俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

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第一部 一章

シガレットに灯火を

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「そんな顔で俺を見るなよ!」

 気がつけば大声で叫んでいた。らしくないことをした。
 気がつけば今までとは逆方向、彼女の元へ走っていた。

 今から契約して魔法が使えるようにはなれない。ヒーローが駆けつけてもくれないし、この世はゲームでもないからセーブポイントに戻れないしリセマラも出来ない。

 だからと言って逃げてしまっては何にもならない。

 彼女という脅威はこの手で排除するほかないのだ。
 この状況を、この現実を変えられるのは俺しかいない。
 振り向けばあまりに大きな銃痕。間違いなく彼女の所業だ。

 圧倒的な戦力差。レベル1とレベル100。どうのつるぎで竜王戦。歩だけで臨む電王戦。端から見ればそれくらいの差があるだろう。
 けれどこの時の俺は彼女の一言のおかげで、アドレナリン全開、自分自身に期待して「やってやるか」って気持ちになったんだ。

 そんな俺の様子を見て目前の少女の双眸も色が変わり「かかってこいド素人!」と罵ってくる。それは自分より格下の俺に対する罵倒、だけれどその澄んだ怒鳴り声はどこか彼女自身を鼓舞しているように聞こえた。

 ……てか俺の好戦的な態度でさらにやる気出すとかどんな戦闘狂だよ。

 彼女が改めて両手に力を込め握り直すと、二丁の銃が光りだす。
 キュルキュル、なんてメカニックな音を鳴らして。

 ちくしょう、やっぱこえーわ。
 もしかしたらちょっと漏らしたかも、ちょっとね。

 物語の主人公っていうのはいつもこんな思いをして敵と対峙していたのか。知らなかった、真正面から挑むのがこんなに勇気のいるものだったなんて。

 そうだ、主人公だ。俺はこんな状況を待ち望んでいたんじゃないのか。目の前に銀髪の美少女。空を飛び摩訶不思議な武器を扱う美少女。

 こんな、こんな世界に行きたいと思っていたんじゃないのか。それが、その憧れた出来事がいま起きているのだ。ならば、思い切り満喫しようじゃないか。

 この世界で俺にしか出来ないことがあるんだ。
 彼女は先ほどから存分に能力を発動している。
 ならば俺だって、あの力がきっと使えるはず。

 そうだ、彼女だけが特別だなんてあまりにもゲームバランスが破綻している。俺にだって特別があるんだ。空は飛べないけど、銃は打てないけど、ピアノも弾けないけど。

 俺にしかない力がある。
 俺だけが持っている力がある。
 その力を真っ直ぐ信じよう。他の誰がなんと言おうと。

 勝てるかもしれない、なんて思いながら、自分の力を過信しながら、俺は走った。

 二人だけの校舎を駆ける。
 一人は絶世の美少女。両手には歪な銃。
 もう一人はどこにでもいる男子高校生。

 その、少年の腕が燃えだした。

 炎上。
 その光景は、今までテレビの中でしか見たことがなかったけれど、いま俺の右腕はまさしく炎上っていう言葉が一番合っていると思う。右の肩から中指の先まで、燃え盛る炎に包まれている。
 包まれながら、俺は走る。変わらず走る。普通なら火傷どころでは済まされない熱量。それを腕に帯びて、流すのは汗のみ。上げるのは雄叫び。

「来い! ゴミトウ!」

 依然、笑みのまま罵声を浴びせる彼女に対し「人の名字に『ゴ』を付けるな」「全国のミトウさんに謝れ」と二つもツッコミが思い浮かぶくらいには、腕が燃えていても余裕だ。
 面白いかどうかは別として。

 この炎にはまず温度がない。いくら触っても何も感じない。熱くもなければ冷たくもない。子供が触ろうが老人が触ろうが、きっとノーリアクション。

 そして色も違う。
 炎の色は何色だろう。言葉にすれば赤、赤の中に青もあって。人によってはクレヨンで描くときにオレンジを使う人もいるだろう。曖昧な炎の色を呼ぶために、誰かが格好つけて「紅蓮」という単語を作ったのかもしれない。

 色の名称に疎い俺の脳みそでは表現に困る。何か詩的に例えられたらいいのだけれど。それすら叶わない。
 けれど、ただいま絶賛炎上中、この右腕を包む炎の色は誰の目から見ても一色。口を揃えて、はいせーのっで、おんなじ色名を叫ぶはずだ。

 その名は銀。彼女の髪と同じ、銀色。
 しろがねの炎が右手で燃える。

 熱くもなければ色も違う。
 もうこれは炎ではないのかもしれないけど、そう言わせてほしい。
 なんでかって? 
 誰かさんの言葉を借りるなら。
 だってカッコいいから、だ。

 炎を宿す者。なんて、最高にカッコいいじゃないか。理由なんてそれだけで十分だ。

 だから俺にも宿させて欲しい、炎を。
 色も違い温度もないこの炎の、最後のカラクリ。

 俺が目覚めたのは、ただ右手が燃えるだけの力じゃない。ちなみに言うと別に右手だけじゃなく、体のどこからでもこの銀色の炎は出せるのだ。

 ただ、今は目的を持って右腕だけ炎上させている。言うならばその意図は、盾と剣の役割を担わせるため、それを遂行する力をこの炎は持っている。今のままじゃただ鬱陶しいだけのよく分からない物質だが、もちろん、それだけでは終わらない。

 ここからが、この炎の真価。そして俺の力。

 全身に力を込める。燃える右肩に、そっと左手を添えて。目を閉じイメージする。

 俺の夢を、憧れを。そして見開き、決意を固めて。

 キュルキュル鳴っていた音が大きくなり、真黒だった穴が光って。
 一発、薄紫の弾丸がこちら目掛けて飛んでくる。見切れた。今回はその弾道を目で追える。

 左肩、いや胸のあたり。鎖骨の少し下。迫る弾丸。あと少しで被弾する。このままでは再びあの激痛に襲われる。壊された「がっこうだより」が脳裏に浮かぶ。

 そんな不安を、恐怖を断ち切るように俺は銃弾に右手を伸ばした。

そして––––



––––破砕する。
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