2 / 9
異世界転生
しおりを挟むベッドで寝ていた私を起こしに来たのは画面越しに何千回と見た女性だった。
「ミハル、いつまで寝ているの?もう起きる時間ですよ。今日は大切な勇者様の出陣式でしょ?あなたも支度して王城前広場へ行きなさい」
これは主人公が旅立つ朝に母親に起こされる導入のセリフだ。
この瞬間、私は理解した。異世界転生してしまったのだと。そしてここは私の大好きなゲーム『みんな勇者~ラブ&ピースは世界を救う~』の世界なのだと。
この『みんな勇者~ラブ&ピースは世界を救う~』(略してみん救)はその名の通り勇者が40人以上もいてプレイヤーが自由に勇者パーティーを組むことが出来る。
ただしそれぞれの勇者を仲間にするには専用シナリオをクリアしたり、特定アイテムを入手したり、さまざまな条件をクリアする必要がある。
もちろん最初から私は勇者です!と分かりやすくアピールしてくれるキャラもいれば、第二王子だったり商人だったり、え、あなたも勇者なの?と意外な(=仲間にしにくい)キャラもおり、攻略サイトなしでは勇者を全員見つけることは困難と言われている。
私はこのゲームにハマり、中学時代を全てこのゲームに捧げてきた。
攻略サイトなんか見なくても全てのキャラの解放条件をしっかり把握できるくらいまでには。
起き上がり外を見れば、見覚えのある中世のような街並み。
間違いない。ここは「みん救」の世界だ。
急いでドレッサーに向かい、鏡を見る。そこに映るのは日本で生活していた黒目黒髪の鈴木美晴によく似た、イラスト化したらこんな感じになるであろう、世界観に沿ったパッチリ黒目、腰まであるロング黒髪の別人単語だった。
わぁ、あのイラストレーターさんに似顔絵を描いてもらったら私こんな感じになるのね!
うん、なかなか可愛いかも♡
……って待って、私は今みん救の世界にいて、あの母親のセリフ、ゲームには私の見た目のキャラはいなかった。ってことは、もしかして私が主人公!?
主人公なら、やることは決まっている。
まずは仲間にするのが最難関と言われており、最強の隠しキャラの第二王子レオナルドのシナリオをクリアして仲間にしなくては。
正直仲間はレオナルドだけでいい。それくらい彼は強い。なぜなら彼は世界でただ一人、火の女神の加護を受けており、同じく風の女神の加護を受けている主人公との相性は抜群だから。
それに加え、何よりレオナルドは私の推し、初恋と言ってもいいくらい大好きなキャラなのだ。
整った顔立ちにスラッとした長身、オレンジブラウンの髪の毛。見た目は私の好みにドンピシャ。
しかも生い立ちは、第二王子として第一王子の母である正妃様からの悪質な嫌がらせを受け、身を守るために身分を隠さなければならず、薬学知識を活かして、町の外れでひっそりと薬売りとして生計を立てているという苦労人なのだ。
彼を仲間にするには毎日店に通い会話をし、友好度をMAXまであげ、夏祭りの日に彼から誘われて一緒に食事をする必要がある。
これだけだとかなり簡単そうに感じるが、まず店に行ったところでなかなか彼には会えない。友好度を上げる会話の選択肢も激ムズ。食事も誘われるかどうかは10%の確率。しかもチャンスは一度きり。
友好度を上げるまでは完璧にできる。最後の10%に何度涙を呑んだことか。
それでも、何としてでもレオナルド様を仲間にしたい。
さっそく私は主人公なら使える初期呪文を使い、町外れまで移動することにした。
「町外れの薬屋まで連れてって。『トビー!』」
……
「あれ?おかしいな。風の女神の加護でビュンって一瞬で行けるはずなんだけど……トビー」
何回呪文を唱えても何も起こらない。
……そうだ、きっと母親との会話をしないと話が進まないのよ。初回プレイと同じでイベントショートカットできないんだわ。
二階の個室から一階のリビングに降り、刺繍をしている母親に声をかける。
「お母様、支度が整いました。私はこれから勇者として旅立とうと思います」
「あら、どうしたのいきなり!」
「この風の女神の加護の力で必ずや世界を救ってまいります」
お母様は刺繍をしていた手を止めクスクス笑い始めた。
「何がおかしいのですか!」
「だって、いきなり勇者ディオ様の真似するんだもの!フフッ…全然似てないけど」
「私は本気です!」
「あなたには風の女神の加護はないわよ?風の女神の加護はディオ様にしかついていないわ。さて、今日はミハルの手作りお弁当を出陣式で勇者様一行に渡すって昨日準備していたじゃない」
ゲームでは出陣式には主人公が参加していた。私も当然出るつもりだった。
だが、現実は違っていた。
私が転生したのは主人公ではなく、出陣式で回復アイテムである『お弁当』を渡すモブだったのだ。
12
あなたにおすすめの小説
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
氷の公爵の婚姻試験
潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。
雨宮羽那
恋愛
侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。
(私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。
しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。
絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。
彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――?
◇◇◇◇
※全5話
※AI不使用です。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。
婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ
松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。
エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。
「…………やらかしましたわね?」
◆
婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。
目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言――
「婚約破棄されに来ましたわ!」
この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。
これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる