公国外持ち出し禁止の品ですので、やはり看過できるものではありません。
当然、ロクサリオも認識していますが、
他の宰務に追われて中々手が付けられていない現状です。
そのためトレド星石鉱へ赴き、実態を調査してもらいたいのです。」
メリッサは困ったような表情でそう言った。
「ご下命、確かに賜りました。なんとか尻尾を掴んでみましょう。」
カムランはメリッサの顔がぱっと笑顔になるのを見て、
今までやってきた仕事とは違うやりがいを感じたのだった。
「ありがとう、期待していますね。」
そう言うとメリッサは一人の男を呼んだ。
後ろの扉から入ってきた男は、
カムランの隣に止まってメリッサに傅いた。
金髪の青年がカムランの横目に見える。
「今回、残念ですが私はご一緒できません。
代わりにこの者が助力となりましょう。
彼はマルス・トライゼン。
公家に仕える若き近衛騎士ながら、
武芸の腕は近衛騎士の中でも一級品です。必ず力になるでしょう。
さあ、マルス。顔をあげてください。」
メリッサはマルスに自己紹介を促した。
マルスは立ち上がり、カムランに向き直る。
「マルス・トライゼン。このレフコーシャの近衛騎士だ。よろしく。」
よほど面白くない仕事だと思っているのか、
カムランに向けるその表情は、不機嫌丸出しになっている。
貴族出の騎士にとってつまらない仕事であろうことは理解できた。
しかしあまりもに感情的な態度の協力者を前に、
カムランは先が思いやられる思いだったが、
場をわきまえて、手を差し出した。
「カムラン・リードです。騎士様、ご協力感謝いたします。」
差し出した手には、不本意の念が万力に込められた握手が返ってきた。
「マルス。あなたには小さな事かもしれませんが、
これは公国のための仕事なのです。しっかりやってきてくださいね。」
二人のやりとりを見てメリッサは少し心配そうな表情を浮かべている。
「まあいいでしょう。
マルス。まずはカムランさんに鍛冶師のもとへ案内してあげてください。
明日の昼には出発できるよう、準備をお願いしますね。
私もロクサリオと別件にあたりますので、そろそろ失礼します。
お二人の吉報、お待ちしています。」
最近北東の隣国、メルヴィアの様子が騒がしく、
会議ばかりで退屈だ、そう一言愚痴をこぼした後、
メリッサは一瞬口を押えて、にこやかに微笑む。
聞かなかったことにしてね、と言いたげな表情を残して、
そのままロクサリオの出て行った通路を歩いていった。
メリッサはカムランに向き直る。
メリッサの口が開く前に、カムランは弁解をした。
「メリッサ様、事情は先の通りですが、
身分を隠していたこと、お詫びいたします。
もちろん親書は偽りの文書ではありません。」
意外にも、メリッサは怒らなかった。
「いいんです。私も身分を明かしてはいなかったので、
おあいこです。
それに、ロクサリオはこういう判断は違えない人ですから。」
二人はしばしの間、共に過ごした小さな冒険をお互いに労った。
「カムランさん。今回は改めてお願いしたいことがあって、
出向いて頂きました。依頼の前に、怪我はもう良くなりましたか。」
「はい。メリッサ様に処置していただいたお陰で、
腫れも収まり、痺れも無くなっています。何なりと。」
カムランはすっかり良くなった事を伝え、謝意を込めてメリッサに頭を下げた。
「それは何よりでした。怪我には気を付けてくださいね。
では、今回お願いしたいことについてです。
実は、昨日お話した星晶石の件なのですが、
採掘量に対して納入量が少ないことがあり、問題になっています。
採掘はこのレフコーシャの南西、
トレド星石鉱で厳格な管理の元に行われているはずなのです。
各月の減った量はそれほど多くはないため、大事にはなっていないぶん、
こちらとしても動きづらくて困っていたところです。
それでも、公国外持ち出し禁止の品ですので、やはり看過できるものではありません。
当然、ロクサリオも認識していますが、
他の宰務に追われて中々手が付けられていない現状です。
そのためトレド星石鉱へ赴き、実態を調査してもらいたいのです。」
メリッサは困ったような表情でそう言った。
「ご下命、確かに賜りました。なんとか尻尾を掴んでみましょう。」
カムランはメリッサの顔がぱっと笑顔になるのを見て、
今までやってきた仕事とは違うやりがいを感じたのだった。
「ありがとう、期待していますね。」
そう言うとメリッサは一人の男を呼んだ。
後ろの扉から入ってきた男は、
カムランの隣に止まってメリッサに傅いた。
金髪の青年がカムランの横目に見える。
「今回、残念ですが私はご一緒できません。
代わりにこの者が助力となりましょう。
彼はマルス・トライゼン。
公家に仕える若き近衛騎士ながら、
武芸の腕は近衛騎士の中でも一級品です。必ず力になるでしょう。
さあ、マルス。顔をあげてください。」
メリッサはマルスに自己紹介を促した。
マルスは立ち上がり、カムランに向き直る。
「マルス・トライゼン。このレフコーシャの近衛騎士だ。よろしく。」
よほど面白くない仕事だと思っているのか、
カムランに向けるその表情は、不機嫌丸出しになっている。
貴族出の騎士にとってつまらない仕事であろうことは理解できた。
しかしあまりもに感情的な態度の協力者を前に、
カムランは先が思いやられる思いだったが、
場をわきまえて、手を差し出した。
「カムラン・リードです。騎士様、ご協力感謝いたします。」
差し出した手には、不本意の念が万力に込められた握手が返ってきた。
「マルス。あなたには小さな事かもしれませんが、
これは公国のための仕事なのです。しっかりやってきてくださいね。」
二人のやりとりを見てメリッサは少し心配そうな表情を浮かべている。
「まあいいでしょう。
マルス。まずはカムランさんに鍛冶師のもとへ案内してあげてください。
明日の昼には出発できるよう、準備をお願いしますね。
私もロクサリオと別件にあたりますので、そろそろ失礼します。
お二人の吉報、お待ちしています。」
最近北東の隣国、メルヴィアの様子が騒がしく、
会議ばかりで退屈だ、そう一言愚痴をこぼした後、
メリッサは一瞬口を押えて、にこやかに微笑む。
聞かなかったことにしてね、と言いたげな表情を残して、
そのままロクサリオの出て行った通路を歩いていった。
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