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第一部 三章
ヒロインとピストル
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そこに彼女はいた。
名前も顔も知らない女の子。
未だ机に伏せたまま。
なぜ、みんな彼女に気がつかなかったのだろうか。どうやって彼女は出席を取ったのだろうか。そもそも何で彼女は寝ているのだろうか。とか。
ひょっとして死んでしまっているのか。自分にだけ見えているのか。他の人には見えていないのか。
おかしなところは山ほどあったのだけれど。
だけれど。なぜかこの時の俺はその全てを起きたままに受け入れた。
なぜかこの時の俺はその全てをおかしなことだと思わず、当たり前だと思って。
思って、一歩ずつ彼女に近づいて行く。
周りの音が遠ざかり、周りの温度が遠ざかり、周りの匂いが遠ざかっていく。
足を進めて行くたびに、もうこの世界には自分と彼女の二人きりしかいないんじゃないかと思った。
目を覚まして、朝から妹が叫んだり、桜散る道を歩いたり、龍太郎と千和子と階段を走ったり。
今日のことだけじゃない。
昨日四人で映画を観に行ったこと。一昨日、辛口のカレーを食べたこと。十三歳のとき龍太郎とスーパーの試食を食べ歩いて一日過ごしたこと。七歳の時に千和子と積もりたての雪に顔を埋めたこと。三歳の時、妹に出会ったこと。
そういった今までの記憶が、ぽっかりと消失してしまって。
自分は今この身長、この体重、この格好のままで母親のお腹の中にいて、たったさっきこの世に誕生したような。
もちろんこの先こと。
入学式がどうとか高校生活がどうとか、そんなことは頭になかった。
何も考えていないようで、何かを考えながら、彼女の元へと歩いていった。
「も、もしもーし……」
側まで来たはいいが、なんと声を掛けていいか分からず定番の言葉で、様子を伺う。
けれど変わらず彼女は、すぅー……すぅー……と寝息を立てるだけ。
「あの、大丈夫、ですかー?……えっと」
えっと、なに、サンだ? 先ほどより声を大きくしてみたものの、俺はまだこの女の子の名前すら知らないのだ。
ふと教卓の方を振り返ると黒板の右端。赤いマグネットでA4ほどの用紙が貼られていた。
目はいい方では無いが察しはつく。俺は遅刻して来て空席が明白だったから自分の席がわかった。
けれどそうでない、最初に教室に入って来たような人でも自分の席が分かるように、クラスの座席図があるのが当然だ。
来た道を引き返して貼られた紙を見る。7×6で並べられた四角。囲われた枠の中に、クラスメイトの名前が書かれていた。
自分の名前はすぐに見つかる。
「美藤 錬真」と、苗字と名前で二段に分かれていた。
その左隣。
そこには漢字が三つ。
まずは上段、彼女の苗字であろう二文字、「聖本」と。
「あん?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「田中」とか「佐藤」とか、そこまでありふれたものじゃなくても、せめて「一岡」レベルだったら初めて見ても雰囲気で、ニュアンスでなんとなくわかる。だが、そこに書かれた二文字、「聖本」。
それは中一の時「乙訓」という苗字に出会った時の衝撃を彷彿とさせた。
ええ! そのZみたいなやつ漢字なの⁉ みたいな。記号じゃねぇのかよ的な。
苗字は……ダメだと諦める。
聖本の下段、おそらくは彼女の下の名前。
その一文字には見覚えがあった。
「うらら……」
漏れた言葉の余韻が口の中いっぱいに広がる。
「麗らか、だ」
昨日、初めて使った言葉。
ピンポンパンポンと軽やかなメロディーが聞こえ、窓の方へ目を向ける。
並ぶ透明のガラス。その一つが半分ほど開けっ放しになっていて、そこからゴミ回収車の音楽が二人だけの教室に入ってくる。
空には大きな雲。それが綿菓子を連想させて甘そうだな、なんて思った。
見つめていると自分も雲の一部になったようなフワッとした感覚がして少しの間、ゆっくり流れていく綿菓子然としたものから目を反らせなかった。
回収車の音楽が薄れていく、遠くへ離れて行ったのだろう。
すると頭上でチッチッチッ……と音がするので、なんだろうと見上げる。
黒板の上にかけられた時計、その長針が指すのは10寄りの9。
ああ、そうだ。ぼーっとしてる場合じゃない。
この後、入学式があるんだ、体育館で。もうすぐ始まってしまう。
彼女の名前が半分わかったところ、で急いで席へと戻る。
「うらら、うらら……」
と忘れてしまわないように独り言を繰り返す。
うららのアクセントはどこだろう。「う」に置くのか。ウらら。うラ、ら。
あれおかしいな。
今までどうやって読んでいたっけ。なんせ昨日初めて口にしたものだから。使いたてほやほやだから。
うららの文字がぐるぐる回る頭の中。そうこうしていると当の本人、なんとかうららさんの横まで来てしまう俺。
「おい、起きろよ」
声が裏返る。緊張していた。
「…………」
返事は返ってこない。
「起きろって」
小心者の自分に似合わず少しだけ語気を強めても、彼女は鼻呼吸を続けるだけ。
「う」
発音の仕方に自信は無い。おかしいかもしれないけれど、言うしかない気がした。
もしも聞こえているなら、どうか笑わないでほしい。
「うらら」
が、それでも居眠りを続ける彼女に痺れを切らしてもう一度「うららっ!」と大きな声量で呼びながらその肩へと手を伸ばした。
一定のリズムでゆっくり、かすかに上下運動を続けるその右肩に。
が、触れることはなかった。
パチリと瞼を開け少女は頭を上げる。
「触るなっ!」
自らへ伸びる腕を横目で捉えると、すかさず払いのける。
「へ」
不意に押され、少年はそのまま後ろへ尻餅をつく。
見上げれば彼女は席から立っていた。陰になってその顔は見えず。
先ほどとは真逆。少年を見下ろす少女。
呆然とする錬真。
前に立つ彼女に、思わず息をのむ。
その身長は自分よりは低いが腰の位置は高いような気がした。スラリと制服のスカートから伸びた白い脚は太くもなく細くもなく健康的で、かかと落としとか得意そうだな、なんて思った。
いや、身長も自分と同じくらいかもしれないと。そう思ったのは、輪郭だけ見える顔が作り物のように小さかったからだ。
ゴクリと、生唾を飲み込む音が自分でも聞こえた。
「いま、私に触った?」
透き通るような声が上から降ってくる。
それは脳裏に焼きつくような綺麗な声でもあったが、ふとした時に忘れてしまうと、二度と思い出せないような繊細なものでもあった。
呆気にとられて言葉が出ず。代わりに首を横にふる。
すると彼女は、一瞬、ブレザーの懐に両手を忍ばせたかと思うと、何かが宙に投げられた。
くるりくるりと空へ舞った二つの黒い物体。あるところまで行くと重力に従い彼女の元まで戻ってくる。
胸のところまで落ちてきたところで、両手を交差してそれを掴むと、まっすぐ腕を伸ばしてそれをこちらに向ける。
それまでの出来事は刹那の間に行われた。
あまりに無駄のない所作に見とれてしまう。
彼女のしなやかな四本の指がグリップを掴んでいて、残る人差し指は何かに引っかかっている。
目の、良い方では無いから、俺は。
勘違いの可能性も十分にあるのだけれど。
彼女の両手には拳銃が握られていた。
俺の目と見つめ合う二つの銃口。目があってビビッと電撃が走り、禁断の恋が始まる。
なんてことはなく。走ったのは戦慄だった。
背中に汗が流れる。血の気が引くってこういう感じなのかな。
「お前、それ、本物じゃない、よな」
途切れ途切れに口にする俺の言葉。だが彼女は聞こえないふりをする。いやふりじゃなくて本当に聞こえてなかったのかもしれない。
「いま、私に触った?」
先ほどと同じ言葉を放つ。響きは先ほどより冷たく。
名前も顔も知らない女の子。
未だ机に伏せたまま。
なぜ、みんな彼女に気がつかなかったのだろうか。どうやって彼女は出席を取ったのだろうか。そもそも何で彼女は寝ているのだろうか。とか。
ひょっとして死んでしまっているのか。自分にだけ見えているのか。他の人には見えていないのか。
おかしなところは山ほどあったのだけれど。
だけれど。なぜかこの時の俺はその全てを起きたままに受け入れた。
なぜかこの時の俺はその全てをおかしなことだと思わず、当たり前だと思って。
思って、一歩ずつ彼女に近づいて行く。
周りの音が遠ざかり、周りの温度が遠ざかり、周りの匂いが遠ざかっていく。
足を進めて行くたびに、もうこの世界には自分と彼女の二人きりしかいないんじゃないかと思った。
目を覚まして、朝から妹が叫んだり、桜散る道を歩いたり、龍太郎と千和子と階段を走ったり。
今日のことだけじゃない。
昨日四人で映画を観に行ったこと。一昨日、辛口のカレーを食べたこと。十三歳のとき龍太郎とスーパーの試食を食べ歩いて一日過ごしたこと。七歳の時に千和子と積もりたての雪に顔を埋めたこと。三歳の時、妹に出会ったこと。
そういった今までの記憶が、ぽっかりと消失してしまって。
自分は今この身長、この体重、この格好のままで母親のお腹の中にいて、たったさっきこの世に誕生したような。
もちろんこの先こと。
入学式がどうとか高校生活がどうとか、そんなことは頭になかった。
何も考えていないようで、何かを考えながら、彼女の元へと歩いていった。
「も、もしもーし……」
側まで来たはいいが、なんと声を掛けていいか分からず定番の言葉で、様子を伺う。
けれど変わらず彼女は、すぅー……すぅー……と寝息を立てるだけ。
「あの、大丈夫、ですかー?……えっと」
えっと、なに、サンだ? 先ほどより声を大きくしてみたものの、俺はまだこの女の子の名前すら知らないのだ。
ふと教卓の方を振り返ると黒板の右端。赤いマグネットでA4ほどの用紙が貼られていた。
目はいい方では無いが察しはつく。俺は遅刻して来て空席が明白だったから自分の席がわかった。
けれどそうでない、最初に教室に入って来たような人でも自分の席が分かるように、クラスの座席図があるのが当然だ。
来た道を引き返して貼られた紙を見る。7×6で並べられた四角。囲われた枠の中に、クラスメイトの名前が書かれていた。
自分の名前はすぐに見つかる。
「美藤 錬真」と、苗字と名前で二段に分かれていた。
その左隣。
そこには漢字が三つ。
まずは上段、彼女の苗字であろう二文字、「聖本」と。
「あん?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
「田中」とか「佐藤」とか、そこまでありふれたものじゃなくても、せめて「一岡」レベルだったら初めて見ても雰囲気で、ニュアンスでなんとなくわかる。だが、そこに書かれた二文字、「聖本」。
それは中一の時「乙訓」という苗字に出会った時の衝撃を彷彿とさせた。
ええ! そのZみたいなやつ漢字なの⁉ みたいな。記号じゃねぇのかよ的な。
苗字は……ダメだと諦める。
聖本の下段、おそらくは彼女の下の名前。
その一文字には見覚えがあった。
「うらら……」
漏れた言葉の余韻が口の中いっぱいに広がる。
「麗らか、だ」
昨日、初めて使った言葉。
ピンポンパンポンと軽やかなメロディーが聞こえ、窓の方へ目を向ける。
並ぶ透明のガラス。その一つが半分ほど開けっ放しになっていて、そこからゴミ回収車の音楽が二人だけの教室に入ってくる。
空には大きな雲。それが綿菓子を連想させて甘そうだな、なんて思った。
見つめていると自分も雲の一部になったようなフワッとした感覚がして少しの間、ゆっくり流れていく綿菓子然としたものから目を反らせなかった。
回収車の音楽が薄れていく、遠くへ離れて行ったのだろう。
すると頭上でチッチッチッ……と音がするので、なんだろうと見上げる。
黒板の上にかけられた時計、その長針が指すのは10寄りの9。
ああ、そうだ。ぼーっとしてる場合じゃない。
この後、入学式があるんだ、体育館で。もうすぐ始まってしまう。
彼女の名前が半分わかったところ、で急いで席へと戻る。
「うらら、うらら……」
と忘れてしまわないように独り言を繰り返す。
うららのアクセントはどこだろう。「う」に置くのか。ウらら。うラ、ら。
あれおかしいな。
今までどうやって読んでいたっけ。なんせ昨日初めて口にしたものだから。使いたてほやほやだから。
うららの文字がぐるぐる回る頭の中。そうこうしていると当の本人、なんとかうららさんの横まで来てしまう俺。
「おい、起きろよ」
声が裏返る。緊張していた。
「…………」
返事は返ってこない。
「起きろって」
小心者の自分に似合わず少しだけ語気を強めても、彼女は鼻呼吸を続けるだけ。
「う」
発音の仕方に自信は無い。おかしいかもしれないけれど、言うしかない気がした。
もしも聞こえているなら、どうか笑わないでほしい。
「うらら」
が、それでも居眠りを続ける彼女に痺れを切らしてもう一度「うららっ!」と大きな声量で呼びながらその肩へと手を伸ばした。
一定のリズムでゆっくり、かすかに上下運動を続けるその右肩に。
が、触れることはなかった。
パチリと瞼を開け少女は頭を上げる。
「触るなっ!」
自らへ伸びる腕を横目で捉えると、すかさず払いのける。
「へ」
不意に押され、少年はそのまま後ろへ尻餅をつく。
見上げれば彼女は席から立っていた。陰になってその顔は見えず。
先ほどとは真逆。少年を見下ろす少女。
呆然とする錬真。
前に立つ彼女に、思わず息をのむ。
その身長は自分よりは低いが腰の位置は高いような気がした。スラリと制服のスカートから伸びた白い脚は太くもなく細くもなく健康的で、かかと落としとか得意そうだな、なんて思った。
いや、身長も自分と同じくらいかもしれないと。そう思ったのは、輪郭だけ見える顔が作り物のように小さかったからだ。
ゴクリと、生唾を飲み込む音が自分でも聞こえた。
「いま、私に触った?」
透き通るような声が上から降ってくる。
それは脳裏に焼きつくような綺麗な声でもあったが、ふとした時に忘れてしまうと、二度と思い出せないような繊細なものでもあった。
呆気にとられて言葉が出ず。代わりに首を横にふる。
すると彼女は、一瞬、ブレザーの懐に両手を忍ばせたかと思うと、何かが宙に投げられた。
くるりくるりと空へ舞った二つの黒い物体。あるところまで行くと重力に従い彼女の元まで戻ってくる。
胸のところまで落ちてきたところで、両手を交差してそれを掴むと、まっすぐ腕を伸ばしてそれをこちらに向ける。
それまでの出来事は刹那の間に行われた。
あまりに無駄のない所作に見とれてしまう。
彼女のしなやかな四本の指がグリップを掴んでいて、残る人差し指は何かに引っかかっている。
目の、良い方では無いから、俺は。
勘違いの可能性も十分にあるのだけれど。
彼女の両手には拳銃が握られていた。
俺の目と見つめ合う二つの銃口。目があってビビッと電撃が走り、禁断の恋が始まる。
なんてことはなく。走ったのは戦慄だった。
背中に汗が流れる。血の気が引くってこういう感じなのかな。
「お前、それ、本物じゃない、よな」
途切れ途切れに口にする俺の言葉。だが彼女は聞こえないふりをする。いやふりじゃなくて本当に聞こえてなかったのかもしれない。
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