喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク

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これは夢か現実か


 まさか、本当に助けに来てくださったの?

「なんですか、いきなり。我々は酒に酔った女性を介抱しているだけですよ」

 この期に及んでいけしゃあしゃあと言葉を返しています。

「ふざけるな! こいつらを違法薬物売買、公正文書偽造、婦女暴行の罪で逮捕する。ひっ捕らえよ!」

 クレイグ様の後ろから続々と騎士団の方々が部屋へ入ってきます。

 エドモンドがお世話をしていたという方々はあっという間に捕縛されました。しかし、エドモンドは。

「止めろ! こいつがどうなってもいいのか!」

 手に持っていたナイフで私を人質にしたのです。

「お前というやつは、どこまでセシルを傷つければ気が済むのだ!」

 クレイグ様の怒号が聞こえた瞬間、エドモンドがドサッと床へ崩れ落ちて行きました。

「セシル、大丈夫か?」

 そして、気が付けば私はクレイグ様に抱きかかえられていたのです。

「さすが団長、見事な高速技でした」

「まだ殺してはいない。こいつはただじゃ殺さん。簡単に死ねると思うなよ」

「ははは、セシルさんが絡むと本当に怖いんだから。で、どうします?」

「とりあえず、全員地下牢へ転がしておけ」

 エドモンドは簀巻きにされ、ずるずると部屋から引き出されて行きました。



 嫌だった……怖かった……!

 本当に助かったとわかった瞬間から震えと嗚咽が止まりません。

「セシル……もう大丈夫だ。セシルを傷つける奴はもういない」

 そっとクレイグ様が私を抱きしめ、優しく背中をさすってくださいます。大きな手と温かさが心地よく、私はそのまま目を閉じ眠ってしまいました。






「気が付いたか?」

 目を覚ますと、先ほどとは違う天井が見えました。まだ夜明け前なのでしょう。薄暗い中辺りを見回すと、私がいるのはどうやら王城内医務室のベッドの上のようです。

 そして、ベッド脇には、私の手を握っているクレイグ様の姿がありました。

「絶対に守ると約束したのに、危険な目に合わせてしまい申し訳なかった。あの時、俺が離れなければ……」

 クレイグ様のせいではないのです。私が約束を守らずにあの場を離れてしまったから……私はゆっくりと首を振り否定します。

「でも、セシルが俺を呼んでくれたから俺は助けることができた」

 ?
 呼んだ?
 私は声が出ないのに、どうやって?

「そのネックレスだよ」

 よく見ると、青いペンダントの部分が淡く光っています。確か身に付けた時には光ってはいなかったはずです。

「これをお守りとしてプレゼントしたのは覚えているだろうか。このネックレスは特殊な魔法が掛けられていてね。持ち主に危険が迫った時、俺にその場所と音声を伝えてくれる効果があったんだ」

 まさか、これにそんな効果があったなんて。改めてまじまじと見つめます。

「気持ち悪いと思ったのならすまない。だが、どうしてもセシルを守りたくて。俺は……俺は、セシルを愛しているから」

 手を握ったまま、まっすぐに私を見つめています。

 私はまだ夢を見ているのでしょうか。なんて自分に都合のいい夢なのでしょう。夢ならば誰にも遠慮せずに心のままに。



「私も、ずっとお慕いしておりました。クレイグ様」



 やはり夢だったのね。だって声が出るんだもの。でもなんて幸せな夢なのかしら。自然に顔が緩んできます。

「……セシル!」

 がばっと勢いよくクレイグ様に抱きしめられます。あまりに強く抱きしめられるので少し痛いです。

 痛いです? 夢なのに? もしかして……

「呪いが解けたの? これは夢ではないの?」
「あぁ、これは夢ではない、現実だ。もう一度言う。セシル、愛している」

 クレイグ様の顔がそっと私に近づいてきます。

 目の前はクレイグ様の顔しか見えません。

 唇が触れるまで、あと3センチ。

 目をそっと閉じたその時。

「……ちょっと、人を呼んでおいて……タイミング考えてよね……」

 ヴィンス様が頭を掻きながら部屋に入って来たのでした。
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