いつも唐揚げ弁当しか頼まない彼の秘密

加藤ラスク

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異世界転生

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ベッドで寝ていた私を起こしに来たのは画面越しに何千回と見た女性だった。

「ミハル、いつまで寝ているの?もう起きる時間ですよ。今日は大切な勇者様の出陣式でしょ?あなたも支度して王城前広場へ行きなさい」

これは主人公が旅立つ朝に母親に起こされる導入のセリフだ。


この瞬間、私は理解した。異世界転生してしまったのだと。そしてここは私の大好きなゲーム『みんな勇者~ラブ&ピースは世界を救う~』の世界なのだと。



この『みんな勇者~ラブ&ピースは世界を救う~』(略してみん救)はその名の通り勇者が40人以上もいてプレイヤーが自由に勇者パーティーを組むことが出来る。

ただしそれぞれの勇者を仲間にするには専用シナリオをクリアしたり、特定アイテムを入手したり、さまざまな条件をクリアする必要がある。

もちろん最初から私は勇者です!と分かりやすくアピールしてくれるキャラもいれば、第二王子だったり商人だったり、え、あなたも勇者なの?と意外な(=仲間にしにくい)キャラもおり、攻略サイトなしでは勇者を全員見つけることは困難と言われている。

私はこのゲームにハマり、中学時代を全てこのゲームに捧げてきた。
攻略サイトなんか見なくても全てのキャラの解放条件をしっかり把握できるくらいまでには。




起き上がり外を見れば、見覚えのある中世のような街並み。

間違いない。ここは「みん救」の世界だ。

急いでドレッサーに向かい、鏡を見る。そこに映るのは日本で生活していた黒目黒髪の鈴木美晴によく似た、イラスト化したらこんな感じになるであろう、世界観に沿ったパッチリ黒目、腰まであるロング黒髪の別人単語ミハルだった。

わぁ、あのイラストレーターさんに似顔絵を描いてもらったら私こんな感じになるのね!
うん、なかなか可愛いかも♡

……って待って、私は今みん救の世界にいて、あの母親のセリフ、ゲームには私の見た目のキャラはいなかった。ってことは、もしかして私が主人公!?

主人公なら、やることは決まっている。
まずは仲間にするのが最難関と言われており、最強の隠しキャラの第二王子レオナルドのシナリオをクリアして仲間にしなくては。

正直仲間はレオナルドだけでいい。それくらい彼は強い。なぜなら彼は世界でただ一人、火の女神の加護を受けており、同じく風の女神の加護を受けている主人公との相性は抜群だから。

それに加え、何よりレオナルドは私の推し、初恋と言ってもいいくらい大好きなキャラなのだ。

整った顔立ちにスラッとした長身、オレンジブラウンの髪の毛。見た目は私の好みにドンピシャ。

しかも生い立ちは、第二王子として第一王子の母である正妃様からの悪質な嫌がらせを受け、身を守るために身分を隠さなければならず、薬学知識を活かして、町の外れでひっそりと薬売りとして生計を立てているという苦労人なのだ。

彼を仲間にするには毎日店に通い会話をし、友好度をMAXまであげ、夏祭りの日に彼から誘われて一緒に食事をする必要がある。

これだけだとかなり簡単そうに感じるが、まず店に行ったところでなかなか彼には会えない。友好度を上げる会話の選択肢も激ムズ。食事も誘われるかどうかは10%の確率。しかもチャンスは一度きり。

友好度を上げるまでは完璧にできる。最後の10%に何度涙を呑んだことか。

それでも、何としてでもレオナルド様を仲間にしたい。

さっそく私は主人公なら使える初期呪文を使い、町外れまで移動することにした。

「町外れの薬屋まで連れてって。『トビー!』」

……

「あれ?おかしいな。風の女神の加護でビュンって一瞬で行けるはずなんだけど……トビー」

何回呪文を唱えても何も起こらない。

……そうだ、きっと母親との会話をしないと話が進まないのよ。初回プレイと同じでイベントショートカットできないんだわ。

二階の個室から一階のリビングに降り、刺繍をしている母親に声をかける。

「お母様、支度が整いました。私はこれから勇者として旅立とうと思います」

「あら、どうしたのいきなり!」

「この風の女神の加護の力で必ずや世界を救ってまいります」

お母様は刺繍をしていた手を止めクスクス笑い始めた。
「何がおかしいのですか!」

「だって、いきなり勇者ディオ様の真似するんだもの!フフッ…全然似てないけど」

「私は本気です!」

「あなたには風の女神の加護はないわよ?風の女神の加護はディオ様にしかついていないわ。さて、今日はミハルの手作りお弁当を出陣式で勇者様一行に渡すって昨日準備していたじゃない」

ゲームでは出陣式には主人公が参加していた。私も当然出るつもりだった。

だが、現実は違っていた。

私が転生したのは主人公ではなく、出陣式で回復アイテムである『お弁当』を渡すモブだったのだ。
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