俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

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第一部 一章

憧れの延長線

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そして、破砕する。

 重い衝撃音がして、消えた薄紫。残るしろがね。手のひらから漂う煙。

 これが、俺の力。
 この炎は鋼の炎。

 燃え盛る火炎をまるで時間を止めたかのように、猛る姿をそのままに固める、硬化する能力。その硬度は鋼。炎をそのまま鋼に変える。
 硬化した後のアンバランスで法則性もクソもない形を見た時、「ああ、寝グセみたいだ」そう思った。

 体を炎上させ、その炎ごと硬化する能力。
 それが俺の、この場での特別。

 いくらコルク性の掲示板は粉砕できようと、鋼には太刀打ちできまい。
 この右腕を穿つほどの威力なら、初手で腹に食らった時点でもうお陀仏だ。

 好感触。やれる、これで戦える。その思いが先ほどにも増して膨らんでいく。

 心の中のリトルホンダならぬリトルミトウはきゃっきゃわいわい飛び跳ねていた。
 それはもう無邪気に、顔中にシワをいっぱい作って。まるで新しいおもちゃを買い与えられ、目を輝かせる子供みたいに。

 ここでは自分は普通じゃないんだ。有象無象の男子高校生Aじゃないんだ。そう感じて嬉しかった。涙が出そうだった。だって、ずっとこんな自分を探していたから、求めていたから。希い焦がれていたんだ、こんな特別を、こんな自分を。

 朝起きる度に思っていた、「ああ、また今日も昨日だ」って。選ばれたかった。天使でも悪魔でもグラサンかけた無口な親父でもいいから、俺の名前を呼んでここじゃない、どこか別世界に連れてって欲しかった。けれど、毎朝瞼を開けて目にするのは見知った天井だった。それがなにより悲しかった。

 小さい時から憧れていつか自分もこうなれるって本気で信じて疑わなかった。
 俺は心からヒーローになりたかった。正義の旗を掲げて、悪と戦うヒーローに。
 それくらいのことは男の子なら一度は抱く夢だろう。

 大体の少年はその欲求を現実化して、昇華して卒業アルバムの将来の夢に消防士とか警察官とか書くのだろうけれど。
 けれど。俺は純粋に信じ続けてしまった、公務員じゃない本物のヒーローに。
 だが、いつの日か気づいてしまった、知ってしまった、悟ってしまったんだ。

 自分に出来ることと出来ないことの境目を。それからの人生は楽ではあったけど楽しくはなかった。自分の中から「何か」が欠けてしまった。その「何か」は一つかもしれないしたくさんかもしれない、失ったことを自覚した時その「何か」が一体何なのか憶えてはいなかった。ただ心の中に喪失感だけを残して「何か」は俺に別れを告げたんだ。

 憧れるっていうのは常に肯定的な言葉じゃない。自分の足の、据える未来の延長線上に憧れた場合は、そりゃあやる気とか情熱とか勇気とかが湧き出るだろう。頑張ろう、目指してみようと必死になって追えるはずだ。
 けれど、自分に出来ない、自分が持っていないことに憧れが向いてしまった場合、人はそれを切望してしまい、届かないことに絶望してしまう。少なくとも俺はそうだった。

 自分自身を欺いて、嘯いてこれまで生きてきた。それが正しいことだって学校かどこかで習ったから。それが大人になることだと流行りの歌の歌詞にあったから。

 だが、それも昨日までで終わりだ。
 今日からの俺はきっと、変われる。

 右腕に視線を落とす、鋼鉄の右手だ。それがたまらなく愛しかった。自分という人間が一人しかいないという事の証明になってくれているような気がした。

 鋼の力を手にした少年は、更に足裏に力を込めて走りだす。

 彼女との距離、目測20メートル。
 キュルキュル音が鳴り始め銃弾がまた一発、射出される。彼女の左腕がその反動で少し動く。飛んでくる一撃。これも、見切れた。頭部に照準を合わせたのであろう一発。上半身ごと屈んで、かわす。右足を前に、右足の先に左足を置いて、走る。少し時間を置き、ドンと後ろで鈍い着弾音。

 やめて! もう掲示板の、「がっこうだより」のライフはゼロよ! それなのに……死体蹴りにも限度があるだろ!
 まぁ避けたのは俺なんだけどさ。

 彼女との距離、目測10メートル。
 光る銃口、束の間の二撃。
 大きくなるキュルキュル。
また彼女の左腕が反動で動く。今度は体の正面、みぞおち辺りを狙ったのだろう。これは見切れなかった。

 目では追えなかったが、とっさの反射神経で右手が迫る銃弾に伸びて––––ビンゴ。当たってくれた。近距離での着弾に視界は一瞬煙で包まれる。少し体を仰け反らせてから、また走り出す。

 彼女との距離、目測5メートル。
 あと少し。あと少しで手が届く。
 そうしている間にも縮まる二人の距離。もうすぐそこに彼女はいる。
 どうするか。

 思い切りの殴打、は少々忍びない。
 いくら敵とはいえ人の心を失った訳ではない。そしてどんなに武装していてもあちらは女子高生。それを鋼鉄製の右手で殴るのは、いろいろヤバイ。ので、全力でタックルをかまそう。

 女子高生に向かって「タックルをかまそう」というのもなかなかアレだが、しょうがない。最善策のつもりだ。体勢を崩して、それから。
 マウントポジションを取ってタコ殴り! じゃなくて。
 とりあえずあの武器をなんとかしなくては。

 と、考えていた。刹那の間で。だから少しだけ気づくのが遅れた。

「え」

 思わず声に出る。彼女の余裕そうな表情に。ニヤリ、微笑みに。
 だって予想していたのと違ったから。追い詰められているのだから。追い詰めたつもりだったから。
 困惑の顔色が全面に出ていなくても、もっとこう違った表情を想像していたから。

 ましてや笑っているなんて。
 思っていたのと違う、から。

 そして、悟った。
 微笑みの意味に。

 ああどうして見落としていたんだ。
 もっと早くに分かっていたはずだ。


 彼女は先ほどから、左の銃しか使っていなかったことに。
 
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