いつも唐揚げ弁当しか頼まない彼の秘密

加藤ラスク

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プロローグ

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私、鈴木美晴はもともと料理が好きでみんなに振る舞いたいという理由から専門学校を出てすぐにお弁当屋を開業した。
ありがたいことに一人で切り盛りするのは大変なほど人気が出てきて、早朝から深夜まで仕込みやら片付けやらで寝る暇がないほどだった。

そんな私の癒しは愛犬のレオン。
悩みや不安をたくさん話した。レオンはしゃべることはないけれど、大丈夫だよって言ってくれているようだった。いつでも私の味方で私は大好きだった。
そんなレオンも寿命で先日虹の橋を渡ってしまう。


ある日、お弁当屋にお客とも呼べないカスハラジジイが来た。

このジジイ、前はそこそこいい会社に勤めていたようだけれど、早期退職してから次の就職先が見つからないらしい。無職で暇なのか最近ずっとまとわりついて何かと文句を言ってくる。最初は謝っていたけれど、そろそろ我慢の限界。

『こんなチンケな店とっとと畳めよ、他にももっといい店はあるんだから将来性ないよ。そしたら働き口ないだろうから俺のとこに嫁に来いよ。特別に嫁にしてやるから』

は?今なんて……?
この店は私が一から作り上げた大切な店だから畳むつもりもない。万が一畳まなくてはならないとして、コイツのところになんか嫁に行かないが?頭沸いてる?

「え?笑わせないでください。私とあなたの関係ってただの店員と客ですよね?私、あなたのこと好きでも何でもないですし、嫁に行くならこのお店も大切にしてくれる人がいいです。もちろんちゃんと定職に就いている人で。あなたはもう客としてでも来なくて結構です。出禁です」

日頃の寝不足と愛犬を失ったストレスから感情のコントロールが上手くいかず、ついうっかり本心が出てしまった。

当然ジジイは、ハイそうですかと黙って帰るわけでもなくむしろ怒り狂ってしまい、私に殴りかかろうとしてきた。

ヤバい、と思っていると、急にジジイの動きが止まった。不思議に思ってジジイを見上げるとジジイの手はその後ろの男性によってひねり上げられていた。

この男性は最近毎日通ってくれるようになった常連さん。いつも長身に合った仕立てのスーツを着て、唐揚げ弁当を買っていく。私は心のなかで唐揚げ王子と勝手に命名していた。

「こんな素敵なお姉さんがやっているお弁当屋さんが潰れたら困るなぁ。お姉さんが作る唐揚げは絶品なんだよ?知ってる?あ、お姉さんまた今日もいつものね」

「……え、はっ、はい!いつもの唐揚げ弁当ですね!」

唐揚げ王子の登場ですっかり怒りのボルテージが下がっていく。

「支払いはこれで」
男性はジジイにもよく見えるように胸ポケットからカードを取り出した。
富裕層しか持てない黒く輝くカードを。

『……くっ、くそ』
ジジイはバツが悪くなったのかそそくさと店から出ていった。

「ありがとうございます。助けていただいて」
「いや、いいんだよ。本心を言ったまで。ここの唐揚げは本当に美味しいし、お姉さんも素敵だ」

唐揚げ王子はまた来るねとウインクをしてお弁当を手にして店から出ていった。

異性に素敵と言われるのなんてどれくらいぶりだろうか。少しの舞い上がりとカスハラから助けてもらった安堵感だろうか。それとも寝不足やストレスが原因なのだろうか。急に足に力が入らなくなってしまった。


あれ?おかしいな、力が入らない……


膝から崩れ落ちるように地面に倒れる。


マズい、なんだか、視界も、ぼやけてき……た


目の前が、真っ暗になった。





ねえ、信じられる?

てっきり死んだと思って目を覚ましたら、そこは私が中学生の時にやりこんだゲーム『みんな勇者~ラブ&ピースは世界を救う~』の世界だったなんて。



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