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EP1_2章
2章_2 エンタール公国副都、イントレド
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日が傾き始め、
夕焼けが雲間に隠れようとする頃、
右前方の方角に、
深く穿たれた大穴と、人の集団が見えてきた。
「あそこがトレド星石鉱。
ここまで来ればもうイントレドの街は目と鼻の先だ。」
マルスは愛馬のマイラにも何やら声をかけて元気づけている。
その横で、初めて見る鉱山に、
カムランはすっかり目を奪われていた。
直径百メートルはあろう大きな穴の下で、
沢山の人間が作業をしていた。
大穴の至る所に坑道の入り口があり、
その中から星晶石の原石を掘り出しているそうだ。
大穴の周囲には鉄柵が張られ、
人の出入りも厳しく制限されているようだった。
馬の足並みと共に徐々に後方に流れていく大穴から視線を前に戻すと、
もう街が見えていた。
副都イントレド。
台地の星晶石の管理という責務を担うこの街は、
レフコーシャほどの賑わいはないものの、
ここでも多くの隊商や鉱夫が街を行き交っている。
この台地には珍しく農耕に適した土地もあり、
イントレドの西側には広大な耕作地が広がっているそうだ。
この土地の暮らしを支えるための食糧産出量のおよそ七割を、
この街一つで産み出しているというから驚きだ。
マルスの話によれば、
これだけの重責を請け負うイントレドの守備軍は、
レフコーシャのそれに負けず劣らずの精鋭揃いということだった。
早速街に入り、門近くの厩にマイラとレブロを繋ぎ、
正門市場で買った野菜を与えて彼らを労った。
このイントレドの街は計画都市として造られ、
正門から東側が鉱区、西側が農区、
中央が兵区ときっちり分けられていて、
鉱区と農区の境となる中央通りが商店通りになっているとマルスは言った。
「マルス、あなたは随分この街のことに明るいですね。」
カムランの言葉にマルスは笑う。
「そりゃそうだ。このイントレドは俺の出身地だ。
姫様もそれを知っているから俺を任命したんだろう。
もう七年ぶりくらいになるが、ここは変わらないな。」
遠い目をして昔を振り返っている様子のマルスの前に、
突如一人の女性が駆け寄ってきた。
「マルス!本当に久しぶりだわ!
帰ってくるのなら連絡の一つでもくれたら良かったのに!」
弾けるような笑顔だ。
肩までの栗色の髪に、
柔らかなレモン色のワンピースが良く似合う、
可愛らしい女性だ。
一方のマルスは、必死で逡巡しているかのような表情だ。
年頃の女性というのは少し会わない間に本当に変わるというのは理解しているカムランだが、
いざ目の前の光景を見ると、
笑いを堪えるのに神経を注がなければならなかった。
「カレッタ、お前か?」
一生懸命絞り出した名前はどうやら正しかったらしく、
カレッタはまた花のような笑顔になった。
「よかった!こんなに走ってきて忘れられていたんじゃ
恥ずかしくてどうしようかと思ったわ!」
話の止まらないカレッタを、マルスが手で制した。
「久しぶりに会えて良かったが、
すまないが今回は仕事で来ている。
将軍の所へ行かなきゃならないんだ。今日は悪いな。」
そこまで言って、マルスはさっさと歩き出してしまった。
なんともいえない表情のカレッタが少しかわいそうで、
カムランは彼女に向かって軽く頭を下げてからマルスの後を追う。
「あまり口出しする気はないが、もう少し言い方もあったのでは?」
カムランの問いにマルスは碌に受け合わなかった。
「仕方がないだろう。嘘なんか何一つ言っていない。」
その後は二人とも口を開くことなく、まっすぐ城に向かっていった。
夕焼けが雲間に隠れようとする頃、
右前方の方角に、
深く穿たれた大穴と、人の集団が見えてきた。
「あそこがトレド星石鉱。
ここまで来ればもうイントレドの街は目と鼻の先だ。」
マルスは愛馬のマイラにも何やら声をかけて元気づけている。
その横で、初めて見る鉱山に、
カムランはすっかり目を奪われていた。
直径百メートルはあろう大きな穴の下で、
沢山の人間が作業をしていた。
大穴の至る所に坑道の入り口があり、
その中から星晶石の原石を掘り出しているそうだ。
大穴の周囲には鉄柵が張られ、
人の出入りも厳しく制限されているようだった。
馬の足並みと共に徐々に後方に流れていく大穴から視線を前に戻すと、
もう街が見えていた。
副都イントレド。
台地の星晶石の管理という責務を担うこの街は、
レフコーシャほどの賑わいはないものの、
ここでも多くの隊商や鉱夫が街を行き交っている。
この台地には珍しく農耕に適した土地もあり、
イントレドの西側には広大な耕作地が広がっているそうだ。
この土地の暮らしを支えるための食糧産出量のおよそ七割を、
この街一つで産み出しているというから驚きだ。
マルスの話によれば、
これだけの重責を請け負うイントレドの守備軍は、
レフコーシャのそれに負けず劣らずの精鋭揃いということだった。
早速街に入り、門近くの厩にマイラとレブロを繋ぎ、
正門市場で買った野菜を与えて彼らを労った。
このイントレドの街は計画都市として造られ、
正門から東側が鉱区、西側が農区、
中央が兵区ときっちり分けられていて、
鉱区と農区の境となる中央通りが商店通りになっているとマルスは言った。
「マルス、あなたは随分この街のことに明るいですね。」
カムランの言葉にマルスは笑う。
「そりゃそうだ。このイントレドは俺の出身地だ。
姫様もそれを知っているから俺を任命したんだろう。
もう七年ぶりくらいになるが、ここは変わらないな。」
遠い目をして昔を振り返っている様子のマルスの前に、
突如一人の女性が駆け寄ってきた。
「マルス!本当に久しぶりだわ!
帰ってくるのなら連絡の一つでもくれたら良かったのに!」
弾けるような笑顔だ。
肩までの栗色の髪に、
柔らかなレモン色のワンピースが良く似合う、
可愛らしい女性だ。
一方のマルスは、必死で逡巡しているかのような表情だ。
年頃の女性というのは少し会わない間に本当に変わるというのは理解しているカムランだが、
いざ目の前の光景を見ると、
笑いを堪えるのに神経を注がなければならなかった。
「カレッタ、お前か?」
一生懸命絞り出した名前はどうやら正しかったらしく、
カレッタはまた花のような笑顔になった。
「よかった!こんなに走ってきて忘れられていたんじゃ
恥ずかしくてどうしようかと思ったわ!」
話の止まらないカレッタを、マルスが手で制した。
「久しぶりに会えて良かったが、
すまないが今回は仕事で来ている。
将軍の所へ行かなきゃならないんだ。今日は悪いな。」
そこまで言って、マルスはさっさと歩き出してしまった。
なんともいえない表情のカレッタが少しかわいそうで、
カムランは彼女に向かって軽く頭を下げてからマルスの後を追う。
「あまり口出しする気はないが、もう少し言い方もあったのでは?」
カムランの問いにマルスは碌に受け合わなかった。
「仕方がないだろう。嘘なんか何一つ言っていない。」
その後は二人とも口を開くことなく、まっすぐ城に向かっていった。
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