琥珀の夜鷹_ep1. 星降りの守り人

朝河 れい

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EP1_2章

2章_8 近衛騎士と迷い星

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 一方、鉱夫たちをかき分けて坑道を出たマルスは、
止まっているゴンドラの近くにあった梯子を使って駆け上るように大穴を登った。

どうやら宿営地の方向から悲鳴が聞こえている。


一刻を争う事態に、
マルスは全速力で走った。

テントに置いていた武具を拾い上げて正門へと向かうと、
守備軍の輪の中に巨大な獣が暴れているのが見えた。

立ち向かう守備兵を簡単に跳ね飛ばすその正体は、
右目が燃え上がるように煌々と輝いている牡牛だった。

人間の身の丈よりも二回りも大きなその牡牛におののき、
じりじりと引き下がってしまう兵士たちをかき分けて、

マルスは倒れた兵にとどめを刺そうと
太く伸びたツノを構える牡牛の前に立ち塞がった。


「さばいたところで肉切れにもならない牛が相手じゃ、
張り合いがねえな。」

そう呟いたマルスに、
巨大な牡牛の突撃が襲う。

強烈な衝撃を得物の盾でしのいだが、
腕はじんじんと痺れ、体勢も崩れかけた。

「ここに伸びてるヤツをさっさと片づけろ!」

痛みを誤魔化すような大声で守備兵に指示を出し、
続けて襲い来る牡牛の攻撃をすんでのところで回避した。

真正面からあの突撃を受けるのは無理があると感じたマルスは、
作業服の袖を引きちぎり、
落ちていた槍にさっと結んだ。


槍の穂に揺れる赤茶色の生地に、
ギラギラと輝く牡牛の目が動く。

穂先の生地めがけて突っ込んでくる牡牛をかわし、
左腕の盾で牡牛の横頬を思い切り殴りつけた。

よろめいた牡牛の隙をつき、
肩のあたりに槍を突き立てる。

牡牛はブオーッとうめき声を上げたが、
致命傷には届かなかったようだ。

身体を揺さぶって肩に刺さった槍を払い落とすと、
牡牛は再びマルスを襲った。

盾で直撃をいなしたものの、
牡牛のツノはマルスの左肩を掠めた。


肩から流れる血の赤色に牡牛はさらに興奮し、
脚を地面に擦って鼻息を荒げた。

「くそ、家畜のくせに、躾がなってねえ。」

マルスは歯を食いしばって立ち上がり、
血の止まらない左肩をあえて見せるように盾を構え、
腰に備えた剣を抜いた。

牡牛は相変わらず突撃の構えをとっている。

流血している左肩を見定め、
地を蹴って駆けだした牡牛の足元に、
マルスは盾を投げつける。

鈍い音と共に、
盾は見事にまっすぐ走ってきた牡牛の右前脚に激突した。

牡牛は倒れこそしなかったが、
その場で悲痛な声を上げている。

マルスは痛みに暴れる牡牛に走り寄り、
剣を振りかぶった。

狙ったのは首だったが、
牡牛も負けじとツノを剣にあてがって反撃してきた。

暴れる牡牛に剣撃を浴びせ、
ついに牡牛のツノが一本、
折れて地面に転がった。


自慢のツノを折られた牡牛はさらに怒り狂ってマルスに飛びかかる。
ツノの攻撃はかわしたが、
マルスは盾もないままに後脚の蹴りを受けてしまった。

当たり所が悪かったのか、
うまく呼吸ができず、
無理やり吐いた息と共に口から溢れた血が足元を濡らす。

そして、とうとう地面に膝をついてしまった。
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