俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

文字の大きさ
4 / 39
第一部 一章

シガレットに灯火を

しおりを挟む
「そんな顔で俺を見るなよ!」

 気がつけば大声で叫んでいた。らしくないことをした。
 気がつけば今までとは逆方向、彼女の元へ走っていた。

 今から契約して魔法が使えるようにはなれない。ヒーローが駆けつけてもくれないし、この世はゲームでもないからセーブポイントに戻れないしリセマラも出来ない。

 だからと言って逃げてしまっては何にもならない。

 彼女という脅威はこの手で排除するほかないのだ。
 この状況を、この現実を変えられるのは俺しかいない。
 振り向けばあまりに大きな銃痕。間違いなく彼女の所業だ。

 圧倒的な戦力差。レベル1とレベル100。どうのつるぎで竜王戦。歩だけで臨む電王戦。端から見ればそれくらいの差があるだろう。
 けれどこの時の俺は彼女の一言のおかげで、アドレナリン全開、自分自身に期待して「やってやるか」って気持ちになったんだ。

 そんな俺の様子を見て目前の少女の双眸も色が変わり「かかってこいド素人!」と罵ってくる。それは自分より格下の俺に対する罵倒、だけれどその澄んだ怒鳴り声はどこか彼女自身を鼓舞しているように聞こえた。

 ……てか俺の好戦的な態度でさらにやる気出すとかどんな戦闘狂だよ。

 彼女が改めて両手に力を込め握り直すと、二丁の銃が光りだす。
 キュルキュル、なんてメカニックな音を鳴らして。

 ちくしょう、やっぱこえーわ。
 もしかしたらちょっと漏らしたかも、ちょっとね。

 物語の主人公っていうのはいつもこんな思いをして敵と対峙していたのか。知らなかった、真正面から挑むのがこんなに勇気のいるものだったなんて。

 そうだ、主人公だ。俺はこんな状況を待ち望んでいたんじゃないのか。目の前に銀髪の美少女。空を飛び摩訶不思議な武器を扱う美少女。

 こんな、こんな世界に行きたいと思っていたんじゃないのか。それが、その憧れた出来事がいま起きているのだ。ならば、思い切り満喫しようじゃないか。

 この世界で俺にしか出来ないことがあるんだ。
 彼女は先ほどから存分に能力を発動している。
 ならば俺だって、あの力がきっと使えるはず。

 そうだ、彼女だけが特別だなんてあまりにもゲームバランスが破綻している。俺にだって特別があるんだ。空は飛べないけど、銃は打てないけど、ピアノも弾けないけど。

 俺にしかない力がある。
 俺だけが持っている力がある。
 その力を真っ直ぐ信じよう。他の誰がなんと言おうと。

 勝てるかもしれない、なんて思いながら、自分の力を過信しながら、俺は走った。

 二人だけの校舎を駆ける。
 一人は絶世の美少女。両手には歪な銃。
 もう一人はどこにでもいる男子高校生。

 その、少年の腕が燃えだした。

 炎上。
 その光景は、今までテレビの中でしか見たことがなかったけれど、いま俺の右腕はまさしく炎上っていう言葉が一番合っていると思う。右の肩から中指の先まで、燃え盛る炎に包まれている。
 包まれながら、俺は走る。変わらず走る。普通なら火傷どころでは済まされない熱量。それを腕に帯びて、流すのは汗のみ。上げるのは雄叫び。

「来い! ゴミトウ!」

 依然、笑みのまま罵声を浴びせる彼女に対し「人の名字に『ゴ』を付けるな」「全国のミトウさんに謝れ」と二つもツッコミが思い浮かぶくらいには、腕が燃えていても余裕だ。
 面白いかどうかは別として。

 この炎にはまず温度がない。いくら触っても何も感じない。熱くもなければ冷たくもない。子供が触ろうが老人が触ろうが、きっとノーリアクション。

 そして色も違う。
 炎の色は何色だろう。言葉にすれば赤、赤の中に青もあって。人によってはクレヨンで描くときにオレンジを使う人もいるだろう。曖昧な炎の色を呼ぶために、誰かが格好つけて「紅蓮」という単語を作ったのかもしれない。

 色の名称に疎い俺の脳みそでは表現に困る。何か詩的に例えられたらいいのだけれど。それすら叶わない。
 けれど、ただいま絶賛炎上中、この右腕を包む炎の色は誰の目から見ても一色。口を揃えて、はいせーのっで、おんなじ色名を叫ぶはずだ。

 その名は銀。彼女の髪と同じ、銀色。
 しろがねの炎が右手で燃える。

 熱くもなければ色も違う。
 もうこれは炎ではないのかもしれないけど、そう言わせてほしい。
 なんでかって? 
 誰かさんの言葉を借りるなら。
 だってカッコいいから、だ。

 炎を宿す者。なんて、最高にカッコいいじゃないか。理由なんてそれだけで十分だ。

 だから俺にも宿させて欲しい、炎を。
 色も違い温度もないこの炎の、最後のカラクリ。

 俺が目覚めたのは、ただ右手が燃えるだけの力じゃない。ちなみに言うと別に右手だけじゃなく、体のどこからでもこの銀色の炎は出せるのだ。

 ただ、今は目的を持って右腕だけ炎上させている。言うならばその意図は、盾と剣の役割を担わせるため、それを遂行する力をこの炎は持っている。今のままじゃただ鬱陶しいだけのよく分からない物質だが、もちろん、それだけでは終わらない。

 ここからが、この炎の真価。そして俺の力。

 全身に力を込める。燃える右肩に、そっと左手を添えて。目を閉じイメージする。

 俺の夢を、憧れを。そして見開き、決意を固めて。

 キュルキュル鳴っていた音が大きくなり、真黒だった穴が光って。
 一発、薄紫の弾丸がこちら目掛けて飛んでくる。見切れた。今回はその弾道を目で追える。

 左肩、いや胸のあたり。鎖骨の少し下。迫る弾丸。あと少しで被弾する。このままでは再びあの激痛に襲われる。壊された「がっこうだより」が脳裏に浮かぶ。

 そんな不安を、恐怖を断ち切るように俺は銃弾に右手を伸ばした。

そして––––



––––破砕する。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...