俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

文字の大きさ
27 / 39
第一部 三章

咲き誇れ、美しき君よ

しおりを挟む
「いま、私に触った?」

 先ほどと同じ言葉を放つ。
     響きは先ほどより冷たく。

 開いていた窓から吹き込んだ風が、ふわりと彼女の長い黒髪を持ち上げ、ようやくその素顔を目にすることができる。

 整った顔立ち。切れ長の瞳。凍てつくような眼差し。だが笑った顔は柔らかいのではないかと思った。形のいい鼻、桜色の唇。

 体型といい外国人の血が混ざっているのだろうか。簡潔に一言でまとめると美しい容姿をしていた。

 綺麗とも可愛いとも違う、何か彼女だけの言葉があるのだろうけど、それを見つける術はない。放つオーラは、彼女の名前とはかけ離れた、冷たく、思考をフリーズさせて何も考えることなく、ただ見つめてしまうようなものだった。

 だが、先ほど感じたように笑顔は、太陽のように輝いてはいなくても、きっと便座くらいには暖かいものなのではないかと思った。雪原に咲く桜とか、砂漠に咲くバラとかアスファルトに咲くタンポポとか。

 どこかこの世と隔絶かくぜつした存在、なんとか麗。

「触ってな……」

 いです、と。こちらの返事は待ってくれなかった。
 食い込む人差し指。

 引かれるトリガー。
 放たれた銃弾。
 激痛走る腹部。

「~~~~~~ッ!」

 声にならない叫び声。芋虫のようにその場でのたうち回る。
 コツンと硬質な音を鳴らして、オレンジ色の小さい玉が服から落ちた。

 ああ、なんだ、偽物か。まぁまぁそれなら………………よくねぇよ。


「何するんだよ! うらら!」
「ちょ、なんで名前知ってんの。きも」
「座席表見たんだよ!」
「……ブラウス。ズレてるんだけど」
「寝相が悪いんだろ!」
「肩、触ろうとした?」
「あのな、俺はお前を起こそうとして、入学式に遅れる覚悟で」
「そうじゃん。入学式じゃん。どーしよ、もう誰もいないじゃん」
「人の話聞けやあああ!」


 魂からの叫びも彼女には届かず。

 拳銃(おもちゃ)を仕舞い込み、椅子を引いてこちらに背を向けその場を離れていく。
 その背中に、届かないだろう背中に、言葉をぶつける。

「だいたい、なんでそんなもん持ってんだよ!」

 エアガンなんて、そんなもの。日常で使う機会ないだろうが。
 やけくそ気味で言い放ったセリフ。

 これまでのことから彼女はきっと無視して歩き去っていくだろう、返事なんて期待していなかった。けれど、前進する少女のかかとがピタリ止まる。

 ハラリと長い黒髪が踊るように揺れて、シャープな顎、毛穴のない頬と順番にこちらを振り向く。
 未だうずくまり、右手で腹を抑えている俺に、彼女は上から答える。

「だって、カッコいいでしょ?」

 そこでキョトンと小首でもかしげたなら。

 自転車は車輪が二つだしオランダはヨーロッパでしょ? と、それと同じよ。
 当然のことでしょ? という風にうららがキョトンと小首でも傾げたら。
 俺は、この女は自分とは完全に別の世界の住人で、頭がおかしく一生理解し合えない人間なんだ、って。
    そう思えたことだろう。

 けれど彼女は、うららはそんな仕草はせず、「カッコいいでしょ」と言ってまっすぐにこちらを捉えた。

 強い眼差し。その後思い切りニヤリ、口端こうたんゆが嘲笑あざわらう。
 その瞳は俺を試しているようで、バカにしているようで。

 屈辱的な思いもあった。

 けれど、その瞳は俺に「あなたならわかるでしょ?」って。

 そんな風に言われている気がしたんだ。

 だから俺は、この時うららのことを自分と違う人間だなんて思えず、それどころか––––。
 それだけ言って彼女は教室を出ていく。

 去り際に先ほどの目つきで「ばーか」と言ったのを、俺は努々ゆめゆめ忘れない。

 ポツリ、一人その場に残される。
 嵐の如く出来事。
 瞬く間の出来事。
 一方的な出来事。
 理不尽な出来事。
 まるで、夢のような出来事だった。


                     ☆    ☆     ☆


「またお前か」と。体育館に着くなり宇佐美先生に叱られる。式は丁度、校長先生と思われる初老の男性がスピーチを始めたところだった。

 初日からちょー問題児じゃん俺。

 おかしいな、こんなはずじゃなかったのに。いや、一日に二回も先生に怒られる、というのは小学校以来だ。俺は、いつでも至って普通な、善良な学生だったから。そんな目を付けられるタイプではない。

 らしくないな。

 どうしてこうなったと頭を抱えつつ、壇上に向かって整列する四組の元へ行く。
 天井の高い体育館はひんやりと空気が冷えていた。壁面にはバスケのゴールがいくつか設置されており、足元には赤や緑のテープでラインが引かれてあった。その地面を見ていると隣町にある総合病院を思い出した。

 四組と思われる列の最後尾でひょいひょいと手招きをする龍太郎。見知った顔にホッと安堵し、早足でその元に向かう。

「また美藤みとうか」と先ほどの宇佐美先生を想起させるような口ぶりで迎える。

 先生に会ったのは入口の付近だから絶対に聞こえてないはずなのに。なんなのこの子。地獄耳なの。
「すぅいませぇ~ん」とふざけた声で謝ると、あははとケラケラ笑い「何してんだよ」と小突かれる。

「何してたのさ」
 何してた。そうだよ、そうそう。あの女はどこ行ったんだ。
「龍太郎、俺以外に遅刻してきた奴いなかったか?」
「? いやミトゥーだけだったよ」
「いや、そんなはずは……」

 言いながら、自分たちの前に並ぶ人垣の奥に先ほどの彼女、うららを見つけた。自分たちよりも十数人分前に位置して、呑気に隣の女の子とお喋りしてやがる。

「あいつ、いつの間にあんな前に……」

 ため息交じりの独り言。呟く俺を見た隣から「変なの」と感想が漏れる。
 一体なんなんだあの女。おかしな奴。

 先ほどあったことを龍太郎に話そうかと思ったが、自分でもよく整理がついておらず今話しても信じてもらえる自信がない。もうちょっと時が経って夏頃にでもなればあの女の猟奇的りょうきてき嗜虐的しぎゃくてきで狂気的で、一言で言えばサディスティックでサイコで……って一言じゃないけど、とにかく。

 あいつのやばい部分がクラスに知れ渡るはずだ。

 あの女、一見すれば絶世の美女とか呼ばれるような、カースト最高位の部類の奴だから時間が掛かるかもしれないがいずれはみんな気づくはず。その時になれば今日のエピソードを追撃し、奴を陥れてやろう。
 と想像してイヒヒと笑う。いやわらう、かな。

「ミトゥーきもいよ」
「ヲタクのお前が言うな」

 ……いやお前もだよ、みたいな目で見るなバカ。返答に困るだろ。

 話題を変えよう。さっきの出来事は来たるXデーまで胸の内に秘めておく必要がある。ここは予てから、この体育館に入った時から抱いていた疑問を振ろう。 

「っていうかアレだな。入学式って立ったまま聞くんだな」

 パイプ椅子とかあってもいいのにな。と付け足す。
 確かにそうだね。と辺りを見渡してから「あ、でもすぐ終わるってことなんじゃない?」と口にする龍太郎。
 なるほど、言われてみれば。

 遅れて入ってきた時は、桜がすっかり散ってしまって云々、と季節の話をして、俺が四組の列に着いた時には、昨今の日本は少子化が進んで云々、と社会情勢に触れていた校長先生。
 だが耳を傾けると今は、希望溢れる君たちには輝かしい未来が待ち受けていて、ぜひこの高校生活が将来の糧に云々、と明らかに締めに入っていた。

「ありがとうございました」とハウリング気味のマイクに校長の声が乗ると、どこからともなく拍手が起こり、その波が広がっていった。

「ありがとうございました。校長先生のご挨拶でした」

 と、壇上の下。スタンドマイクの前で司会を務めるのは宇佐美先生だった。
 お、ウサミンなかなかやるじゃん。結構立場のある人なのだろうか。まぁベテランっぽいしね。

「続いては各委員から挨拶です」

 そう紹介され、壇上には同じ制服を着た男子生徒が現れる。その胸元には赤い紀章。それは自分たちより上の二年生を表すものだった。一年生は若いからかな、青色だ。

「みなさんこんにちは! 風紀委員です」

 快活で聞き取りやすい声だった。男の先輩だが黄色い声と形容したくなる。お世辞にも若いとは言えない校長先生の次だと、自分より年上の先輩に若いなという感想を抱いてしまう。

「我々風紀委員はその名の通り学校の風紀、秩序を自治しています。って言ってもまぁそんなお堅い、厳しいもんじゃありません。月に一回校門の前に立ってるだけです」

 と、その口ぶりにも親しみを感じた。会場の一年生もクスクスと笑う。

「委員はみなさん一年生からでも所属できるので、興味があったら是非、風紀委員として一緒に働きましょう」

 頭をぺこりと下げると、自然と拍手が起こる。その爽やか口ぶりは、まぁなんというか。まさしく校内の見本という感じで、同時にオスとしての敗北を感じた。

「いいねミトゥー、風紀委員! かっこいいよ。懐にトンファーとか仕込んでいるのかな!」
「どこのヒットマン的世界観だよ……」
「風紀委員でした。ありがとうございました。……続いては放送委員です」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...