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第三章 激闘の魔闘士大会編 中等部1年生
第37話 トーナメント2回戦
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試合当日、天使アリエルから「頑張ってね」とだけ念話が飛んできた。
何かのフラグっぽいことはやめてほしい。
あと、朝から靴の紐が切れた。
こっちの惑星には「下駄の鼻緒が切れたら縁起が悪い」なんて文化は無いが、俺は気にする。
やめてほしい。
すると、黒猫が横切ったり、カレンダーを見たら、今日は13日の金曜日だったりと、定番フラグを立てまくる。
やめてほしい。
もう一度言う、やめてほしい。
まるで、今日の試合で負けるような…いや、今回の場合、負けるだけなら運がいい方だ。
最悪は、本当の最悪がある。
それはもちろん、どちらかの命に関わる重大事態だ。
可能性として考えられるだけに恐ろしい。
もちろん自重するが、練習と実戦では全く違う。
しかし、型は用意した。
型にハマれば、なんとかなる算段だ。
逆に手がなくなった時点で降参する約束を2人とした。
危険なことはしないと。
さて、対戦相手がシャイナなので、今回も大学が会場である。
パパンの運転でママンとアネモネが同乗している。
いつものドライブメンバーだ。
かれこれもう11年もメンバーは変わらない。
兄は完全に研究者ルートを選択して、知識と技術を磨いている。
時期当主として頑張ってくれているから、応援している。
もちろん、俺はその傘に入りながらも、独立して稼ぐ腹積りはある。
なので、家計にはプラスになるだろう。
兄の頑張りはみんなのためになる。
上級家庭になれば、両親の年金も増える。
是非とも頑張ってもらおう。
そうして、盤石の土台の上で俺は世界一を目指すことができる。
そう、俺は世界一を目指す。
そのために今日は勝つ。
世界一への一歩なんだ。
一歩ずつ進んでいくことは、赤ちゃんのときから決めている。
やるんだ。
進むんだ。
車の中は無言だった。
沈黙を潰したのは俺だった。
「今日、勝つよ」
「もう、アンタはまだ子どもなんだから、そんなに勝敗にこだわる必要はないんだよ?もちろん、この日のために練習を積み重ねたことも知ってるし、勉強だってがんばってたのも知ってる。アンタはもうすでに、自分には勝ってるんだ」
「ママン、ありがとう。でも、勝ちたいんだ。だから、先に希望を伝えたかっただけなんだ。一生懸命やってくるよ」
「そうだね。練習通り一生懸命やればそれでいいんだよ」
ママンはいつも頼りになる。
「ライならできるだろうね」
パパンはいつも優しい言葉をくれる。
「アネモネ、今日までありがとう」
「何よ。改まらないでよ。これからも一緒にやってくんだから」
あぁ、今のは自爆フラグだな。
ヤバい。
フラグ連鎖が止まらない。
全てへし折る気概は見せよう。
「着いたよ。それじゃ、いっといで。私達は上で応援してるからね」
「はい。いってきます!」
すぐにいつもの控え室に着いた。
セコンドはいつも通りアネモネだ。
アネモネのセコンドは板についている。
ミット打ちをして、軽く汗を流す。
タオルも欲しいタイミングでくれる。
ドリンクの用意も完璧だ。
「ライラックさん、入場時刻です。お願いします」
スタッフが呼びに来た。
さぁ、入場だ。
「行きましょう」
静かにアネモネが言う。
「うん」
無駄なく返事する。
緊張するなぁ。
うまくできるかな?
やるしかないな!
がんばるぞ!
「よし」
誰にも聞こえないように呟く。
入場した。
歓声は上がったが、中身までは聞いていない。
集中している。
リングにはすでにシャイナがいた。
中央で、紹介され、コーナーへ。
ゴングを待つ。
ガァァーン
いつものゴングが鳴る。
拳を合わせて挨拶をする。
無言だ。
一旦距離をとる。
いつも通りローキックから始める。
ジャブやワンツーを混ぜたコンビネーションで、タイミングをはかる。
シャイナも同じように、時が来るのを待っている。
しかし、その時は突然訪れた。
今だ。
シャイナは、急速に移動し、俺の目の前に現れた。
そこからショートフックの連打。
全て頭部にヒット。
すると、いきなりダウン。
何もできずにダウンしてしまった。
カウントはない。
追撃がボディにヒット。
これも連打。
ガードも反撃も許されない。
圧倒的に戦闘の技能差がある。
シャイナの戦闘技術が大幅に上回っている。
圧倒される。
ここまでは想定通りだ。
いや、ダウンの予定はない。
強がりだった。
戦闘技術に差があることは織り込んでいたが、ダウンするほどとは考えていなかった。
何かが想定と違う。
オーラだ。
俺はルール通りゴングと同時にオーラの蓄積を始めている。
シャイナのオーラは上級術師のものとは思えないほど力強く、硬いものであった。
まるで特級術師のように。
あぁ、なんでかわからんが、特級だと考えよう。
アネモネの相手をしてると思えばいいだな。
ギアを上げる。
オーラの、準備はできた。
そろそろ仕掛けるか。
タコ殴りになりながらも冷静に考える。
アネモネは異常に火と風と光のオーラの蓄積加速が、早かった。
俺とスパーリングをすれば、毎回アネモネのオーラのピークが先に訪れるので、かならず1度はタコ殴りにになる。
それを思い出した。
しかし、シャイナの加速はそれ以上だった。
どう考えても3万mpは超えている。上級とか特級とか関係ないじゃん。
これが、教授の考えている研究成果なんだったとしたら、世紀の大発見なんじゃないかな?
今ある上級1000mpの時代が終わるはずだ。
トレーニングで全員が特級になれる。
ひょっとして、巷に密かにある、魔力が低いものへの差別もなくなるかもしれない。
いや、逆かな?
だって、才能によってさらに差が開くわけだから。
あぁ、そりゃ、秘密にするわな。
俺たち特級が現れたから、秘密にする意味もなくなったってのもあるのかな?
まぁ、いいや。
今はシャイナとの闘いに、集中だ。
シャイナは、継続してラッシュをかけている。
俺は6属性のオーラが十分溜まったので、ダメージはない。
おそらく、この先、シャイナにオーラ総量で負けることはない。
やはり、光と闇が遅いので、タメに時間がかかる。
そこまで耐えられるかは賭けだった。
案の定、シャイナは速攻で攻撃を仕掛けてきた。
しかし、耐えた。
序盤受けたダメージも光オーラで回復中だ。
第一関門は突破。
次のステップへ移行する。
次は警戒させることだ。
しかし、下からだと十分、重力の効果を発揮できない。俺が上から攻撃する必要がある。
今の状況はよくない。
ダメージはなくても、お互い疲労は溜まる。
オーラの蓄積加速は思った以上に消耗が早い。
集中力を欠けば、マナ暴走もあり得る。
いくら、ゲートを閉じる練習をしていても、全開しているゲートを閉じるのは難しい。
そういうものだ。
タコ殴りにされているので、俺は疲労が少ないが、シャイナが暴走してしまえば、それは俺の負けでもある。
彼女の疲労も計算に入れて行動しなくては。
教授の狂信者である、シャイナは教授の期待に応えるために、必死で闘うはずだ。
無茶をしてくる。
それを抑えることも今回のミッションには含まれる。
そう考えるとかなり高難易度だな。
格上のシャイナの安全にも配慮しながら倒さないといけない。
まぁ、いいか。
今は火オーラも6万は溜まっているだろう。
怪我をさせないように、心臓のあたりを押す。
まるで、下から心臓マッサージをしているようだ。
ドンッと押すと。シャイナは吹き飛ぶ。
驚いた表情を見せるも、すぐに顔を引き締める。
距離をとり、攻め方を考えている様だ。
ローキック主体の牽制攻撃をお互いぶつけ合う。
しかし、オーラ総量の勝る俺が打ち勝つ。
光と闇オーラも狙っていた量まで達したのを感じる。
おそらく、光が10万までは行っている。
闇の10万はかなり危険だが、全て使うわけではない。
追加防御としての意味合いが強い。
しかも、光10万は最低ラインだ。
これからすることを考えれば足りないくらいだ。
実験でわかったが、骨折一回を治すのに1000mpは消費する。
そう、減るのだ。
コーンさんの時は興奮状態だったから、気づかなかったが、消費することが、練習でわかった。
これは、俺とアネモネのスパーリングを見学していたオリビアが気づいてくれた。
戦闘中の視点では、それに気づけなかった。
おそらく、これも光オーラ蓄積の危険点なのだろう。
治せるからと無茶をすれば、いつか終わりがくる。
並行して、光オーラも蓄積加速させ続ける。
ふと、牽制攻撃が、止まっていることに気づく。
「ここまで来れたのですね。ライ様、あなたはやはり素晴らしい。ご主人様の、研究の糧となって下さいませ」
ずっと無言だったシャイナが喋り出した。
ふと、セコンドの教授が目に入るが、どうやら残念だと言わんばかりのアクションをしないる。
「今は闘いに集中します」
俺は短く返す。
次は俺の攻撃の番だ。
大量に跳ね上がった風オーラで近づき、ボディブローをいれる。シャイナの巨体がくの字に曲がる。
ガードを貫いている。
彼女は光オーラを消費して、回復する。
直ちに骨折は回復し、元通りになる。
やはり、彼女の装甲は俺には通用しない。
攻撃も通用しない、闇オーラの秘密まで明かした今の状況で負けるはずがない。
ん?
ボディに入れた拳がシャイナから離れない。
どう言うことだ?
瞬間接着剤みたいにくっついた。
その瞬間、ドカァと大きな音を立てて、俺が殴られる。
ボディへの一撃だ。
体が浮き上がる。
胃の内容物が飛び出る。
とてつもない一撃だ。
まるで、俺のオーラなんて無視したような攻撃がきた。
いや、実際、無視している。
俺のオーラの状態からして、ありえない。
仕方がない、手順とは違うが、緊急的に闇オーラの重さ攻撃を慣行する。
高く飛び、シャイナの頭上から、拳を振りかぶり、重さを足す。
腕一本を100倍まで重力を増し、攻撃する。
急に加速し、シャイナの、頭上に落ちる瞬間、ふわりと体が軽くなった。
もちろん、100倍重力も軽減されている。
すると、シャイナに攻撃は見切られ、避けられる。俺の100倍に近い拳はマットに刺さり、拳が砕ける。
もちろん土オーラで防御しているが、それ以上のダメージが、内部から発生する。
つまり、骨の粉砕だ。
右拳が潰れるも、すぐに回復。
その後、すぐにシャイナの拳に俺の腹が引っ張られる。
すると、シャイナも近づいてくる。
間合いはすぐに埋まり、シャイナの攻撃が俺に炸裂する。
ボディに先ほどの拳がめり込み、再度吐きそうになるが、内容物はもうない。
嗚咽感のみが襲い、激しい虚脱が押し寄せる。
そこからは一方的であった。
またもやタコ殴り。
しかし、今回はダメージが入る。
オーラが消えている?
わからない。
まだ秘密があったということか。
上が取れないので自爆攻撃もできない。
ダメージを光オーラで相殺していくが、それを上回るペースでダメージを負う。
アネモネからタオルが投げられる。
俺は負けた。
完敗だ。
結局、闇オーラの秘密はまだあったと言うことだ。
俺の知らない攻撃が多すぎた。
マネをするほどのヒントもなかった。
いや、アドリブでマネをしないのは、約束したからしない。
でも、その余地すらなかった。
完敗だ。
でも、俺の怪我もこのままだとオーラで相殺するし、大怪我したし人は誰もいない。
負けだが、大敗ではない。
取り返しのつかない負けではない。
悪くはないか。
悪くない…前世ではありえなかった。
凡夫なのに、完璧主義、失敗を恐れ、失敗のたびに傷ついた。
その傷が限界を訪れ心の病に倒れた。
自らの命を削る病に。
今は悪くないと考えられるようになった。
負けから素直に学べる人間性を手に入れたのだ。
また、シャイナには成長させられた。
最後はダウンこそしなかったが、負けは負けだ。
シャイナの勝ち名乗りを聞いてから控え室に戻った。
「ごめんね。あれが限界だと思ったの。練習でしてない攻撃してたでしょ?シャイナの攻撃も謎が多かったし」
どこか、遠慮がちなアネモネを抱き寄せる。
「いいや、完璧なタイミングだったよ。自信を持って!ありがとう!救われたよ」
「そう、それならよかったわ」
「ちょっとシャイナの控え室に行ってみない?」
「そうね。いってみましょう」
コンコンコン
「はい、どうぞ」
「失礼します。ライラックです」
「ライ様、先程は大丈夫でしたか?申し訳ございません」
「いえ、試合ですので、覚悟の上です。今日のシャイナさんは本気だったと思っていいんですか?」
「その質問には私が答えよう」
なぜかシャワールームから現れた半裸の男、ツバル教授が話出した。
「今日のシャイナは本気だよ。今出せる本気であることは間違いない」
「なんか引っかかる言い方だな?アンタ、最近胡散臭い物言いばっかだぞ?」
文句を言ってやった。
「あらあら、それは申し訳なかったですね。でも、今日の攻撃でわからなかったことがあるから来たんでしょう?本当は、それすら見せるつもりはなかったんですけどね。世間に黙ってくれるなら教えましょう」
「ええ、わかりました」
「お願いしますね。何せ、広がりすぎると私たちの計画に支障をきたしますので。まずは、計画について、説明します。私は私の理論でワールドランク1位になることです。その為にシャイナには実力を隠しながらワールドランク13位を、キープさせました。いつでも1位を、狙えるようにね」
「なるほど。それで、前みたいなふざけた試合や、今回みたいにいきなり強くなったりする訳なんですね」
アネモネが納得する。
「しかし、計画は狂いました。あなた達の存在です。シャイナはオーラの蓄積加速がとても早くて、特級術師に並ぶオーラ量まですぐに到達する特異体質でした。それは、闘ったライ君がよくわかってますよね?」
「そうですね。早すぎてついていけませんでした。途中で頭打ちにならなかったら、ずっと押されていました」
「そう、そこが間違いです。蓄積には、上限がありません。時間が経過すればするほど同じペースで増え続けます。加速蓄積自体が私の研究の主軸なんです。実際は、3万で止めたのではなく、3万から、ライ君のオーラを消しに行ったんですよ」
「!?」
「そんなことできるんですか?」
アネモネは落ち着いていた。
セコンドから見たらその方が自然だったのだろうか?
「できます。光は闇、水、土を闇は光、火、風を打ち消せます。しかし、生み出す量と打ち消す量は等価交換なので、大量の光オーラが必要です。しかし、シャイナは蓄積加速の特別体質。ライ君の作り出すオーラを消しても黒字がでます。なので、最終的にはライ君はシャイナに負けた」
「それは俺たちにもできますか?」
「できますよ。先ほどの計画の狂いとは、あなた達の成長の可能性の話です。うまくいけば、シャイナ以上の加速ができるでしょう、それほど神殺しは強力です」
「それはアタシたちに教えてもらえると思ってもいいんですか?」
「ええ。そのつもりです。トレーニング前に大怪我されたら困りますから、シャイナには勝たせました。実際、全てを知る者はランキング1位だけです。彼と当たらなければいいと思っていましたが、コーンさんの時には肝が冷やされました」
「あぁ、かなり無茶な闘いでしたもんね。それに、コーンさんは亡くなったし」
「そうです。あんな無茶をされるなら黙っていたこと全てを教えようと決めました」
「そうでしたか。ご心配をおかけしました」
「いえ、私はやはり、アネモネさんに負い目を感じていますので、勝手に親心のようなものが働いたのかもしれません。さて、試合後ですし、後日、親御さんの了承を得て、大学へお越しください。あの部屋でお待ちしております」
「わかりました。両親は会場にいるので、この後返事は持ってきます。その時に日時を決めましょう」
「わかりました。それでは、もう少しここでまってます」
両親を呼びに行き、ツバルと話をつけた。
あと半年くらいは寮生活だ。
何かのフラグっぽいことはやめてほしい。
あと、朝から靴の紐が切れた。
こっちの惑星には「下駄の鼻緒が切れたら縁起が悪い」なんて文化は無いが、俺は気にする。
やめてほしい。
すると、黒猫が横切ったり、カレンダーを見たら、今日は13日の金曜日だったりと、定番フラグを立てまくる。
やめてほしい。
もう一度言う、やめてほしい。
まるで、今日の試合で負けるような…いや、今回の場合、負けるだけなら運がいい方だ。
最悪は、本当の最悪がある。
それはもちろん、どちらかの命に関わる重大事態だ。
可能性として考えられるだけに恐ろしい。
もちろん自重するが、練習と実戦では全く違う。
しかし、型は用意した。
型にハマれば、なんとかなる算段だ。
逆に手がなくなった時点で降参する約束を2人とした。
危険なことはしないと。
さて、対戦相手がシャイナなので、今回も大学が会場である。
パパンの運転でママンとアネモネが同乗している。
いつものドライブメンバーだ。
かれこれもう11年もメンバーは変わらない。
兄は完全に研究者ルートを選択して、知識と技術を磨いている。
時期当主として頑張ってくれているから、応援している。
もちろん、俺はその傘に入りながらも、独立して稼ぐ腹積りはある。
なので、家計にはプラスになるだろう。
兄の頑張りはみんなのためになる。
上級家庭になれば、両親の年金も増える。
是非とも頑張ってもらおう。
そうして、盤石の土台の上で俺は世界一を目指すことができる。
そう、俺は世界一を目指す。
そのために今日は勝つ。
世界一への一歩なんだ。
一歩ずつ進んでいくことは、赤ちゃんのときから決めている。
やるんだ。
進むんだ。
車の中は無言だった。
沈黙を潰したのは俺だった。
「今日、勝つよ」
「もう、アンタはまだ子どもなんだから、そんなに勝敗にこだわる必要はないんだよ?もちろん、この日のために練習を積み重ねたことも知ってるし、勉強だってがんばってたのも知ってる。アンタはもうすでに、自分には勝ってるんだ」
「ママン、ありがとう。でも、勝ちたいんだ。だから、先に希望を伝えたかっただけなんだ。一生懸命やってくるよ」
「そうだね。練習通り一生懸命やればそれでいいんだよ」
ママンはいつも頼りになる。
「ライならできるだろうね」
パパンはいつも優しい言葉をくれる。
「アネモネ、今日までありがとう」
「何よ。改まらないでよ。これからも一緒にやってくんだから」
あぁ、今のは自爆フラグだな。
ヤバい。
フラグ連鎖が止まらない。
全てへし折る気概は見せよう。
「着いたよ。それじゃ、いっといで。私達は上で応援してるからね」
「はい。いってきます!」
すぐにいつもの控え室に着いた。
セコンドはいつも通りアネモネだ。
アネモネのセコンドは板についている。
ミット打ちをして、軽く汗を流す。
タオルも欲しいタイミングでくれる。
ドリンクの用意も完璧だ。
「ライラックさん、入場時刻です。お願いします」
スタッフが呼びに来た。
さぁ、入場だ。
「行きましょう」
静かにアネモネが言う。
「うん」
無駄なく返事する。
緊張するなぁ。
うまくできるかな?
やるしかないな!
がんばるぞ!
「よし」
誰にも聞こえないように呟く。
入場した。
歓声は上がったが、中身までは聞いていない。
集中している。
リングにはすでにシャイナがいた。
中央で、紹介され、コーナーへ。
ゴングを待つ。
ガァァーン
いつものゴングが鳴る。
拳を合わせて挨拶をする。
無言だ。
一旦距離をとる。
いつも通りローキックから始める。
ジャブやワンツーを混ぜたコンビネーションで、タイミングをはかる。
シャイナも同じように、時が来るのを待っている。
しかし、その時は突然訪れた。
今だ。
シャイナは、急速に移動し、俺の目の前に現れた。
そこからショートフックの連打。
全て頭部にヒット。
すると、いきなりダウン。
何もできずにダウンしてしまった。
カウントはない。
追撃がボディにヒット。
これも連打。
ガードも反撃も許されない。
圧倒的に戦闘の技能差がある。
シャイナの戦闘技術が大幅に上回っている。
圧倒される。
ここまでは想定通りだ。
いや、ダウンの予定はない。
強がりだった。
戦闘技術に差があることは織り込んでいたが、ダウンするほどとは考えていなかった。
何かが想定と違う。
オーラだ。
俺はルール通りゴングと同時にオーラの蓄積を始めている。
シャイナのオーラは上級術師のものとは思えないほど力強く、硬いものであった。
まるで特級術師のように。
あぁ、なんでかわからんが、特級だと考えよう。
アネモネの相手をしてると思えばいいだな。
ギアを上げる。
オーラの、準備はできた。
そろそろ仕掛けるか。
タコ殴りになりながらも冷静に考える。
アネモネは異常に火と風と光のオーラの蓄積加速が、早かった。
俺とスパーリングをすれば、毎回アネモネのオーラのピークが先に訪れるので、かならず1度はタコ殴りにになる。
それを思い出した。
しかし、シャイナの加速はそれ以上だった。
どう考えても3万mpは超えている。上級とか特級とか関係ないじゃん。
これが、教授の考えている研究成果なんだったとしたら、世紀の大発見なんじゃないかな?
今ある上級1000mpの時代が終わるはずだ。
トレーニングで全員が特級になれる。
ひょっとして、巷に密かにある、魔力が低いものへの差別もなくなるかもしれない。
いや、逆かな?
だって、才能によってさらに差が開くわけだから。
あぁ、そりゃ、秘密にするわな。
俺たち特級が現れたから、秘密にする意味もなくなったってのもあるのかな?
まぁ、いいや。
今はシャイナとの闘いに、集中だ。
シャイナは、継続してラッシュをかけている。
俺は6属性のオーラが十分溜まったので、ダメージはない。
おそらく、この先、シャイナにオーラ総量で負けることはない。
やはり、光と闇が遅いので、タメに時間がかかる。
そこまで耐えられるかは賭けだった。
案の定、シャイナは速攻で攻撃を仕掛けてきた。
しかし、耐えた。
序盤受けたダメージも光オーラで回復中だ。
第一関門は突破。
次のステップへ移行する。
次は警戒させることだ。
しかし、下からだと十分、重力の効果を発揮できない。俺が上から攻撃する必要がある。
今の状況はよくない。
ダメージはなくても、お互い疲労は溜まる。
オーラの蓄積加速は思った以上に消耗が早い。
集中力を欠けば、マナ暴走もあり得る。
いくら、ゲートを閉じる練習をしていても、全開しているゲートを閉じるのは難しい。
そういうものだ。
タコ殴りにされているので、俺は疲労が少ないが、シャイナが暴走してしまえば、それは俺の負けでもある。
彼女の疲労も計算に入れて行動しなくては。
教授の狂信者である、シャイナは教授の期待に応えるために、必死で闘うはずだ。
無茶をしてくる。
それを抑えることも今回のミッションには含まれる。
そう考えるとかなり高難易度だな。
格上のシャイナの安全にも配慮しながら倒さないといけない。
まぁ、いいか。
今は火オーラも6万は溜まっているだろう。
怪我をさせないように、心臓のあたりを押す。
まるで、下から心臓マッサージをしているようだ。
ドンッと押すと。シャイナは吹き飛ぶ。
驚いた表情を見せるも、すぐに顔を引き締める。
距離をとり、攻め方を考えている様だ。
ローキック主体の牽制攻撃をお互いぶつけ合う。
しかし、オーラ総量の勝る俺が打ち勝つ。
光と闇オーラも狙っていた量まで達したのを感じる。
おそらく、光が10万までは行っている。
闇の10万はかなり危険だが、全て使うわけではない。
追加防御としての意味合いが強い。
しかも、光10万は最低ラインだ。
これからすることを考えれば足りないくらいだ。
実験でわかったが、骨折一回を治すのに1000mpは消費する。
そう、減るのだ。
コーンさんの時は興奮状態だったから、気づかなかったが、消費することが、練習でわかった。
これは、俺とアネモネのスパーリングを見学していたオリビアが気づいてくれた。
戦闘中の視点では、それに気づけなかった。
おそらく、これも光オーラ蓄積の危険点なのだろう。
治せるからと無茶をすれば、いつか終わりがくる。
並行して、光オーラも蓄積加速させ続ける。
ふと、牽制攻撃が、止まっていることに気づく。
「ここまで来れたのですね。ライ様、あなたはやはり素晴らしい。ご主人様の、研究の糧となって下さいませ」
ずっと無言だったシャイナが喋り出した。
ふと、セコンドの教授が目に入るが、どうやら残念だと言わんばかりのアクションをしないる。
「今は闘いに集中します」
俺は短く返す。
次は俺の攻撃の番だ。
大量に跳ね上がった風オーラで近づき、ボディブローをいれる。シャイナの巨体がくの字に曲がる。
ガードを貫いている。
彼女は光オーラを消費して、回復する。
直ちに骨折は回復し、元通りになる。
やはり、彼女の装甲は俺には通用しない。
攻撃も通用しない、闇オーラの秘密まで明かした今の状況で負けるはずがない。
ん?
ボディに入れた拳がシャイナから離れない。
どう言うことだ?
瞬間接着剤みたいにくっついた。
その瞬間、ドカァと大きな音を立てて、俺が殴られる。
ボディへの一撃だ。
体が浮き上がる。
胃の内容物が飛び出る。
とてつもない一撃だ。
まるで、俺のオーラなんて無視したような攻撃がきた。
いや、実際、無視している。
俺のオーラの状態からして、ありえない。
仕方がない、手順とは違うが、緊急的に闇オーラの重さ攻撃を慣行する。
高く飛び、シャイナの頭上から、拳を振りかぶり、重さを足す。
腕一本を100倍まで重力を増し、攻撃する。
急に加速し、シャイナの、頭上に落ちる瞬間、ふわりと体が軽くなった。
もちろん、100倍重力も軽減されている。
すると、シャイナに攻撃は見切られ、避けられる。俺の100倍に近い拳はマットに刺さり、拳が砕ける。
もちろん土オーラで防御しているが、それ以上のダメージが、内部から発生する。
つまり、骨の粉砕だ。
右拳が潰れるも、すぐに回復。
その後、すぐにシャイナの拳に俺の腹が引っ張られる。
すると、シャイナも近づいてくる。
間合いはすぐに埋まり、シャイナの攻撃が俺に炸裂する。
ボディに先ほどの拳がめり込み、再度吐きそうになるが、内容物はもうない。
嗚咽感のみが襲い、激しい虚脱が押し寄せる。
そこからは一方的であった。
またもやタコ殴り。
しかし、今回はダメージが入る。
オーラが消えている?
わからない。
まだ秘密があったということか。
上が取れないので自爆攻撃もできない。
ダメージを光オーラで相殺していくが、それを上回るペースでダメージを負う。
アネモネからタオルが投げられる。
俺は負けた。
完敗だ。
結局、闇オーラの秘密はまだあったと言うことだ。
俺の知らない攻撃が多すぎた。
マネをするほどのヒントもなかった。
いや、アドリブでマネをしないのは、約束したからしない。
でも、その余地すらなかった。
完敗だ。
でも、俺の怪我もこのままだとオーラで相殺するし、大怪我したし人は誰もいない。
負けだが、大敗ではない。
取り返しのつかない負けではない。
悪くはないか。
悪くない…前世ではありえなかった。
凡夫なのに、完璧主義、失敗を恐れ、失敗のたびに傷ついた。
その傷が限界を訪れ心の病に倒れた。
自らの命を削る病に。
今は悪くないと考えられるようになった。
負けから素直に学べる人間性を手に入れたのだ。
また、シャイナには成長させられた。
最後はダウンこそしなかったが、負けは負けだ。
シャイナの勝ち名乗りを聞いてから控え室に戻った。
「ごめんね。あれが限界だと思ったの。練習でしてない攻撃してたでしょ?シャイナの攻撃も謎が多かったし」
どこか、遠慮がちなアネモネを抱き寄せる。
「いいや、完璧なタイミングだったよ。自信を持って!ありがとう!救われたよ」
「そう、それならよかったわ」
「ちょっとシャイナの控え室に行ってみない?」
「そうね。いってみましょう」
コンコンコン
「はい、どうぞ」
「失礼します。ライラックです」
「ライ様、先程は大丈夫でしたか?申し訳ございません」
「いえ、試合ですので、覚悟の上です。今日のシャイナさんは本気だったと思っていいんですか?」
「その質問には私が答えよう」
なぜかシャワールームから現れた半裸の男、ツバル教授が話出した。
「今日のシャイナは本気だよ。今出せる本気であることは間違いない」
「なんか引っかかる言い方だな?アンタ、最近胡散臭い物言いばっかだぞ?」
文句を言ってやった。
「あらあら、それは申し訳なかったですね。でも、今日の攻撃でわからなかったことがあるから来たんでしょう?本当は、それすら見せるつもりはなかったんですけどね。世間に黙ってくれるなら教えましょう」
「ええ、わかりました」
「お願いしますね。何せ、広がりすぎると私たちの計画に支障をきたしますので。まずは、計画について、説明します。私は私の理論でワールドランク1位になることです。その為にシャイナには実力を隠しながらワールドランク13位を、キープさせました。いつでも1位を、狙えるようにね」
「なるほど。それで、前みたいなふざけた試合や、今回みたいにいきなり強くなったりする訳なんですね」
アネモネが納得する。
「しかし、計画は狂いました。あなた達の存在です。シャイナはオーラの蓄積加速がとても早くて、特級術師に並ぶオーラ量まですぐに到達する特異体質でした。それは、闘ったライ君がよくわかってますよね?」
「そうですね。早すぎてついていけませんでした。途中で頭打ちにならなかったら、ずっと押されていました」
「そう、そこが間違いです。蓄積には、上限がありません。時間が経過すればするほど同じペースで増え続けます。加速蓄積自体が私の研究の主軸なんです。実際は、3万で止めたのではなく、3万から、ライ君のオーラを消しに行ったんですよ」
「!?」
「そんなことできるんですか?」
アネモネは落ち着いていた。
セコンドから見たらその方が自然だったのだろうか?
「できます。光は闇、水、土を闇は光、火、風を打ち消せます。しかし、生み出す量と打ち消す量は等価交換なので、大量の光オーラが必要です。しかし、シャイナは蓄積加速の特別体質。ライ君の作り出すオーラを消しても黒字がでます。なので、最終的にはライ君はシャイナに負けた」
「それは俺たちにもできますか?」
「できますよ。先ほどの計画の狂いとは、あなた達の成長の可能性の話です。うまくいけば、シャイナ以上の加速ができるでしょう、それほど神殺しは強力です」
「それはアタシたちに教えてもらえると思ってもいいんですか?」
「ええ。そのつもりです。トレーニング前に大怪我されたら困りますから、シャイナには勝たせました。実際、全てを知る者はランキング1位だけです。彼と当たらなければいいと思っていましたが、コーンさんの時には肝が冷やされました」
「あぁ、かなり無茶な闘いでしたもんね。それに、コーンさんは亡くなったし」
「そうです。あんな無茶をされるなら黙っていたこと全てを教えようと決めました」
「そうでしたか。ご心配をおかけしました」
「いえ、私はやはり、アネモネさんに負い目を感じていますので、勝手に親心のようなものが働いたのかもしれません。さて、試合後ですし、後日、親御さんの了承を得て、大学へお越しください。あの部屋でお待ちしております」
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両親を呼びに行き、ツバルと話をつけた。
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